TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

くずし字学習 翻刻『桜御殿五十三駅』四段目 道行六ツの袖垣

近松半二ほか作の浄瑠璃『桜御殿五十三駅』の四段目。

朝廷から預かっていた宝物「日の御旗」が盗まれ紛失したことを知った左馬之助は狂気に陥り、室町の御殿を出奔する。それを追う恋人・傾城雪の戸、許嫁・薫姫。娘たちは恋を争い、左馬之助は夢うつつの道行が描かれる。

『妹背山婦女庭訓』の「道行恋の苧環」と似た、公家の姫vs一般人の恋の戦い、言い争いが可愛らしい。

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 これまでの翻刻

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  • 捨て仮名、句読点はそのままとして、字体は現行に改めている。
  • 文中■は判読できない文字。
  • 画像引用元:<亭主は東山殿/上客は一休禅師>桜御殿五十三駅(東京大学教養学部国文・漢文学部会所蔵 黒4142-0449)
  • 参考文献:国立劇場芸能調査室=編『浄瑠璃作品要説<3>近松半二篇』国立劇場/1984

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第四 道行六ツの袖垣

気違ひよほうさいよ/\と。はやせば。はやす笑へは笑ふ我レが。心は心にて。くるふも心。くるはすも。恋はくせもの室町の御所を。思はず浮れ出。通ふ島原出口の茶屋に。大名やめて借編笠。刀預けて落し佩一こし越シた全盛の。其突出しの雪の梅。眺に飽で。手折ラせて。人トの花にはなすまじと思ふも。花の狂ひ咲キ。去年の三月桜のお能。観世が謡上り僧。下タり僧。上り下りの道中に。ソリヤお勅使のお供先キ。封疆の川風。芝の露勤メはつらひ。ハツアふり込メさ。行烈揃へておせ/\/\。中居が送クるさらば垣。禿が走る。夜番かおはへる。 

 

 

 

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皆色里の僭上世界。揚やの栄花は邯鄲の夢に。夢見る草枕狂ひつかれて臥居たる。恋わぶる。同し思ひの同し夜に。同し館を迷ひ出。同し殿御をしたひ行。粋とおほことかはれ共女心の一トすじに。川原伝ひと町伝ひ。本の山の初粧ひ。空も口紅粉さして行あてど。並木に行キ合イの袂すれ合フ顔と顔。雪の戸殿か。お姫様。君はしらずや殿様はどこに何国に木隠れの。月の桂男一人見て人には見せぬ心根か。アノ廻り気な姫様の逢イた見たさが相イ互イ廓の育は其道に。そふした意路はない物を。結句お前がお行衛を。しつて白ラ歯の空妬み夫レならそふとおつしやつて。ナニそもじこそしる人の。詞の表のうら葉を。明て

岩間の。自にしらせて袂ふりと詰。そでもない事恨ても。あはぬはつまのほら/\と。所体もしども。中カ/\に心晴レ合ふ霧霞。何所が山やら名イ所やら忘れぬ。物は殿様に逢楽。しみの中カ。直り。互イに力ラ。附合フて。<たど>る。細道。行先キの。野路の草花折乱れ。狂ひ伏たる有さまはノウ嬉しやと走り寄リ。抱キ起すを引退ケて。お前の入ラぬお世話様。私が殿様。左馬様のふと呼ど正気の有ラされば。小川の清水救ふ手の。雫に落て其かひも。流れの気転逸早く口に含て潤せば。むつくと起キてヤわりや誰レじや。雪の戸じやはいな。薫姫でござんすと。いへ共いらへ嵐吹ク。飛鳥の川瀬殿御の心。かはる案ンじは常の事。今の乱れたお心を直してやいの我カ夫マ  

 

 

 

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とくどき涙を打チ消て。ソリヤ慢勝なお姫様。お前一ト人が我カ夫と何ンぼ高位のお方でも是。ばつかりは先ン勝チの。恋なればこそ大胆な男姿に二世かけて。真底清い加茂川の。水くさい気で。なろかいな。深カい浅いは証人ンの其肝心の殿様がほんにしんきなコレ申。どちらが可愛ござんすと狂気に悋気。取リ交セて縺。もたるゝ川柳。梅も美し桜も惜し。妻よ妾よ二人して。コリヤ誰が手車。鈍太郎殿の手車。てうさやよふさ。乗りよ乗リと手を打チたゝき走出れば。コレ待ツてと。とゞむる雪の戸隔つる姫。気違ひ走りに女子足跡へ/\と引キさがる中に。諍ひ恋の意地。当る石原小笹原。竹田街道車道したひ。/\て。たどり行

 

 

(つづく)