TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

 天和無宿

阿佐田哲也+北野英明 秋田書店 (1974.9)
全1巻

┃あらすじ
麻雀劇画作家・北野英明のもとに一通の手紙が舞い込んだ。そこには負け知らずの打ち手がいるがゆえ、ぜひお手合わせ願いたいとの旨がしたためられていた。北野は差出し人を偵察しようと仕事を切り上げ、差出し人の元へ向かう。差出し人……雀荘のマスターは客打ちしていた北野の雀力をすぐに見抜き、河豚料理屋の奥座敷へと招待する。そしてその座敷に現われたのは、うりふたつの双子の兄弟、一郎と壮二だった。(「タッグチーム」より)




ごく初期の麻雀漫画。
プレイコミック」に掲載された作品の単行本化と推測され、『牌の魔術師』と同時発売。
「居眠り雀鬼」「雀ごろ戦争」「タッグチーム」「天国と地獄」「雀魔団始末記」「末は単騎の泣き別れ」を収録。阿佐田哲也の麻雀短編小説が原作で、いずれも1974年に双葉社から刊行された『雀鬼くずれ』に収録されている作品。
絵がすさまじくヘタ。





「タッグチーム」がおもしろい。
阿佐田哲也の麻雀小説「海道筋のタッグチーム」*1を題材にとったもので、あらすじは同じ。だが、原作でいうところの主人公の作家(阿佐田哲也)が北野英明に置き換えられていることろがポイント。

うまいと思った。当時、北野英明は絶大な人気を誇る麻雀劇画作家で、「プレイコミック」などでは何度も著名人や読者との誌上対局が組まれていた。これならこの作品が掲載された(と推測される)「プレイコミック」読者もなじみやすいし、入っていきやすい。原作のテイストを残しつつ、漫画向け/掲載誌向けにした翻案で、おもしろい。
そういうプロットなので、作品のなかで北野英明の仕事風景を覗き見ることができる。奥さんやこどもやアシスタント・編集者たち、自宅や自宅のなかにある仕事場まで描かれていて、当時の麻雀漫画家の仕事ぶりや生活を知ることができる。家は庭つきのかなりの豪邸。当時の麻雀漫画家ってマジ儲かったんだね……。



北野英明の仕事場見取り図。


↓アシスタントを怒鳴る北野英明の図。くず原ってくずはら和彦のこと?




小説では名作の「天国と地獄」はあまりよくない。ドサ健が墓をぶち壊すシーンは、全編通して健が唯一自分の感情を爆発させるシーンなんだし、もっと鬼気迫る怨嗟を込めたものでないといけないと思う。これではチンピラが泣きわめいているだけ。というか、ドサ健がどう見てもドチンピラなのが泣ける。

*1:あらすじ:とある麻雀小説家のもとに、いままで一度も麻雀で負けたことのないという手紙が舞い込む。不思議な挑戦状に誘われた小説家が出向いてみると、そこにはうりふたつの双子の麻雀打ちがいた。ふたりは挑戦状の内容に違わず、小説家を圧倒し……。