TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

国立劇場近くのおすすめランチ店 8軒 〜半蔵門観劇お食事頂上作戦篇〜

2月の文楽東京公演は3部制ということで、ご観劇前後にお食事を劇場外で召し上がる方も多いと思います。しかし国立劇場近辺に土地勘のない方は、半蔵門では食べるところがないと思われる方も多いのでは。

おっしゃる通りその通り。半蔵門には皇居と最高裁国立劇場しかありません。そこで、半蔵門界隈のランチに一家言ある(?)私が、国立劇場近く、とくに半蔵門駅から国立劇場までの間にあるおすすめのランチ店8軒を半蔵門駅から/国立劇場までの所要時間とあわせてご紹介します。

 

 

┃ 1. やくしま

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名前通り、夜は屋久島直送品を使った料理を提供する和食店で、ランチタイムは和定食を出している。

落ち着いた店内で、丁寧に調理され盛り付けられた健康的な料理をゆっくり味わえるのがこの店の良いところ。ただのヘルシーではなく、品質のよい健康的な定食なので、きちんと食べたい男性客はもちろん、体に良い食事をとりたい女性客も多い。板前さんがたくさんおられるので出てくるのも早く、店員さんの接客も気持ち良い。

メニューも一番人気の日替わりをはじめ、焼き魚や煮魚、鳥唐揚げ、肉じゃが、刺身などのベーシックな定食から、牛アボカド丼、屋久島トビウオ丼などのちょっと変わったものまで様々。定食の場合はご飯、味噌汁、小鉢、漬物等の箸休め2種がつく。また、大抵メインおかずに生野菜サラダが一緒に盛られているので、野菜を無理なくたっぷり摂取できるのも良い。ちなみに日替わり定食に具体的に何が出るかというと、キムチ鍋+プチコロッケなど、メインにちょっとしたおかずがつくことが多く、結構がっつり食べられる。

この店、おいしすぎてランチタイムは近隣勤務の会社員が集結するので、12時台〜1時過ぎまでは結構混んでおり、1時半以降が穴場。広めのグループ席、御簾で仕切った個室風席あり。カウンター席があるので、おひとりでも気軽に入店可。国立劇場行き帰りらしき方もよくお見かけする信頼できる店。 

 

 

┃ 2. 巨牛荘

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焼肉系韓国料理の有名店。ランチではプルコギ、クッパ、ビビンバのほかステーキなどを出している。

おすすめは旨味たっぷりスープのクッパ。ダシの風味を大切にした締まりがありつつも優しめの味で食べやすく、スープもすべていただける。調味料付きなので、辛いのが好きな人は唐辛子粉を入れて味を調節可能。主食は「ごはん」と「うどん」から選べる。

この店、以前は千鳥ヶ淵付近にあり、かなりの床面積を持つ人気店だったが、最近半蔵門駅国立劇場出口目の前へ移転してきてカジュアルダウン、店内が狭くなった。人気のわりに席数が少ないので、さっと食べてさっと劇場へ向かいたいときに良い。

 

 

┃ 3. ガンジス

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衆議院御用達」と謎の張り紙がしてある、黄色い外壁塗装もまばゆいインドカレー店。

ここのカレーはスパイシーでコクある風味が特徴。私が好きなのは辛口チキンと日替わり。日替わりは独創的で「かぼちゃとチーズのキーマカレー」など、良い意味でインドカレーにとらわれないバラエティ感がある。春季なら春野菜を使ってみたりと、ちょっと創作料理風。それと、インドカレーだと調理が素朴なところも多いが、ここはどれも丁寧。前述のかぼちゃとチーズのキーマカレーも、かぼちゃが小粒に切ってあるのに煮崩れていなかったり。

この店で一番勧めたいのは、ランチに無料でついてくるドリンクで「マンゴーラッシー」を選ぶこと。これがコックリ濃厚で旨い! なんでもヨーグルト成分は明治の機能性ヨーグルト・プロビオを使っているらしい。ヨーグルトとマンゴーの配合も絶妙で、デザート代わりにもなるほど。これだけをテイクアウトで売ってほしいくらいだ。

写真はレディースランチで、好きなカレー2種、ナン、ライス、タンドリーチキン、サラダ、ドリンク、マンゴープリンがついて999円。ナンとライスはもちろんおかわり自由。女子はみんなこれ注文すべし! 男子が注文できるかは店員さんに聞いてみて!

※ちなみに今回記事を書くにあたり「衆議院御用達」の意味を調べてみたところ、なんでも国会議事堂(衆議院)内に系列店が喫茶店形式で入っていて、そこでココと同じカレーを出しているようです。

 

 

┃ 4. 麹町カフェ

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半蔵門駅国立劇場側出口の目の前にある大型カフェ。

カフェと言いつつ食事メニューが充実した店で、オーガニックフードを取り扱う。メニューは軽食をオシャレっぽく調理したいわゆる「カフェめし」中心だが、あなどるなかれ、メインからちょっとした付け合わせの野菜に至るまでひとつひとつの料理が丁寧に作られており、しかもボリュームたっぷりで満足感は◎。ランチメニューはあまりに遅い時間だと品切れすることがあるが、その場合は代替メニューに差し替えてくれるのが嬉しい。写真はメインのキッシュがなくなったので、タンドリーチキンのサンドイッチに差し替えてもらった日。むしろこっちのほうがええやんけ。

ランチメニューにつく付け合わせのひとくちパンはおかわり自由のほか、手作りのプチデザート付き。ランチドリンクは別途オーダーだが(200円くらいだった気が)、ドリンクも頼んですこしゆっくりするのがおすすめ。

店内はかなり床面積が広く、食事にお茶にゆったりでき、広めのグループ席(ソファ)もある。にぎやかな店なので、静かに落ち着いた会話をとはいかないが、キャーキャーやりたいときはあえてここを選びたい、半蔵門には少ない若干チャラついた(?)店。 

 

 

┃ 5. おかめ

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国立劇場表側(内堀通り沿い側)にある甘味屋。

おはぎ、あんみつ、かき氷などの甘味がメインだが、実はうどん、お雑煮、お茶漬けなどの食事メニューが充実。この地味さ、半蔵門には他になくて貴重な存在。あんまり味の濃いものとかがっつりしたものはちょっと、というときはここでさらっと。

写真の「甘辛弁当」はおでん、茶めしおにぎりをメインに、おはぎがついた一品。おでんと茶めしおにぎりの落ち着いた味に癒される。私はとろけるはんぺんが好み。おはぎはこしあん・きなこ等のオーソドックスなもののほか季節限定品も選べて2月現在は桜味を展開中(写真中央のピンク色の物体)。この桜おはぎ、要するに桜餅(東京で言う道明寺)をおはぎ化したものだが、見た目に反して甘くなく、食べやすい。そしてサイズが妙に大きく、普通のおはぎ2個分はありそう。おにぎりよりでかいぜ。おでんとおにぎりだけならかなり量少なめだけど、このおはぎで程よく腹八分目に。

端正な雰囲気の店内はテーブル同士の間隔がかなり広めの余裕あるレイアウト。テーブル自体も広いので、静かにゆったり食事や甘味を味わえる。一応書いておくと、味レベル的には劇場内のレストランに近いかな。めちゃウマの名店とかではなく、雰囲気を楽しむ店。

※食事メニューはWEBサイトに掲載なし。一例としては、おぞうに770円、豚うどん830円、あべ川もち760円、さけ茶漬け810円、おにぎり吸物付810円、茶めしおでん910円など。季節メニューあり。ご参考まで。

 

 

┃ 6. プティフ・ア・ラ・カンパーニュ

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半蔵門駅からは国立劇場と逆の出口(番町方面)になるので国立劇場との行き来が少々遠いのだが、それでも是非訪問してもらいたい半蔵門最高の名店。

欧風カレーの専門店で、種類はビーフ・ポーク・チキン・シーフードなど多様。私のおすすめはポーク。カレーソースとは別に揚げ焼きされたポークにワインのような風味がかすかについていて、いかにも高級欧風カレーというお味(貧乏人の感性)。柔らかなチキンも王道のおいしさ。芳醇で深いコクのあるカレーソースは本当にすばらしく、欧風カレーらしいスパイシーさと濃厚さに加え、フルーツのような甘味がほのかに香るのがこの店の特徴。辛口で注文した場合でも、辛みが浮かずよりコクを増すようなまろやかさがある。写真のように小さなジャガイモ2個付き。

個人的にはこの店、欧風カレー店の最高峰で(料理自体のほか、接客・店内雰囲気を加算すると神保町ボンディより上)、別に半蔵門に用事がなくともこのカレーを食べるために半蔵門へ行きたいくらい好き。

終日通し営業なので第二部終演後、第三部開演前・終演後でも食事を楽しめて便利。実際、しばしば国立劇場歌舞伎や国立演芸場終わりのお客さんの姿を見かける。ややアンダーな照明の隠れ家風の店内で落ち着くので、観劇後に少しゆっくり話ができるのが良い。

 

 

┃ 7. ドーカン

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近隣の会員制洋菓子店・村上開新堂の系列店だが、ここは終日予約等不要・だれでも利用可の一般向けのカジュアル店舗。

外観からはイートイン付きの老舗洋菓子店に見えるが、本業は食事メニューだそうで、ランチ・ディナータイムには洋食メニューを提供。その洋食がいかにも昔ながらの味で楽しい。豚ブロックをケチャップ風味に煮込んでグリーンピースを添えたポーク煮ライスは懐かしい美味しさ。豚肉はスプーンで崩れるほどやわらかく、やや強いトマトの酸味が効いている。これに生姜味にクタクタに煮込んだ野菜の和風スープ(一例。スープは日替わり)がついてきて、まるで昭和の金持ちの奥様が料理教室で習ってきたメニューをホームパーティで振舞っているようなお献立。もしくは昭和の給食。食後のコーヒーについてくる角砂糖が個装の輸入品だったり、プチデザートのガトーショコラがよくあるしっとりタイプではなく、焼菓子のようにカリカリだったりするセンスもいかす。写真は具だくさんスープセットで、メイン料理にたっぷりのスープ、飲み物、プチデザート付きで1,350円。

高級店の系列店のせいか、店員さんの接客が値段や店の雰囲気を超える丁寧さなのも不思議時空を増幅する。昭和の古き良きお店感を満喫したいときに訪問したいお店。

 

 

┃ 8. 朝霞

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‪中華ならここ。最近の中華料理らしいカジュアルな店。

麻婆豆腐や鶏肉のカシューナッツ炒め、高菜炒飯など、様々なメニューが日替わりで楽しめる普通の定食もおいしいが、辛いもの好きの方はぜひ刀削麺を。モチモチ麺と粗挽肉にからむ山椒が爽やかな麻辣、風味豊かなスープの坦々ともにパンチがあって大満足。味はしっかりしているが、辛口すぎず食べやすい。オプションとして、ミニサイズ刀削麺+日替わり定食のミニサイズ丼やチャーハンミニサイズとのセットもあり。この店、全体的にものすごく量が多いので、セットで頼むとミニサイズとか言ってもすさまじいボリュームとなる。観劇前は鬼門かも(上演中スヤる)。また、すべてのメニューに杏仁豆腐付き。

店内こぎれいで広いが、ザックリしたおおらかな店なので、さっともゆっくりも可。刀削麺をオーダーすると紙エプロンをもらえるので、お召し物が気になるけどがっつり食いたい乙女も安心。

民俗芸能公演 淡路人形芝居『賤ヶ嶽七本槍』淡路人形座 国立劇場小劇場

国立劇場主催の民俗芸能公演。民俗芸能の人形芝居って観てみたいけど、なかなか遠方までは行けぬと思っていたら、国立劇場の民俗芸能公演に入っていたのでチケットを取った。このような上演が一度しかない公演も、あぜくら会なら確実にチケットを確保できる。入ってよかった、あぜくら会!(とは言っても発売日の昼過ぎにその日が発売日だったことを思い出して取ったので、席はあぜくら会とは思えないヤバイ後列でした)

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淡路人形芝居は文楽と同じく人形浄瑠璃で、今回上演の『賤ヶ嶽七本槍(しずがたけしちほんやり)』は上方での伝承が途絶え、現在は淡路にのみ伝わる演目だそうだ。小田春永・武智光秀の没後を舞台とした、柴田勝家と真柴久吉の小田家の家督相続を巡る争いの話。

 

「清光尼庵室の段」。小田春永の長男に長女・蘭の方を輿入れさせ、久吉方の家督相続の候補者である嫡孫・三法師をもうけさせていた足利政左衛門(前田利家のこと)の一家を描く部分。

幕が開くと黒衣の口上から始まり、舞台にならぶ人形は黒衣の三人遣い、黒の着付に肩衣をつけた太夫・三味線が出語り床に座っている(床は回さない)。しかし、太夫・三味線が女性だったり、人形のかしらが大きくて、頭身がちょっとマンガチックだったりと、文楽とは所々が異なっている。人形は構え方が若干違うらしくて、それと関係があるのかはわからないが、ツメ人形が若干前傾姿勢。文楽公演と雰囲気が異なり、ちょっと緊張(私が)。

政左衛門は久吉から、蘭の方の養父が小田家転覆を図ったため、三法師の跡目相続の障害とならぬよう蘭の方の首を差し出せと迫られていた。しかし実は蘭の方は政左衛門の実子ではなく、義理ある人の子であった。一方、政左衛門の次女・深雪は大徳寺焼香の折に出会った勝家の子息・勝久と恋に落ちるが、叶わぬ恋を悲観して庵にこもり清光尼と名乗っていた。この清光尼の庵室に、父・政左衛門が訪ねてくる。政左衛門は彼方で始まった真柴と柴田の合戦を見物すると言い、深雪の庵に遠眼鏡(望遠鏡)を据えさせた。そして髢*1を深雪に渡し、遊びはもう止して父の役に立つべく婿を取れ、還俗せよと促すが、深雪はそれを拒否する。

そうこうしているうちに久吉来訪の知らせが届き、政左衛門は三法師を伴った久吉と面会する。久吉は政左衛門に改めて蘭の方の首を催促しに訪れたのだった。政左衛門はしばらくここで待っていて欲しいと久吉に告げる。

政左衛門が庵室から帰った後、姫のお付きの三人の腰元たちは押し合いへし合い、遠眼鏡ではるか遠くのイケメンを見たり、大太刀を帯びた武将を見て斬られた〜いなどとキャーキャー騒いでいるが、そのうち合戦をしている武者の中に姫の想い人・勝久を見つける。腰元らに遠眼鏡の前へ引き出された黒袈裟姿の姫が覗いてみると、それはまさしく勝久であった。姫は捨てていたはずの俗世を思い切れなくなり、赤い振袖姿に着替え、簪をさして還俗してしまう。そこに政左衛門がふたたび現れ、姫に蘭の方の身代わりに死んでくれと頼むが、姫は「勝久を思い切れない、ここでは死ねない」と拒否する。政左衛門は、勝久はまもなく討死する運命、所詮この世で添えぬなら冥途で添えよと姫に自害を迫る。そのとき遠方から法螺貝の音が聞こえ、姫は遠眼鏡を覗き込む。すると遠眼鏡の先には数多の軍卒たちと戦う勝久の姿があった。やがて、深雪のもとに勝久討死の報が届く。悲しみに暮れる深雪は、姉の身代わりに死ぬことを決意し、父・政左衛門に首を討たれる。勝久は深雪の首を白布で包み、奥の間で待っていた久吉に渡す。政左衛門は久吉が偽の三法師を立てて奸計を巡らせているのではないかと疑うが、久吉は腕に抱いていた偽の三法師––正体は久吉の実子・捨千代––の首を討つことで誠意を示す。久吉の真意を知った政左衛門は、隠匿していた本物の三法師を黒袈裟姿に扮した蘭の方とともに久吉に引き渡した。

深雪姫が法螺貝の音を聞いて遠眼鏡を覗く場面では、その視線の先にあたる、まさに遠眼鏡の向いている客席後方扉からツメ人形軍団、続けてきらびやかな若武者姿の勝久の人形が現れ、客席通路で合戦を繰り広げる演出にびっくり!  だから遠眼鏡が客席通路に向けて設置されていたのか。かなりの後方席だったが、この演出のおかげで人形を間近に見ることができた。ちなみに法螺貝の音は本当に客席後方で演奏。いきなり背後でブオ〜〜っと大きな音が鳴るので驚く。下手の御簾内にいたお囃子の人がいつのまにか客席後方に移動してきていて、後方ののれんの奥(?)で演奏していた。

ところで姫が赤い振り袖に着替えるところで気づいたのだが、なんか、姫役の人形のフォルムが見慣れたのと違う。特に人形が座っているとき。なんだか全体がシュッとしている。よく見ると振袖が広がらずにそのまままっすぐ下に落ちていて、人間が普通に着たときのような感じ。文楽のように全体フォルムが △ にならず、凸 の形になっていた。

また、この段は太夫・三味線が3組交代したのだが、最後の切の太夫のみ男性で、他は女性だった。人形芝居には音楽部分が義太夫節でないものもあるけど、淡路は義太夫節。女性の義太夫は人形芝居では(あるいは生では)初めて聴いたが、思っていたほど違和感はなかった。後ろから見ていると、床をガン見している人は結構いたが……。切の男性の太夫さんは、(男性だから比較しやすいんですけど)かなり文楽に近い、だが文楽よりもうちょっと清廉な感じだった。でもこれはその太夫さんが文楽時空よりお若いからかも。文楽でもお若い太夫さんは清楚な感じなので…… 。この方だけ、割と明確な語り分けをされていた。

あとは久吉と政左衛門が面会する場面で、庭の池からぴょんぴょん現れるかえるちゃんが可愛かった。

 

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「真柴久吉帰国行列の段」。ここはまさに娯楽を見せる段。ツメ人形が舞台上手から下手へひたすら行列していくだけ。しかもちゃんと大名行列みたいな役割分担があるので、次々違う格好の人形が現れる。ときには2人の毛槍持ちが毛槍を空中に投げて交換したり、いうことをきかない軍馬がいて手綱を持っている人形がぐいぐい引っ張ったり。無限にわき出てくるツメ人形にめっちゃ笑った。

そういえば、文楽では軍馬はブヒヒンって感じのリアルな馬だが、淡路ではわりとアバウトな顔の馬というか、片山まさゆきが描く馬が実写化したようなおそろしくシンプルなお顔の馬だった。

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まじこんな感じ。しかもみんなちゃんとたてがみの形が違っていて、角刈りのヤツとか前髪流してるヤツとかいて、笑いそうになった。後ろと隣の席の人は爆笑していた。

 

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「七勇士勢揃いの段」。

賤ヶ嶽の戦いで功名を立てた久吉の7人の勇士(武将)たちが槍をたずさえ馬に乗って久吉のものへ集ってくる。そのうち、加藤正清は指物(背中にさす旗)を忘れたと言い出し、そのへんに生えていた笹ではいけないかと久吉に尋ねるも、生の青々とした笹は古来よりの習わしで許されない。そうこうしているうちに、柴田方の武将・山路将監と佐久間玄蕃が現れた。清正は次々と軍卒たちをなぎ倒し、その首を笹に七夕飾り状にくくりつけて指物とした。さらに山路将監を倒した正清に、久吉はついに生笹の指物を許す。正清は玄蕃をも討ち果たし、久吉らは勝鬨をあげて本陣へ引き上げてゆく。

冒頭、 久吉とその七人の部下たちが馬に乗って舞台に居並ぶ場面が圧巻。人形遣いが人形1体につき馬含め4人×8体で32人なので、文楽でもなかなかできなさそう。

加藤正清が軍卒たちを斬り捨てていく場面は、軍卒のツメ人形一人一人の殺し方が違っていて楽しませてくれる(というと物騒だが)。次々と遊郭の使用人や遊女、客たちを斬り殺してゆく『伊勢音頭恋寝刃』でもそうだったけど、いちいち芸が細かい! 首が飛んだり、かしらが文楽でいうところの梨割で頭を縦まっぷたつにされてもおメメをパチクリさせていたり、さいごの一人はぴゅーっと逃げ出したり。山路将監と戦う場面も遠見の人形(てのひらサイズのかなりプチなやつ)が大岩の上でキャイキャイやったりなどしてかわいらしく、楽しい。二人の動きは文楽でいうところの猿回しの猿だった。

加藤正清の足の方、なんだかきわだってうまかった。他の人形は足取りが少々おぼつかないのがいたり、立ち止まったときの足の形がうまく決まっていなかったりしたのだが、加藤正清だけはいかにも立役っぽい、しっかりした足取りでノシノシ歩いていた。加藤正清のみ派手な殺陣の場面があるので、ベテランの方がついていたのかしら。

 

 

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全体的に、民俗芸能と聞いてイメージする素朴な人形芝居ではなく、かなり洗練されていると感じた。さすが常設劇場のある一座。今回は人形に人数のいる演目なので、人形遣いが足りなくて地元の人などに出てもらったりしているようだ。

人形のかしらの大きさはしばらくすると気にならなくなった。印象としてはむかしNHKでやっていた人形劇に頭身が近いので、ある意味なじみがあるからかも。でも実際やっぱりデカイ。顔の大きさは全員武将なみ。席がセンターブロックうしろから3列目で、文楽公演なら人形の顔はまず見えない後列だったのだが、そこからでも顔がある程度見えたので……。あんだけかしらがデカイと、人形、メチャ重そう……。逆にツメ人形は文楽よりこぶりな印象だった。

しかし、かしらの大きさよりも、人形の動きが文楽と異なるのが一番目を引く。淡路は人形の振りが大きいと聞いていたが、むしろ文楽のほうが大きく感じた。かしらが大きいので体の振りがこぶりに見えるからか、立役に関しては文楽のほうが人形が大きいのか(これはたぶん本当にそう)、操演技術の系統の違いなのか。全体的に文楽ほどピクサージブリのような予備動作を伴うアニメーション的な大振りがなく、わりと人間の普通の動きに近い。あんまり比べても意味がないのだけど、立役でいうと、文楽では武将のような大型の人形は立ち上がるとき、見得を切るとき、出のときなどに伸びあがるような大きさを強調する動作をするが、そういった誇張演技をしない。女の人形も、文楽だと普段はチョコマカしていてもクドキや単独演技だと大きな動きをするが、こちらだと全体的におとなしめ。うしろぶりにあたる演技もあったが、それが浮いて見えるくらい。ツメ人形はわりと戯画的にワイワイしていたが、三人遣いの人形はみな楚々とした印象で、あまり華美な方向にいかない芸のように思われた。ただ、今回の演目は派手な演目ではないので、演技の振り幅はものにもよるのかもしれない。

また、逆説的にだが、人形の見え方にはやはり太夫・三味線が大きく影響するのだなということがよくわかった。率直に言うと、ご出演の太夫・三味線の方の技量に結構ばらつきがあって、床によって人形が大きく見えたりそうでなかったりするのだ。そういう意味ではある意味素朴とも言える。三味線については同じ劇場で同じようなフレーズを演奏しても、ここまで聞こえ方に幅が出るのだなと思わされる部分もあった。

客はある程度文楽から流れてきているだろうなと思っていたが、客層は若干異なるようで、文楽公演より平均年齢が結構高い印象。ロビーや客席の会話を聞いていると、三人遣いに驚いている人がいたりして、文楽を見たことがない人も多いようだった。

休憩時間には淡路人形座のオリジナルお土産売店と、民俗芸能資料の書籍のミニ売店がロビーに設置されていた。私は淡路人形座のほうでレトロなパッケージの絵葉書セットを購入。入っている絵葉書の写真を見ると、『絵本太功記』『本朝廿四孝』『壺坂観音霊験記』『伊達娘恋緋鹿子』など文楽にもある外題が入っていた。でもやっぱり文楽と同じではなく、人形のフォルムなどが違うので、なんだか不思議な印象。とくに『本朝廿四孝』奥庭狐火の段のきつねがアルパカみたいにすんごいモフってるのが可愛かった。

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  • 賤ヶ嶽七本槍(しずがたけしちほんやり):清光尼庵室の段(せいこうにあんじつのだん)/真柴久吉帰国行列の段(ましばひさよしきこくぎょうれつのだん)/七勇士勢揃の段(しちゆうしせいぞろいのだん)

*1:かもじ。髪を結う際に用いる付け毛

文楽 1月大阪初春公演『染模様妹背門松』国立文楽劇場

続けて第二部を鑑賞。

一部と二部の入れ替え時間に1階ロビーに降りたら、いつのまにか鏡餅が片付けられていた。鏡餅は15日(小正月)の日没のタイミングで仕舞うと初めて知った。

 

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染模様妹背門松。本作に関しては、全体の構成や趣向に驚いた。

油店の段。大坂の大店、油屋の娘・お染(配役・吉田簑二郎)は山本屋清兵衛(吉田玉志)への嫁入りが決まっていたが、実は丁稚の久松(吉田勘彌)と恋仲だった。お染の兄・多三郎(吉田簑紫郎)は芸妓・おいと(桐竹紋秀)を請け出すために大阪屋源右衛門(吉田幸助)から借りた藤原定家の色紙を質入れして金を作ったものの、期限がきても色紙を返さなかったので、源右衛門が証文通りおいとを渡せと油屋へ乗り込んでくる。実はこれには仕掛けがあって、油屋の番頭・善六(桐竹勘十郎)はお染に横恋慕しており、お染をものにするためにまず多三郎を始末すべく影で源右衛門と組んで彼を陥れようとしていたのだった。

と、ここまで説明しておいてなんですが、ここの一番の見どころは善六と源右衛門の、話の本筋と関係ないボケボケの掛け合い。憎めないウザカワキャラの善六と、源右衛門の底抜けのアホっぷりがいとしい。この部分のご担当はやはり(?)、咲太夫さん。二人がホウキ三味線を手に歌う部分では現代流行を取り入れたアレンジを披露されていた。床本を確認したら意外と元の詞章にマッチしていて驚きの「PPAP」と唐突な「君の名は」はわかったのだが、「私、失敗しないので」は客席ウケていたわりに自分はまったく元ネタがわからず、終演してから調べた。……テレビ持ってないからわからなかったです……。あとは広島と阪神ネタ。登場人物が相当わんさといるのに誰が喋っているのかわかる語り分けも見事。咲さん『一谷嫩軍記』の「宝引の段」のわんさといる百姓たちがワヤワヤする部分も見事に語り分けられていたけど、今回の語り分けも面白かった。そして、果てしなく滑り続ける善六と源右衛門の人形の仕草もたまらなくかわいい。

登場人物が全体的に派手な衣装で驚いた。お染は鮮やかな濃紫地にシアン・赤の細紐と花手毬の柄の振袖に蛍光オレンジの帯。かなりサイケデリック。久松も淡い蛍光オレンジの着物(噺家にしか見えない)。兄多三郎の着物は蛍光オレンジと黒の細いストライプ。なんでみんな蛍光オレンジなんだ???

 

 

生玉の段。ここが初春公演で一番のびっくり。

久松が生玉神社の境内で善六を殺した上で自殺し、お染もあとを追うという筋だが、実はこの段は夢オチ。すべての顛末は二人の見ていた夢ということはパンフレットにも書いてあるからそれ自体は驚かないのだが、まじで仰天したのが、最後のシーンで「夢」と大きく書かれた吊り看板がスルスル下がってきたこと。

他のお客さんは一切反応していなかったが、私はもう目がそこに釘付け。浄瑠璃の詞章でもはっきり夢だとわかる表現がされているので、なにもそこまでしなくてもわかるはずなのに、その唐突な看板は何??? いつ、どのような経過でこれを下げるようになったの????? と驚愕していたら、その答えが頼りになる参考書、『文楽藝話』(初代吉田玉男・著)に書いてあった。

この吊り看板の演出は江戸時代からあるもので、しかし当時は「夢」ではなく「心」という文字が書かれていたそうだ。これは芝居の世界の約束事で夢オチであることを示すものだったが、時代が変わり意味が通じなくなってきたので、戦後まもなくから「夢」という言葉に変わったらしい。へー。では他にも夢オチのある演目なら同じ演出があるということなのだろうか。

 

もうひとつ驚いたのが、お染と久松はここにいるのに、なぜか二人を主人公にした先行作品『お染久松袂の白絞り』が劇中劇として登場すること。「油店の段」では『お染久松袂の白絞り』の本が登場し、「生玉の段」では芝居小屋に『お染久松 歌祭文』という出し物がかかっている。二人の噂が広まっていることの表現もあるだろうが、初演当時の客が二人の話を知っていることを意識してこういったメタ的な展開にしているのだろう。江戸時代からこういう自己言及的な技法がすでに存在していたのか。

 

 

質店の段。生玉のくだりは二人が同時に見ていた夢だったとわかりつかの間安堵するも、店の外を通る祭文売りの声やお染が久松の子を身ごもっていることをお染の母・おかつ(吉田簑一郎)に感づかれたことで、二人はこの先を悲観する。そこへ久松の父・久作(吉田玉男)が年末の挨拶にと油屋へやってくる。田舎へ帰ろうと言う久作に、久松は年季の残りをたてに油屋へとどまろうとするが……。

おののいてばかりいる二人だが、実にならない不安ばかりを会話しているあたり、頭がまわっていない感じでリアルだ。辛い思いをしているのは実は本人たち以上に親などの周囲の人だという展開が生々しい。久作が久松を革足袋で打擲する場面、一発目は本当に当てているようにしか見えなかった。さすがベテラン。

 

 

蔵前の段。深夜、蔵に閉じ込められた久松の様子を伺いに忍んでくるお染。蔵の二階の窓からから唐突に久松が顔覗かせてるの、なんかかわいいな……。勘彌さんが一切見えないのがかなしいが。

結末は上演によって2種あるらしいけど、今回は心中ENDではなく逃げ切りEND。もう死ぬしかないというところで、どこからともなく善六が蔵の前に現れ、お染と駆け落ちすべく(まだ勘違いしてたのか)蔵から金目のものを盗み出そうと鍵を開けてしまい、出てきた久松に殴り倒されて善六は昏倒、お染と久松は手を取り合って逃げていく。善六、いいとこあるわ……(?)。最後、清兵衛に押さえつけられてワタワタする善六が本当かわいかった。サカナ的な、絶妙なワタワタさだった。

しかし今までの経緯をみるに、問題解決能力皆無でそもそも何も考えていなさそうな久松より、明らかに人間として立派で考えや振る舞いもちゃんとしている清兵衛のほうが絶対いいと思うのですがどうでしょうか、お染さん。このあと久松と駆け落ちしてもろくなことにならないと思うのだが。増村保造監督の映画『好色一代男』に、遊女と大恋愛するも彼女を落籍する甲斐性もなく、主人公が用立ててくれた金で身請けして所帯を持つ男が出てくる。二人の話はこれでハッピーエンドではなく、「その後二人は」という場面が後で出てくるのだが、まあMAX良くてああいうオチなんじゃないですかねえ。

 

邪悪なツッコミはともかく、振袖の人形って難しいんだな〜と思った。前方席だったので、人形が目の前で演技しているので普通より余計なものが見えてしまうというのはあったろうが、衣装が着崩れしているというか、振袖の袖のこなしが途中からうまくいっていなくて、袖の内側(人形には二の腕はないという部分)が見えてしまっていた。演技そのものはかわいいのだが、目立つので惜しい。ものの本を読むと、この段でお染が振袖を振るクドキは見どころとのこと。衣装のこなしがうまくいくかどうかは偶然もあるだろうから、うまくいった場合を見てみたい。

衣装のこなしは他にも羽織の紐が絡まって脱げなくなった人形がいたのだが、ちょうど太夫・三味線が交代するタイミングだったので、床が回っているあいだに後ろを向いて直しおられた。偶発性のある要素は大変だ。

 

 

最初に書いた通り、不思議な構成と演出の話だった。文楽を見るようになって、話自体より芸に注意がいくことが多かったが、今回は話そのもののほうが気になった。古典というのは現代の作劇法とはセオリーがまったく異なっていて、しかし現代に残るまでの完成度があるだけあって、いままでに見たことのない世界を見せてくれる。

 

 

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帰りも新幹線が結構遅延していたが、今回は終演時間自体が早めだったので、東京駅到着以降もなんとか在来線の終電に接続できた。

同日、ジャニーズのコンサートが京セラドームであったらしく、大阪市内の地下鉄も東京行きの新幹線もコンサート帰りの女子たちでびっしり。夜遅いにもかかわらず新幹線の中がきゃっきゃとしていて、女子校の修学旅行みたいで面白かった(勝手にむこうを同類視)。