TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

文楽 文楽劇場友の会バックステージツアー 国立文楽劇場

今回は特別編、文楽劇場友の会の会員限定イベント、文楽劇場バックステージツアーに行ってきたよレポート。

 

いまを去ること3ヶ月、あぜくら会に入会してからあぜくら会では文楽劇場の先行予約ができないことを知った私は文楽劇場友の会にも申し込んだ。文楽劇場友の会は入会金1,030円、年会費1,030円で文楽劇場主催公演の先行予約権、チケット代20%OFFの優待、会員限定イベント参加資格を受けられる会員制度。入会時にパンフレット1冊無料券と食堂の20%OFF券ももらえるので、1公演だけでも元が取れる驚異のシステムになっている。むしろ大丈夫なのか心配。で、この魅惑の割引率もさることながら、技芸員さんとふれあえるイベント(小動物のように言うな)があると聞きつけそれを楽しみにしていたのだが、入会して最初に来た会報にバックステージツアーの案内が載っており、早速応募したところ見事当選、錦秋公演とくっつけて大阪へ行くことにした。

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開催日の11月9日(水)は錦秋公演の休演日。

集合時間の午前10時30分。劇場前はしーんとしているが、1Fロビーには当選者のみなさんがサワサワと集まってきていた。そして2Fロビーに案内され、劇場スタッフの方から注意事項の説明と、定員50人の応募に5倍の応募があったとの話。平日だしそんなに希望者ないだろと見込んで応募したのだが、バックステージツアーはいままでやったことがないらしく、応募者が多かった模様。当たってよかった……(正直、定員割れもあると思ってた……)。そして、楽屋内部以外は撮影可というのも嬉しいサービス。スタッフの方やアテンドの技芸員さんも写真の撮りどころをすすめてくださり、気兼ねなく撮影できてよかった。

 

┃ 楽屋口

劇場スタッフの方に誘導され、劇場フロア入ってすぐの売店左奥の関係者扉からバックステージへ。劇場の事務スペースらしき細い廊下を通り抜け(ここは普通のオフィス風)、定式幕デザインで彩られた楽屋口で靴をスリッパに履き替えると、ここからは本当、写真でしかみたことのない世界で大感動。技芸員さんのお名前を勘亭流風に書いた名札の貼られた下駄箱、カウンターには出勤したらひっくり返す木のプレート、掲示板には12月東京公演のチケット残り状況一覧や幕開き三番叟の配役表など関係者向けの掲示、そして入り口に祀られた神棚と三番叟の人形!! もう夢のような世界、しょっぱなから興奮してワーキャー騒ぐ友の会一同、もはや幼稚園の遠足状態……(平均年齢40〜50歳前後)。

f:id:yomota258:20161109110829j:plainワクワクしすぎの一同。

f:id:yomota258:20161109123206j:plain現役の方だけでなく、住太夫さんや嶋太夫さんのスペースも。ふだんは下足番の方が出し入れしてくれるそうです。

f:id:yomota258:20161109111052j:plain木札、来ている人は黒字に。

f:id:yomota258:20161109111230j:plain幕開き三番叟の人形がチョコリンと佇んでいる。お神酒をそなえているのは玉男さん。

 

 

┃ 楽屋廊下

楽屋入ってすぐは人形遣いさんの楽屋らしく、お師匠様格の人形遣いさんのお名前が染め抜かれたのれんが廊下にずらっと並んだ入り口にかかってフワフワ揺れている。ほとんどの楽屋に明かりがついており、お若い方がご用事やお稽古で来ておられるらしくて、ドキドキ。

f:id:yomota258:20161109111304j:plain紋と芸名を染め抜いたのれんと木札。

 

のれんのお名前とその横の木札をキョロキョロ見ながら進んでいくと、よく写真集とかで見る、たくさんの人形が置いてある場所が!!!! これが見たかったんだよ〜!!! 前日に錦秋公演を観ていたので、居並ぶ出演人形たちに大感動。人形遣いさんが持っていないので、人形たちは仏像のようにしずかに佇んでいる。

f:id:yomota258:20161109123000j:plainうつくしい人形たち。これは入り口とは逆アングルから撮ったもの。

f:id:yomota258:20161109123019j:plain廊下挟んで反対側にはツメ人形が並ぶスペースもある。

 

 

┃ 舞台へ

人形の置いてあるスペースを通り過ぎると、照明つきのとても大きな鏡とカーテンのかけられた間口の広い通用口があった。その先は舞台下手側へ出る舞台袖。道具類やら大道具やらが色々置いてある場所を抜けると、いつもは客席側から見ている舞台!!

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わ〜〜〜〜〜〜〜。

 

 

すごい客席ビュー。きょうはガラガラだけど(休演日ですから!)、これ、満席だったら気持ちいいだろうな〜〜〜〜〜〜〜。

……というか、舞台から客席すんごいよく見えるなオイ。これ客寝てたら丸わかりやろ。と思ったら、やっぱり客席はよく見えるらしく、人形遣いさんは「一番前のまんなかの人寝てる…………………」とか思っておられるようだ。

 

というわけで、ここからは劇場スタッフの方に代わって人形遣いさんがアテンド。舞台&人形アテンドは桐竹紋臣さん、さらにお若い方がおふたりアシストについてくださった(お名前わからなくてすみません、たぶん先述の木札の名前が黒になってる方)。

ステージ。けっこう広い! というか、奥行きがかなりある。客席側の一段下がった舟底は思ったよりも広くなくて、2mくらいか。上段との段差が結構大きくて、とくに大ぶりの人形の人形遣いのかた、舞台下駄をはいて降りるのは大変だと思った。やはりみなさん気をつけて降りるそう。そして上段はかなり広い空間。実際には背景の書割や家屋のセットがあるので公演時は奥行きフルでは使わないんだろうけど、実際にはスペースが大きく確保してあるんだな〜と思った。

f:id:yomota258:20161109122708j:plainこの写真は上手側から撮ったもの。左にちらっと見えているのが人形の出入りする小幕。客席から見ると小幕もそこそこ舞台奥側にあるように見えるけど、それより奥にこんなにも奥行きが。

f:id:yomota258:20161109111906j:plain舞台の床にはところどころバミり(テープでつけられた目印)があって、段の名前などが書いてある。これが途中の舞台転換用で大道具を置く場所の目安になっているとか。

f:id:yomota258:20161109111826j:plain天井を見上げると、背景の書き割りが吊るされている。手前側にあるのは『勧進帳』の後半の海辺の背景。

f:id:yomota258:20161109111719j:plain大道具の家屋。わりと奥行きがなく、大変簡素なつくり。確かに、人形だけヘリの前へ出すような演技のときに人形(人形遣いさん)がぶつかると耐震実験中の欠陥住宅かのようにおそろしくグラグラ揺れてますよね……。

 

人形遣いの道具と仕事

そしてここから3グループに分けて人形遣い体験。私は目ざとくお園に近づき、主遣いをやらせていただきました。

f:id:yomota258:20161109112052j:plain(このレクチャーをちゃんと聞いていないと大変なことになる)

え〜。あのですね〜……。公演を前列のほうで見てると人形遣いさんの表情とかもよく見えるじゃないですか。で、別にたいして動かない小ぶめの人形を持ってる人でも、かなり汗かいてたりするじゃないですか。私ゃそれを「まあお年だから……(クソ失礼)」とか「照明が暑いのかな〜……人形遣いさんは肌出さないようがっちり着てるし……」と思ってたんですが……、違いますね。人形、ものすごい重い。かしらを持って高い位置に上げていられない。持っているだけでかなりきつい。ダンベル垂直に持って腕を上にかかげ続けている状態。お園は娘の人形(3kgくらいとのこと)だからまだいいけど、高めに持たなくてはいけない剛力の人形を体験した人は「上にあげていられない」とおっしゃっていた。大ぶりな立役とかかつらや髪飾りの大きい傾城とかだと大変なことになってしまうのではないでしょうか……。人形遣いさんてしなっとした感じの方が多いけど、脱いだらムキムキなんでしょうね〜と口々。勘十郎さんがある座談会で言っていた「できれば玉女さん(当時)の裸を見せたい」という謎の発言は妄言じゃなかった……………………のかも。

あと、多少動いているほうがましで、静止しつづけるのも難しい。上演中、話に関係のない人形は何十分レベルでピタッと止まっていることがあるが、あれは本当大変だと思った。同じグループのみなさん口々に、こんなに大変なのに寝てたら失礼だねとおっしゃっていた(人形遣いさんが目の前にいるのに寝ること前提で話す我々)。

簑助さん、80代でこれを毎日やってるとか、すごすぎる。簑助さんのすごさが改めてわかった。なにをどう考えてもなみのじいさんではない。いやはじめからなみのじいさんではないが。

そしてかしらを、あごを上げたまま持ってること自体が難しい。人形のかしらって、胴串(首から伸びている持ち手部分)を持っているだけでは頭がうつむいているので、さらにあごを上げる仕掛けのついた糸(うなずきの糸)に通じている、指を引っ掛けるトリガーのような部分を引いた(下げた)状態にしてないと前を向かないのだが……、いや人形は糸を引いた状態でないとがくんと首が落ちることは頭では知ってたんですけど……、模範演技では人形遣いさんがさら〜っと持ってらっしゃいますが、人間としてそんな指のポーズ長時間してたら指がつると思いました。このトリガー状のパーツ、本当にトリガーになっているのではなく、糸でぶら下がっているだけなので、人形遣いさんが「こう持ってください」と握らせてくれたのを離すと素人はもう持ち直せません。しかもよく人形遣いさんがデモンストレーションでやっている「ウンウン」みたいな人形がコクコクするジェスチャーはそれそのものができない、そんなに早く動かせない(私はできなかった)。仕掛けがシンプルすぎて、逆に難しいのだ。

で、このかしらをささえる糸、時々上演中に突然切れてしまうことがあるとは聞くが、じゃあ切れたときどうするのかと言うと、人形が止まった瞬間を見計らって介錯の人がかつらの後頭部と襟を糸で止める応急処置をするんだとか。でも応急処置にはいろいろやりかたがあって、衣装の打掛などを仮止めする針を使う方法があったり(説明していただいたが、具体的にどうするかよくわからなかった。多分、打掛を脱ぐ仕掛けの糸を使うということだったかと思う)、紋臣さんが見た例だと簑助さんの場合は、襟口から人差し指を出して人差し指で顎を支えたりしてたそうだ。糸は一度に交換するらしく、ひとつ切れると次々ぶちぶちいくとのこと。おそろしい。

それと、肩をひねるような演技もどうやっているのかまったくわからない。どうやったら首をかしげたり、肩をひねれるのかわからない。紋臣さんがいろいろ指導してくださるのだが、全員「え?え?え?????」状態で質問責めにしまくるので、紋臣さんは大忙しに……。結局最初に教えていただいた「人形といっしょに動かないように(人形遣いは動かず人形にだけ一礼させる例)」云々までたどり着けた人はいなかった……。

左遣いも少しやらせていただいたのだが、これもまた難しい。人形からある程度距離を置いているので、左手がどうなっているのかわからない。腕があるわけでなく吊ってあるだけなので、気をぬくと人間としてヤバい方向に手が曲がってしまう。なんか、ちょっとひねらないと普通の腕の向きにならないんだよ。どうなってんだよ。離れた後ろからじゃわからんし。左手と右手の位置を揃えてくださいと言われ、主遣いの人と力を合わせて合掌する私……。よく鑑賞教室の体験指導でやってる「はたと手を打ち♪」をやりたかったのだが、なんかこう、御霊前って感じになってしまった。

そして、足遣いと主遣いは密着していると聞いていたが、左遣いをやらせていただいているあいだに模範演技でやってもらったのを間近で見たら、本当にぴたっとくっついていた。というか、くっついているというより、主遣いが足遣いを押しているそうだ。この押し当て方、強さが人によって違うらしい。

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私の持ったお園。着物がフカフカしていて気持ちよかった。簑助さんが人形と見つめあってる写真みたいにしたくて自分のほうに向けてみたが、上品さがかけらもなく、どう見ても美少女人妻ではない。簑助さんや勘十郎さんの清純美少女ぶりは本当にすごいと思った。ちなみにこのお園は体験用に拵えていただいたものだそうで、勘十郎さんのお園ではない。

 

それにしても人形をいちど腕に抱いてしまうと、その美しさに気が狂うね。男性だったら人形遣いになりたいと思ってしまうんじゃないかしら。

 

 

 ┃ 床の裏

ここからはアテンドを太夫さん&三味線弾きさんに交代、竹本小住太夫さんと鶴澤清志郎さんが床(盆、文楽廻し)の裏側を案内してくれた。

f:id:yomota258:20161109115217j:plain(こういうレクチャーイベントだと太夫さんと三味線弾きさんが「兄さんが説明してくださぁ〜い❤️」「自分でしぃ〜❤️」「もぉ〜❤️」みたいなかんじで突然漫才をはじめることがありますが、業界の慣例でしょうか? 三味線弾きさんによってはまじで主導権を奪うことがあるので笑えます)

舞台上手から床の裏側へまわると、客席側へ光が漏れないように周囲を仕切られた盆の裏の小部屋がある。公演時にも床の近くの席に座ると、回転の瞬間ちょっとだけ物置的な何かや待機してるお弟子さんたちが見えるけど、こうなってたんですね。今回は見学なので電気がついているが、公演本番中は客席へ光が漏れないよう消灯しているとのこと。この小部屋周りには太夫さんたちの道具類もいろいろ置いてあるので、けっこう狭かった。

盆は文楽本公演を見たことがある方ならどなたもご承知の通り、金屏風と銀屏風が背中合わせになっていて、ぐるんと回って演者が交代する仕組みになっているのだが、これは普段は盆を回す専門職の方が回していて、上演中は裏側でストッパーのような木を溝に挟んで動かないようにしているそうだ。休演日はその方もおられないので、盆はおふたりが回してくださった。

 

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半分回している状態だとこんな感じ。

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盆近くの床がザリザリしているのは、太夫さんが自分の出演前に塩を撒いて柏手を打つからだとか。

盆の上は太夫・三味線弾き以外乗ってはならない掟になっているので体験はできない(本来この場所は女人禁制で、盆の上は男性でも一般の方は不可とのこと)。なのでおふたりが乗ってくださった。三味線弾きさんは、回しているとき遠心力で三味線がふっとばないようひざの上にかまえているとのこと。太夫さんは三味線弾きさんにぴとっとくっついているが、回転後、見台ごと自分で横へずれる。……ってあのずれ方、面白いよね。はじめからずれなくてもいい大きさの盆にすればいいのではとも思うが、あのソロリとしたずれ方、いつも「かわいい……」と思っちゃう。

で、公演では段の後半にいくにつれ太夫さん・三味線弾きさんの格が上がっていくが、自分が前のほうを語っていて交代直前になると、つぎの人、すなわち兄弟子さんやお師匠様が裏側で柏手を打っているのが聞こえるとのこと(床に近い席だと、客席からでも聞こえるらしい)。そしてつぎの人が盆の上に乗ると床面がギシッとなり、出演中の太夫さんがたは緊張するそうだ。で、かの住太夫さんはそのうえウオッホン!!!!!!!!とからぜき圧力をしてらしたらしい(出演中の人はもちろん超びくつく)。そして太夫の出来が悪すぎるとスミ師匠はお怒りになり「バンッ!!!!!!!💢💢💢💢💢」と屏風をぶっ叩いてくるらしいのだが、盆で太夫の席の裏側はすなわち演奏中の三味線弾きなので、屏風を叩かれると三味線弾きさんは(自分が怒られてるんじゃないのに)超ドキーーーーーッとしてしまうらしい。なお、この屏風ぶっ叩きお叱りはお客様から「裏方がうるさい!!!!!!!!💢💢💢💢💢」という苦情が来たためなくなったんだとか……。うるさいのは裏方じゃなくてうちの師匠だったんです……とのことでした。

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ちなみにこの盆の裏側には座布団や見台置きの棚がある。見台にはみなさんかわいいカバーをかけておられた。見台カバーはご贔屓さんが作ってくれたりするらしいのだが、お父上が使っていたのれんをリメイクして見台カバーにしているかたもおられるとか(下段黄地に水色文字のカバーがそれ)。←と聞いた気がしていたが、これ、咲甫さんだからお爺様ですね。

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座布団はフカフカ具合がいろいろあった。いちばんフカフカしているのは咲太夫さんのかしら?

 

┃ 三味線の構造と仕事

盆の裏は狭いので、今回は花道設置もあることですしということで、花道上へ出て三味線の説明。

f:id:yomota258:20161109220738j:plain(体験者の方のお顔を猫スタンプで隠してみました。気が付いたら師匠が化け猫になっていた怪事の図ではありません)

座り方。文楽の三味線は男芸なので、座るときはひざをこぶし2つ分くらい開き、お尻は足首のあいだに落とす(女の子座りみたいな感じ)。そのとき、足の指先は開いたままでなく、内側に向けるとのこと。構え方。義太夫の三味線はひざの上に置き、右手を布のかけてある部分に置く。弾く糸によって、バチへの親指の掛け方を変える。皮へバチを当てるまで強く弾くのは初心者ではなかなかできない。まともに音を出せるようになるまで1年程度かかる(初心者はまず二の糸にバチを当てられないらしい。しかしこの体験者のかたは一発でできて、清志郎さんに「やったことあります?」と言われていた)。三味線は楽器としては未完成なものなので、からだを三味線に合わせていかないといけない。三味線の木の部分は紅木(?)という堅い木でできていて、もとからこういう色をしている(色を塗っているわけではない)。など、いろいろなお話が。ちなみに違うグループの人は清志郎さんにちょっと弾いてもらっていた。羨ましい〜。

三味線の皮の説明が面白かった。三味線の皮と言えば猫のイメージだが、文楽では猫皮張りの三味線を使えるのはある程度格が上がってからだとか。若いうちは表裏犬皮張り。清志郎さんは最近猫皮になった。猫皮のほうがにゃ〜んと伸びるようなやわらかい音が出る。音色によって猫皮犬皮使い分けも。犬皮と猫皮の見分け方は、表面に黒い小さなつぶつぶがあるのが猫皮だそうだ。いいこと聞いた。これから床付近に座ったらどのあたりのひとから猫なのかチェックだな。このように表側は犬だったり猫だったりで、公演ごとに張り替える(年10回くらい)が、裏側は全員犬皮で、これは破れるまでずっと張りっ放しだとか。

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見せていただいた三味線のバチのアップ。右上部分の質感が違うのは、実はこの部分が交換式カードリッジになっているから。驚異の構造!!! そんなことなってたとは初めて知った!!! 三味線のバチは象牙でできており、弦に当たって削れてきたらこの部分だけバチ屋さんに替えてもらうんですって。この部分も象牙で、最近はプラスチック製品もあるけど三味線弾きさんとしては象牙のほうが良いらしい。ほかには駒も見せていただいた。駒は朱色に刺繍の入った綺麗な布貼りの小箱にちょこんとおさめられていた。駒は普段外していて、出演15分前くらいにつけるのだとか。また、三味線の皮は湿気に弱いので、普段はカバー(木のフタのようなもの)をかけているそう。突然ふところからデカイふたを取り出されたので驚いた。

f:id:yomota258:20161109122222j:plain譜面ノート(かわいい)。中は手書きで浄瑠璃の詞章と小さなメモ書きがいっぱい。五線譜のような楽譜等ではなく、詞章の横にチョロチョロ記号が書き込まれている形式。字がおきれいでした。

 

太夫の道具

説明を小住太夫さんに交代し、太夫の説明。

f:id:yomota258:20161109121600j:plain(座り方を説明してくれる小住さん……とそれを見守る清志郎兄さん。小住さんはめっちゃツヤツヤされていた)

まず座り方。太夫さんてお風呂の椅子みたいなヤツに座ってるな〜と思っていたが、あれに本当に座っているわけではないんだって。というか、あれは座る用の構造をしているわけではなく、尻シキに座ろうとするとすっ転んでしまうようで、人間が本来発声しやすい、立っている姿勢を擬似的に作るためにお尻に敷いているのだとか。なので実はひざ立ちしているような姿勢になっているらしい。

腹帯。腹帯はきつく締める人もいるし、ゆるく締める人もいる。しかし、出演中は汗をかくため締めたときよりきつくなってしまうそうだ。

オトシ。あずきや大豆、砂を入れてふところにしまっている重り。ただ海外公演では中身が豆類だと持ち出せないらしく、空港で中身を捨てさせられる。なので海外公演ではM&Mチョコを中に入れている人もいるとか……?

f:id:yomota258:20161109122207j:plain興奮しすぎてぶれたオトシと尻シキの写真。けっこう小ぶり。成人男性は尻シキには座れませんわなと思った。

f:id:yomota258:20161109121851j:plain床本。自分で書く場合、先輩やお師匠様から譲っていただく場合、古本屋で買う場合、いろいろある。これは古本屋で買ったとのこと。勿体無いので、表紙に自分の名前を書いた紙だけ貼って使っているそうです。

見台の分解。公演ごとに場所を移動することも多いため、道具のたいていは分解できる。見台も分解できますとのこと。

 

┃ 花道

今公演では『勧進帳』の引っ込みを花道でやるため、舞台から客席後部へ向かって花道が伸びている。「せっかくなので」ということで、花道も歩かせていただいた。大騒ぎする友の会一同。花道を歩けるのは本来一部の人形遣いだけだし、第一、文楽では花道演出は滅多にない。わが人生で花道を歩くのはこの一度だけであろう…… 

f:id:yomota258:20161110140611j:image(花道の上は履物NGとのこと。たしかに『勧進帳』もみなさま足袋でした)

f:id:yomota258:20161109122456j:plain清志郎さんたちはこのあといい年こいてはしゃぎまくり幼稚園児の我々につかまりまくっていた……)

 

 

┃舞台上手

予定の1時間を大幅超過したが、これでバックステージツアーはおしまい。帰りは舞台上手へ回らせてもらった。

f:id:yomota258:20161110002014j:image舞台上手すぐ脇に人形小割帳が下がっていた。

f:id:yomota258:20161109122814j:plain舞台袖のおうまさん、お駒が乗せられてたやつ。鞍の部分に滑り止めのゴムマットがつけられている。

f:id:yomota258:20161109122901j:plain上手に通じる楽屋廊下。太夫さん、三味線弾きさんの楽屋が並ぶ。

 

 

バックステージツアー、超充実の内容だった。参加者のみなさんはじめての遠足に大騒ぎする幼稚園児状態。大人の社会見学を超えてた。このイベント、応募条件上、会員本人1名しか参加できないため、ほとんどの参加者はお互い見ず知らずで、ご年配のかたも多く、集合時点ではみんな一人ずつ座ってシーンとしていたのだが、途中からまったく知らない人と一緒にワーキャーはしゃいでしまった。いや、ワーキャーしていてもみなさんすごく上品な物腰だった。さすが文楽ファン?

アテンドの技芸員さんもお話お上手な上にみなさん親切で、ほんと礼儀正しくフンワリ上品。お話の仕方も抽象的・感覚的でなく具体的・理論的なので、素人にもわかりやすい。

まるで夢の世界を歩いているようだった。でも別にこれによって現実を見たとか、夢が壊れたりするわけではない。別に舞台に上がろうが人形を持とうが夢は夢のままで全然壊れることはない。道具を間近で見るとどれも本当に簡素で、むしろ夢はあの人たちの芸の中にしかないのだということがよくわかった。

東京でもこういうイベントをやってくれると嬉しいのだが、東京は休演日がないから、やるとしても舞台稽古見学とかでしょうか。あとは技芸員さんとお近づきになるしかないのだろうが……。と、そういう気の迷いはとにかく、大阪ならではの超楽しいイベントだった。また別の機会があったら是非是非参加したい*1。ほんと、友の会入ってよかったと思った。

 

 

 

┃おまけ

f:id:yomota258:20161109143039j:plain地下鉄日本橋駅に貼ってあるポスター。玉男さんがモデルなのかしら? 玉男さん、たしかにある意味人形みたいなお顔だち。

f:id:yomota258:20161109132703j:plain同じグループだったかたとお好み焼きを食べに行った(初の大阪旅行らしい行動)

*1:絶対無理だと思うが三味線弾きさんに三味線の講座をやってほしい。サワリのほんのちょっと、まねごとだけでもできるようにくらいの……

文楽 にっぽん文楽『壺坂観音霊験記』浅草寺境内

浅草寺境内に特設舞台を設営して屋外上演される特殊興行。前日に玉男さん&和生さんが仲見世をお練りしたのが新聞に出ていたが……、そういうことするときは先に告知してほしい。朝日新聞のサイトに上がっている動画に「和生さ〜ん❤️」ってやってる人の声が入っているが、私も「玉男様〜❤️ キャ〜❤️❤️❤️」とかやりたかった。

チケットに書かれている上演会場が「浅草寺裏」と超アバウトなことになっており、いや浅草寺の裏手にだだっ広い空間があるのは知ってるけどどういうことよ、と思ったら、浅草寺裏手の一角に能楽堂というかお宮というかな感じの木造の舞台を設営し、その周囲を時代劇の仇討ち会場みたいな幔幕で囲った会場が作られていた。ワシ、こういうの見たことあるで。『獅子の座』っていう伊藤大輔の時代劇で。それは徳川時代、ある流派の宗家が勧進能を仰せつけられ、数日間の興行のために命を賭して稽古に励むという話なのだが、その勧進能もそれだけのために大きい能楽堂と会場を新造で作るっていう設定になってたんだよね。白木で作ってある(古典芸能らしからぬ)真新しい舞台や客席がシンプルで雑多にワーギャーしている感じがまんま一緒、舞台の横に張り出してるのが橋掛か床かの違いくらい。と、どなたにも理解していただけない例え話はともかく、開演1時間前開場で自由席だったので、ひとまず1時間10分ほど前に行ってみたら50人くらいが並んでいた。しかしさすが文楽の客、名画座の客と違って(当てこすり)マナーがよく、開場後もわりとのどかにおのおの好きな席に座れる状態だった。また、客席は縁台みたいな感覚でテーブルとしても使える広めの長椅子に2人掛けというゆったり配置のため、客席に傾斜がなくてもステージが見やすい。前後にも広めの感覚があいているので、下手すると劇場より快適かもしれない。

 

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昼夜同演目とのことで、せっかくの屋外上演なので夜の部を取った。文楽は通常の劇場上演の場合は上演中でも客電がついているが、夜の部なら薪能のように雰囲気ある上演が楽しめるのではと思ったからだ。果たして予想は的中し、今宵は雲が少々流れている程度の晴天、満月の明かりに照らされての上演となった。

さてまずは『五条橋』と太夫・三味線の解説。『五条橋』(人形役割:牛若丸=吉田文昇、弁慶=吉田玉佳)は普通に面白かったが、解説は最近レクチャーを聞きすぎて次に何を言うかわかってしまって「笑ってあげなくてはまずいのでは……」という強迫観念に囚われた。

 

本編は『壺坂観音霊験記』。盲目の夫・沢市(吉田玉男)とその妻・お里(吉田和生)の夫婦愛と壺坂観音の霊験の物語。

字幕なし上演、事前に簡単な解説が書かれたリーフが配布される程度だが、浄瑠璃がほぼ聞き取れるので話は理解できた。筋書き自体もわかりやすいので、人形の演技に集中できる。

和生さんのお里のふんわりとした上品さが印象的だった。やっぱりちょっとした首や肩の動かし方やそのタイミングで上品に見せているのだろう。針仕事などの細かい仕草の演技も品があって美しく、とくに沢市にコソコソとなにか耳打ちする仕草が可愛かった。なんだかそこだけ色っぽくて、何を耳打ちしているのか気になる。うふふって感じで。また、話の途中で沢市とお里は谷へ身投げするシーンがあり、実際に人形遣いが持っている人形を谷底へ向かってぱっと落とすのだが、『一谷嫩軍記』の人形を馬に乗せるシーンでも思ったが、ぱっと人形を離しても人形が演技をしているような演技、みなさんうまい。身投げもきちんときれいなポーズのままおっこちていて、人形遣いの手を離れていても、ちゃんと人形が意思を持って動いているように見える。

全体的には心温まるいい話なのだが、最後に謎のギャグをかましてくるのが文楽らしい部分。なのだろうか。あんた誰? はともかく、「コレハシタリ初めてお目にかかります」ってなんだよ。通常空間では絶対かませないギャグ。

それにつけても屋外上演だけあって、会場外からは様々な雑音が聞こえてくる。子供が泣き叫ぶ声、ヘリのバラバラというプロペラ音、やたらブンブン走る車の音などなど。昼の上演は花やしきの絶叫などがあってもっとひどかったらしいが……。とは言っても近隣で一番の大音声をあげているのは文楽で、「ハア〜〜〜〜〜ッッッ!!!!!」とか「サワイチさ〜〜〜〜〜んッッッ!!!!!」とかの絶叫が周囲にワンワンこだましていた。事情を知らない通りすがりの方々は、やたら声のでかいオッチャンの女言葉絶叫ボイスになにごとかとびびったであろう。でももちろん屋外上演の良い点もある。月夜の参道のシーンでは実際に会場も月夜。客席の照明も落とされ、舞台下手の空には満月が昇っている。光源は舞台を照らすブルーの暗めのライトだけ。薄暗く静かな山道の雰囲気が出ていた。これは『五条橋』も同じである。

 

 

本公演とは違う部分について。

屋外のだだっ広い空間で上演するからか、太夫はマイクありでの上演だった。でも、スピーカー使用の印象はほとんどなし。自分が床の直線上にあたる席に座っていたからかもしれないが、声の聞こえ方は通常の上演と違和感はなかった。マイクで言えば黒衣さんもマイクをつけていて、妙にハッキリした前口上になっていた。本公演だとなに言ってるかわからんくらいなのに。あれはわざと聞こえないくらいに言ってる(意図的にああいうぼーっとした口調)ようだが……。

また、上演中飲食可が売りの興行のようだが、実際には上演中に飲食している人は見かけなかった。というのも、場内で飲食物を販売しているわけではなく、しかも先着順自由席で開演1時間前開場なので、みなさん何か買ってきていても上演待ち中にあらかた飲み食いし終わっていた。そのため上演中は超静かで本公演と変わりない。観客のマナーで言えば、私はわりと前列に座っていたためか、どうも普段から文楽を見に来ている人が多いようだった。とは言ってもところどころ小さい子供を連れた方とか(子供途中で完全に飽きてた。この内容ではしかたない)、上演中に人形観ないでイチャついている一般観光客っぽい人(デートムービー感覚?)も混じっていて、「いまワシらディズニーランドのショー観てるんだっけ!?!?!?」時空になっていたり、ちょっと面白かった。

秋の上演でとくに夜は冷え込むため、会場内ではブランケットの貸し出しあり。防寒のほかに、椅子がかたいので、座布団代わりに使っている人が多かった。これはよかった。

本公演にはないサービスとして、休憩時間に人形(八重垣姫)との記念撮影、終演後に出演者全員での挨拶があった。記念撮影は大人気でかなりの人数が並んでいた(ただし15分間で打ち切り)。みなさんキャッキャとはしゃいでおられた。人形は記念撮影時にお客さんに反応&対応してくれるのだが、記念撮影が終了して去っていくとき誰にともなくバイバイと手を振る八重垣姫が可愛かった……。終演後のカーテンコールはふだん演者も客もやってないからどうしたらいいのかわからず、若干謎の空気になっていたのがおもしろかった。人形を持っている玉男さんと和生さんはキャッキャと小芝居をしていた。

 

本公演より手頃価格でカジュアルに観られて面白かった。人形の演技、浄瑠璃ともにじっくり観られてその世界に入っていけるという点では本公演がいちばん良いのだが、こういう気が散ること前提の突発企画は逆にリラックスして観られて、なかなか楽しい。今回はとくに玉男さんが出ていたのが嬉しかった。

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文楽 10月地方公演『妹背山婦女庭訓』『近頃河原の達引』神奈川県立青少年センター

地方公演に行ってみた。

この公演、事前に公演情報を調べてチケットがぴあに出るのを待っていたが、実は主催者専売でとっくの昔に発売していたことが発覚、気づいた時点で即座に取ったが、昼の部はかなり席が埋まっていて、いままでで一番の後列……。実際行ってみたら800席程度の会場ほぼ満席で、人気あるな〜と思わされた。しかし夜の部はなぜか最前列が取れた。差がありすぎでは。なお、実際の客入りは、昼より少ないけど、国立劇場小劇場なら満席入っているくらいの席の埋まり方だった。

 

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昼の部は『妹背山婦女庭訓』のお三輪パート。文楽を観始めて9ヶ月だが、これで観るのは3回目。ふだんどうやって演目をまわしているのか知らないが、今年の重点演目なのだろうか。

まず上演前に太夫さんから文楽についての簡単な解説とあらすじ説明がある。その最後に字幕表示機「Gマーク」(名前うろ覚え)が紹介されて、太夫さんとプチ漫才(?)をしてくれるのだが……、なんだこのコーナーは。やっぱりあの人らは「きょういっぺんは客に笑って帰ってもらわな!」メンタリティなのだろうか。さすが大阪の人は違う。で、この字幕表示機が結構よくて、本公演の字幕は国立劇場小劇場だとステージ上部の左右に縦書き、文楽劇場だとステージ上部センターに横書きで表示されるが、いずれもステージの演技スペースから遠く、字幕を見ようとすると人形が見えなくなるのがイヤで、私はふだんあまり字幕を見ていない。ところがこの「Gマーク」は舞台下手、ステージ脇に巨大な柱としてドーーーーンと立っているので、人形と同時に視界に入り、人形の演技を見ながら無理なく字幕を見ることができるのだ。これ、国立劇場文楽劇場よりもイイ。でもそんな見やすい場所に立ってるとみんなそっちを見ちゃうから、人形遣いさんからすると「ふざけんな💢字幕見てないでオレを見ろ💢💢💢」って感じだろうけど……。

 

本編の人形役割メインキャストは勘十郎さんがお三輪、清十郎さんが求馬、勘彌さんが橘姫、玉志さんが鱶七で、4月の大阪と同じだった。女の人形って、人形遣いが持っていないときは表情が死んでいて胴体にメリハリもなくこけし状で別に可愛くもなんともない。勘十郎さんがときどきFBに人形のこしらえをしました❤的な写真をアップしているが、脊髄反射で「超いいね❤」を押しつつ、あの可愛くもなんともなさ、スゲーっていつも思う(勘十郎様申し訳ございません。でも、あの死体状態で舞台で見せる最終形が見えているのはすごいと思ってます)。しかし、舞台で見ると可憐にクルクルしていて、とても可愛い。持ち方、首のかしげさせ方、肩の動かし方などのほんのすこしのニュアンスでそう見せているのだろうけど、どうしてあんなに可愛いく見せられるのかは具体的にはわからなくて、不思議。鑑賞教室などで人形遣いさんから可憐に見せるテクニックの話が時々あるが(両手の指先を胸の前で合わせて静止するポーズのとき、袖から手を出さない等)、もちろんそれだけではなく、動きや仕草そのものがすべて可愛いんだよなあ。生身の人間の女性であそこまでやったらぶりっこだとは思うが、それが可愛いのが人形の特権。それに加え、演者が男性なのでさらに生臭さが軽減されるという何段階のも屈折があるからだと思うが……。そんなこんなで、お三輪は今回もとても可憐でとても可愛かった。お三輪とキーキーやりあう橘姫も可愛かった。

それと、お三輪と求馬は手にした苧環(糸巻き)をクルクル回転させるが、あれをどうやって回しているのか不思議。とくに後手に持って回す場面のあるお三輪。よくあんなにキレイにそれっぽく回せるな〜と思う。

 

 

夜の部は『近頃河原の達引』。主家を害する悪人を勢い余って殺してしまった伝兵衛(人形役割・豊松清十郎)とその恋人・遊女おしゅん(吉田勘彌)、おしゅんの兄で貧しい猿廻しの芸人の与次郎(桐竹勘十郎)、そして盲目の母(吉田簑一郎)の物語。ほのぼのだった。

バカっぽいけど妹想いの与次郎の仕草がいちいち可愛い。横でおしゅんと母が何かやってるうちにちょこちょこと細かいことをしていた。夕食におひつから新しいごはんをよそうのをやめて、お弁当の残りのおにぎりを茶碗にあけて梅干しとタクアンだけでいただくとか、梅干しはちゃんとすっぱそうにチョビチョビ食べているとか……、与次郎のいる下手側の席だったため、目の前でやられているそっちが気になって、上手のほうにいるおしゅんと母がなにをやっているか全く見ていなかった。そして、与次郎が旅立つおしゅんと伝兵衛のために祝いの猿廻しをするシーンは、こざるがとてもかわいかった。こざる、きょう一番の拍手を浴びていたような……。

また、小道具も凝っていて、帰宅した与次郎が母にお茶をわかしてあげる場面で使っている火鉢(?)、うちわでパタパタあおいだら赤く燃えた灰がフワフワ舞っていた。また、キセルもちゃんと煙が出ていた。電子タバコ? どうやっているんだろう。

それともうひとつよかったのが三味線(鶴澤藤蔵、ツレ・鶴澤寛太郎)。いままでは道行ナントカカントカ系以外にはそこまで三味線が演奏しっぱなしの演目を見ることはなかったが、「堀川猿廻しの段」では母が近所の子どもに三味線を教えるシーンがあったり、猿廻しでも三味線が伴奏についていたり、演奏をじっくり聞ける構成だった。津駒大夫さんと藤蔵さんはつい先日、自主公演(?)で寛永寺でこの段を素浄瑠璃をやっていたみたいだが、行きたかったな〜。直前というかその当日に知ってしまったので都合のやりくりがつかず、行けなかった。東京での自主公演は滅多にないだろうから、はやく知りたかった。文楽協会や技芸員さんたちのNPO法人が絡んでいる公演ならともかく、個人の自主公演や仕事の情報はどうやって調べればいいんだろう。勘十郎さんもFBに載せてるのは一部だし……。たいてい後々知って「はよ言えや!!!!」と思ってしまう。技芸員さんの名前でかたっぱしから検索してネットストーキングでもするしかないのでしょうか。

  

そんなこんなで勘十郎様の可愛さスペシャルな公演だった。

客席は子供連れの方から年配の方まで幅広く、いろいろな方が来ていた。昼の部はかなり後列だったからか、周囲の人は客層雑多で、初めて文楽を観るらしい会話をしている方もいらっしゃった。夜の部は最前列、さすがにこちらでは周囲も普段から国立劇場に行っているらしい話をされている方が。錦秋公演の話をされている方も多かったので、固定のファンなんでしょうね。

客席、とくに昼はワーキャー盛り上がっていた。人形のちょっとした仕草にもワイワイ。大阪の文楽劇場のお客さんていつもワーキャー盛り上がってるなと思っていたけど、こないだの狛江での公演も鑑みるに、国立劇場のお客さんがおとなしすぎるだけなのかもしれない。文楽はワーキャー観たほうが楽しいように思う。

それと、音響がいつもと違う感じで、人形の足拍子やツケ打ちの音が大きく反響していた。会場によっては舞台の構造上足拍子の音が鳴らなくて人形遣いさんは困るらしいが、今回の会場は文楽劇場等より足音が鳴りやすいのか、ふだんそんなバタバタした音はしないのに、段を降りるときとか、音が立たなくていいとこまで少しだけど足音立っちゃってたりしてた。やっぱり文楽劇場国立劇場のような専用劇場は床や舟底だけじゃない、専用劇場としての機能を持っているんだろうなと思った。

 

 

  • 『妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)』杉酒屋の段、道行恋苧環、姫戻りの段、金殿の段  
  • 『近頃河原の達引(ちがごろかわらのたてひき)』四条河原の段、堀川猿廻しの段
  • http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f531320/p811343.html