TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

 浪牌道(ろうはいどう)

岡田和裕+北野英明 日本文芸社(1985)
近代麻雀」(竹書房)連載
全2巻(上・下)
竹書房版単行本あり


┃あらすじ
ダメ学生・稲村俊夫(通称トシ)は連れ込み旅館で行われる高レート卓で出会った麻雀打ち・香取啓介に恋人のユリアをとられていた。香取に勝つため、トシは著名な表プロ・木暮修一に弟子入り志願する。トシはプロの大会でBリーグ入りする好成績を上げるが、木暮はトシを認めようとはせず、麻雀界のビッグタイトル・A級戦の推薦枠にトシを推すことはなかった。トシはユリアの協力を得て島田・五条らほかの参加者を尋ね、日頃の研究の成果を披露することで推薦を得る。A級戦の大舞台でトシは木暮を見返すことはできるのか?




なんか話が途中から全然違うことになっているクアッガ漫画。上下巻で話がまるで別の漫画。前半はトシが香取という裏プロにライバル意識を燃やす話だが、後半になるとそれには一切触れられなくなり、木暮という図に乗った表プロに対してトシが反発し、挑戦してゆく話となる。



話が盛り上がるのは下巻、トシが競技プロの頂点に君臨する木暮に挑戦するパート。トシの麻雀理論が詳細に説明され、戦術書漫画めいてくる。
トシは木暮以外のA級戦出場者から推薦をもらうため、作家の五条、俳優の島田にその腕前を披露する。トシはそこで独自のスタイルと麻雀理論を披露する。
トシの得意技は「単騎待ち」。これは、トシ独自のある理論をもとにしている。トシはトイツの研究が遅れていることに目を付け、トイツ場の理論で自分を売りこもうと考えていたのだ。えらい先見性だ。



トシの「順子場の中の対子原理」なる理論は以下のようなもの。

 ツモ

五条:何か根拠があったのかねあそこでの単騎は?
トシ:あのときは順子場でしたね。順子場の中の対子場の理論、大げさにいえばそういうことになりますが……(中略)河にが3枚切れている。それでいて順子場に見える。(この状態で)が残ってしまった。ここなら当然が欲しい人が多いでしょう。しかしこういうときが3枚切れていたらこれは対子場ということになるんです。が1枚が2枚切れている、あるいはその逆、そんな状況が一番多いでしょう。こういう状況のときははツモ山に眠っているケースが多いんです。がたくさん切れたのでのメンツを嫌ってと落としてリーチをかけてとたんを引いてきたりします。あるいはそれが放銃になったりもするんです。
五条:(中略)多く見えても薄い単騎の筋で待つか……。

いま、「長いよ」と思ったあなた。その通り。原文はもっと長い。折角披露してもらって悪いのだが、全体的に以上のような調子で要点がはっきりせず、意味がわかりづらい。例が悪いし、説明が下手……。なにより端的にものをいってくれないのが困る。いつごろ描かれた作品かは未調査のためはっきりとはしないが、戦術書風漫画としてはかなり早い時期のものと推測される。クオリティは微妙だけど、御託並べ系自体少なかった時代だと思うし、チャレンジャー精神に敬意を表したい。




戦術パート以上にすごいのがトッププロである木暮を批判的に描くシーン。

木暮:だいたいね、麻雀が趣味のど素人が麻雀界に口をはさみ過ぎる最近の風潮が俺は気に入らないんだ。それに影響される出版社も出版社だけどね。(中略)麻雀界の秩序を保つためにも今日ははっきりと物を言うつもりだったんだ。我々の世界は力だからね。強い者、勝った者が発言権があるのさ。
記者:それならば稲村くんの勝利を歓迎すればいいじゃないですか。打ちもしないで格下呼ばわりしているのは逃げているといわれても仕方ないのでは……
木暮:逃げている、この俺が。ハッハハハハハ。冗談じゃない、誰があんなチンピラ風情から逃げなくちゃいけないんだ。馬鹿馬鹿しい。格が下だから格下だっていうんだ。
記者:打ってもいないで格下と決めつけるのは独断ですよ。たしかに年は大分ちがうでしょうがそんなものは問題ではないでしょう。年の差でランクづけされては若い者はたまらんですよ。
木暮:場数が違うよ、踏んだ修羅場の数が違うんだよ。
記者:そんな……言ってることがナンセンスすぎますね。(中略)修羅場をくぐればいいってもんじゃないでしょうが。
木暮:貴様、誰にものを言ってるんだ。この木暮に向かって言ってるのか!(中略)だいたいおまえたちみたいな青二才がだな、この木暮に意見するなんて十年早いんだよ。

A級戦の会場で木暮はさらにファンや若手を馬鹿にする演説をぶち、麻雀に年や経歴は関係ないと主張するトシに対し、木暮はトシに負けるようなことがあればプロを廃業すると言い出す。
木暮のしょうもない演説を聞いた通りすがりの女の子が「有名人らしいけど誰あの人?」「麻雀プロの木暮って人じゃない?そんな人いるの知らなかったけど。」「随分横柄な人ね、私たちには関係ないわ、行きましょ」とかなりキツイツッコミを入れているし、A級戦会場の空気もトシの味方。これ、原作者は若手プロか若手ライターなのか? 競技プロの上層部になにか私怨でもあったのか? そういえば、「木暮」に限り無く似た名前の競技プロの方がいらっしゃるが、その人がモデル? そのプロはこの作品が描かれた当時20代後半かと思うので違うか。なんかあったのか、当時?? 大昔のキンマ誌上はすごいことなってたのね。




しかし、この作品は木暮を批判するだけではない。トシが木暮をあと少しというところまで追い詰めていた6回戦。木暮はツモアガっていたにも関わらず、チートイツの待ちを切り替えてトシの直撃を狙う。

東三局0本場 西家 28500点持ち
捨て牌:

 ロン ドラ

これに見事引っ掛かったトシは木暮の勝負師としての実力を認め、A級戦終了後、実力派新人プロとしての道を歩み始める。最後は綺麗にまとまっているが、あのウラミハラサデオクベキカエコエコアザラクエコエコアザラクはどこへ……??
前半のぐうたらパートはさておき、プロ路線に移行してからは最後まで健全なプロ路線。地味だが作者の言いたいことはよくわかる。このあたりは他社の無頼好みの麻雀漫画とは異なる竹書房独自の志を感じる。





近代麻雀掲載(※2009.2.28修正/コメント欄参照)にも関わらず、日本文芸社からコミックが出ているのは、竹書房北野英明ともめた(らしい)件で版権を引き上げられたからか?




おまけ
↓麻雀御託より背後のHip-Hopな絵が気になる……。



↓かわいい起家マーク。かきぬま製。