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TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

麻雀漫画と昭和の日本映画と文楽(人形浄瑠璃)について書くブログ

文楽 内子座文楽『仮名手本忠臣蔵』内子座

夏休みスペシャルで四国出張。愛媛県内子町にある大正初期の芝居小屋「内子座」での公演に行ってきた。

内子は松山から特急で30分ほどの静かな町。町中にはコンビニやチェーン系店舗、華美な最近の建物がまったくなく、古い風情をとどめている。駅から民家の隙間を縫う細い道を歩いてゆくと、くるりとしたツタ状の飾りのついた華麗な避雷針を戴く塔状の瓦屋根が見えて、まもなく内子座に着く。極彩色の幟がはためく、東映の明治大正ものの任侠映画に出てくるようなクラシカルな芝居小屋が民家の隙間に唐突に建っているので驚く。大通り沿いにあるとかじゃなくほんとに建物と建物の隙間に建っていて、エントランス側でも隣の建物との間隔がほんの数mしかない。

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場内入ってさらに驚いた。まるでむかしの時代劇映画で見る芝居小屋そのままの、飴色に光る木でできた、升席、花道、桟敷席、格子状の天井、温かく美しい内装。天井近くには広告看板もかかっている。ランプ風の照明もあいまって、素朴というより、『緋牡丹博徒』などで見るような、明治大正期独特のモダンな雰囲気。往時の姿そのままというわけではなく色々改装工事をしているだろうが、そのぶん清潔で手入れが大変に行き届いていて、町の方々が内子座を大切にされていることが伝わってくる。大変に雰囲気のある素晴らしい場内。舞台脇の灯明も本物のろうそくの炎で、気分が盛り上がる。

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場内、上演前から内子座の内装に観客大盛り上がり。上の写真は場内整理係員の方オススメのアングルから、下の写真は午前の部の自分の席からのパノラマ写真。広角気味に写っているので広く見えるが、実際には小さな芝居小屋。

 

 

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 演目は『仮名手本忠臣蔵』。いつもは午前の部・午後の部を同じ演目で回しているようだが、今回は内子座100周年・内子座文楽20周年記念で通し上演になっているらしい。

午前の部は下馬先進物の段、殿中刃傷の段、塩谷判官切腹の段、城明渡しの段と緊迫感溢れる展開なのだが、席が良すぎて(?)ドキドキソワソワしっぱなし。

内子座は歌舞伎等を上演するための芝居小屋なので、国立劇場系列とは異なり、中央の枡席の両サイドに花道席・本家席と呼ばれる一段高い席、そのさらに外側に歌舞伎専用劇場のような桟敷席がある。私の席の場所は西桟敷と呼ばれる舞台下手、花道とつながった桟敷席の舞台寄り最前列。舞台と高さが同じで視界が完全に開けた状態のため、人形の目線上に自分が来るのでドキドキする。舞台には通常上演のように手摺が設置してあるのだが、自分の目線がそれより上にいくため人形遣いの膝くらいまでは常時見えており、様々な仕掛けがバレている状態。いつもと見え方が違いすぎてキョドってしまい、冷静に芝居を見られない。普通に見ている分にも人形の足拍子の振動が伝わってくるほど迫力があるのだが、塩谷判官切腹の段、「由良助は」「いまだ参上仕りませぬ」というところで外を見ている(という設定の)人形がコッチを覗き込んでくるので参った。由良助じゃなくてすいませんでしたねぇ……。

とにかく小さな芝居小屋なのでステージが大変に狭く、人形が何人も並ぶとギューギュー感がはんぱない。横幅もそうだが、文楽の上演用のセットを組んでいると奥行きもなくなるようで、人形と人形がすれ違うのが大変そうで、うしろを通る人形の左遣いさんは下の段を通れないので上の段に駆け上がって人形に追いついていた。ツメ人形などは主演格の演技場所をあけるためか、異様に端へ寄っちゃってて、私の席からは見えないほど。

高師直の人形配役は勘十郎さん。嫌な爺様を上品に演じていらっしゃった。さすがの気品が光る。なんだかここ数ヶ月、嫌な爺様役の勘十郎さんを延々観ている気がするが、どの爺様も単に嫌な爺様にはなっておらず、それぞれ違った方向の個性が光る嫌な爺様なのが良い。勘十郎さんのみ、私から見て仕掛けがバレない位置にいらしたので、演技を冷静に見られた。塩治判官役の和生さんは、私の位置から仕掛けがもろに見える位置で切腹の支度をなさるので本当どうしようかと思った。私の心の忍っち*1がそわそわ。あまりに間近だったので、タイミングをはかるために左遣い・足遣いにどうやって指示をしているのかもわかる状態。それに気づけるのは良いことなのか悪いことなのか。和生さん、姿勢がものすごく良い(人形遣いさんは皆そうだが)。というか随分シュッとしてはるなあとか全く関係ないことに頭が……。しかしそれもだんだん落ち着いてきて、最後はちゃんと集中して観られてよかった。

床は上手側にある「本家席」と呼ばれる花道状に高く作られた客席に臨時設置されている。よって自分の席は太夫・三味線と真向かいの側の席になるのだが、いかんせん狭いので実質の距離は近く、良い感じで浄瑠璃が聞こえた。ただ音響そのものはほとんど響かないので、柝の音がまったく響いてなくて(チョーン という音の、ーンがない状態)ちょっと不思議な感覚。

 

■ 

午後の部は勘平まわりの話で、山崎街道出合いの段、二つ玉の段、身売りの段、早野勘平腹切の段。こちらの人形配役は勘平が勘十郎さん、おかるが清十郎さん。上演できる段が限られる中に豪華な人形配役を突っ込むためか、和生さんと玉男さんはそれぞれ与市兵衛と定九郎で、唐突な(?)配役だった。ふたりとも冒頭ですぐに死ぬ……。

自分の席は同じく西桟敷のやや後ろ、2列目の席。張り出した二階桟敷を柱で支えている構造なので、1階の桟敷には何本か太い柱がある。視界センターに思いっきりその柱が入る席でどうしようかと思っていたら、近くの席の方が同行者が来られなくなり空いているからと見やすい席を譲ってくださった。私が異様にキョトついているのを気遣ってくださったのだろう。いとありがたし。

観劇にはどこの席がいいかという話だが、文楽を見始めて半年、チケットを取るたびいろいろな席に座ってみたが、やっぱり真正面から見るのが一番いい(当たり前)。下心を出して、人形遣い目当てで下手でもいいか思ってあまりに下手側にすると、人形遣いの陰に隠れて人形が見えない本末転倒現象が起こる。特に午前の部、由良助の人形が由良助役の玉男さん自身の陰になってほとんど見えず、純粋に玉男様を見に来た人状態になってしまった。玉男さんのお姿は見たいですが、人形が見えないのはさすがに辛い。午後の部は見え方がいつもとほぼ同じなので、落ち着いた。午後の部は本当、人形の演技を集中して観られてよかった。

与市兵衛と定九郎のやりとり、特に与市兵衛の命乞いのシーンが魅せるのだが、与市兵衛が定九郎に殺されるシーンは結構残酷で、うしろの席の年配男性は声に出して「あらー!」と言っちゃっていた。しかし、橋本忍特集に通いすぎた影響か切腹を見慣れた私は勘平の切腹は冷静に観られた。いや、4月に観た『妹背山婦女庭訓』の久我之助の切腹は残酷で、はよう介錯してやってくれとソワソワしたが。それはともかく勘十郎さんの瀕死演技のやる気には感服させられた。さすが好きな役はきつねと瀕死の役とおっしゃるだけある。聞いた話によると勘十郎さんの瀕死演技は、ご自宅のペットのワンちゃんの夏場の暑がり方を参考にされているそうです。

(結構むかしの談話で、うちのパグ犬のあんずちゃんはクーラーをつけてないと死ぬんじゃないかってくらいハアハア言ってるんです、つけると普通に戻るんですが、切るとまたハアハア言って、とかおそろしいことをおっしゃっていた。勘十郎様ときどき無茶苦茶なこと言うよね。こわっ。つけて。クーラー。勘十郎様のためにも。と思った。先日、勘十郎様のFBに「お誕生日のお祝いをしました」という記事が上がっていたが、そのときケーキを持つ勘十郎様と一緒に写っていたうつろな目のパグがあんずちゃんなのだろうか? 談話が結構昔のものなので、その子がそうなのかはわからないが、「無」としか言いようのないすごいシュールな写真だった)

しかし「二つ玉の段」で舞台を横切るいのししぬいぐるみ、一瞬で通り過ぎても客に視認させねばならないからか、漫画のようなザ・イノシシって感じの記号化されたいのししで笑った。話は全く笑うとこじゃないが、あまりにいのししがおもしろすぎて、玉男様がいのししにひかれて死んだのかと思った。

 

ほか、劇場環境などについてメモ。

空調について。升席の人はひざ掛けなどを使っていたので寒いのかも知れないが、桟敷は空調が届かず温度が高い。特に午後の部は結構蒸し暑かった。これは技芸員さんたちも大変だと思う。

食事について。近隣にいくつか飲食店があるが、渋い和食店は満席が多かった。チケットが郵送されてくるときに案内がついている幕間用のお弁当でもいいと思うが、升席の人は席が狭いので食べるの大変そう。そのほか、駅から劇場周辺にはコンビニなどはまったくないし、場内でも飲食物の販売はないので、内子へ来る前にいるものは全て買ってきたほうが良いと思う。

 客層は一般観光客も多いのではと思っていたが、実際には文楽ファンの人が多そう。場内の雰囲気もそうだし、朝昼の幕間に劇場の前で写真を撮っていたとき、はっと気付いたら目の前に技芸員さんが立っていらして、私がキョドっているうちに瞬間的に「いや〜❤️サインしてくださ〜い❤️」って人がワサワサ寄ってきていた。どうもご贔屓さんに会いに来たっぽいのだが、あまりに無防備すぎだよ。

 

ちなみに内子座で売っていた公演パンフレットの玉男様(私服)の写真がかっこよすぎて、上演前から早々に不気味な笑顔を浮かべてしまった。デュフフフフ。ええもん買うたわ……。

こんな感じで調子こいて当日中に帰京しなかったら、翌日東京に台風が直撃して飛行機が欠航になり、松山から東京まで電車で帰る羽目になった。これが行きだったらエライことなってたし、松山から岡山までの移動に使った特急しおかぜの車窓から晴れ渡る美しい瀬戸内海の風景が見られたので良いのだが。いままでの人生で一番長距離の電車移動。瀬戸大橋初めて渡らせてもらいましたわ。ありがとうございました。

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