TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

麻雀漫画と昭和の日本映画と文楽(人形浄瑠璃)について書くブログ

 天牌 麻雀飛竜伝説

来賀友志+嶺岸信明 日本文芸社 1999年〜連載中

天牌 1―麻雀飛龍伝説 (ニチブンコミックス)

天牌 1―麻雀飛龍伝説 (ニチブンコミックス)


キングオブ読者に快感を与えてくれる麻雀漫画。


┃あらすじ
またも大学を留年した麻雀好きの青年・沖本瞬。池袋のなじみの雀荘「フレンド」の閉店を機に彼は新たな根城を探しはじめる。沖本は新宿の200円の雀荘に入り、ここでも楽勝かと思っていが、対面の冴えないサラリーマンにその鼻をへし折られる。麻雀に命をかけていた彼はショックを受けて雀荘をあとにするが、そこで沖本に声をかける男がいた。その男の名は黒沢義明。黒沢は沖本が麻雀が本当に好きなことを見抜き、対面のサラリーマンは裏メン――店とぐるでトウシをしていた――であることを教える。後日、沖本は彼なりの方法でトウシをしたメンバーと裏メンに麻雀で「報復」する。これを機会に沖本は黒沢と交際をするようになる。やがて黒沢は沖本と同年輩の伊藤・谷口を紹介し、「イカサマ」も教える。しかし沖本はイカサマは自分の愛する麻雀とは違うと感じたのだった。伊藤はそんな彼を食事に誘い出す。沖本はそこで伊藤の本来の性格に触れ、伊藤の仲間たちに次第に打ち解けてゆく。このころはなにげない友人同士であった彼等は、やがてそれぞれの麻雀の深層へと落ちてゆくこととなる。



というわけで、天牌の魅力をまとめてみます。*1

天牌の魅力

  1. キャラ立ちしまくりの魅力的な登場人物たち
  2. ド演歌と少年漫画が悪魔合体した激熱ストーリー
  3. 常に想像の斜め上をゆく展開
  4. 本格闘牌

4は『天牌』の麻雀漫画としての核心及び原作者のアイデンティティにおいて非常に重要なことです。ここまでオレオレ闘牌にしておいてバカ売れしている麻雀漫画はほかにありません。しかし私はこれを語る資格を持ちません。語るべき人がいずれ現れると思います。これは未だ語られざる薔薇物語ということにして、私は1〜3について語りたいと思います。



┃ 1.キャラ立ちしまくりの魅力的な登場人物たち


ジャンプなどの少年漫画黄金期に育った人間にとって、魅力的なキャラクターの登場に勝る漫画の楽しみはありません。キャラクターを重視する手法はすでにほかのジャンルの漫画ではあたりまえのことで、もちろん麻雀漫画になかったわけでもないのですが、まあ例えば雀鬼萌え!ですとか、なんと申しますか非常にハードルが高いというか、門外漢 亜空間に 疎外感(心の一句)というか、まあ少なくとも「このキャラが好き」「えー自分はこのキャラのほうが」などと言い合えるレベルには至っていなかったのではないかと思います。勿論赤木しげるなどはキャラ立ちしているわけですが、あれはオードリー・ヘプバーン*2なわけで、近代的な選びたい放題式ではないのです。少なくとも私がのほほんと読む作品のなかにはシスタープリンセス式(古)はなかったのです。
そんな私は驚きました。
三國健次郎が出てきた瞬間、「わけがわからん」と思いました。三國は要素の組み合わせといった着せ買え人形的キャラ造形に慣れた人間には強烈すぎました。あなたにはの造形が思いつきますか? クールなイケメンを考えろと言われてあれを出せますか? あのイケメン造形は一朝一夕でできるものではありません。非常に斬新なイケメンでした*3。三國のあとにも先にも、あまりに独特すぎるイケメンがたくさん登場しました。類型的とはほど遠い、通常の漫画文法とは全く違う体系を持ったイケメンそしてまたイケメン。私は悟りました。来賀嶺岸はマジ本気であると。『あぶれもん』などからずっとフツフツしていた来賀嶺岸の「俺の考えたイケメン見せたるでぇ」が大爆発、キャラ立ち漫画に昇華したのです。
さきに挙げた三國をはじめ、『天牌』には遼チャン、北岡チャン、中釜さん、津神といった言語を絶する色ものイケメンがてんこ盛りです。あなたにも『天牌』のキャラで誰が好きとか、嫌いとか、この組み合わせで戦ってほしいと妄想した心あたりがあるでしょう。この強烈無比なるキャラ造形、我々は来賀嶺岸にひれ伏すしかありません。
なお、ここでは触れませんが『天牌・外伝』はあなたに男にもてる最強の方法を教えてくれるでしょう。そう、麻雀がバカッ強くなればいいのです。黒沢さんはいつもイケメン一発ツモすることがそれの証左となります。




┃ 2.ド演歌と少年漫画が悪魔合体した激熱ストーリー


もともとヤング向けにライトに発展したわけではないジャンルのせいか、饐えた布団のような内容(御無礼)だったりすることの多い麻雀漫画はひと目見ただけで人に避けられがちです。麻雀漫画はほかの漫画の進化から隔絶されたガラパゴス諸島として一部マニアに珍重されつつ、衰退の一途を辿りつつありました(多分)。
しかし来賀嶺岸はやはりキていました。
すでに大家として名を成していた来賀嶺岸、座して死を待つようなことはしなかった。来賀嶺岸は以前から少しずつ試みていたある手法を本格的に前に打ち出しました。少年漫画の熱血路線やバトル路線の文法をド演歌ド昭和な麻雀漫画セオリーに高次元で悪魔合体させたのです。来賀先生はこれによってジャンプっコなナウなヤングのハートをガッチリ捉えました。とらえたぞ。とらえられちった。来賀先生が純粋な書き手出身ではなく編集者出身であるからこそ生まれた視点ではなのかもしれません。
なお、どう見ても舞台が昭和83年な感じが否めませんが、ド演歌なので全然オッケーです。北岡チャンや遼チャンあたりがマジナウい男子*4だったらちょっと困ります。
※この来賀先生の世紀の発明?については私が発見したことではないことを明記しておきます。麻雀漫画の歴史についてもっと詳しく知りたい方は、izumickさんが『麻雀の未来』『麻雀の未来2』の麻雀マンガ三十年史等に書かれていますのでご参照ください。




┃ 3.常に想像の斜め上をゆく展開


というか天牌のキモはここ。
ロマンチックがとまらない。
その狂気と夢*5とロマンは他の者の追随を許しません。
「こんなんが見たかったんや〜」と「そっちいくんかーい!!」、そして「何を言うておますのや……」が同時並行する展開と常人にはついてゆけないノリ。天牌はつねに私たちの斜め上を行っています。みんながなんだかんだいって天牌が大好きなのはこの軽くトチ狂っているという魅力によるものが大きいのでは?
超有名なシーンとしては四川戦における「そこに北はあるんだよ」があります。なぜか奴らはつぎのツモがわかるらしいのです。麻雀というゲームを根底からゆるがす超発言。言われてすぐは影村と一緒にワケワカメとしか受け取れない台詞ながら、次第に圧倒的な説得力をもって私たちに迫ってきます。もはや奴らがなにを言っているのかわかる必要などないのです。異様に乏しい女ッ気、なぜいろんなことが麻雀で決まりますか等はすぐに気にならなくなります。ロマンチック闘牌。牌に恋する漢たちの世界がそこには広がっています。
この世では、己のやりたいことに本気でぶつかり、それをやりきっている人には絶対に勝てません。誰も文句は言わない超ベテランの域に達しながらも常に高みを目指す来賀嶺岸のエネルギーには圧倒されます。来賀嶺岸がこのモチベーションを十年近くも保ち続けていられるのは、おそらく編集者の強力なサポートによるものでしょう。この編集者の仕業と思われることでは、ワケワカメアオリ文句「黒流愛No.1」が私たちの度肝を抜き話題をさらったことが記憶に新しいでしょう。ただでさえ本編がツッコんでもツッコんでもツッコミ足りないのに、柱にまでツッコませられるとは、あなどれなくてよ漫画ゴラク




というわけで、今夜は天牌を褒めちぎりました。結局のところこの漫画に分析や考察は不似合いです。みんなでわいわい話をしたほうが楽しいんです。

天牌を買おうか迷っていらっしゃる方のうち、『ジョジョの奇妙な冒険』が好きな人には絶対お薦め。男らしさ、カッコイイ台詞、魅力的なキャラ、頭脳戦(……を凌駕するド根性の力?)、ジョジョとは違ったアプローチとスタンスでそれら「男の世界」「人間(というか麻雀)讃歌」が描かれています。
そして『天牌』が好きな人には『あぶれもん』が超お薦め。もっとプリミティブなかたちで現れた狂気と夢とロマンチックがあなたの心に迫ります。



┃おまけ
僭越ながら、天牌キャラについている謎のふたつ名の寸評をいたしました。ご査収の上お役に立てれば幸いに存じます。

No.ふたつ名キャラ名寸評
1.王者の才沖本瞬やや芸がないか。「栄光の右腕」「瞠目の才気」とかひとひねり欲しいところ。
2.麻雀職人黒沢義明おい地獄さ行ぐんだで。
3.完全頭脳伊藤芳一カムバックの際はふたつ名を「烙印の堕天使」にしてほしい。もちろん「打天使は明王」とかでも可。
4.忘郷の一匹狼影村遼族センスがいかんなく発揮されて見事なふたつ名。族を馬鹿にしてはいけない。アナ・スイも族車写真集を見ておしゃれって言ってた。
5.非運の哀戦士谷口隆アニメの見すぎです。
6.元裏プロ界帝王入星祥吾「元」という冠詞をつけるのは微妙。「天翔る帝王」とかどう?
7.氷の貴公子三國健次郎フィギュアスケート系。このふたつ名を思い出すとどんな辛気くさい場でもなごめる。たしかに公家顔だが、なんとかならんかったんか。「蒼薔薇の君」とか。
8.絶対感性菊多賢二このままでもいいが、もっとビジュアルを想起させるようにするなら「屍鬼の絶対感性」。いや、「幽鬼」でもいいか。「鬼」を入れたい。
9.卓上の超越者新満正吉あんたはどう考えても『出発は遂に訪れず』でしょうが!!! 卓上は舞姫
10.気鋭の青虎山田洋一昔は「ポスト三國No.1」とか「黒流会No.2」とか、そういう個性のないふたつ名だった。よかったね山田。ここはもひとつ「荒波の笹かまぼこ」とか、まぐろ漁船経験を活かしてもよかったのでは。
11.円熟の手練八角五郎「円熟の知将」とか、武将をイメージしたものが似合いそう。せっかくカンチャンにこだわりがあるのなら、「カンチャン☆エンジェル」はどう?
12.孤高の博狼牙津神元博狼牙という謎の語感がすごい、文句なしの迫力にして女子高生並みの造語能力。変更するなら「震天の」とか「轟ける」とかの感覚に訴える言葉を入れたい。
13.電脳超新星北岡静一北岡チャンのそこはかとない昭和具合と電脳という言葉から受けるレトロフューチャー感がマッチしていて非常によい。
14.熟練の黒獅子中釜清蔵ヨーロピアンでフェンシング系。中釜さんのダンディ具合にマッチしていてグッド。さすがに「馬鹿 アンド一部白髪」ではない。
15.恩讐越えし修羅星野源語感がよくない。「慈愛の金剛力士」とかどうですか? 仏教系のキーワードの人いないし。



┃おまけその2 過去記事

*1:以下(というかいままでも)来賀友志先生&嶺岸信明先生を来賀嶺岸とド失礼にも呼び捨てにさせて頂いておりますが、この呼び方はどんな敬称にも勝る愛称?であると受け取っていただきたく存じます。あと、私はいきなり大嘘をぶちかます人間であることも前提として楽しんでいただければと思います。

*2:むさ苦しく冴えねぇオヤジの中にプリティなのがいると、その実質以上に妖精や天使に見えるという強力な演出技法。オードリーヘプバーンが出演する映画でよく使われた。

*3:現実には存在するが漫画の中で観測されるのは稀

*4:てか、『勝負師の条件III 代打ちたちの晩夏』の太陽クンはなんなんすかね? 嶺岸やればできるんじゃんって思ったんですけど、てかさっきからナウいナウい言っているとどうもナウマンゾウを想像します。

*5:ここでいう夢とは、妄想に近い願望