市川崑によるセルフリメイクとでも申しましょうか、30年の時を越えて製作された『犬神家の一族』を観てまいりました。
市川崑の『金田一耕介の事件簿』シリーズ好きの私*1としては制作発表当時から大変楽しみにしていた作品です。
前作より人間関係の描写に力が入って話がわかりやすくなっており、しかし映像の面白さは以前のまま。フィルムっぽい質感の陰影の濃い重厚な映像が大変美しいです。キャスティングが微妙で金田一も珠代も老けすぎとか、旧作と比較してアレコレ言わずとも、横溝正史世界を楽しめました。
個人的には、犬神家長女・松子が戸棚に隠した犬神の祭壇に何かを祈るシーンが印象的でした。
このシーン、旧作にはなかったような気が(未確認)。はじめは自分の息子・佐清が珠代を娶れるよう、他の婿候補に不幸があることを祈る呪詛かと思っていたのですが、後半になるにつれ、犬神の一族が犬神佐平衛の呪詛から解放されることを願っているように思えてきました。横溝正史は「犬神」という言葉をタイトルに入れておきながら、犬神(いわゆる犬神筋と呼ばれるような迷信)には関係なく話を展開させていますが(横溝は江戸川乱歩に犬神などという前時代的なものを使うとは云々と言われ、犬神は話に関係ありませんと釈明したらしい。資料未確認)、なぜこの映画に犬神の描写が出てくるのかは少し不思議。また、この犬神*2については一切説明なく話が進むので、予備知識がない人は完全おいてけぼりになりそうです。
また、キャスト・スタッフの名前を字幕で出すタイポグラフィ*3も大変美しく緊張感のある構図。さすが市川崑、日本の映像タイポグラフィの始祖(推定)。ウェイト高めの、写植時代のような美しい明朝体の文字を見る事ができます。このような市川崑映画のタイポグラフィは『新世紀エヴァンゲリオン』でもオマージュされていましたね。ただ、アレのタイポグラフィとしての質はどうかと申しますと、残念ながら……………です。美しいレタリング文字を書くことは本当にとても難しいことです。そして、美しいタイポグラフィを作りだす事もとても難しいことです。活版時代、或いは写植時代の懐古主義に走るのではなく、現在の、デジタルデータとして文字を扱うタイポグラフィで、私たちはもっと「美しいタイポグラフィとは何か」を考えなくてはならないと思います。
ところで、麻雀牌はタイポグラフィとして大変美しいですね。中国古文調の書体がとてもカッコイイです。なんと言うのでしょうか、あの文字、龍門碑?みたいな。思えばあれがかっこいいなと思って、麻雀に興味を持ったのです。