TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

文楽 7・8月大阪夏休み特別公演『日高川入相花王』『かみなり太鼓』国立文楽劇場

第一部の『かみなり太鼓』だけ引き幕が定式幕でなく、特製のものだった。踊っているのは妖怪さん?

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まず最初は『日高川入相花王』。

上演前に、定式幕(このときは橙・黒・緑の普通の幕)の前で、小住さんによる解説がついていた。「道成寺は、ここから歩いたら1日がかりですね〜。電車だと2時間くらいですね〜」と歩く前提で話し始められたので、さすがだと思った。

清姫というのはお金持ちのお嬢様で、京都へ旅行に行ったときにかっこいい男の人に一目惚れしてしまったんですね〜。そのあと、安珍という旅のお坊さんが清姫の家に泊まったんですけど、それが京都で会った、好きになった男の人やったんですね〜。ところが安珍には「おだまき姫」という彼女がおったんですね〜。清姫には黙ってその彼女と逃げてしまったんですね〜。清姫は「騙されてた〜〜〜っ!!!」と思って、安珍を追いかけたんですね〜〜〜〜〜。

………………………………と、マイルドに話していたあらすじも、途中から通常営業というか、やばすぎる不穏な暗雲が立ち込めてきて、笑った。これでもだいぶカドをまるめているつもりなのが良い。

お子さま向けだからか、演出をかなりわかりやすく振っていた。具体的にはガブの変化を多めにして、見所をわかりやすくしていた。本公演だとどこで変化するかをあらかじめわかっていないと見逃すことがあるが、ちゃんとアピールしていた。それと、川を渡る場面では、雷光を光らせていた。場内が暗くなったので、お子さまが若干泣いていた。

しかし侮れない部分があり、清姫太夫が三輪さんなのと、船頭の人形が勘市さんなのが渋すぎる。ちびっこには理解できない芸風。若いモンにやらせといてもいいところ、「子守りをエクスキュースとして文楽に来た」系の文楽マニア保護者のみなさんのためだろうか。清姫太夫によってはマジヤバ勢いありすぎ女になるが、三輪さんだといかにも麗人といった雰囲気があり、ちょっと大人っぽい感じで、育ちのよい美人お嬢様だった。スラリと背が高く、首が細くて手足がスっとしてて、髪がいい匂いしそうな感じだった。船頭はふざけて踊るところののびのびユーモラスな動作がとてもよかった。清姫の覇気にびびって逃げる「〽︎鬼になった、蛇になった」では、ツノは頭から生えていたが、毛はへんな場所から生えていた。

 

 

 

解説「文楽ってなあに?」。

今回の解説はスペシャルバージョン by 玉翔さん。日高川の幕が閉じたらすぐにアナウンスが入り、客席の下手通路後方から玉翔さんがお人形さん(あのいつも鑑賞教室で使ってる、注進の人)とともに登場。通路脇のお客さんにお人形さんがハイタッチをしながら舞台まで歩いていくという、いわゆる「客席降り」サービスをしていた。玉翔さんは「プロレスラーの入場みたいですねー」とおっしゃっていたけど、大地に咲く一輪の花、文楽座イチの男前、吉田玉翔なので、そこは若手俳優みたいですねーということで……。自分は通路脇席を取っていたので、お人形さん(というか左を遣っていた和馬さん)にハイタッチしてもらえた。玉翔さん、今回もちゃんと左・和馬さん、足・清之助さんを紹介していた。かわいこちゃん2人組だった。

人形解説も通常とは異なり、デモンストレーションを衣装あり/衣装なしで見せていた。人形って、脱いだら体がある=ダミー人形的なものを人形遣い3人で持ち上げていると思っている観客が多いかと思うので、頭・手・足がそれぞれバラけているにもかかわらず3人で動きを揃えているとわかるようにするのは、面白い試みだと思う。鑑賞教室でもこうすればいいのにと思った。そして、玉翔さんて、このデモンストレーション、本当にお上手になったよね。カンヌキとか、以前より明らかに綺麗に決まっている。動きのつなぎがスマート。

お子さま人形遣い体験は、いままでに見た中でもっとも出来ていなくて、爆笑した。人形よりちっちゃい子3人でやっていたため、高く差し上げられないので、人形が子供と並んで地面に立っている状態。そして真夏の駅ホームでへたれている中年サラリーマン男性のようにぐんにゃりしていた。まともに立てないので、最終的には焦りまくる清之助さんがほとんど持っている状態。めちゃくちゃ笑った。

お人形はヨタヨタながら、お子さまたちはがんばっておられた。左を遣ったお子さまは、体験の感想を求められ、「思ったのと違う方にいく……」とおっしゃっていた。玉翔さんはそれに力強く「そうですね!!!!」と返していた。

今回はこのあとに30分休憩が入り、お子さまたちのおひるごはんタイムが設けられていたのがよかった。

 

 

 

親子劇場のメイン演目、『かみなり太鼓』。

2014年に初演された新作の再演。あらすじは以下の通り。

ここは大坂・島之内の太鼓屋伝兵衛。天神祭もほど近い夕方、その軒先では、ひとり息子・寅ちゃん〈桐竹勘次郎〉が暑い暑いと大騒ぎ。冷やしてあったすいかにかぶりつき、その桶で行水して全裸で座敷をうろついていると、おかあちゃん〈吉田簑紫郎〉がやってきて、浴衣を着なさいと追いかける。「雷さんにおへそを取られまっせ」と脅しても言うことをきかない寅ちゃんに、のしのし現れて着物を着なさいと注意するおとうちゃん〈桐竹紋秀〉。が、そのおとうちゃんもふんどし一丁。おとうちゃんも裸やと騒ぐ寅ちゃんに、ふんどしの布の先を肩にかければ大丈夫とふんぞり返るおとうちゃん。おかあちゃんは呆れ果て、二人ともはよう浴衣を着て蚊帳に入りなはれと怒りはじめる。父子がのろのろ着替えながらしょうもないヨタ話をしていると、ついにおかあちゃんが大激怒し、「はよう蚊帳に入りなはれ💢」と雷を落とす。ビビって蚊帳に駆け込む二人、そのとき、空から何かが降ってきて、軒先にぶつかって庭へ落ちる。

一家が驚いていると、庭から「痛い、痛い」という声が聞こえる。そこにいたのは、虎皮のふんどしを履き、チリチリパーマに二本角を生やした赤鬼?〈吉田玉佳〉だった。おとうちゃんはびっくりして「鬼は〜外!!」と豆を叩きつけるが、赤鬼?は自分は鬼ではなく、「かみなり」のトロ吉だという。修行中のトロ吉は太鼓を叩くのが下手すぎて、太鼓を「ゴロゴロ」ではなく「トロトロ」としか鳴らせない。それゆえ雲が言うことを聞いてくれなくて蛇行しまくり、なんとかしがみついていたところをおかあちゃんの落とした「雷」に驚いて手を離し、落っこちてしまったというのだ。その拍子に太鼓は壊れ、トロ吉は腰をしたたか打って痛めていた。

トロ吉はおとうちゃんに太鼓を修理してもらう間に、マッサージが得意なおかあちゃんに腰を揉んでもらうことに。ところがおかあちゃんのマッサージはわりとダイナミックな整体だったので、トロ吉は痛い痛いと大騒ぎ。しかし効果は抜群で、トロ吉の腰は元どおりになり、おかあちゃんは得意顔なのだった。そうこうしているところへ空から紙がヒラリと落ちてくる。拾ってみると、それはトロ吉の叔父からの手紙で、トロ吉の母は息子が地上に落ちてしまったことをいたく心配しており、明日から太鼓くらべも始まるので早く帰るようにという旨がしたためられていた。

大泣きするトロ吉だったが、おとうちゃんが言うには、トロ吉の壊れた太鼓を修理するにはまだまだ時間がかかるとのこと。そこでトロ吉はおとうちゃんの作った太鼓を借りることに。トロ吉の選んだ太鼓をおとうちゃんが試演すると、太鼓は見事に「ゴロゴロ」と鳴り響く。しかしトロ吉が叩くと「トロトロ」。それを見たおとうちゃんに叩き方が悪いと教えられたトロ吉は、おとうちゃん・寅ちゃんと一緒に太鼓の稽古。すると次第に空から雲が降りてきて、太鼓屋のまわりは一面黒雲が立ち込める。そのあまりに大きな音に飛んできて、「近所迷惑を考えなはれ💢」と再び雷を落とすおかあちゃん。それにビビって飛び上がったトロ吉を雲が掬い上げる。トロ吉はおとうちゃんの太鼓を譲り受け、太鼓屋一家へ別れを告げて天へと帰っていった。

夜、物干し台で天神祭の花火を見上げる太鼓屋一家。その空にはトロ吉の鳴らす雷の音が聞こえる。天神祭に雷が鳴るというのは、このときからとか、なんとか。


新作、しかも子供向けというと、微妙かな?と思っていたけど、丁寧で密度があり、とてもよかった。チャーミングで優しい雰囲気にほっこりした。

伝統芸能のアレンジ」とか「古典の現代的アップデート」ってよく見かけるけど、「いやそれなら普通に本物観たほうがいいです」と思ってしまう。けど、本作は、本公演につながるエッセンスが濃厚なのが良い。

文楽本公演を、「素材」と「味付け」に分けるとする。そうしたときに、この『かみなり太鼓』は、本公演の持っているクオリティの高い「素材」を、食べやすい味付けにアレンジにしているイメージ。外部制作だと、どうしても「味付け」のほうのコピーになって、いわゆる、本物の「和」ではないという意味の「和風」になっていることが多い。外部制作なら単発で終わるのでそれでもいいのだろうが、文楽劇場が制作するならば、次(文楽と社会との関係性の将来)につながっているものを観たい。

そういう意味で、本作『かみなり太鼓』は、お子さんにも、親御さんにも、演目関係なくやってくる固定常連客にもアピールできるものがあると思う。娯楽作品としてすごく丁寧で、観客に楽しんでもらおうという心意気を感じた。寅ちゃんがすいか割りをしたり、そのすいかを食べると減っていったりという楽しめる仕掛けや、トロ吉が落下してくる場面では周り舞台を使って舞台に手前(庭)/奥(寝間)という奥行きを出すなど、舞台効果上の視覚的なメリハリもあって飽きずに観られた。出演陣、文楽劇場制作のポテンシャルの高さを感じた。

寅ちゃんはパーフェクトなヌードだった。文楽には子太郎とか団七とか、準・裸の人は時々登場するが、寅ちゃんは全・裸、完全にすっぽんぽんだった。人形浄瑠璃ならではの表現だった。それはそれでよろしおますけど、たまが片方見えなくなっているのが気になって仕方なかった。おしい。人形の衣装や髪が乱れている場合、動作にまぎれて左遣いの人がなおすことがあるが、たまのゆがみはなおしていなかった。足に隠れて左遣いさんが気づかなかったのか、いや、気づいていても客前ではなおせないか……。メンズは大変だと思った。

こうなると期待がかかるのはおとうちゃん。私&周囲の席の親子連れ合計5名は超期待して「紋秀頼むっっっっ!!!!!!!」と祈ったが、脱いでくれなかった。でも、他のふんどし系人形比、もっこりしていた。ふんどしの先を肩にかけたおとうちゃんはソクラテスのようになっていた。おとうちゃんは「そのへんにおる大味なおっちゃん」「一応ちゃんと職人として働いとります」的なおとうちゃん感があり、かなりよかった。おとうちゃんは悠々としていて、無駄に身長180cmくらいありそうで、天井にいるゴ…をも退治してくれそうな感じだった。

この話、チラシのあらすじを読んだときにはトロ吉は童子なのかと思っていた。寅ちゃんと同じくらいの年齢で、ちびっこ同士でおともだちになるのかと思っていたのだが………………、見た目がどう見ても40代くらい………………。40代で「修行中」って……、文楽技芸員……? 単なる老け顔の人ですかね……??? 太鼓がまともに叩けないのはぜんぜん稽古してなかったからとしか思えないんだけど、こいつやばないか? 性格はおっとりしていていい人なんだろうけど、そんな歳でお母さんにも心配されて、いろいろ大丈夫なんだろうか。こういう人現実にも時々いるけど、ほんまやばいよな……。と複雑な気分になった。

トロ吉はゆったりというか、不器用そうというか、微妙にどんくさそうな仕草がのんびりした雰囲気を作っていて、可愛らしかった。

トロ吉のおじさんからの手紙にあるトロ吉ママの嘆きには、「〽かならずかみなりじょうぶっとぉお〜」と、卅三間堂棟木由来の節がついていた。読み上げるおかあちゃんは肩衣をつけて見台を置いていた。双眼鏡を持っていかなかったため、肩衣の紋が見えなかった。残念。

最後、雷太鼓を打ち鳴らせるようになったトロ吉は、雷雲(ダークグレーのもこもこボディの下部に⚡️がついている可愛いリフト produced by 勘十郎さんらしいです)に乗って宙乗り。ここだけ出遣いで、玉佳さんがめっちゃ汗だくで頑張っておられた。今回は客席に張り出した短い花道が設置されていて、そこからの出。偶然すっぽんの真横の席を取っていたため、むちゃくちゃ間近で見ることができ、玉佳チャンガチ恋勢みたいになってしまった(玉佳チャンガチ恋勢です!)。手ぬぐい撒きはいたたまれなくて退出したい私だが、トロ吉、もとい玉佳さんの撒いている雷おこしは欲しかった。隣の人はも見事に膝に落としてもらっていて、うらやましかった。

それにしてもトロ吉の壊れた太鼓(風神雷神図の雷さんが持っている、小さい平太鼓をアーチ状にたくさん取り付けたもの)、張り直してもらったら軽く10万以上かかるのではと思った。あと、雷さんって、虎皮をスカート状に腰へ巻いているんだと思っていたが、ふんどしなのか。雲の上でスカートだったら、まるみえだからだろうか。

『かみなり太鼓』の床のみなさん、抹茶味とバナナ味の段々アイスのような色合いの可愛いデザインの肩衣だった。そういえば、トロ吉のセリフには微妙に女方っぽい三味線の手がついていて、おもしろかった。

 

 

 

親子劇場は本当にお子さまがたくさんいらっしゃるので、私も楽しい。それと、子守りにかこつけて文楽を見に来た保護者のみなさんも良い。私の後ろの席のお父さんは娘さんに延々文楽について語っておられ、隣の席のお母さんはお連れの息子さんよりすごい勢いで人形とハイタッチしておられた。終演後のお人形さんグリーティングも、写真を撮りたがっているのはマニア客と保護者の皆さんなのがいいよね……。私も隙あらば近づいて、寅ちゃんの浴衣を捲り上げてたまをなおしてあげたかった(痴漢)。

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あまりに暑かったので、かき氷を食べた。なんばウォークの甘味屋「甘党まえだ」にて、「宇治金時きな粉ミルククリーム」。なにげなく注文したら想像の1.5倍くらいのサイズのものが出てきて、かき氷なのにおなかいっぱいになった。入れ替え時間に食べ終われないかと思って焦った。

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