TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

神の一手

久々更新は囲碁もの韓国映画。去年韓国で公開されたときから目をつけていて、日本公開を楽しみにしていました。



┃  神の一手


冴えないプロの囲碁棋士・ソテク(チョン・ウソン)は真剣師である兄に懇願され、ヤクザ・サルス(イ・ボムス)との賭け囲碁の通しに加担する。しかし通しを見抜かれた兄はヤクザに惨殺され、ソテクは半殺しにされた上兄殺しの罪を着せられて服役。だが刑務所の中囲碁好きの牢名主に認められたソテクは彼の示唆で賭け囲碁狂いの刑務所署長に取り入り、所内で肉体を鍛えてステゴロ最強となった。出所したソテクは兄とレツを組んでいたコンス(キム・イングォン)を探し出し、復讐を開始する。



誰も彼もが囲碁狂いという世界の中展開される凄惨な暴力と気が狂っているとしか思えない囲碁勝負。
囲碁」というゲームがこの世界では『天牌』で言うところの「麻雀」と同じ意味を持っており、ヤクザから権力者からドチンピラからホームレスからそのへんのオッチャンから、あらゆる誰もが、みな囲碁に狂っている。もうこの設定が最高じゃないですか……。魚市場にヤクザの仕切る巨大な高レート碁会所があるとか、何故か刑務所の房内でも碁盤と碁石があって囚人たちが碁を打っているとか、時空のねじれ方がほんま最高で……。『てっぺん』ばりにエッジの利きまくった囲碁原理主義&摩訶不思議世界が展開しています。



ストーリーの中心になるのは、主人公が集めるサルスに恨みを抱く打ち手たちと、その敵役・サルスの集めている打ち手たちの囲碁勝負。この個性的な登場人物たちが大変に魅力的だ。
主人公の仲間は、かつての兄の仲間で「演技派」のイケイケメガネ小デブ・コンス(いいキャラ!)、街角で打っている盲目のホームレスの老人・ジーザス(アン・ソンギ)、ジーザスの旧友のゴミ掃除夫で片腕がアタッチメントになっている発明家・モクス。彼らはそれぞれの得意分野を活かしてソテクの復讐に協力する。対して、サルスが囲っているのは冷酷な美青年の打ち手、ジーザスのかつての敵でハメ手を多用する老人、かつては世界の頂点に君臨したプロ棋士だが現在はサルスの愛人となっている女、超人的に高い棋力を持つ不思議な子どもなど、こちらも漫画か!と言うほどコテコテにアクが強い設定で良い。特にジーザスが良いね。街場のホームレスが最強棋士という設定そのものもさることながら、終盤の……おっとこれは言えないね!というお楽しみが待っている(私的には)。



肝心の囲碁勝負であるが、見せ方がかなり工夫されているなと感じた。囲碁はルールを知らない人には普通にやってしまうと囲碁中継番組状態になってしまうのと、感覚的に勝ち負けがわかりづらく、ヴィジュアル映えに限度があるため、毎度毎度の勝負にそれぞれわかりやすさのアクセントと変化がつけられている。
その上でまずポイントとなっているのが、イカサマ、「通し」がアリになっていること。いや、「通し」という表現は間違っているのだが、要するに何らかの形で碁盤をモニタリングし、打ち手とは別の場所にいる指示者が打ち手に指示を出して打たせるという形態が黙認となっているのだ。麻雀漫画に慣れた身だと「そこははじめから代打ちを立てればいいのでは……?」と思うのだが、本作ではこの「打ち手と指示者が別にいる」という形態が活かされた勝負が展開される。ボディチェックをどうかいくぐるか、どうやって通しているのかの手口もさることながら、ここでポイントなのが、打ち手もまた生半可な素人なわけではなく、だからと言って超一流レベルなわけではないということ。それが意味するのは何であるかは実際に作品を鑑賞してご確認いただきたい。麻雀漫画好きの方は成る程と思わされる部分が多いと思う。
そういった脚本上の工夫で普通の勝負を盛り上げる以外にも、オンライン囲碁での遠隔勝負や冷凍倉庫で裸で早指し勝負など、シチュエーションは多岐にわたる。オンライン囲碁iPadでやったり(問題集みたいなのを解く場面も)、ノートパソコンでチャットしながらやったり。冷凍倉庫の勝負はまんま麻雀劇画……例えて言うなら『花引き』あたりで燃えるものがある。荒唐無稽なのだが、決しておちゃらけていないところが良い。



もう一つ良いのは、勝負の結果が簡単に暴力で覆ること。しかし、その暴力を凌駕するほどのさらなる暴力によって、すべてをねじ伏せることができる。これはとても重要なことで、主人公が肉体を鍛えているのはそのためなんですね。本作のもうひとつの見せ場は、アクションシーンです。
これを悪く取る方もいらっしゃると思うのですが、いやいや裏社会の話ですから、そこは「何のために遊んで飯食っとるんなら!」(県警対組織暴力)ですよ。あとヤクザがまじで怖いです。威嚇とかではなく、いきなり実力行使してくるんで……。



と、色々書いてきましたが、本作は現時点ではシネマート六本木でしか公開されていないのが残念(追ってシネマート心斎橋でも公開。両館とも韓国映画の特集上映の一環として上映)。個人的には真剣勝負テーブルゲーム映画の中では結構上位に来る作品だと思います。日本でもこれくらいのクオリティで『あぶれもん』か『てっぺん』を映画化して欲しいな〜……。





┃ おまけ
上にも書いた通り本作は少々時空がねじれておりまして、「え……そのシーン、男でやる……?」と思わされるような、マジモンの男前俳優を起用した作品だけがぶちかませるすごいサービスシーンが何カ所があるので、東京近郊の方、大阪近郊の方はそれだけに1800円払って観に行ってもいいと思います。