TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

麻雀漫画と昭和の日本映画と文楽(人形浄瑠璃)について書くブログ

文楽 3月地方公演『桂川連理柵』『曾根崎心中』府中の森芸術劇場

地方公演へ行くと、開演前にロビーでお人形との記念撮影が開催されているが、今回はそのお人形が赤い着物のお姫様で、すんごいモッコモコに分厚い座布団の上にチョコンと座っておられた。咲さんや燕三さんが座っている座布団より分厚い超豪華柄入りモフ座布団。さすが姫、と思った。

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桂川連理柵』。

いちばん最初、六角堂。出だしのところで、ピーンと張り詰めた三味線の音にちょっと感動してしまった。三味線の音ってやっぱりとても綺麗だなぁと。古い日本映画で、津軽三味線が流行っていたころ(高橋竹山がブームだったころ)の作品だと太棹三味線の独奏が入っている映画が時々あるけど、そういった映画の場合、その演奏の上手い下手に関係なく、終映後にお客さんが「三味線すごかったねえ」と話していることがよくある。あれってやっぱり、邦楽を聞き慣れていない人の耳や心にも太棹三味線の音は届くってことなんだなあと思う。よく聞いていると、一段の中でも「同じ楽器? 持ち替えた?」と思うほど、三味線の音の響き方が違っていて不思議である。太夫の語りが入り始めると少し抑えたような音になったり。すごいな〜。ということを突然思った錦糸さんの演奏だった。

 

人形の見所はやっぱり帯屋で、中でも儀兵衛役の玉也さん。六角堂の段、帯屋の段ともにキレにキレたウザ番頭ぶりだった。ウザキャラながら長吉の話をちゃんと聞いてあげるあたりは立派。こういう役も玉也さんがやると滑稽なだけじゃなくて、クレバーそうに見えてなんだかカッコいいよねえ。こういうウザ番頭お約束の謎の踊り?もビシバシ決まっていた。漫画なら外伝が出てしまいそうなキャラ。カイジ文楽化したら利根川役は絶対玉也さんだと思う。

そしてお隣のアホ丁稚、長吉〈吉田玉佳〉。一度鼻水をすすった後も、時々、手に持ったはたきの影で一瞬鼻水を垂らしていて怖かった。今回は双眼鏡を持参したので長吉の鼻水をじっくり観察してみたが、やっぱりキュウリかシシトウが鼻の穴に刺さっているみたいで不気味だと思った。一仕事終えたあとはそこらじゅうをはたきでぱたぱたとしていて可愛らしかった。

玉志さんの繁斎も良かった。背筋のぴっと通った上品なお爺さんで、茶道とか華道とかのお師匠さんみたいだった。なんかこういうのこないだも観たな。玉志さんは12月の酒屋でも同じようにものわかりgoodで優しくてかっこいいお園パパ・宗岸役だった。あの話でお園のある意味でのおめでたさとは別の意味でヤベーなと思うのが半七パパで、羽織を脱いだら緊縛されてるって、半七の代わりに縛られているという事情を知らない人だったら「特殊な性癖の方かな?」って思っちゃうよね。あそこで宗岸が大人にスルーしたのはえらいと私は思った。

と、話がそれたが、あと文昇さんのお絹、六角堂のお高祖頭巾を被っているところはかしらの動きが微妙すぎて何やってるかよくわからん???と思ったけど、手元を丁寧に演技されていたのが良かった。手元の演技のほうが得意な方なのだろうか。長右衛門役の清十郎さんは確かに責任とって心中しそうな感じだった。でもいざとなったらやっぱり逃げそう。

 

道行。配役表を見て「大丈夫かよ……」と思っていた、お半役の人形=簑二郎さんと太夫=織太夫さん。お二人ともとてもじゃないがロリキャラじゃないだろ……どうすんだ……と思っていたら、なんと意外なことに(失礼?)お二人ともとてもロリロリされていて仰天した。お半が小娘に見える。しかも予想外の方向に。いわゆる文楽人形ならではの華麗かつ可憐な可愛さではなく、年相応の小娘としてのポップなかわいらしさがあるというか……。ある意味での洗練や作り込みがないからだろうか? 女方人形遣いさんでもポップな可愛さがある人はあまりいないと思うので、びっくり。例えば簑助さんなら妖艶な可愛さ、勘十郎さんならサイコな可愛さ、勘彌さんならヴァンプな可愛さ、清十郎さんなら凄惨な可愛さ、一輔さんならおぼこい可愛さとか、普段良い役をされる方ならそれぞれ独自の可愛さがあると思う。簑二郎さんはそれがよくわからなかったが、意外なところに武器を持っておられるのかもしれないと思った。織太夫さんに関しては、あんまり小細工をせず、力まずにすっといったほうが可愛さが表現できる人なんだなと思った。後述の『曾根崎心中』の道行のお初より、こちらのお半のほうがよかった。

 

↓ 昨年10月地方公演での『桂川連理柵』感想。

 

 

 

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『曾根崎心中』。

こちらは人形お初=吉田和生、徳兵衛=吉田玉男天満屋の床が竹本千歳太夫・豊澤富助でまさに本公演並みの超豪華公演。

天満屋は人形も床もすごく良かった。千歳さんの語り出しが良い。とても丁寧でひとつひとつの音に情景を感じる。私が文楽に慣れてきたためなのか、それとも千歳さんご自身の変化なのかはわからないけど、最近、千歳さんが出演されるたび、語り出しのところではっとさせられる。会場の雰囲気が塗り替わるというか……。いつだったか、口上の黒衣さんが千歳さんが出るところで「ただいまの切」と言ったように聞こえたことがあって、ホントは奥なんだけど、まあそうだよねえと思ったな。

和生さんのお初は明治期の美人画のように美しかった。日本画のように奥行きのある、優しく曇った雰囲気。仕草のひとつひとつがなめらかな曲線で構成されていた。微妙に姉さん女房風でありながら、徳兵衛の胸に顔をうずめる仕草には小鳥のような健気な愛らしさがあった。縁の下に隠した徳兵衛を足先で制する場面ではごくわずかにチョンと着物の裾を動かして徳兵衛をつっつくのが可愛らしい。道行で印象的だったのは「……冥途にござる父母にそなたを逢はせ嫁姑、必ず添ふと抱きしむれば」の部分。お初が客席に背中を向けて徳兵衛に抱かれる場面で、お初がちょっと体を斜めに傾けて腰をひねっているのがとても美しくて感動した。終始たおやかで清楚な美しさのお初だったが、しかし、徳兵衛に抱きつく勢いがすごい。その速度だけはすごすぎた。

移動のある地方公演のせいか、天満屋の屋体が本公演とは違う不思議な構造で面白かった。天満屋の見所はいうまでもなく、お初が店の上り口に腰掛け、打掛で縁の下に忍んだ徳兵衛を隠す場面だが、文楽劇場のような船底+通常ステージの2層の設備がない通常の会場でそれを見せるために、天満屋の屋体の中には高めの段が作られていて、室内は一段上がっている構造になっていた。屋体下部の中央の一部が人形が出入りするための引き戸になっていて、お初が徳兵衛を発見して外に出るときや九平次天満屋にやってきたときにはそこを開閉させて人形遣いを通していた。屋体の中はかなり高めの段になっているようで、おもしろいことにその扉をあけたときには屋体の中に立っている人形遣いの足元まで見える状態になる。人形のサイズが大きい男役の人形遣いが履いている舞台下駄は高くて、人形が小さい女役のそれは低い、と話では聞いたことがあるけど、九平次役の玉也さんや、お初役の和生さん、遊女役の玉翔さんらの足元が見えて、舞台下駄の高さが違うのはほんとなんだなと目で見てわかった。それにしても玉翔さん、めちゃデカい。

あとは下女のお玉〈吉田清五郎〉がメッチャ眠そうだった。旦那に起こされ、顔をまくらにぐいぐい当てて「ねむ〜い!!ねむ〜!!」としているのが可愛らしかった。

今回の地方公演、照明がなんだか露骨すぎて微妙?と思ったけど(生玉社前の後半で露骨に徳兵衛にだけスポットライトとか品がない)、壁が紅殻色に塗られた薄暗い天満屋内で極彩色の衣装を着た遊女たちが動き回る場面は良かった。ドールハウスを覗き込んでいるようだった。こういう場面ならこれくらい嘘っぽくても良い。

 

道行の床は徳兵衛役の睦さんがすごく頑張っておられて良かった。始さんの代役でのご出演だけど、こんなに道行うまい人だったっけ!?と思った。控えめなビブラートのかかり方にほのかな品があって、儚く優しい雰囲気の徳兵衛に合っている。もうちょっとパワーのある役が似合う方だとは思うけど、力技に頼らずこういった役にもまっすぐに挑戦されているところ、とてもいいなと思った。あと三味線のみなさん、清志郎さん清𠀋さん燕二郎さんが良かった。それぞれの個性で頑張っておられた。清志郎さんはぼのぼののようだった。

天神森の人魂は火力低めだった。本公演だと緑色の大きな炎を上げている人魂だが、火が見えないくらい可憐な人魂だった。わずかに白く光っている程度。消防法的理由からだろうか。

 

印象的だったのは徳兵衛のたおやかさ。やわらかな雰囲気の中にも弓の弦のようなピンと張ったものがあって、みずみずしい芝居だった。鮮やかなライトグリーンの茎を持った春の野の花のよう。生玉社前の段で九平次の横暴に抵抗してピョコン!と立ち上がるところなどが殊によく、優しいだけが取り柄のヘタレ感がにじみ出ていていた。玉男様この2ヵ月、ヘタレ三連発。

今思い出したが、昨年の夏、恵比寿ガーデンプレイスで行われた映像イベントに、写真家の渡邉肇さんが出されていた『曾根崎心中』のショートフィルム(映像作家堀部公嗣さんとのコラボ作品)を観に行ったんだけど、それは徳兵衛役が勘十郎さんで、玉男さんとは別の意味で印象深い徳兵衛だった。特殊な映像で、(1)通常通り人形あり、(2)人形はなしで人形遣い(全員出遣い)が人形を持っているのと同じ振りで演じる、という2部構成で道行を見せるものだった。その中の後者でまさに心中しようとするシーンでお初の目線アングルから見た徳兵衛、という映像があって、しかし徳兵衛の人形はないから脇差を振り上げた人形遣い(勘十郎さん)を仰角で撮ってる映像なんだけど、抱かれている設定なのですごい距離が近いのと、その勘十郎さんの目が「マジ」で、とても怖かった。まったく何の感情も読み取れない表情で、人間って人を殺すときこういう目をするんだな〜……と思った。玉男さんの徳兵衛は正直恋人を刺せそうもないんだけど(刺すの失敗しそうで怖い)、勘十郎さんは絶対一撃必殺で刺してくると思った。

 

 

 

そんなこんなでシュロ箒が大活躍の心中二本立て地方公演だった。両方とも人形の配役が良くて、個人的にかなり満足感高かった。あと、道行の太夫配役がなんというか若干野太い感じでそこは本公演ではまずない配役でちょっとおもしろかった。

ところで、以前、「人形の上手い下手は初心者には滅多にわからないが、太夫は間違えるとすぐバレる」と聞いたことがあるが、そうなのかな、人形遣いさんが小道具を取り落とすとか手間取ってテンポがずれるとかは何度も見たことがあるけど、太夫さんが間違えるのって聞いたことないな。おもいっきり何行かすっ飛ばしてて素人には気付かないような間違いなのかな。と思っていたけど、きょう、それがわかった。ある太夫さんが言い間違えをされてたのだ。即座に気づいて言い直してたけど、なるほどこういうことね、と勉強になった。確かにこれはバレる。

それと、公演そのものには関係のないことだが、技芸員さんたちってみんなお互い助け合って舞台を支えているんだなと思うことがあり、胸がジンとした。

 

 

 

おまけ。

実はこの前日、大田区民プラザの夜公演にも行ってきた。当日券で入ったのでかなりの後列席だったが、遠方から見ているとお人形さんが本当にちっちゃくて可愛くて、あんなちっちゃなおててで一生懸命生きてる……(ToT)と感動した。あと玉男さんとか玉也さんはキリリと締まった止めが綺麗なので遠方から見ても映える芝居で、十全に伝わってくると感じた。前列で見るのと遜色ない。むしろ後ろから見たほうが綺麗さがわかるまである。いや嘘。できるだけ前列で見たいです。

 

 

 

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