TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

文楽 にっぽん文楽in上野の杜『花競四季寿』万才・関寺小町/『増補大江山』戻り橋の段 上野恩賜公園

組み立て移動式舞台による屋外公演シリーズ、今回は上野恩賜公園の噴水広場(国立科学博物館上野動物園の間のスタバの前らへん)。

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屋外公演という形態上、雨天中止となる公演だが、天気予報を確認したところチケットを取った回が雨になる可能性が高かったため、急遽予定を調整し雨の降らないであろう時間帯の回に当日券で行くことに。……と思って上野に着いたらポツポツと雨。これは降ってない!降ってない!とばかりに会場へ向かい、当日券の列に並ぼうとしたら、会場前にいた野次馬らしき知らん人に「気の毒に」と言われたのが衝撃的だった。さらには開演直前になって小雨が降り出し、観客は会場で無料配布されたカッパを着て鑑賞することに。人間はカッパを着ればよいけど(よくないけど)、屋根付き舞台とはいえ三味線さんと人形さんは可哀想。それでもやってくれるというお気持ちは嬉しかったけど、ことに三味線さんはお嫌だろうなと思った。

 

 

小雨けぶる中、まずは『花競四季寿』より「万才」。

正月の門付けをして回る太夫〈吉田文昇〉と才蔵〈吉田玉佳〉の姿を描いた景事。太夫と才蔵のやりとり・所作がほのぼのと可愛らしく、くしゃみとかしててメチャカワ。太夫が微妙にめんどくさげな才蔵の手を引いて入ってくるのもキュート。その愛くるしさはまるで絵草紙を見ているようだった。いちばん可愛かったのが、才蔵が小道具を持ち替えたときに帽子に道具が当たって前へずれてしまったのを、左遣いさんが人形の左手を使ってちょこっと位置を直してあげてた点。萌え絵の美少女キャラがするような仕草だった。髪をさばく場面のある武士の人形も時々まゆ毛に髪が引っかかって髪型がグシャッたりするけど、そんなとき左遣いさんが「ふぁさっ!」とバブル期のOLのように髪の毛をかきあげたりしてあげてるよね。ああいう仕草にキュンとくる。

それと、千歳さんが大変丁寧に語っておられたのが印象的だった。「関寺小町」と「増補大江山」がメインディッシュだよな〜と思って「万才」はまずは気楽にと思って観ていたので、とても丁寧に語っておられることにびっくりした。先述の通りにっぽん文楽は屋外上演のため、上演中でも怪鳥の鳴き声(動物園から聞こえてきてんのか?)やマイクに入るノイズなど雑音が多くて劇場上演より気が散るのだが、そんな悪環境にも負けずひとことひとこと丁寧に語っておられた。本公演でもこんなに丁寧に語ってたっけと思うほどだった。

 

 

 

続けて「関寺小町」。このあたりから雨が上がってカッパのフードを外せたので、義太夫を心地よく聴くことができた。

ウタイガカリというのかな? 謡曲風の語りに乗せ関寺小町〈吉田和生〉がゆっくりとした小股の足取りで小幕から現れると空気がさっと変わり、周囲の雑音がすうっと消えて、冷たい風の音とすすきの穂のこすれあう音だけが響く無人のすすきの野原であるかのような錯覚が起こる。老婆はわずかに首をかしげる程度の動きしかしないのだが、そこには華やかな才女であった往年の姿から今の境遇を含めた彼女のすべて、万感の想いがにじむ。レトリック上の誇張でなく、それが自然に表現されていると感じた。そして、彼女がわずかに空を見上げたとき、偶然上空を通りかかった(?)カラスが「カア!」と鳴いたのがミラクル。カラスを鳴かすほどの芝居、ある意味屋外上演の醍醐味。上演時間そのものはごく短いのだけれど、ゆったりとした気分になれる、すばらしい時間だった。

そして、これも千歳さんの大変丁寧な語りが印象的だった。屋外上演は太夫さんにとっては語りづらいだろうに、お疲れ様でした。

 

 

 

ここでレクチャーコーナー。

今回は床パートの解説で、睦さん&錦吾さんがお話をしてくださった。とても好感の持てる解説だった。おふたりともメッチャ緊張されていた。睦さんが語り分けの説明のために忠臣蔵の裏門をちょこっと語っていたのだが、睦さんはどういうシーンなのか特に解説していないのに、振られた錦吾さんがアガりすぎて(?)「腰元おかると勘平が……」と内容をわかっていないと何言ってんのかわからん話を突然はじめたのはちょっと笑った。個人的に、三味線の解説の、「三味線の弦の絹糸は黄色く染められている(←なぜ染められているかの話は忘れた……)」というのと「駒に入っている鉛が義太夫用の太棹三味線の特徴、演目によって駒を変えていて、その重さによって違う音を出せる」「三味線自体の重さは3kgくらい」という話が勉強になった。

 

 

増補大江山、戻り橋の段。

ある夜、源頼光の四天王のひとり・渡辺綱吉田玉男〉が京都一条の戻り橋にさしかかると、そのたもとに美しい娘・若葉〈吉田簑二郎〉がひとり佇んでいた。夜分にどうしても五条まで行くという娘を連れて綱が橋を渡ろうとすると、川面には恐ろしい鬼の姿が映っていた。道中、綱は扇折りの娘だという女に舞を舞わせ妻に娶るというと、娘はお慕い申していたと、名乗っていなかったはずの綱の名を告げる。彼女の正体はかねてより頼光の命を狙う、大江山に住む鬼であった。

娘の人形は仕掛けのあるかしら=ガブになっていて、時々、黄金の目とツノを持ち口が耳まで裂けた鬼女の顔にクワッと変化する。浄瑠璃の詞章だけ床本で読むと、最初の橋のところで水面に鬼の姿を見るのは綱の幻覚とも取れると思うけど、舞台では本朝廿四孝の奥庭のように実像は人間・鏡像は魔性を表現するような水面のセットはなく、橋はあっても水面は見えないセット。橋の上の場面では衣をかついた娘のかしらを鬼に変化させて詞章の内容を示し、客には早い段階で若葉が鬼とわかるようになっている。逆に気配を察した綱がギョロリと横目に娘の姿を凝視する場面も(めっちゃウケてました)。

そして古びた社の前で綱に詰め寄られた女は鬼の本性を顕す。娘の正体は打杖をたずさえ灰色の長い髪を振り乱す、大江山の鬼。ここからはかしら自体も変えて本当に鬼女の姿になる。この話、歌舞伎からの移入らしいけど、文楽人形でやるの大変ちゃう!?!?!?!? 舞踊で連獅子とか鏡獅子みたいな髪の毛を回すやつ*1あるやん、簑二郎さんがあれやってた!!!!! はじめはうまく回ってなくて何がしたいのかなーと思っていたけど、だんだんちゃんと回ってきて、ドラム式洗濯機状態になっていた。鬼の髪は相当長く&分量が多く、人形遣い自身の体は動かさず、かしらを持っている左手だけであれを回すのはかなりきついと思う。簑二郎さんがあんなに活発に動いているのを初めて見た。これまでは特に印象がない人だったが、すばやい動きのときは普通に切れがあって、思っていたよりすばやい人だった。若菜の舞も前半はどうかなと思ったけど、メリハリのつく後半はよかった。若菜は人形遣い・人形とも衣装の早変わりもあり、大忙し。綱の衣装は普通に文楽っぽいんだけど、鬼女の持ち物や衣装は打杖と言い、装束のかたちといい、能のそれっぽくて面白かった。

雷光閃く雲の上での格闘では、高い手摺を外してかなり低めの手摺に変えていたので、人形遣いの足元まで見えて人形にもなかなか迫力があった。しかしこの話、夜の公演で見てみたかったな。それを期待して当初は夜の回のチケットを取っていたんだけど、その回は雨天中止になってしまった。夜闇の中のガブのかしらを見てみたかった。残念。

床は初回だけあってか掛け合いのテンポが合っておらず、両者とも食い気味でちょっとちぐはぐだったかな。それについていくため人形さんがだんだん反応が速くなっていくのにちょっと笑った。でも、大変がんばっておられたのはよくわかった。がんばりすぎて食い気味になってるんだろうね。

 

 

 

今回のにっぽん文楽悪天候に見舞われ、ほとんどの回が中止になってしまったようだが、なんとか1回観られてよかった。

このイベント、主催者側のホスピタリティの方向性がビジネスイベントみたいな雰囲気なのはちょっと文楽に似合わないけれど、そのぶん金あります感がすごいというか、単発公演ながら舞台美術に金かかってるので見応えがある。

また、この公演は完全自由席制で早いもん勝ちという今時なかなかないすごい制度なのだが、今回は当日券を買うため開場50分前(開演1時間50分前だよ……)に行ったため、かなりの前列が確保できた。というか、行くのが早すぎて、会場着いた時点で列すらできてなかったくらいだった。次回また行く時は2時間前くらいに行けば1列目取れるなと思った。普段は森羅万象に並ぶの大嫌いなんだけど、我ながら頑張った。歌舞伎座の幕見に並んでる人は本当にえらいと思う。

あと、この公演、上演中も飲食可なんだけど、やっぱり待ち時間が長すぎてみんな上演前にあらかた食い終わっちゃってるね。上野だと周囲にテイクアウトの食い物売ってるところもないし。ただ、今回は日本酒の「文楽」が会場内にブースを出していて、小瓶の「文楽」の和生さん筆の特製ラベル版を販売していた。それは結構みんな飲んでいて(パンフレットかって勢いでまじみんな買ってた)、私も隣の席の知らん人から一杯どうですかって勧められました。

 

 

 

ところでにっぽん文楽を観た翌日、国立劇場の歌舞伎公演『霊験亀山鉾』を観に行った。久々に歌舞伎観たのだが、人間、くそでかくてびびった。人間、めちゃでかい。あまりにでかすぎて、帰ってから思わずニザ様の身長を調べた*2。人間、まじでかい。

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*1:「髪洗い」と言うそうです

*2:ネット情報によると177cm。人形遣いでもでかい人いてますけど、普段あんまり人間自体は見てないし、舟底があるせいで身長よくわかんないので……

文楽 10月地方公演『桂川連理柵』神奈川県立青少年センター

10月の地方公演は横浜公演の昼の部『桂川連理柵』だけ行った。

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六角堂の段。長右衛門の妻・お絹〈吉田勘彌〉が六角堂へお百度参りに来ている。ポッポポッポ。そこへ義弟・儀兵衛〈吉田幸助〉が現れ、長右衛門とお半の仲をちらつかせてお絹を脅迫してくるが……ポポッ。

儀兵衛のウザさがすごい。なぜあんなにウザく生きていられるのか。そして文楽人形特有の膝とか肩に顔をこすりつけてくワンコめいた謎のセクハラ。あらゆる演目で気になることだが、あの謎のセクハラの度合いはアドリブでやっているのだろうか。時々やりかたがまじでキモい人がいるのが気になる。される側の演技で言うと、去年観た『伊勢音頭恋寝刃』で岩次(玉輝さん)にセクハラされるお紺(簑助さん)がものすごい勢いで顔をそむけ、メッッッッッッッッッチャ嫌そうな顔をしていたのが印象的だった。人形だから顔は変わりませんが、そう見えたんです。

 

 

 

帯屋の段。儀兵衛とその母・おとせ〈吉田簑一郎〉は長右衛門を陥れ、家督を横取りしようと画策していた。2人は帰宅した長右衛門〈吉田文司〉に消えた為替の行方を詮議し、さらにはお半からの恋文を読み上げる。義父・繁斎〈桐竹勘壽〉もそれには助け舟の出しようがなかったが、お絹は……。

しょっぱなから恐縮だが、長右衛門役の文司さんの「隣のおじさん」感はんぱねえなと思った。話の内容はスキャンダラスなのに安心してしまうのはなぜだろう。地方公演のリラックスした空気によるものだろうか。それとも文司さんの癒しオーラによるものか。

詮議の証人(?)として呼び出された隣家の丁稚長吉〈吉田清五郎〉と儀兵衛のやりとりはしつこすぎだけどかわいい。長吉がアホすぎて手紙本文の詮議にいくまでにかなり時間がかかる。儀兵衛に「まあまあその洟から片付けてくれ。アゝきたな。すゝりこんでしまいよったがな」と言われる長吉の鼻水(鼻からなんか出てる)はかしら自体に仕掛けがあるらしいが、一瞬で消えたのでよく分からず、その鼻水が小さいきゅうりみたいで面白かった。個人的にはすすったというより持っていたはたきで拭いたように見えてそれはそれで不気味だった。お絹が長吉にいくら渡したかはわからないが、小遣い程度の金であそこまでいうこと聞くのはほんまアホなんやろなと思った。

そして夜更けになってチョロンと現れる、一輔さんのお半のそこはかとないおぼこ感がすごかった。おぼこ娘をやらせたら日本一になる人かもしれないと思った。おなじお師匠様についている女方の人で、おなじような人形を持っていたとしてもまったくおぼこには見えない人もいるのが不思議。そのへんはやっぱり人形遣いご本人の持っている「佇まい」によるものでしょうか。

あと、清治さんが頑張っておられてびっくりした。呂勢さん以上に頑張っておられたのではないだろうか。清治さんにはすさまじいバイタリティを感じる。

 

 

 

道行朧の桂川。お半を背負った長右衛門が桂川の川岸に現れる。長右衛門は自分だけが死ぬのでお半には生き残って欲しいと頼むが、お半は聞き入れない。

なんだろうこのほのぼのとした感じは……。普通におじちゃんと女の子が川に来ました^^的な……。 長右衛門が幼い女の子に慕われそうなおじちゃんというのはよくわかりましたが(そのニュアンスはむちゃうまい)、とても心中しそうにないこのナチュラル感あふれる空気……。いや「この人ら心中せんでしょ」な人らはいままでも見てきたし、ひどい場合はド他人同士にしか見えない場合もあるのでここでだけ取り立てて言うのも申し訳なく(ド他人になってる場合は逆にここには書けない)、許容範囲ではあるのだが、なんかほっこりしちゃったんで……。床は浄瑠璃の内容通りのそのもの、思い詰め感を表現していたと思ったけど、人形のほのぼの感とがアンバランスで不思議なことになっていた。

 

 

 

中堅でがんばるぞー!という感じの回だった。

文楽では普通に考えて絶対ありえない非常識な話が芸の力によって説得力を持つというミラクルが時折発生するけど、そこまでうまくいくのはなかなか難しくて、複雑に要因が絡み合っているんですね。

個人的にはお絹役の勘彌さん目当てでチケットを取ったため、お絹の見せ所はそことは別なのでそれはそれでいいのだが……。お絹は細面の健気なエロ奥さんな佇まいがあってよかった。

ところで今回上演前解説で「劇中の内容に遠慮なく反応してください」的なお話があったが、客席が相当静かな会場でもあったのでしょうか。

 

 

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文楽 中之島文楽『冥途の飛脚』道行相合かご/『ひらかな盛衰記』逆櫓の段 大阪市中央公会堂

中之島文楽大阪市中央公会堂で上演されるビギナー向けイベント公演。

溝口健二の映画『浪花悲歌』でヒロインが四ツ橋文楽座で文楽見物するシーン観てから一度近代建築のホールで文楽見てみたいと思っていたので、短時間の単発公演だけど関西出張してきた。

大阪市中央公会堂は大阪を代表する近代建築。外観だけは以前見たことがあったが、今回は「大集会室」での公演だったため中に入ることができた。オペラハウスのような壮麗な内装で、高い天井から下がるモダンなデザインのシャンデリアやステージを飾る豪奢な舞台額縁が美しい。二階のテラス席もロマンチック。京阪神の近代建築はやっぱエエですわ。

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第1部は初心者向けガイダンストークショー。私も初心者だが、そこまで「文楽といえば敷居が高い」的な仮想の一般論に寄せなくていいんじゃないと思った。少なくとも今回は金払うて来てる客相手だし、とくに大阪公演は敷居かなり低いと思うが……。むしろあれより下がることってありえるのか???

個人的な所感としては、文楽まったく知らん人に文楽について話して関心をもっとも抱いてもらえる話題は「文楽人形浄瑠璃の一種」ということと「文楽世襲ではない」の2点で、前者はみんながモヤっとよくわからない基礎知識なのでシンプルにへ〜っと思ってもらえて、後者は好感を持ってもらえる(敷居が下がる)印象がある。世襲ではない点は後述の玉翔さんからお話があったけど、そのあたり話して敷居下げるのはアリだと思う。

 

司会とゲストによる簡単な概要解説の後は玉翔さん(大元気)による人形解説。大変元気に解説しておられた。こういう人形体験で人形遣いさんがよく「はいっ、そこで足拍子っ!」と突如指導してくることがあるが、足拍子って言われてもどうしたらいいかわからん人が多いのではと思う。事前に上演してるわけでもないし、人形が足音を立てること自体を知らない人が多いんじゃないかな。私は実際に見るまでは人形が足音を立てるって知らなかった。だってなんだかんだ言ってあいつら宙に浮いてるし。

あとは人形解説にアシストで入っていた玉彦さんが突然話を振られ、何故文楽に入ったのか聞かれたときの答えがおもしろかった。ご本人ははじめから文楽をやりたかったわけではなく、きっかけはお母様が文楽好きだったことだそう。お母様は喜んでおられるそうです。よかったね〜。玉翔さんも入門のきっかけは親御さんの影響だったと思うが、そういう方意外と多いのかしらんと思った。それと、どうでもいいんですが途中玉翔さんが何故か袴のすそをたくし上げていて、袴の下ってそうなってるんだ〜と思った。

 

 

 

第2部は文楽公演。口上の人がいつもと違うなー、口調めっちゃ慣れきった感じでお声が結構歳いってない? どなた? と思っていたら、サプライズ出演だったらしい。

 

1本目は『冥途の飛脚』道行相合かご。

なんでいきなりこれ!? 意味わからんやろ!? 出演者問題があるのはわかるけどせめて新口村にすれば!? と思いつつ、かごから下りた忠兵衛〈吉田玉佳〉のすっとした儚げな立ち姿が美しくて良かった。

 

2本目『ひらかな盛衰記』逆櫓の段。

これ目的で来たものの、逆櫓と言ってもどこからどこまでやるのと思ったらものすごい勢いでカットされていて、船頭〈吉田玉勢・桐竹紋吉・吉田玉誉〉が松右衛門〈吉田玉男〉を逆櫓の稽古に誘いにくるところから沖に出て逆櫓を教え、松の前で立ち回りを演じるところまでの15分程度だった。

でも内容自体は大満足。睦さん&宗助さんの床が良かったし、何より玉男さんの樋口がとても男前だった。短時間でも樋口の人物像がキッチリわかり、髪をさばいてかしらを振る仕草、ぴっと凛々しくターンする姿勢などがキリリと決まっていた。樋口の出で舞台の雰囲気がぱっと変わったのが印象的(特急券分褒めます)。9月東京公演の玉男様は出演時間の9割じっ…………………………………………としておられたので、動く玉男さんを見られてよかった。できれば松には登って欲しかったです……。

あと、樋口のぽんぽんがふかふかしてそうで、つっつきたくなった。

逆櫓のセットは赤坂文楽のように哀しさ余って前衛100倍的な感じではなく、松右衛門宅、海、船、松、ぜんぶ立派なセットがちゃんとあった。松は福島にあるという逆櫓の松趾にある変な松をモデルにしすぎたのか枝ぶりが悲しげで、杉みたいだった。

 

 

 

そんなこんなで短時間の上演だったが、逆櫓には大満足。

上演は本公演同様字幕付きほか人形のライブスクリーン付き。アーチ状になっている舞台額の上半月部分に字幕とライブ映像を投影しているんだけど、個人的には逆櫓は人形を肉眼で見てるほうが良いかなと感じた。人形の動きに大きな迫力があり、ステージから遠い席でも十分見応えのある演技だったと思う。ライブスクリーンももう少しカメラさんが演技をうまく追ってくれると良いんだろうけど、人形が次になにするかわからないとなかなか難しいようで、寄り引きがおかしいところがあった。

解説パートに関しては、鑑賞教室もそうなんだけど、演目のあらすじそのものをもうちょっとしっかり説明したほうが実際の上演を楽しめるように思う。国立能楽堂が毎月行っている普及公演だと開演前に30分解説タイムがついていて、そこであらすじと原作・史実、装束や舞などの見どころ、よく聞いておくべき詞章を教えてくれる。どこに注視すればよいかを明示してくれるので、はじめて知る曲でもどこをどう見ておけばいいかわかるし、見終わったあと自分の中でまとめやすく、自分で復習するときの参考資料も探しやすい。個人的には、ああいううふうに今から始まる話自体への具体的なみどころ説明があるほうが見易いように感じる。

あとこのイベント、先に配役教えて欲しいな。私は「玉男様が樋口」ということだけ聞いてチケットを取ったんですけど(後に玉佳さんが忠兵衛という情報をゲット)、梅川が誰かわかんないまま会場来ました。梅川、簑二郎さんでしたわ。床も開演してはじめてわかった。これに限らず、地方等の単発公演だと配役が発表されないことがあるけど、人形ならせめて主要登場人物の配役はあらかじめ教えて欲しい。

 

 

大阪市中央公会堂

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終演後の人形グリーティング。トークゲストに「落武者ですか?」と言われてしまったお人形さん。と玉誉さん。

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  • 『冥途の飛脚(めいどのひきゃく)』道行相合かご
  • 『ひらかな盛衰記(ひらがなせいすいき)』逆櫓の段
  • 太夫:竹本三輪太夫豊竹始太夫、豊竹咲寿太夫/豊竹睦太夫
  • 三味線:鶴澤清友、鶴澤友之助、鶴澤燕二郎/竹澤宗助
  • 人形:吉田簑二郎、吉田玉佳、吉田玉彦、吉田玉路/吉田玉男、吉田玉勢、吉田玉誉/吉田玉峻、吉田玉延、吉田玉征、吉田和登
  • http://www.enjoy-bunraku.jp

 

 

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