TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

ルミネッセンス☆グリーンアロー怪進撃 第一夜

今夜から三夜連続で、かつて隆盛を極めそして伝説となった「グリーンアロー出版社」の麻雀漫画の特集を行います。


グリーンアロー出版社とは
http://www.green-arrow.co.jp/
1984〜86年頃に素敵な麻雀漫画をいっぱい出した出版社。本職は時計・航空機・ミリタリー本。麻雀漫画においては麻雀とほかの要素を悪魔合体させ、従来の麻雀劇画とはいろんな意味で「違った」路線を爆走した作品を刊行していた。表紙がおしゃれで、絵がうまい作家が多く、また、巻数の表記が意味不明という奇癖を持つ。サイズはジャンプコミックと同じなので、一瞬コロコロコミック系統のイケてるホビー漫画に見える。というか、実際コロコロとセンスの方向性が近しい。
参考;izumick「麻雀マンガ三十年史」 「麻雀の未来」収録

 本格闘牌巨編 雀鬼四天王

吉岡道夫+北野英明 グリーンアロー出版社(1985)
第1巻/非情編、第2巻/鬼哭編

 

┃あらすじ
ボンクラ青年・速水信吾の恋人である由美の父親がひき逃げで亡くなった夜、由美の家に借金取りが現れる。由美の父はサラ金から580万円もの借金をしていたのだった。保証人になっていた由美を借金取りから救うため、信吾は唯一の取り柄の麻雀で金を稼ごうとするが、由美は信吾に真面目に働いて欲しいと願っていた。そんな由美を横からかっさらおうとする男が現れる。男の名は北大路直樹。北大路財閥の御曹子にして麻雀牌王戦のチャンピオン。不快の念を抱きながら歩いた帰りの夜道で信吾はチンピラにからまれ、ボコられる。翌朝目覚めると、ズロース一丁の謎の女が傍らに立っていた。女は言う。北大路は由美をモノにするつもりだと。そして女は、今度開催される麻雀牌聖位戦にエントリーし、北大路をたたきつぶせと信吾をけしかける……。



北野英明の絵がこぎれい&丁寧で非常にプリティ。ほかの作品より綺麗に絵が描いてある気がする。麻雀漫画としてはまあ「昔の麻雀漫画でごわすな」的な内容。少ないページ数に金・女・ギャンブルをつっこむためか、普通に会話しつつ女が服を脱ぎはじめる等、脈絡もなくおっ始まる無意味なお色気シーンが涙を誘う。麻雀界のエラい人の名前は伊佐山先生、壁にかかっている額のなかの言葉は「人生七転八倒」と、プチネタもあり。大阪を舞台に行われるブー麻雀や「逆周りの地獄打ち」など特殊ルールも登場。ただし特殊ルールにあわせた戦略がどうしたという話はない。ただ、裏麻雀では天和は九種九牌で流せるという流局優先の変なルールがあるらしい。



「四天王」というからには、このあと北大路以外にも東村山ナントカとか西園寺ナントカとか南條ナントカとかが出てくるのかと思ったが出てこなかった。冴えない主人公と冴えない話で、昔の麻雀漫画には「カタルシス」という文化はなかったのだろうか。……もしかしたら私の持っていない3巻以降にそのような展開があるのだろうか……。2巻までだと、主人公よりも陳さんのほうがイカス。



どうでもよい瑣末なことではありますが、表紙で、グリーンアローの「GA」マークが人物のチョッキやセーターの胸のワンポイントみたいになっているのがウルトラプリティだと思いました。

 魔牌の島 怪奇麻雀伝説

玄太郎 グリーンアロー出版社(1985)
全1巻

┃あらすじ
高校教師・山村はなじみの雀荘の主人から四国で手に入れたという人骨でできているという麻雀牌を見せられる。一見普通の牌だが、東・南・西・北の風牌の背を外して並べるとそこには不思議な島の地図が描かれていた。「東よりのぞむ島 南の墓より 西の迷路は死への旅 北の鬼火に眠る黄金」……その地図はなんと戦国時代の海賊が残した宝の地図だったのだ! 山村は帰省のついでにこの島の正体を探ろうとするが、そんなおり雀荘の主人が何者かに惨殺されたとのニュースを目にする。山村はその地図に書かれた島が墓に埋め尽くされた地図にも載っていない無人島「墓場島」であることに気付き、島に上陸するが、島には不穏な先客たちがいた……。




非常におもしろい作品ばかり入った短編集。絵が非常にうまい。




はじめの3話「魔牌の島」「魔牌からくり」「霊牌の島」はまさに麻雀版「妖怪ハンター」。不思議な麻雀牌に導かれて異界へと迷い込み、破滅へと誘われる者たちの物語。つまり闘牌がどうしたという話ではないのですが、「妖怪ハンター」風伝奇?ものとしてかなりおもしろい。この路線でもっと描いてくれればよかったのに。上記のあらすじに書いたのは「魔牌の島」の流れだが、究極のツッコミとして「麻雀が日本に入ってきたのは大正時代では? 戦国時代の瀬戸内の海賊が麻雀牌を残すとはこれいかに?」があるが、そのあたりは深く考えないほうが吉。

次に収録されている3話はなんと申しますか……、麻雀ラブ&エッチコメディ……? とくに「魔女牌クロッキー」は前人未踏人外魔境空前絶後の麻雀魔女ッコものでかなりイカス。魔王サマに命じられて「愛」を手に入れるために魔界からやってきたあたし、魔女☆ 愛を手に入れて魔界に帰るため、いろんな女のコに乗り移ってガンバッてきたけど、もう11回も失敗してるの……クスン☆ いま乗り移ってるのは雀荘の看板娘のカワイコちゃん☆ 魔法をつかって麻雀を有利に運んで、男のコのハートをゲットしちゃうゾ☆ でもキスすると魔法が解けちゃうの、忘れてた、いっけな〜い☆ というような話。エッチパート*1の絵ヅラがクドい劇画絵では笑えません。「麻雀やりたい同盟」の『太陽の季節』リスペクトは素敵すぎ。まあ、全体的に、なんというか、根本敬的に言うと吉外。
ラスト1話は唯一まともに麻雀をするシーンがある普通の麻雀漫画で、この短編集の中では地味に感じる。しかしそのたおおぜいの麻雀漫画よりはおもしろいです。

*1:この作者はおもらしがお好きなのですか? 小生にはハードすぎます。

 餓狼無頼 雀鬼飛龍伝

志村裕次+みやぞえ郁雄 グリーンアロー出版社(1985)
全1巻

┃あらすじ
麻雀生命を賭けて故郷・熊本を旅立った飛龍は全国の数百の雀荘を統べる「闇の支牌連合」の会長「雀神」に挑戦すべく、全国を飛び回って彼の従える四天王と対峙するする! 地獄寺の和尚・金丸とはの暗刻がある状態でツモると翻数が倍になる「墓石打ち」、神戸の嵐三兄弟とは3vs1の「三法縛り」、佐渡の世渡老人とは索子36枚のみを使った理牌不可二人打ち清一色麻雀、そして雀神につぐ実力の持ち主・新宿の黒沢とは純粋真剣勝負で闘う! 飛龍は四天王との特殊ルール麻雀勝負に勝ち、雀神のもとにたどりつくことはできるのかッ……!?



『風の雀吾』の志村裕次+みやぞえ郁雄コンビが贈る、豆腐の角に頭をぶつけたようなトンチキ麻雀漫画。トンチキはトンチキでもちゃんとまとまっているのがすごい。あと、一応ぶっとびではない。中学1年生の男子が数学のノートのすみっこに書いているような設定をちゃんと構成し絵に起こし作品として仕上げるというのは本当にすごいことだと教えてくれる。




特殊ルールの煮詰め具合は後世の作に比べるとまだ甘い部分も多いが、「墓石打ち」と索子清一色二人打ちは話の雰囲気にも非常にマッチしていて、短いページ数のなかでおもしろく読めた。索子清一色二人打ちは「配牌を取ったら絵柄の面を相手側に向けて立てる。つまり自分が取った配牌は相手の手牌で、理牌はできないし、自分の手元の牌(相手の手牌)は見ることはできない。」というちょっと言葉では説明しにくい設定がついているが、冷静に考えたら別に普通に自分の配牌でやるのでええんとちゃうと思ったが、私が頭悪いだけ?? ただし、考える時間は10秒以内というのは厳しい。
そういう特殊麻雀のシーンはやる気満々だが、お色気シーンはやる気皆無。佐渡の爺様の養女のお色気シーンは一応がんばっているものの、その後は「2、3ページ裸描いときゃいいんだろ」というなげやりっぷりがすばらしい。



個人的には主人公が「あさかぜ」や「さくら」に乗っているのがいいな〜と思いました。寝台列車がロマンだったころの名残りか。旅打ちものとしても秀逸。