地方公演に行ってみた。
この公演、事前に公演情報を調べてチケットがぴあに出るのを待っていたが、実は主催者専売でとっくの昔に発売していたことが発覚、気づいた時点で即座に取ったが、昼の部はかなり席が埋まっていて、いままでで一番の後列……。実際行ってみたら800席程度の会場ほぼ満席で、人気あるな〜と思わされた。しかし夜の部はなぜか最前列が取れた。差がありすぎでは。なお、実際の客入りは、昼より少ないけど、国立劇場小劇場なら満席入っているくらいの席の埋まり方だった。
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昼の部は『妹背山婦女庭訓』のお三輪パート。文楽を観始めて9ヶ月だが、これで観るのは3回目。ふだんどうやって演目をまわしているのか知らないが、今年の重点演目なのだろうか。
まず上演前に太夫さんから文楽についての簡単な解説とあらすじ説明がある。その最後に字幕表示機「Gマーク」(名前うろ覚え)が紹介されて、太夫さんとプチ漫才(?)をしてくれるのだが……、なんだこのコーナーは。やっぱりあの人らは「きょういっぺんは客に笑って帰ってもらわな!」メンタリティなのだろうか。さすが大阪の人は違う。で、この字幕表示機が結構よくて、本公演の字幕は国立劇場小劇場だとステージ上部の左右に縦書き、文楽劇場だとステージ上部センターに横書きで表示されるが、いずれもステージの演技スペースから遠く、字幕を見ようとすると人形が見えなくなるのがイヤで、私はふだんあまり字幕を見ていない。ところがこの「Gマーク」は舞台下手、ステージ脇に巨大な柱としてドーーーーンと立っているので、人形と同時に視界に入り、人形の演技を見ながら無理なく字幕を見ることができるのだ。これ、国立劇場や文楽劇場よりもイイ。でもそんな見やすい場所に立ってるとみんなそっちを見ちゃうから、人形遣いさんからすると「ふざけんな💢字幕見てないでオレを見ろ💢💢💢」って感じだろうけど……。
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本編の人形役割メインキャストは勘十郎さんがお三輪、清十郎さんが求馬、勘彌さんが橘姫、玉志さんが鱶七で、4月の大阪と同じだった。女の人形って、人形遣いが持っていないときは表情が死んでいて胴体にメリハリもなくこけし状で別に可愛くもなんともない。勘十郎さんがときどきFBに人形のこしらえをしました❤的な写真をアップしているが、脊髄反射で「超いいね❤」を押しつつ、あの可愛くもなんともなさ、スゲーっていつも思う(勘十郎様申し訳ございません。でも、あの死体状態で舞台で見せる最終形が見えているのはすごいと思ってます)。しかし、舞台で見ると可憐にクルクルしていて、とても可愛い。持ち方、首のかしげさせ方、肩の動かし方などのほんのすこしのニュアンスでそう見せているのだろうけど、どうしてあんなに可愛いく見せられるのかは具体的にはわからなくて、不思議。鑑賞教室などで人形遣いさんから可憐に見せるテクニックの話が時々あるが(両手の指先を胸の前で合わせて静止するポーズのとき、袖から手を出さない等)、もちろんそれだけではなく、動きや仕草そのものがすべて可愛いんだよなあ。生身の人間の女性であそこまでやったらぶりっこだとは思うが、それが可愛いのが人形の特権。それに加え、演者が男性なのでさらに生臭さが軽減されるという何段階のも屈折があるからだと思うが……。そんなこんなで、お三輪は今回もとても可憐でとても可愛かった。お三輪とキーキーやりあう橘姫も可愛かった。
それと、お三輪と求馬は手にした苧環(糸巻き)をクルクル回転させるが、あれをどうやって回しているのか不思議。とくに後手に持って回す場面のあるお三輪。よくあんなにキレイにそれっぽく回せるな〜と思う。
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夜の部は『近頃河原の達引』。主家を害する悪人を勢い余って殺してしまった伝兵衛(人形役割・豊松清十郎)とその恋人・遊女おしゅん(吉田勘彌)、おしゅんの兄で貧しい猿廻しの芸人の与次郎(桐竹勘十郎)、そして盲目の母(吉田簑一郎)の物語。ほのぼのだった。
バカっぽいけど妹想いの与次郎の仕草がいちいち可愛い。横でおしゅんと母が何かやってるうちにちょこちょこと細かいことをしていた。夕食におひつから新しいごはんをよそうのをやめて、お弁当の残りのおにぎりを茶碗にあけて梅干しとタクアンだけでいただくとか、梅干しはちゃんとすっぱそうにチョビチョビ食べているとか……、与次郎のいる下手側の席だったため、目の前でやられているそっちが気になって、上手のほうにいるおしゅんと母がなにをやっているか全く見ていなかった。そして、与次郎が旅立つおしゅんと伝兵衛のために祝いの猿廻しをするシーンは、こざるがとてもかわいかった。こざる、きょう一番の拍手を浴びていたような……。
また、小道具も凝っていて、帰宅した与次郎が母にお茶をわかしてあげる場面で使っている火鉢(?)、うちわでパタパタあおいだら赤く燃えた灰がフワフワ舞っていた。また、キセルもちゃんと煙が出ていた。電子タバコ? どうやっているんだろう。
それともうひとつよかったのが三味線(鶴澤藤蔵、ツレ・鶴澤寛太郎)。いままでは道行ナントカカントカ系以外にはそこまで三味線が演奏しっぱなしの演目を見ることはなかったが、「堀川猿廻しの段」では母が近所の子どもに三味線を教えるシーンがあったり、猿廻しでも三味線が伴奏についていたり、演奏をじっくり聞ける構成だった。津駒大夫さんと藤蔵さんはつい先日、自主公演(?)で寛永寺でこの段を素浄瑠璃をやっていたみたいだが、行きたかったな〜。直前というかその当日に知ってしまったので都合のやりくりがつかず、行けなかった。東京での自主公演は滅多にないだろうから、はやく知りたかった。文楽協会や技芸員さんたちのNPO法人が絡んでいる公演ならともかく、個人の自主公演や仕事の情報はどうやって調べればいいんだろう。勘十郎さんもFBに載せてるのは一部だし……。たいてい後々知って「はよ言えや!!!!」と思ってしまう。技芸員さんの名前でかたっぱしから検索してネットストーキングでもするしかないのでしょうか。
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そんなこんなで勘十郎様の可愛さスペシャルな公演だった。
客席は子供連れの方から年配の方まで幅広く、いろいろな方が来ていた。昼の部はかなり後列だったからか、周囲の人は客層雑多で、初めて文楽を観るらしい会話をしている方もいらっしゃった。夜の部は最前列、さすがにこちらでは周囲も普段から国立劇場に行っているらしい話をされている方が。錦秋公演の話をされている方も多かったので、固定のファンなんでしょうね。
客席、とくに昼はワーキャー盛り上がっていた。人形のちょっとした仕草にもワイワイ。大阪の文楽劇場のお客さんていつもワーキャー盛り上がってるなと思っていたけど、こないだの狛江での公演も鑑みるに、国立劇場のお客さんがおとなしすぎるだけなのかもしれない。文楽はワーキャー観たほうが楽しいように思う。
それと、音響がいつもと違う感じで、人形の足拍子やツケ打ちの音が大きく反響していた。会場によっては舞台の構造上足拍子の音が鳴らなくて人形遣いさんは困るらしいが、今回の会場は文楽劇場等より足音が鳴りやすいのか、ふだんそんなバタバタした音はしないのに、段を降りるときとか、音が立たなくていいとこまで少しだけど足音立っちゃってたりしてた。やっぱり文楽劇場・国立劇場のような専用劇場は床や舟底だけじゃない、専用劇場としての機能を持っているんだろうなと思った。
- 『妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)』杉酒屋の段、道行恋苧環、姫戻りの段、金殿の段
- 『近頃河原の達引(ちがごろかわらのたてひき)』四条河原の段、堀川猿廻しの段
- http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f531320/p811343.html