TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

 熱いぜ辺ちゃん

福本伸行 竹書房

福本伸行が『天』の連載を開始する前に、近代麻雀系の雑誌で連載していた麻雀漫画…というか青春漫画…?


┃あらすじ
大学生の渡辺裕一…通称辺ちゃんは、麻雀が大好き。決してうまくはないけれど、麻雀を愛する気持ちは誰にも負けない。そんな辺ちゃんは周囲のみんなから愛され、みんなを優しい気持ちにしてゆく。


…って…この漫画は麻雀漫画らしい要素はあまりなく、麻雀をモチーフにした人情ものってかんじの話です。
でも、ひとつひとつの話が、優しくて、純粋で、キラキラ輝いていて、すごく好きです。全部いい話。私もがんばって一歩一歩、ゆっくりででも自分で歩いていこう…と純粋に思わせてくれます。なんというか…、こういう、ありきたりだけど大切な事、大切な気持ちを、飾る事なく、臆する事なく、丁寧に描けるっていうのは本当にすばらしいことだと思います。ものごとは、シンプルなもの、純度が高いものほど、扱うのが難しい。表面を取り繕った「それっぽい」とか「なんとなく○○」なものって世の中にはたくさんありますし、そういった表面を作る事のできる人はたくさんいますが、純度が高いものを作る事ができる人は少ないです。ものごとを表現することにおいて、本質的なことを表現する事と、それに対して素直であることは最も大切なことだけど、そうそうできることではない。それを描ける福本先生は、やっぱりすごいなあ、と思います…。


それと、この漫画、福本先生の漫画の中で、最も麻雀を愛している子が主人公だなと思います。『天』や『アカギ』にはない要素で、このあたり、とても素敵なことだと思います。やっぱり一番大切なことですよ…好きなものがあるということ、それに純粋になれるということは…。ただ、福本先生が麻雀を愛しているかどうかは不明ですが。
で、今日は、『あぶれもん』を読んで、来賀先生は本当に麻雀を愛しているんだな…としみじみ実感したわけですが…、なんか、もう、来賀先生の作品は…、初めて『天牌』を読んだときは、はじめは「ちょ、ちょっとおじちゃん、何言っちゃってるの…?!」と思っちゃったのですが、だんだん読むに従って「ああ………この人(←瞬じゃなくて来賀さんね)本っ…当に麻雀好きなんだな……」と思うと、全てが愛しくなってきました。この気持ち、まさに辺ちゃんを見守る山崎さんの気持ち。しかし当時の私は天狗編以降を買わなかったわけですが。



以下は各話のちょっとした感想。

  • 山崎さんが刺される話は泣けます。こういう「誰もが思う事だけど、誰もが表現できる内容ではない」ことが丁寧にかかれているのが好き。
  • 人生麻雀のエピソードがちょっと片山まさゆきっぽくてカワイイです。私、うっかりかつおぶしをダイミンカンしそうです…。
  • 私も役アリがいいです。リーチ一発ツモ裏3になるのを見抜ければ、話は別ですが。
  • ホモのおじさんに辺ちゃんと山崎さんが狙われる話の脚注がおもしろすぎました。どんな脚注ですかあれ*1。あのトウシのメチャクチャっぷりも素敵です。

というか、私が持っているのは1995年に出た再版なのですが、最後についている福本先生のあとがきも好きでした。一人称がばらついたりと、うまい文章というわけではないけれど、辺ちゃんと同じように、優しくて、純粋で、キラキラした感じがします。そういえば、『天』のあとがきも好きでした。


ところで辺ちゃんの話自体とはあまり関係ないですが、福本先生は、『プリティウーマン』ていうか『レオン』っていうかみたいな恋が好きそうですね。私も好きです。おじさまが。(?)

*1:そういえば、福本先生が昔、ボンボンだか何だかに持ち込んだという伝説の作品において、主人公の男の子の唯一のとりえというのが、ち…………………………………、すみません、私には書けない。