TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

 撞球水滸伝

中野喜雄 日本文芸社 1988

  • 全1巻



┃あらすじ
日野珠美。彼女は伝説の撞き師「撞きの竜」の孫娘として数々のテクニックを仕込まれて育った。珠美を裏ビリヤード界で行われる「極玉」……マッセ(垂直撞き)による曲球選手権の頂点を極めるハスラーに育て上げる、それが祖父の目標だった。珠美はビリヤードを楽しみたいと思っていたため祖父に反発したが、祖父から秘技「ドラゴン・マッセ」を伝授されたことで祖父への思いを改めた。ドラゴン・マッセ、それは登り竜のように球がテーブル上を舞うという妙技。これを撞けるのは祖父と珠美、そして失踪した父のみ。珠美はキューケースを抱いて父を探す旅撞きに出る。




ビリヤード漫画。
話の進め方が麻雀漫画のそれに酷似している。




話は以下のようなノリで進んでゆく。

旅先で場末のビリヤード場にふらりと入る主人公

見かけによらない主人公のビリヤードテクニックにマスター心酔

チンピラ登場「店の権利書を賭けて、ビリヤードで勝負だ!」

いろいろあって主人公、マスターの代撞きに

そして勝負の日。チンピラが呼んできた代撞き、主人公のスーパーテクニックに打ちのめされる

勝利を手にして店を出た主人公を待ち伏せするチンピラ

そこに主人公に敗北した代撞きが現れる! 主人公を庇う代撞き、しかし敗北の代償として二度とキューを握れない腕にされていた

代撞き「代撞きを続けていればお前もいつかこのような運命を辿る……」

街を去る主人公。撞き師の末路は破滅しかないのか。それでも主人公のあてのない旅は続く……

麻雀漫画で佃煮にするほど見たことがある*1プロット……。
珠美はキューを棒術のように使ってチンピラと戦い、コンピューターでどこをどう撞くかを計算するコンピューター撞き師と対戦し、悩めるボクサー青年にビリヤードからボクシングへのヒントを教える。「撞きの竜」「代撞き」というネーミングセンスもすごい。麻雀漫画というより、青年誌ではこういう話法が王道なのか。





ただ、肝心の「ドラゴン・マッセ」がどういう技なのか、ビリヤードという競技においてどうすごいのかが具体的にわからない。作者も自覚があるらしく「とにかくすごい曲玉を撞ければ勝ち」という勝負にもつれこんだりする。技の演出やすごさがビリヤード漫画業界でどう表現されているかは、ほかのビリヤード漫画を読んで研究してゆきたい。コンピューター撞き師っていう発想はかなりすごいと思うのだが、ビリヤード漫画では普通のことなのか? 麻雀漫画でコンピューター雀士はその多くが負け役だが、コンピューター撞き師もまた負け役である。その敗因というのが主人公がコンピューターの読みを凌駕する技をくり出すとかじゃなくて、停電であわてふためいて主人公に三味線で惑わされるという可哀想すぎるものなのだ。なんか……すごいよね!




私事だが、プールバーとビリヤード場は違うということを今日初めて知った。というか、プールバーって、プールが併設の金はあってもセンスがない人向けのバーだと思っていた。プールバーとビリヤード場はどこがどう違うのか。前者はヤング、後者はトッツァンがいるということだけはわかる。




作者は『麻雀蟻地獄』の人。絵がめっちゃ巧くなっていて驚き。いやー、人間諦めないで努力し続ければ報われるもんなんですねー。




ところで、ダーツよりビリヤードのほうが明らかにおもしろカッコよそうなのに、なぜいまの若者はダーツをするのかね。まあ、麻雀もビリヤードも、昔はそういうヤングのファッションとしてのレジャーのひとつだったんだろうね。




参考サイト
┃ 撞球資料館 http://www.soretama.com/data.htm
ビリヤードにまつわる映画、本などを集めたサイト。ビリヤード漫画のリストが充実している。書影、あらすじ解説、寸評あり。

*1:ような気がするが実はここまでベタベタすぎるのは見たことがないかも……