TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

 勝負師の条件

山根泰明+嶺岸信明 竹書房

すばらしい機会を得て、読む事ができました。
1巻が1988年発行。前回に感想を書いた『あぶれもん』に続き、ちょっとクラシックな麻雀漫画です。



┃あらすじ
無敗の麻雀打ち・桂木は、あちこちの雀荘や賭場を転々としつつ、様々な勝負を行っていた。彼はあるとき剣城という麻雀打ちと出会い、勝負をすることになる。互いの力は拮抗していたが、オーラスを前に桂木が大物手をあがり、剣城は大きくつきはなされる。逆転はないかと思われたが、ラス親の剣城の配牌はなんと天和、その手で剣城は桂木を逆転する。しかし剣城は自分の実力で桂木を下したのではないことに絶望し、代打ちを廃業。一方、不敗神話を崩された桂木もまた闇へと消えてゆく。さてさて、その勝負後、フラフラしていた剣城は、克己というちょっとバカだがバカヅキの青年と出会い、彼を弟子にとり、二人三脚で打倒・桂木を目指す!



渋い雰囲気の漫画です。はじめの頃は、理論派雀士?の桂木が、打ち筋についていろいろと説明してくれるというレクチャー的な内容が入っていて、このあたり結構おもしろかったです。
しかしこの漫画、あらすじでも書いたように、話が途中から唐突に変わります。その唐突に変わる直前の桂木対剣城の勝負が実にいい。剣城は渋い性格をしており、天和と地和が許せないと言います。なぜならデジタルな役だから(役の発生する要因が意志ではなく偶然によってでしかないからか?)。それまでに何度も天和を引いていたという彼ですが、そこではあがらず、天和を崩して普通に手を作って打っていたとか。しかしそんな剣城は、桂木との勝負において、天和をあがっている手を崩す事ができず、「勝利」を手にしてしまいます。ここがものすごくよかった。麻雀に勝ったはずの剣城は、精神的に敗北。しかも自分が嫌っていた天和での逆転。剣城はどのような気分だったのか。結局メンタルが弱かったと言ってしまえばそれまでですが、ここで描かれる剣城の微妙な気持ちの揺れがすばらしかった。勝利がほぼ手の中にあった桂木もまた、偶然という、軽くてしかし強烈な力によって敗北を味わいます。この、どちらが勝ったとも言えず、どちらかと言えば双方が負けた、という展開がいい。ここでかなり心を鷲掴みにされました。その勝ち負けについての、ふたりの詳しい心情を語る台詞がほとんどなかったことも雰囲気を盛り上げてくれました。
また、最終話の終わりかたもとてもよかった。桂木と剣城の再戦の最後、2人はそれぞれ九蓮宝燈と緑一色四暗刻聴牌。しかもその待ちは(実質)同じ。もうどちらがあがってもおかしくないという状況の中、そのアタリ牌をツモった(?)シーンだけが描かれます。どちらがあがったのかははっきりとは描かれていないし、推理のしようもありません。ふたりの「勝負師」に敬意を表して物語は幕を閉じます。ああカッコイイ。



『勝負師の条件』は、余韻に浸ることのできる、味わい深い麻雀漫画でした。雰囲気が、とてもいい。「勝負師」という言葉自体は泥くさそうですが、私はとても清廉な雰囲気な漫画だと思います。
剣城はダメ人間ぽいですが、とてもかっこよい。イカサマが全盛だった若い頃から、イカサマに頼る事なく、自分の力だけで勝負してきただけのことはあります。どちらが主役とも言えないけれども、個人的には剣城を応援したくなります。


ところでこの感想ではバカ(ヅキ)弟子・克己のことに全く触れませんでしたが、個人的に、克己が女の子だったら、まるっきり少女漫画だな〜と思うような思わないような気がいたします。極論一番すごいのは克己の嫁です。