TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

 『海雀王』単行本未収録分について

今日は七夕。長らく待ちわびた邂逅の日ということで、志村裕次+渡辺みちお『海雀王』(実業之日本社)の単行本未収録分(3巻以降)のあらすじを以下に解説する。

  



越智では、いまこそ怒魔に先制攻撃を仕掛けるべきとする軍師・幻氏に対し、暗愚な長老・織田は基地で待つべきとして内部対立が起こっていた。越智に下っていた瀬戸城軍団の景城は織田の意見に同意するが、幻氏は自滅覚悟でしか越智の勝利はなく、流れ者の景城には越智2000年の伝統とその重さを理解できないと言い放った。幻氏の作戦に乗れないとした景城は部下を引き連れて越智軍から離脱することを決める。怒魔に先制攻撃を仕掛けることを決定した幻氏は伊予のフロッグ部隊の配備作戦を見抜き、両者睨み合う状態が続いた。
そのころ、越智に捕らえられていた沼田は、越智の武将・大虎を動かそうとしていた。沼田は大虎に、お前は自分の大将を尊敬できるかと問う。以前から織田に疑問を感じてた大虎の心は揺らぎ、実はタイマンで殴り合ったときに怒魔に惚れていたことを告白する。大虎は越智を離れることを決意し、大三とともに越智の船にダイナマイトを仕掛けた。



一方、大三は柳生に景城から怒魔に下るよう説得していた。そこに越智を去った景城が現れる。柳生の裏切りに気付いた景城は、大三に「めくり勝負」を持ちかける。「めくり勝負」とは、順に1枚ずつ牌を引いてゆき、13枚取った時点でテンパイするよう牌を取捨択一していくというゲームだった。大三や柳生にもよい手が入るも、景城は見事九蓮をテンパイさせ、大三を下した。その勝利の凧を見た怒魔と伊予は、景城が越智を離れたこと、そして大三が負けたことを知る。



幻氏はここで怒魔に攻撃を仕掛ける。景城が揚げた凧にはガソリン袋がついており、揚がっているのは怒魔軍の後方である。それを射落として火をつければ怒魔軍の退路を断てると考えたからだ。しかし、そのとき大虎と大三が仕掛けたダイナマイトが爆発し、越智の船は次々沈没してゆく。そのとき潮の流れが変わったのを見た伊予は凧のガソリン袋を射落とさせ,火の海を海流の彼方へと去らせた。越智は窮地に陥った。
大虎は越智に別れを告げに、幻氏のもとに現れる。大虎は幻氏に、幻氏のことは好きだがもっと惚れた男が現れた、それは怒魔であると告白する。そんな大虎に幻氏は越智を去るように命令する。兵は将の持ち物ではなく、兵はより良き将を選ぶ権利があると告げ、幻氏は大虎を送り出した。幻氏は越智の時代の終焉を悟り、怒魔との最終決戦に挑む。



一方、伊予に命じられたカン助は、離れ小島の神社に佇む若丸のもとを訪ねていた。若丸はカン助が来ることを悟っており、カン助を麻雀へ誘う。そのとき若丸は鷹の知らせで越智が全滅したことを知るのだった。そして、越智が滅ぶ様子を見守っていた景城は瀬戸城軍団の解散を宣言し、大三と柳生のもとを去る。景城が現れたのは若丸とカン助が麻雀を打っている現場だった。そして幻氏もまたそこに現れる。幻氏が若丸のもとに送っていた使者・塩原が卓から抜け、若丸・カン助・景城、そして赤間神宮よりの使者・源平軍の羽黒の4人での勝負がはじまる。何もわからぬうちに羽黒に満貫を振り込むカン助だったが、実はこの勝負には「情報」が賭けられていた。ここ岩島は古来より敵味方が寄り集まり、情報交換を行うのが習わしの島。ここで負けた者は自軍の情報を提供せねばならないのだった。カン助は続けて羽黒に振り込んでしまい、怒魔の兵総数と機動部隊、軍師である伊予の情報を告白させられる。南3局、ボロボロのカン助。赤間の謎に迫るべく、景城と幻氏は若丸を狙う。しかし若丸にはすべての牌が透けて見える能力があり、彼らがいかに若丸を狙おうとも彼にスキはない。
半荘終わっての休憩時間、景城は若丸に赤間の謎を直接問うが、若丸は今となっては赤間を盗っただけでは瀬戸を盗ることはできないと言う。赤間を盗り、怒魔を破った者こそが瀬戸の主になる。そしてその瀬戸の主こそが自分であると告げる。若丸はここで景城に自分につくことを持ちかける。若丸は長らくこの機会を待っていたが、若丸が厳島の若鹿党の主だった頃は江田島の総帥であった兄を差し置いて勝負に出ることは出来ず、そしてその束縛から自由になったときには江田島の勢力の背景を失っていた。しかし今、若丸が赤間そして源平軍団を握ることが出来れば、そのときこそ瀬戸を盗れるというのだ。景城は若丸のこの提案を呑み込む。しかし景城は景城で若丸が瀬戸を手に入れたあと、横からそれをかっさらおうという黒い思惑があった。二人がそんな話をしている間にカン助はスキをついて逃げ、幻氏は羽黒に源平軍に来ないかと誘われていた。
さて、カン助が抜けて幻氏が入っての2回戦。今回は自分たちが知っている怒魔の情報を交換することにした一同。景城と幻氏はいままでの戦いをもとに、怒魔の戦力を分析する。若丸、羽黒、景城、幻氏の4人は対怒魔戦に備え、着々と相談を進めてゆく。



一方、命からがら怒魔に舞い戻ったカン助。いろいろと情報をゲロってしまったことをみんなに怒られるが、それは実は伊予の作戦だった。伊予は、赤間があれだけの勢力を誇っているのは情報力にあるものだと見抜いていた。赤間・源平軍らにヘタに過大評価され、大げさな軍備で攻め込まれてはそれこそひとたまりもない。こちらが提供した情報に対応した軍備で来られれば間隙を突いて戦いやすいと踏んだのだ。



さて、さらに一方その頃赤間神宮。そこには西の姿があった。参拝を終え、近くのフリー雀荘に入った西は、マスター・ガキ・ババアと麻雀を打つ。メンホンチートイに取るために何気なく東を暗刻から1枚落とした西だったが、その東がガキの1鳴き小四喜に刺さる。その半荘はガキがバカヅキでトップを取って終了、ババアが抜けて卓割れしてしまった。西が打ち足りないと漏らすと、ガキがうちで続きをやらないかと誘う。そのガキが西を連れて行った先というのがなんと赤間神宮だった。ガキの名は飛鳥史郎、赤間神宮の神主であった。西は神殿の奥、史郎の部屋に通される。そこには「源平のお兄ちゃん」と呼ばれる男が来ていた。そこでの麻雀は恐ろしいもので、史郎はまるで西の手を見透かしたかのような麻雀を打った。史郎に突っ張らない源平の男は西が偶然ツモったのを見て流れの変わり目を感じ、その場を去る。
怒魔に帰った西は一部始終を報告した。源平軍団とは九州・四国・本州をまたにかけて流通を取り仕切る巨大な商社であり、その財源は無尽蔵であるという。また、赤間と源平軍団の関係は蜜月というものではなく、根本的には無関係であると伊予は予測していた。ここで怒魔は源平軍団No.4の花島と接触を試みる。越智から奪った財宝と怒魔の機甲部隊すべてを花島に譲るというのだ。伊予は巨大な勢力である源平軍団の内部分裂をさせようとしていた。強欲な花島は怒魔の甘言に見事に乗せられたのだ。



若丸・幻氏・景城は羽黒に連れられ、源平軍団の本営に足を踏み入れていた。本営の近代的な設備の麻雀ルームでは、幾多の猛者たちが超インフレ高レートの麻雀を打っていた。若丸・幻氏・景城は源平軍団の幹部、源・武蔵坊・平家・花島に面会するお、景城と幻氏は源平軍団が商売に夢中になるあまり、武将としての能力を失っていると指摘する。そして、怒魔は武闘集団であり、風林火山の行動力を持っていると語った。
そのとき、怒魔軍団が源平軍団本営に攻め入ってくる。だが、強大な源平軍団の火力の前に、怒魔軍団はなすすべもない。しかしそこには怒魔、そして花島の姿はなかった。



その頃、怒魔と花島は源平軍団本営を対岸に望む別荘で競技ルール(最高位戦)の麻雀を打っていた。何も賭けないのではつまらないという花島に、怒魔は命運を賭けようと持ちかける。怒魔を倒してこそ真の瀬戸の覇者になれると言うのだ。その言葉を聞き、一発裏ドラがないため堅実に高目を狙って打つ花島をよそに、地味に安い手でアガり続ける怒魔。しかし、花島が何気なく裏ドラを返してみると、怒魔の手には常に裏ドラが3枚は乗っている。怒魔の真の力におののく花島。怒魔は小さいアガリながらも自分のツキ牌である東を使ったアガリを続け、ついにオーラス、清老頭で花島を直撃、逆転する。
怒魔軍と源平軍の戦いはいよいよ源平軍の優勢に見えるも、羽黒はこの戦いに違和感を覚えていた。話に聞いていた以上に怒魔の軍勢が多いことに気付いた羽黒は、花島の寝返りを知る。



怒魔と源平の潰し合いを遠くから見守るのは大三と柳生だった。両者が潰し合えば共倒れになることは間違いなく、そのすきに自分たちが瀬戸を盗るという算段を目論む柳生だったが、大三はどこか遠くを見つめている。そこへ伊予がハングライダーで現れる。伊予は大三に、怒魔軍に加勢するよう助けを求めるが、大三は動かない。大三が源平軍の後ろから攻撃を仕掛ければ戦況は一気に逆転できるはずにも関わらず、だ。しかし、怒魔の名代として怒魔軍団の総指揮権を大三に預けると伊予が告げた瞬間、「その言葉を待ってたぜ」と大三は伊予のほうに振り返る。大三が欲しかったのは瀬戸ではなく、男としての勲章だったのだ。その様子に心を動かされた瀬戸城軍を率いて大三は立ち上がる。大三の加勢により源平軍は一気に劣勢となり、源平群赤間に向かって敗走する。青龍丸に帰った怒魔は軍備を整え、最後の決戦の舞台・赤間神宮へ向かう。



赤間神宮ではあの少年、史郎が迎えに出ていた。怒魔は、史郎には大三島厳島の神主のような野心はなく、ただの神主であり、それがゆえに赤間という強大な勢力を誇る神社の神主を勤めているのだと悟る。そして、怒魔、源、史郎、若丸の最後の麻雀勝負が始まった。史郎の持つ圧倒的な流れの前に、怒魔の東のツキは失われる。若丸は念力で牌を覗こうとするも、その力を史郎に咎められる。史郎は、瀬戸を狙うほかの武将たちと違い、若丸は自らの血を流そうとしないことを指摘する。それなら史郎もそうではないかと逆に問う若丸に、史郎はここで勝っても瀬戸の主になるつもりはないと宣言した。
怒魔の打ち方は史郎と出会ったことで変化していた。いままで彼は東にこだわった打ち方で勝利を手にしてきたが、それは自分が勝手に東をツキ牌としていただけで、いま東の流れを呼べないのは、東が怒魔を見放したのではなく、もともと東は誰の牌でもないのだ。それを悟った怒魔は23469m39p34s東東東南北から東の暗刻を落とし、ただ純粋に麻雀を楽しむため、タンピン三色へ向かう。2枚めの東を落とした怒魔は史郎に6400を振り込む。イーペードラドラからなぜリーチをかけなかったか問われた史郎は、リーチをかければ脇ふたりからも当たらねばなないからだと応える。史郎はずっと怒魔との勝負を望んでいたのだ。
勝ちにくる若丸と源をよそに、怒魔と史郎は粛々と牌で会話していた。このままでは怒魔は破れると感じた伊予は、負けた場合に備え、沼田と大三を呼んで武力行使の準備をする。しかし、そこで史郎が三倍満をツモって順位が史郎・源・若丸・怒魔になる。オーラス、トップと7800点差の若丸がトップを取るには3900直撃か満ツモしかない。そうわかっていてマンガンのテンパイを取ったはずの若丸だったが、彼は源からこぼれた牌で出和了してしまう。そのとき、若丸の本性が現れる。それは権力欲の権化だった。神通力を持ちながらも神社に押し込められ、世間に顔を出せなかった若丸は権力を手に入れたいとずっと願ってきたのだ。しかし、そんな若丸をさらなる神通力を持つ史郎が押さえつける。史郎は、若丸には赤間神宮の祭司になってもらい、その神通力で瀬戸の平和のために働いて欲しいという。史郎に権力欲を打ち消された若丸はそれを受け入れる。さらに史郎は、怒魔には瀬戸盗りの争いで荒れてしまった瀬戸の復興隊長として瀬戸の立て直しを頼み、源にはその補佐を任せたいと言告げた。怒魔と源は固く握手を交わし、瀬戸の復興に尽力することを誓った。



塩飽へ帰還する怒魔。東が誰のものでもないように、瀬戸もまた誰のものでもない。武力では何も盗れないのだ。それがわかるまでに随分と多くの犠牲を払ってしまった。怒魔は大三、柳生、景城にそれぞれの場所に帰り、復興の手助けをするように頼んだ。景城は、いつか再会したとき、そのときこそ心ゆくまで打ちあおうと怒魔に約束する。
そして2年後……、塩飽諸島。沖の岩場でオヤジどもと楽しく麻雀を打つ怒魔。今はただ麻雀を打つことそれ自体が楽しかった。そこへ弁当を持ってくる伊予、カン助、青竜丸の仲間。怒魔軍団は健在である。晴れ渡る瀬戸の大空を大きなフクロウが彼等を見守るように舞っていた。


(完)


実業之日本社「傑作麻雀劇画」1986年2月号〜10月号掲載分



というわけで、なんだか知らんがとにかく良し! な終わりだった。
世間では不幸な紹介のされかたによりバカ漫画と思われているだろうが、最後まで麻雀に誠意を持った、まっとうな麻雀漫画だったと思う。最後は着順関係なしという麻雀漫画にありえない終わり方だったものの(いや、麻雀そのものの楽しさを思い出すっていうのは麻雀漫画の超王道グランドフィナーレだとは思うが)、単行本化分から引っ張っていた「赤間神宮の謎」がある程度うまく着地してて驚いた。平家納経がどうたら言ってたし、赤間神宮の祭神は安徳天皇なので、赤間神宮の謎ってのは安徳天皇に何か関係あるかと思ったらないという。いや、宮司である史郎が子供なのはそのイメージなのかな。とにかく、源平軍団は商社であり、赤間が勢力を誇っているのは情報力によるものだというのはそれまでの価値観(麻雀もしくはガチバトル)が逆転しておもしろかったな。
また、ラストシーンは1巻冒頭で怒魔とオヤジどもが麻雀を打っている岩場に場面が戻ってきており、長年読んでいたファンには感涙ものだっただろう。脇キャラと思われていた青龍丸の乗組員、カン助(ガキ)、西(ふとっちょ)、十兵衛(グラサン)などもおいていかれず使いきられていて、名実とも怒魔軍の結束が描かれているのも気持ちよかった。

あとこの作品、雑誌掲載時は扉にその回の要約っつか盛大なネタバレが書いてあるんですけど、何ですかなあれは。最終回なんか、扉に「勝ったのは史郎!二位は若丸で三位が灘太郎!」とかいきなり着順が書いてあってびびった。確かに順位がどうこうって勝負じゃないけど、だからって順位がわかったら冷めるだろ!! それと、怒魔と花島がいきなり競技麻雀をはじめたところで「この世界にも最高位戦あったんかい!!!!」と思わずツッ込んでしまった。どういう世界観やねん。最高位戦と瀬戸盗りが両立するって。
まあ、残念なのは、終盤はあんまり麻雀打ってなかったことかな。そりゃ瀬戸を麻雀で盗るとかありえない。1秒考えたらわかる当たり前のことである。



今年の冬、あぶれもんツアーに行ったときの移動の一環で、岡山の宇野から高松までをフェリーで移動した。福岡から高知までを1日で移動せねばならないタイトな日程だったため(いま考えると恐ろしい弾丸ツアー)、福岡-高知は飛行機を使おうと思ったのだが、原作で高松港に降りる啓一くんが描かれているのと、岡山出身の知人が瀬戸内海を渡るフェリーは景観がすごく良いと薦めてくれたため、無理矢理フェリー渡航の日程に組み直した。結果、これは大正解だった。悪天候で雨が降っていたのだが、霧に沈む海に青い島陰が点々と浮かび、とても美しかった。あれは本当、飛行機じゃなくてフェリー移動にしてよかったと思う。
それで、今度はいつか『海雀王』ツアーに行こうと思い、瀬戸内海の地図を調べてみたのだが……、移動距離長いなオイ! 塩飽諸島(瀬戸大橋近辺)から赤間神宮(下関)って、相当離れてるな。これは確かに自前の船を持っていないと移動できない。しかし瀬戸内海、ミステリアスだな。ここどうやって行くんだって島も多いし、島によっては島民や関係者以外の車での乗り入れを制限しているところもあるんだね。うーん、また1週間くらい休みが取れれば、ゆっくりフェリーの乗り継ぎで島々を巡ってみたい。今年は瀬戸内国際芸術祭2010が開催されるので、少しはフェリーの増発とかやってるんだろうか。