TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

 ギャンブル本 3冊勝負!!!

朝日新聞の先週土曜の折り込み別刷 "be" に、ギャンブル本3選の書評が掲載されていたそうである。(情報元:麻雀狂人日記

書店員に聞く ギャンブルを読む
http://book.asahi.com/saidoku/TKY201012030256.html
「人生はギャンブルだ」とよく言われます。賭け事に縁のない記者には、いま一つ得心がいかない言葉です。今回は読むだけでギャンブル気分が味わえ、人生を理解した気になれる本を特集します。

朝日新聞セレクトは以下の通り。

ブックファーストの店員さんも朝日新聞の記者も、本当はギャンブルに興味がないのだろうということがありありと伝わってくるチョイスである。『深夜特急』よりタイミング的に冲方丁マルドゥック・スクランブル』あたりを挙げておいてもいいと思うのだがどうか。さて、かく言う私も別段ギャンブルそのものには興味がないのだが、折角なのでこれはと思うギャンブル本を挙げてみたい。



四方田セレクト



岡田和裕『実録・麻雀盛衰記』は月刊『近代麻雀』の黎明期から全盛期を支えた元編集長が書いた麻雀業界回想録。創刊3号目で大赤字だった『近代麻雀』編集長を引き継ぎ、誌上タイトル「王位戦」を設立して競技プロの原形を作った情熱に胸を打たれる。来賀友志+神田たけ志『ザ・ライブ』はこれをモデルに書かれているのだろう。運営の実情、用具メーカーや雀荘の業界団体と出版の利害は一致しない……つまり前者は出版あるいは競技麻雀に必ずしも肯定的でないことはこれを読んで初めて知った。また、麻雀文化人としての阿佐田哲也を正面から批判しているのもこの本だけだろう。競技麻雀プロは、その世界が大衆の麻雀と別の世界であることがしばしば批判される。著者の考えからすると、本来競技麻雀は大衆の麻雀から切り離された麻雀を設けるために設立されたこと受け取れる。つまり、上層から庶民へと浸透していった競技とは出自自体が異なる。これはわりと重要なことではないかと思う。ギャンブルそのものを述べた本ではないが、かつてギャンブルであったものを純粋な競技として確立させるために尽力した時代の記録として読みたい。



三好円『バクチと自治体』は、公営ギャンブルの歴史、及び自治財政との関係の歴史がわかりやすくまとめられた好著。麻雀においても社会性がどうだとか、麻雀はギャンブルだから支持されないのだとかいう意見がよく聞かれるが、そういう発言をする前に、ギャンブルと社会の関係についてよく学んでおく必要があるだろう。公営ギャンブルはその名の通り、地方自治体が胴元となって運営しているギャンブルである。かつては主要な財源になるほどの大儲けだったが、しかしそのいずれもがド斜陽。赤字には税金が突っ込まれていて開催すればするほど赤字が増え、廃止するにしても職員の雇用など重大な社会問題が同時に存在しているだけに、議論は真剣である。かつて東京都で行われていた公営ギャンブルが美濃部知事時代にすべて撤退することになった事件、25年ほど前までは他の公営ギャンブルより売り上げが低かった中央競馬がいまなぜ独り勝ちできているかの考察など、参考にすべき事例は多い。まあなによりこれを読んで一番わかることは、麻雀業界も麻雀ファンも、麻雀にのみ近視眼的になるのではなく、もっと勉強しなくてはいけないという当たり前のこと。自分の温さと勉強不足を改めて認識させられる。



先日も紹介した堀江敏幸『いつか王子駅で』は、王子界隈の下町の人々の生活と昭和の名馬たちの物語が交錯する小説。著者はフランス文学者で、平生の作風は完璧純文学なのだが、どうもこの人競馬が大好きらしく、競馬と純文学が悪魔合体した不思議な小説に仕上がっている。主人公が家庭教師先の女子中学生・咲ちゃんに向かってテンポイントの往年の雄姿を熱弁している場面は客観的に見るとトチ狂っているものの、私は大好きだ。彼が語るのは昭和五十三年一月下旬の日経新春杯。このレースで当時スーパースターだったテンポイントは重度の骨折事故を起こした。以降療養に入るも容態が芳しくなく、若き日の主人公はテンポイントにお見舞いのはがきを送る。すかさず「馬にお見舞いの手紙書いたんだ!」とツッ込む咲ちゃん。いま聞くと奇天烈だけど、それだけ競走馬に日本中が燃えた時代があったのだろう。ご存知の通り、テンポイントは三月初旬に力尽きてしまう。その後主人公に、馬主・調教師・騎手・厩務員連名の見舞いの礼状と、テンポイントの大判の遺影が送られてきたという。これは著者の実体験なのだろうか? その時代の空気、熱狂、輝きが伝わってくるいい小説だ。




もう少し挙げるとするなら、競馬と競馬に関する文化史を雑多に、そしてライトにまとめた須田鷹男『いい日、旅打ち。―公営ギャンブル行脚の文化史』中公新書ラクレ、2009)、現代麻雀小説ならこれしかない白川道病葉流れて幻冬舎文庫、2004)、ゆるい競馬場紀行エッセイの亀和田武『どうして僕はきょうも競馬場に』本の雑誌社、2008)あたりがよいと思う。残念ながら単行本にはなっていないが、かつて『近代麻雀』に連載されていた来賀友志「勝負師の回路」はすごく面白いので、誰かなんとかして。

*1:引用元記事中には実名あり

*2:引用元記事中には署名あり