津駒さんが12/16にNHKラジオ第1・関西ラジオワイドにゲスト出演されたときのお話メモです。
内容は、2020年初春公演で六代目竹本錣太夫を襲名するにあたり、その気持ちを語るというものでした。津駒さんらしい優しく穏やかな口調、飾らないお話ぶりと正直ぶりに、改めてご襲名を嬉しく思いました。
ご出演を放送直前に知ったため録音しておらず、聴きながらメモを取った程度なので抜けがあると思いますが、ご容赦ください。
- 初春公演で「錣太夫」を襲名し名前が変わるが、不思議な気分。いままで50年間、「津駒さん」「津駒さん」と呼ばれてきたので……。
- 錣太夫の「錣」というのは兜のうしろで矢を防ぐ防具。皮に漆を塗ってある。(結構細かく「錣」の作り方を説明してくださいました)
- 師匠からもらう最初の名前は子供の名前としてつけられている。いずれは名前を変えるという意識を持っていた。「津駒」の意味はわからない。自分は「二代目」で、初代津駒太夫は新派の伊志井寛先生。三代目津太夫の弟子だった。
- 五代目は体がでかく、声量があった。アドリブが得意で、チャリ場ではお客さんを見て、言うことが日によって変わった。人形さんもそれを楽しみにしていた。アドリブをやると人形も合わせないといけない。三味線はアドリブに突然には合わせられないので三味線さんには配慮するが、人形さんはどうにでも動けるので。
- (司会者から津駒さんはどの舞台映像・写真を見ても汗びっしょりと言われ)「汗が出るのが快感」がわたしのキャッチフレーズ。
- (司会者から演奏中はいろいろな登場人物になりきって語っているのかと質問され)語ってる最中はある種冷静。登場人物になりきっているわけではない。息は高く頭は冷静に。太夫はよりしろである。
- 義太夫は決められた台本があり、一語一句変えずに現代にそのまま演奏する。曲も明治に成立したもの。「完成したもの」を演奏する。その上でいまのお客様に対して何が伝わるか、演奏しながら見つけなきゃいけない。どれだけ共感をもっていただけるか、どうすればお客様と響き合えるか。お客様の心をカンと打つには自分にも響きあうものがあってのこと。
- (襲名する名跡は自由に選べるのかと尋ねられ)勇気を持って手を挙げて「わたしこの名前が頂きたい」と言えば。勇気がいること。仲間内では名跡を継ぐ事も大事だと言われている(文楽劇場、国立劇場は別の考えを持っている)。名跡を世の人に知っていただくのは有意義なこと。
- 中央大学法学部へ入学し、1年生の半年ほどは授業があったが、2年生のとき、70年安保のまっさかりで学校に入れなくなった。
- そもそも、法律で人の感情をどうこうするのが合わないと感じていた。偏差値だけで入ったので……。暇をしていたとき、NHKテレビで文楽中継を観た。演目はわからないが、おじいさんが娘さんの恋についてなんかしていた。人形や三味線じゃなく、「声」にひかれた。もともと、声を出すことに興味をもっていた。剣道部でしたから(謎のTSUKOMA理論)。
- 国立劇場に電話したら、担当者から文楽協会を紹介された。そこで文楽協会へ行ったら、頭取がいて夏巡業のお休み中だった津太夫師匠を紹介された。頭取が師匠に電話したら、当時すでに入門していた緑太夫くんが迎えにきてくれて、住吉のお宅へ連れていってくれた。
- 師匠に会って、声を出すのをやりたいと言ったら、「ご両親の了解とってる?」と聞かれた。「いいえ?」「ええ!? そもそもきみ文楽見たことある!?」「ありません!!!」……そのときは夏巡業で若手が東京で公演しているということで、一芝居文楽見なさいよ、そのあいだにご両親に話して説得しなさいと言われた。両親に文楽へ入門したいと言ったら、父は能をかじっていて、文楽やるなら能を紹介すると言われた。母からは、しょうがないから大学だけは卒業してと言われたが……。
- 入門して最初の10年なんか、ひどい。給料が日立てで9日分しか出ない。学生時代の友達に呼ばれてもコーヒー代がなく、用事があるとごまかして、行けなかった。親は経済状況を知っていて、母がへそくりを送ってくれた。
- 耳鼻科の先生からは典型的なテノールの声帯だと言われる。三(三味線の三の糸、高音)「テーン」が響く声帯。音が華やかなので、制作もそういう役をつけたがる。でも、義太夫は一と二が響かないと(義太夫三味線では一がもっとも低音で、義太夫の味になっている)。
- (デモンストレーション)『傾城阿波の鳴門』巡礼歌の段、母と娘の会話の例
- (デモンストレーション)『曾根崎心中』道行(天神森の段)、キレイ系の例
- (デモンストレーション)『傾城反魂香』土佐将監閑居の段、男性の声の例
- (男性の声は)劇場ではオツにかかって、もっと思い切りやらなくてはいけないんですが。時政ならもっとオツにかかっていなくてはいけない。自分の声はこれしかないから、この作品できないというのは通じない。
- (最後に、錣太夫襲名にあたって)先代がずいぶん特徴的な方。直接お稽古していただくわけにはいかない、知っている人も文楽にはいない。六代目錣太夫は、津駒太夫の延長。器を広げ、いろんな声が出て、お客さんを鷲掴みにできる幅を広げる。
津駒さんのお話で面白いのは、現代に義太夫を演奏する意義を考えておられて、それを明快な言葉で語ってくださること。私はそのあたり、実にあいまいに聞いていて、浄瑠璃を現代流に解釈をするつもりはないのだが(例えば熊谷陣屋なら「相模がかわいそう」とか)、かと言って、なにか自分なりの思いを持って受けとめようという意思を持っているわけでもない。そこを指摘された気分になる。というか、客がそうして聞いていることをよくわかっていて、そこに何を訴えかけるかということを模索されているんだなと。私にとっては、とても示唆のあるお話だ。
あと、津駒さんが実は法学部だった話と、文楽観たことないのに津太夫師匠のところへ行って、師匠がびっくりした話は何度聞いても良い。
放送冒頭では、「土佐将監閑居の段」の説明とともに、ほんの少しだが、津駒さんが過去に「土佐将監閑居の段」を語ったときの録音が流れた。先日の西宮でお話しされていた、素浄瑠璃の会で寛治師匠とやったときのものだろうか。愛嬌ある又平だった。初春公演でじかに拝聴できることを楽しみにしています。