TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

2019-01-01から1年間の記事一覧

文楽 12月東京鑑賞教室公演『伊達娘恋緋鹿子』『平家女護島』国立劇場小劇場

俊寛が最後に駆け上がる岩にはかつてはフジツボがいっぱい張りついていたそうですが、今月は全然ついてなかった……。鬼界が島のフジツボ、絶滅したみたい……。 ■ 『伊達娘恋緋鹿子』火の見櫓の段。 Aプロお七=桐竹紋臣 Bプロお七=桐竹紋秀 昨年12月の本公演同…

文楽 竹本津駒太夫・関西ラジオワイドゲスト出演 六代目竹本錣太夫襲名にあたって

津駒さんが12/16にNHKラジオ第1・関西ラジオワイドにゲスト出演されたときのお話メモです。 内容は、2020年初春公演で六代目竹本錣太夫を襲名するにあたり、その気持ちを語るというものでした。津駒さんらしい優しく穏やかな口調、飾らないお話ぶりと正直ぶ…

文楽 12月東京公演『一谷嫰軍記』国立劇場

今年の12月中堅公演は『一谷嫰軍記』。陣門の段・須磨浦の段・組討の段・熊谷桜の段・熊谷陣屋の段と、本筋がわかる限界まで切り詰めた特急プログラムだった。 ■ 陣門の段・須磨浦の段。 見所は、平山武者所〈吉田玉翔〉。立派な荒武者振り。馬に乗った人形…

酒屋万来文楽『傾城阿波の鳴門』十郎兵衛住家の段 西宮白鷹禄水苑

恒例、西宮の酒造会社・白鷹主催の酒屋万来文楽。 今年の公演は11月末日のたいへん寒い日に行われた。開演前、会場の中庭にいたら、楽屋口から出てきた着付姿の津駒さんが「ヲヽこの冷えることわいの」とつぶやいて腕を袖に入れてちぢこまり、人形のようにチ…

文楽 11月大阪公演『仮名手本忠臣蔵』八段目〜十一段目 国立文楽劇場

年間通しての『仮名手本忠臣蔵』も最終回、八段目〜十一段目。なんだかえらいツウ好みな段だけになってしまっている気がするが、ついていけるだろうか……。 ■ 八段目「道行旅路の嫁入」。 びっくりしたのは、戸無瀬〈吉田和生〉の覇気。小浪〈吉田一輔〉はぼ…

文楽 11月大阪公演『心中天網島』国立文楽劇場

11月大阪公演第一部は9月東京公演に続き『心中天網島』、一部配役を変更しての上演。 ■ 北新地河庄の段。 河庄の中は東京から配役変更で織さん・清介さん。東京とは少し違う詞章でやっていた。具体的には、小春が太兵衛を罵って呼ぶ名前が毛虫客→李蹈天と、…

文楽《再》入門 文楽の「現在」を知る本[『國文学 解釈と教材の研究』2008年10月臨時増刊「特集 文楽−人形浄瑠璃への招待−」学燈社]

かねがね、文楽の中級者向けの本を探していた。 というより、中級になるための本、といったほうが正しいか。 文楽は興行規模や観客人口のわりに初心者向けの本はそれなりにあると思う。しかし、中級者向け書籍となると途端に心当たりがなくなる。隣の芝はな…

文楽 10月地方公演『生写朝顔話』『ひらかな盛衰記』『日高川入相花王』神奈川県立青少年センター

台風19号通過直後の開催決行だったが、私鉄・地下鉄等が当日早々から通常運行していたのでスムーズに横浜までたどり着き、最初から観られた。 今回上演の大井川の段は、大井川が増水して朝顔が川を渡れなくなるという場面。昔の水害は本当に恐ろしいものだっ…

清姫は本当に大蛇になったのか −文楽現行「渡し場の段」と『日高川入相花王』『道成寺現在蛇鱗』−

現在、文楽公演では「渡し場の段」の外題名は『日高川入相花王(ひだかがわいりあいざくら)』と表記されている。しかし、上演されている「渡し場の段」は、宝暦9年(1759)2月初演の人形浄瑠璃 『日高川入相花王』の該当箇所(「道行思ひの吹雪」の末尾)と…

田中登監督『㊙︎女郎責め地獄』の浄瑠璃 -お園と清姫、女たちの情念-

映画『㊙︎女郎責め地獄』は、監督・田中登、脚本・田中陽造で1973年4月に公開された日活ロマンポルノ作品だ。 ロマンポルノにしばしばみられる時代劇もので、徳川末期の江戸を舞台に、交わった男はかならず死んでしまうと噂される女郎・死神おせんを主人公と…

文楽 『艶容女舞衣』全段のあらすじと整理

『艶容女舞衣(はですがたおんなまいぎぬ)』は、文楽の中でも、もっとも有名な演目のひとつである。 ……………………ということになっているが、そんなこと言われても全体ではいったいどういう話なのか知らんがな、と思っていた。 お園さんはなぜあんな不条理な状…

文楽 9月東京公演『心中天網島』国立劇場小劇場

開演前に、「いまからはじまるの、クズの話☺️?」とピュアな口調で言ってる人がいた。第二部の酒屋の前にも同じこと言ってる人がいた。文楽のお客さんはみんなピュア、と思った。 なお、私がいままでに見た一番ピュアなお客さんは、開演前に文楽せんべいを買…

文楽 9月東京公演『嬢景清八嶋日記』『艶容女舞衣』国立劇場小劇場

先月は普通の公演を観なかったため、文楽、なんだか久しぶりに感じる。 ■ 嬢景清八嶋日記、花菱屋の段。 この投稿をInstagramで見る 国立劇場(東京・半蔵門)さん(@nationaltheatre_tokyo)がシェアした投稿 - 2019年 9月月13日午前2時38分PDT あらすじ 駿河…

テレビドラマ「あきのひとならば」(1959年)-文楽人形に恋した男

「あきのひとならば」というテレビドラマがあったそうだ。いまからおよそ60年前、1959年(昭和34年)、設立2年目の関西テレビが文部省芸術祭参加作品として制作した単発の1時間ドラマだ。脚本は、溝口健二作品をはじめ古典題材の映画脚本で知られる依田義賢…

文楽 7・8月大阪夏休み特別公演『仮名手本忠臣蔵』五段目〜七段目 国立文楽劇場

忠臣蔵夏の部。今回の第二部は早々にチケットが完売。最後列に補助席も設置され、舞台も客席もにぎやかな公演になっていた。 ■ 五段目 山崎街道出合いの段〜二つ玉の段、六段目 身売りの段〜早野勘平切腹の段。 今回の配役が発表されたとき、勘平が和生さん…

文楽 7・8月大阪夏休み特別公演『日高川入相花王』『かみなり太鼓』国立文楽劇場

第一部の『かみなり太鼓』だけ引き幕が定式幕でなく、特製のものだった。踊っているのは妖怪さん? ■ まず最初は『日高川入相花王』。 上演前に、定式幕(このときは橙・黒・緑の普通の幕)の前で、小住さんによる解説がついていた。「道成寺は、ここから歩…

文楽 7・8月大阪夏休み特別公演『国言詢音頭』国立文楽劇場

プロモーションで「残酷」「大人向け」等の言葉が使われていて、「文楽はいつも残酷で大人向けなのでは……???」と思っていたが、なるほど。 ■ 初右衛門は、以前、玉男さんが「人を斬る役はゾクゾクする役、初右衛門とか」とお話しされているのを聞いて、ど…

映画の文楽5 内田吐夢監督『恋や恋なすな恋』― 内田吐夢にとって古典芸能の映画化とは

『浪花の恋の物語』の記事も書きかけだけど、今回はそれを一休み、同じ内田吐夢監督作品の中から、これも同じく浄瑠璃に題材を取った作品について書いてみる。 内田吐夢監督作品のうち、古典芸能を原作としたものは4作品がある。『暴れん坊街道』(1957/原…

蓄音機文楽『新版歌祭文』野崎村の段 湯布院・束ノ間

文楽業界の広瀬アリス&広瀬すず、勘彌さんと紋臣さんがお光・お染役でご出演ということで、いままでで最も遠い最長距離出張、大分県は湯布院へ行ってきた。 ■ 湯布院といえば特急「ゆふいんの森」、湯布院映画祭と興味のある要素がいろいろとあるけど、「遠…

文楽 6月文楽若手会・東京公演『義経千本桜』椎の木の段・小金吾討死の段・すしやの段『妹背山婦女庭訓』道行恋苧環 国立劇場小劇場

出演者は完全にド他人なのに、「よかったねぇ〜よかったねぇ〜」と親戚のオバチャン気分になってしまう若手会・東京公演へ行ってきた。 ■ 『義経千本桜』三段目 椎の木の段〜小金吾討死の段〜すしやの段。 昨年度の地方公演で出た椎の木の段・すしやの段に小…

文楽 6月大阪文楽鑑賞教室公演『五条橋』『菅原伝授手習鑑』寺入りの段・寺子屋の段 国立文楽劇場

大阪の鑑賞教室公演の配役は、前期・午前の部、前期・午後の部、後期・午前の部、後期・午後の部の4グループに分かれている。昨年まではこのうち前期・後期のいずれか2グループのみを観ていたが、今年は一念発起して、全グループを観た。 A. 前期・午前の部 …

文楽 5月東京公演・通し狂言『妹背山婦女庭訓』国立劇場小劇場

ひさびさの全段通し上演。10時半開演21時終演の長丁場だったが、ちゃんと1日通しでチケットを取った。 通して観ると、物語自体の持っている質量に圧倒される。時代ものならではの堂々たる見応え。ふだん、集中して観ているつもりでも、ある意味で気が散って…

映画の文楽4 内田吐夢監督『浪花の恋の物語』3:めんない千鳥をめぐる謎

┃ 過去の記事 第1回 映画の文楽4 内田吐夢監督『浪花の恋の物語』1:クライマックスへの疑問 - TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹 第2回 映画の文楽4 内田吐夢監督『浪花の恋の物語』2:ふたつの「新口村」 - TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹 ┃ 孫右衛門の「めんない千鳥」 私…

文楽 『妹背山婦女庭訓』全段のあらすじと整理

2019年5月東京公演で通し上演される『妹背山婦女庭訓』の全段あらすじや題材考察等のまとめ。 ┃ 概要 ┃ 舞台 道行のルートについて ┃ 時系列 ┃ 登場人物 ┃ 初段 蘇我蝦夷子の陰謀、入鹿の反逆《奈良》 大序 大内の段 小松原の段 蝦夷館の段 ┃ 二段目 鹿殺し…

文楽 4月大阪公演『祇園祭礼信仰記』『近頃河原の達引』国立文楽劇場

35周年記念だからか、文楽劇場自体もほんのり新調されていた。劇場内の絨毯の床張りがきれいになっていて、舞台のいちばん客席側の仕切(│×│×│×│模様になっている、すごく低い白木のついたて)がまっしろの新品になり、鳴り物や陰弾きの御簾も青々としたもの…

文楽 4月大阪公演『仮名手本忠臣蔵』大序〜四段目 国立文楽劇場

文楽劇場開場35周年記念ということで、1年をかけて『仮名手本忠臣蔵』をフル上演する企画。 おととし12月に東京で行われた通し上演と違うのは、4月公演で二段目「桃井館力弥使者の段」、11月公演で十一段目「光明寺焼香の段」を出すこと、11月公演の十段目「…

映画の文楽4 内田吐夢監督『浪花の恋の物語』2:ふたつの「新口村」

┃ 過去の記事 第1回 映画の文楽4 内田吐夢監督『浪花の恋の物語』1:クライマックスへの疑問 - TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹 あの有名な「新口村」……と言われても、古典芸能が好きな人以外には通じないと思う。なので、まず、文楽(人形浄瑠璃)で「新口村」と呼…

映画の文楽4 内田吐夢監督『浪花の恋の物語』1:クライマックスへの疑問

内田吐夢監督の映画に、『浪花の恋の物語』(昭和34年(1959)9月公開)という作品がある。内田吐夢は『妖刀物語 花の吉原百人斬り』『恋や恋なすな恋』など何本かの古典芸能原作の映画を撮っているが、『浪花の恋の物語』はそのうち人形浄瑠璃を原作・題材…

文楽 『祇園祭礼信仰記』全段のあらすじと整理

祝・初日、大阪国立文楽劇場 2019年4月公演 第二部で上演されている『祇園祭礼信仰記(ぎおんさいれいしんこうき)』の全段あらすじと登場モチーフの元ネタをまとめる。 ┃ 概要 ┃ 登場人物 ┃ 初段 発端・松永大膳の反逆 大序 九条の廓の段 祇園女歌占いの段 …

映画の文楽3 木下惠介監督『楢山節考』の義太夫 ― 木下惠介の浄瑠璃世界

ひさびさ更新「映画の文楽」。今回は文楽座から太夫・三味線が音楽出演し、義太夫節が効果的に使われている作品について紹介する。 『楢山節考(ならやまぶしこう)』 松竹大船/1958(昭和33年)6月公開 監督・脚本=木下惠介 Amazon配信あり、iTunes配信あり…