TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

西国三十三所巡礼 第一番札所 青岸渡寺[和歌山県]

思いつきで、西国三十三所巡礼をはじめた。2021年の11月末からなので、つい最近のことだ。最初のきっかけは、これまた思いつきで熊野本宮に行ったときのこと。地図を見て「青岸渡寺って聞いたことあるけど、割合近いな。もうここまで東京から遠いところに来ることもないだろうから、行ってみるか」と思ったことだった。
そこで青岸渡寺について調べてみると、西国三十三所の第一番札所であることがわかった。さらに、青岸渡寺西国三十三所の中で、都市部から現地までの距離でいうと札所の中でもっとも遠い場所にあることに気づいた(大阪からは約7時間、名古屋からだと5時間)。西国三十三所といえば、文楽でも庶民の信仰の旅として、登場人物たちがその道を歩んでいる。笈摺を着た権四郎一家(ひらかな盛衰記)やおつる(傾城阿波の鳴門)の姿は印象的だ。彼らはとくに信仰心が篤いというわけでもなさげで、だからといってのんきに物見遊山に出ていられるほど裕福そうでもないのに、どうして巡礼の旅をしていたのだろう? 近世の人にとって、西国三十三所巡礼とは、どのようなものだったのだろうか?

 

熊野へ行ったのは、関西での文楽イベントのついで。終演後の夕方、鶴橋から特急くろしおに乗る。2時間後、紀伊田辺で下車、ここで一泊。(『笑ウせぇるすまん』に出てきそうな激ヤバホラービジネスホテルに泊まってしまい、大変な目にあった)
翌朝、紀伊田辺から熊野本宮までの路線バスに乗って、紀伊半島の反対側、熊野へ向かう。この路線バスがまた乗車時間2時間もかかる長距離路線。しかし、観光バス車両を使っているので椅子や設備が良く、ゆっくりできて結構快適。山あいの道をとことこ走っていく。
熊野本宮のバス停では降りず、さらに山の奥の「発心門王子」で下車。というのも、熊野古道を歩いてみたかったからだ。発心門王子〜熊野本宮は里山風景の道が多く、また、山(というか森や林)の中の道も傾斜がほとんどなく、路面の状態も比較的よくて、歩きやすかった。先達さんに連れられた熊野古道ウォーキングの団体がひっきりなしに通っているのも、安心感がある。静かな農村の風景、ゆるキャラ化した野良?のヤタガラス、かつてはキャンプ場だった?廃屋などを見ながら、40分程度熊野古道を歩いたのち、熊野本宮に到着、参拝。地方の大きめの神社といった感じで、古風な佇まい、山の上(?)だからこその空の広さ、周囲を取り巻く自然が美しい。「平太郎(卅三間堂棟由来)が持ってたな……」と思い、熊野牛王符を購入。
熊野本宮をお参りしたあとは新宮へ出て、熊野速玉大社を参拝したり、徐福公園の鯉の顔ハメ看板におののいたりと少し市内観光をしたあと、電車で紀伊勝浦へ移動して、宿泊。突然決めてホテルを抑えたので、素敵な温泉旅館宿泊とはいかなかったが、地元に密着しているらしい小料理屋さんで魚料理を食べたり、駅前や港にある足湯で温泉を楽しんだ(足湯気持ちよすぎやばすぎ。みんなめっちゃ浸かってて、抜けられなくなっていた)。夕方、日が沈んでどんどん暗くなっていくなかで、穏やかな岸辺や静かな町中を散歩したのも楽しかった。

 

前置きが長くなったが、ここからやっと、青岸渡寺へ向かう。
翌朝、勝浦駅前から出る青岸渡寺那智大社行きのバスへ乗る。少し手前の「大門坂」で降りて、また熊野古道を少し散策。熊野古道は3ルートあり、昨日歩いた熊野大宮付近の熊野古道里山・山道の風景だったが、こちらは木立の中にある石の大階段。いかにも「古道」っぽい雰囲気が味わえる。ただし傾斜が結構きついので、体力的にはこちらのほうがしんどい。途中でバテている人もしばしば見かけた。ほぼ天然石の形状を残して積まれた石段は大きな凸凹がある場所もみられるので、しっかりしたスニーカーやトレッキングシューズのほうが歩きやすい。(写真はマイルドゾーンです)

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石階段を登りきり、門前町を抜けてさらに階段を登っていくと、青岸渡寺熊野那智大社の入り口に着く。

神仏がわかちがたく結びついた時代の名残のある青岸渡寺那智大社は、(ほぼ)同じ敷地内に建っていて、境内が隣接しあっている状態。那智大社は大神社として綺麗に整えられた近代的な雰囲気で、社殿の前にも十分なゆとりのある境内。逆に、青岸渡寺の本堂前はかなり手狭。突然ギュッとした雰囲気になる。建物はかなり古びていて、油気が抜けきったような、灰色めいた柱や梁が印象的。そこここに紙の納札千社札)が貼り付いていて、雑然としている。貼り付け物は観光地寺院だと綺麗に取り払われているけど(そもそも貼り付け禁止にしているところが多いだろう)、ここではその多数の札から、たくさんの人々が行き通った、長い長い時間の積み重ねを感じた。

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青岸渡寺の納経所兼売店で、巡礼に使う納経帳を物色。いろいろ種類があったが、見た目でぱっと選んだら、納経所の人が「製本の仕方が違うから、中身を見てもらって」とアドバイスしてくださった。よく見ると、紙が袋綴じのものと、経典折りのものがあった。いかにも納経帳らしい経典折りのほうを購入。「西国三十三所、はじめますかー!?!?」と景気よく声をかけていただき、(青岸渡寺御朱印はもう書き込みがされていたので)日付だけ入れてもらう。
納経所の人によると、いま西国三十三所は草創1300年記念行事中で、2022年の3月まで、西国巡礼の御朱印には、特別印と散華がついてくるとのことだった。お寺の人は、いまからだともう全部回るのは難しいと思うので、マイペースでやってくださいとおっしゃっていた。
(記念行事期間は、コロナがおさまらないためどんどん延期され、いまのところ2023年3末までになったらしい)

 

青岸渡寺は本堂の周囲こそ手狭だが、奥に広大な境内があり、細長い敷地が有名な「那智の大滝」に続いている。回り道すれば滝の下まで行けたようだが、三重塔から見る風景でも十分楽しめた。デカ滝は良い。

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帰りは、新宮から名古屋行きの特急南紀に乗車。新宮や紀伊勝浦すら駅の窓口がなくなっていたのには驚いた。自販機にテレビ通話機能がついており、総合受付センター的なところの人と通話しながら購入はできるのだが、いろいろと時間がかかる。観光客もそこそこ多いはずの駅ですら窓口なしなんて、世の中の不景気を感じた。

地図を見ると、西国三十三所の中では、この青岸渡寺がぶっちぎりで立地くそやばのように見える。なんせ名古屋まで特急で5時間かかった。ここさえクリアすればなんとかなるっしょ。あとは全部もっと人間住んでるところだよね。と思った。しかし、それは誤りであったと、のちに知る。

 

 

青岸渡寺 おすすめポイント

  1. 景観
    海のほうを見れば青々とした熊野灘、山のほうを見れば華麗な那智の滝。山あいの風景も味わい深く、素晴らしい。観光写真では三重の塔と那智の滝を写したものが多いが、海のほうまでぐるっと見回すと、魅力倍増。

  2. 建築
    前述の通り、本堂がかなり古びていて、海風や日差しにさらされた年月が感じられ、味わい深い。奈良京都のこぎれいに整えられた寺院とはまた違う趣。修復費用は滝の横の三重塔に突っ込んでいるのか、そっちはぴかぴか。
  3. 熊野の地域性
    熊野という土地自体に、独特の雰囲気がある。野趣あふれる海岸線、背後に迫る峻厳な山々、静かな町。おまけ観光として、那智駅近くの補陀落寺にも行った。補陀落渡海に使われた船の復元があるのだが、なんというか、すべてが、すごい。こんな漁師町で、なんの設備もない小舟で沖に出たらどうなるかなど、誰もがわかっていただろう。僧侶自身も、海の事故で亡くなった人々の供養を何度もしていただろう。それでも海の果て、補陀落へ向かった僧侶の心の内とは……?
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  4. おやつ
    境内で那智黒ソフトクリームを売っている。那智黒飴の味がする。(それはそう)
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  5. 宿泊
    紀伊勝浦に宿泊すれば、おいしいまぐろが食べられる。まぐろかつカレーのほか、港の観光客向け店舗のまぐろメンチかつバーガーが異様に美味しかった(かじってから撮ったので、そっちの写真はなし)。まぐろメンチ自体も良いが、パンもなぜか妙に美味しかったのが、謎。ホテルのパンもおいしかったので、どこかに旨いパン屋が???
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札所情報

第一番 那智山 青岸渡寺(せいがんとじ)

  • JR紀伊勝浦駅から熊野御坊南海バス那智山行き」で25分ほど。1時間に1、2本運行。バスはICカード決済可能、なんとPayPay決済も可能(ただし、乗るとき運転手さんに言わなくてはいけないっぽい)。根性次第だが、バスを使わず、那智駅から歩くこともできなくはない。自分は帰りは歩いた。近辺、観光客が踏み入る場所から離れると、ごはんを食べられる場所がないのは、要注意。そして、JR(きのくに線紀勢本線)は、当然のごとく、本数少ないです。
  • 参拝料無料

西国三十三所サイト:https://saikoku33.gr.jp/place/1
お寺の個別サイト:http://www.kumano-sanzan.jp/seigantoji/