TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

文楽 2月東京公演『大経師昔暦』国立劇場小劇場

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『大経師昔暦』。またも読めない。「だいきょうじ・むかしごよみ」だそうです。「経師」は経巻・仏画等を表装する者。「大経師」とは、経師の代表として朝廷御用を受け大経師暦の発行権を与えられた者のこと。

 

大経師内の段。

京都烏丸の大経師家は朝廷から暦の発行を許された町人ながら特権階級の家柄である。きょうは11月1日、来年の暦の発行日であり、当主・以春は明け方から宮中・親王家等の御所方へ初暦を献上にまわって振舞を頂き、帰宅後のいまは疲れてこたつで居眠りをしている。その妻・おさん〈人形配役=吉田和生〉と女中・お玉〈吉田簑紫郎〉が三毛猫をじゃらして可愛がっていると、手代・助右衛門〈吉田勘市〉がやってきて「オレ忙しいし」とアピりつつ、猫にまで小言を並べ立てて去っていった。残されたおさんとお玉はそののウザさと態度と顔をdisりまくり、もうひとりの手代・茂兵衛の品のよさを褒めちぎる身も蓋もない女子会with猫(サイコーやん)。おさんは膝に乗せた愛猫に、猫にしても男ぶりがあり、ガラ悪く鳴き立てる練物屋の灰毛猫ではなく、可愛らしく鳴く紅粉屋の茶トラ猫を夫にしてやりたいと言う。しかし外で牡猫たちの声がすると駆け出そうと暴れだす三毛。おさんはその多情さに、男を持つなら一人にせよ、間男すれば磔にかかると嗜め、飛び出した猫を追って奥の間へ入る。

お玉がひとりになると、こたつで寝ていた以春〈吉田玉勢〉が起き上がって彼女を後ろ抱きにしてしつこく口説く。胸元へ手を伸ばされた手を振り離し、おさんへ告げ口するというお玉。それでもしつこく迫っていたところにおさんの母〈吉田簑一郎〉がやってきたので、さすがの以春も退散する。出迎えたおさんが父の姿が見えないのを尋ねると、父・道順は風邪気味で同道していないとのこと。おさんは母を奥の間へ招き入れる。

それと入れ替わりに、得意回りを終えた手代・茂兵衛〈吉田玉志〉が帰ってくる。客先で頂いた酒でいい気分の茂兵衛が煙草をふかしていると、相談があるとしておさんが声をかけてくる。彼女の相談とは、実家の窮状であった。かつては名家だった彼女の実家だがいまや逼塞しており、父が家を二重抵当に入れたことが債権者にバレて即座に金を返すか家を渡せと激詰めされ、きょうのところはなんとか二貫目だけ入れることで勘弁してもらえることになったが、その金すらままならないという。おさんから以春へ頼めばすぐに整うことであるが、両親は娘に負い目をつくらせたくないと言い、だからと言って助右衛門へ頼めば性根の悪さから以春に告げ口をされて事がよりこじれる。そこでおさんは茂兵衛に金の工面を頼んだのであった。お主の頼みと酒の加減もあって茂兵衛がそれを快諾すると、おさんはよろこんで母の元へ報告へ。茂兵衛は以春の印判をそっと持ち出して白紙に押すが、それを見ていた助右衛門が大声を上げ、家中が大騒ぎとなる。やってきた以春はいままで真面目一徹だった茂兵衛がどうしてこんなことをしたのかと言うが、茂兵衛はどうあっても口を割らない。助右衛門が茂兵衛を責め立ててギャアギャア喚いていると、お玉が突然以春の前に手をつき、茂兵衛のこの所業は自分のためにやったことだと言い出す。お玉の身元保証人である伯父・梅龍が借銭を返しかねて切腹すると言うので、それを助けるための金の算段を茂兵衛に頼んだというのだ。おさん母娘は意外な玉の働きに便乗し、一緒になって以春に許しを乞うが、なぜか以春はますます怒って茂兵衛とお玉の密通を詮議立てしはじめ、明日改めて保証人を呼び出すとして茂兵衛を隣の空き家の二階へ閉じ込めてしまう。そして以春はおさんの父の見舞いに行くとして、頭巾をかぶって外出する。

夜も更けた頃、お玉の寝床のある茶の間へおさんがやってくる。おさんがお玉の機転に礼を言うと、お玉は実はかねてから茂兵衛に思いを寄せていたことを告白する。どれだけ惚れても彼が靡くことはなく悔しく思っていたお玉だったが、さきほどの難儀を見て思わず助けに入ったというのだ。そして以春があれほどに怒ったのは、お玉が慕う茂兵衛への嫉妬からだと言う。今夜お玉が起きていたのも、夜毎忍んでくる以春を捕まえおさんの前へ突き出してやろうとの算段からだった。それを聞いたおさんは、お玉と入れ替わって今夜はここで寝て、自分自身で以春をとっちめて恥をかかせてやりたいと言い出す。おさんはお玉の寝巻を借りると茶の間の床へ伏せ、お玉は明かりの火を消しておさんの寝所へ向かう。

一方、空き家の二階へ閉じ込められていた茂兵衛が考えているのは、さきほどのお玉の志であった。日頃あれほどつれなくしていたにも関わらず、恨むことなく仇を恩で返してくれたお玉。彼女の想いに報じるため、茂兵衛は空き家を抜け出し、屋根と引窓を伝ってお玉の寝床に忍んでいく。茶の間。おさんは屏風に当たった人の気配に膝を震わせるが、抱きついてきた男の頭の頭巾を撫でて夫の忍ぶ姿だと思い込み、肌を交わしてしまう。

やがて夜明けが訪れ、けたたましく鳴く鶏の声とともに門の戸を打ち叩く音、以春の帰りを告げる声が聞こえる。助右衛門が迎えに出た提灯の明かりに浮かび上がるお互いの顔に、おさんと茂兵衛は驚くのであった。

「大経師内」は人形全員黒衣。最後は三味線や柝の音、人形の極めなしで定式幕だけが引かれていくという不思議な段切れ。

和生さんのおさんの人妻らしい清楚な美しさがよかった。おさんは結構若い設定のようだが、かしらや衣装からは結構大人っぽい印象。仕草の優雅さや上品さもあいまって、正直、以春や茂兵衛より上に見える(和生様には大変申し訳ございませんが、本当そうなっちゃってたので……)。

茂兵衛は生真面目で清廉な印象が玉志さんに似合っていて、とてもよかった。かしらの源太の若さをうつしてかすこし生硬な雰囲気に振っているのと、酔って帰ってくるところはヒョイヒョイとした所作がちょっと軽妙で、町人らしいところもよい。

おさんと茂兵衛の人形配役によっては「まあそりゃ密通しますわなあ〜」みたいな事故が起こりかねないと思うが、両役とも清楚さや清潔感がある人が当たってよかった。とはいえ、以春も若い人を配役しているせいか、結構清純派だったけど……。以春のお玉へのセクハラがマイルドで、おんしは紅粉屋の猫か!? 灰毛猫並みの根性見せたらんかい!! もっとガッツリいかんと話が意味不明になるど!! と思った。人形の技量そのものとは別に、セクハラのさじ加減調整というか、距離のはかりかたががうまい人とへたな人がいる。今月は桂川の儀兵衛(玉佳さん)が一番うまかった。

はじめの浄瑠璃だけのあいだ、猫を探しておさんがちょろりと出て、すぐ引っ込む。そのおさんがかわいがっているペットの猫チャンがちゃんと普通の猫サイズで驚いた。『冥途の飛脚』の「淡路町」の段切れに出てくるぶちいぬ、あれ、やばいくらいデカいじゃないですか。あのサイズの猛犬と戦おうとする忠兵衛はほんとすごいと思う。あの時点でおのれを顧みない無鉄砲さが出ている。あのデンでいうとこの話でも1m級の化け猫が出てきてもおかしくないと思っていたが、おさんの膝にちょこんと乗るサイズの、人形に対して子猫サイズの猫でよかった。

ところで猫の細かい話していいですか。はじめのほうでおさんとお玉が平織りの帯みたいなやつで猫じゃらしを作ってあやしてますけど、猫、ぜったい助右衛門の羽織についてるポンポンのほうに食いつくと思う(食いついてたけど)。実家で猫飼ってた頃、家中のポンポンとかファーはすべてヤツに食い荒らされた。で、ここでおさんのペットの猫を遣っていらっしゃる方、猫飼ったことない人でしょうね。ぜひとも猫カフェで猫の動きや姿勢を研究し、研鑽に励んで頂きたく存じます(突然のウエメセ)。あと、灰毛猫のいる「練物屋」って、ちくわとかはんぺんを売ってる店ってこと? 猫、めっちゃ食いつくのでは? と思っていたら、「練物屋」とは「生絹を灰汁で煮て、柔らかくした練絹を売る店」のことだそうです*1。最後に話自体とはまったく関係ないけど、茶トラのオスってめちゃくちゃデカくなるよね。紅粉屋の赤猫って、いくら愛らしく鳴こうが、見た目は灰毛猫より相当やばいガテン系ではないだろうか。

そして「饂飩に胡椒はお定り」、コショウっていまでいうコショウと同じもののことだろうか。うどんにコショウってかけたことないけど、今度かけてみようと思う。

 

 

 

岡崎村梅龍内の段。

京都の外れ、岡崎村に、『太平記』を語り聞かせる講釈師として身を立てるお玉の伯父・赤松梅龍の粗末な住居があった。そこへやって来たのはお玉を連れた助右衛門。戸口を叩いて大騒ぎする助右衛門に、梅龍〈吉田玉也〉が何事かと顔を出す。助右衛門はお玉が手引きして主人の妻と手代を密通させた上に駆け落ちさせたとわめき、かくなる上は二人が見つかるまでは保証人である梅龍にお玉を預けると言う。梅龍は逆に預けものの受け取りにも作法があるとまるで講釈を語るように助右衛門を責め立てるが、助右衛門は構わずに縛り上げたお玉を突き出す。伯父の顔を見て泣き出すお玉に、梅龍もまた涙を喉に詰まらせ、歯嚙みをする。お玉は、助右衛門がおさんに横恋慕していたのを自分が見張って邪魔した恨みからあれほど大騒ぎしたのだろうと言う。そして、本来は助右衛門とその手下になった腰元が磔獄門になるところを黙っていたのに恩が仇となったと悔し泣きするのだった。助右衛門は構わず帰ろうとするが、梅龍はその首根っこをひっつかみ、お玉に縄をかけて返すとはお上の威光を着る慮外者として籠の棒を引き抜いて打擲する。その勢いに助右衛門はしぶしぶ縄を解き、まだゴチャゴチャ言ったところを梅龍にポコスカ殴られてスゴスゴ帰っていった。

それと入れ替わりに梅龍の小屋の前に現れたのは、おさんと茂兵衛。不義の仲立ちの嫌疑をかけられたお玉の行く末を確かめ、また、父母を恋しがるおさんの実家に連絡をつけてもらおうと思ってここへやって来たのだった。二人が家の中の様子を伺うと、梅龍が『太平記』を引いてお玉に密通の仲立ちとなってしまったことを諫めているのが聞こえる。梅龍は、不義が事実でないにしても二人が駆け落ちしたことは事実であり、より一層の嫌疑を避けるため、おさんと茂兵衛がここへ現れても決して会ってはいけないと戒めるのだった。獄門にかけられても主人のために命を惜しむなという梅龍に、お玉はそれはもとより覚悟の上だが、おさんが心配であると涙を流す。

そこへおさんの父母が通りかかる。菩提寺である黒谷へ金を借りに行った帰りであった。おさんは思わず走り寄るが、父・道順〈桐竹勘壽〉は涙をこらえて振り払い、母は彼女を押し隠す。道順は、鳥でも雌雄はひとつがいであり、多くの相手とまじわるのは犬猫のような畜生の所業であると意見し、おさんが処刑されるようなことがあれば、妻がそれを嘆くのが悲しいと大声を上げて泣く。おさんは親に会えたからにはもう思い残すことはないと言うが、父は彼女を磔にさせまいと心を痛めているのだと語る。路銀のために着物を売払い薄着となったおさんを見た母は少しばかりの金を彼女に渡そうとするも、おさんは母からもらったこの「芦に鷺」の着物があれば寒くないとして、受け取った金は死後の弔いに使いたいと言う。聞いていた茂兵衛は自分ひとりで死ぬので、父母におさんを連れ帰って欲しいと頼む。しかしおさんはそれが出来るなら二人で永らえられる、不義は事実で悪名はぬぐえないと返し、茂兵衛は自らの故郷の丹波へ逃げようと言うのだった。月光があたりをありありと照らし出し、闇夜ならばお互いの顔が見えず未練が残らないところ、おさんとその父母は思い残しを振り払うことができない。父は黒谷の和尚から借り受けた金を「落とした」と言っておさんに拾わせ、路銀の足しにさせて去っていく。それを物干しにもたれて見送るおさんと茂兵衛の姿が月光に映し出された影はまるで磔の姿のようであり、またお玉がくぐり戸から一同の様子を見る影はあたかも獄門にされた首のよう。黒谷の後夜の鐘が鳴り響く中、こうして面々はそれぞれに別れ行くのであった。

今月はパンフレットのインタビューが玉也さんで、飛び上がった。梅龍の人物造形について、みんなが思っているけど口に出してはいけないから黙っていようと思っていた疑問をそのままおっしゃっていた。お答えはマイルドにぼかされていたけど……。それと、玉也さんが『太平記』好きというのが意外(?)だった。そんな玉也さんの梅龍は当て書きみたいになっていた。シブい感じでかっこよかったです(知性が一切ない感想)。

 

 

 

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丹波隠れ家の段。

まだ残雪の消えない立春の頃、奥丹波には万歳〈吉田玉誉=前期〉の姿があった。鼓を鳴らして万歳歌をうたい舞う芸人に、おさんは祝儀を包んで差し出す。しかしおさんの顔を見た万歳はなぜか「おひさしゅうございます」と言う。その万歳は京都烏丸の大経師の家にも出入りしている者で、彼女の顔を覚えていたのである。おさんははっとして自分は実家の窮状ゆえにここにいる、近所の者にはひかされてきた島原の傾城ということにしておいて欲しいと言いつけ、さらに祝儀を包む。芸人はそれなら近日中に参る烏丸の大経師には無事を伝えようと言うが、おさんは烏丸へは行かないようにと頼む。振る舞い酒のかわりにさらなる大金の祝儀を差し出された万歳は上機嫌で帰っていった。

こうしておさんが世間の狭さにおびえていたところに茂兵衛が帰ってくる。顔色の悪い茂兵衛は、大経師家の者がこの近在に宿を取っていること、このあたりの駕籠かきにまで二人の噂が詳しく聞こえていることを語って身を震わせる。二人はここにもいられないとして、茂兵衛と親しい者のいる宮津へ逃れようと話し合う。*2

しかしそのとき捕手の役人〈桐竹亀次〉が現れ、二人は周囲を取り囲まれる。歩み出た茂兵衛は、ここで武士相手に抵抗ができるような心得もあるが、主人に手向かうのと同じことになるとしておとなしく縄にかかると告げる。捕手たちは縄をかけながらもしおらしい二人を哀れに思うのだった。そこへウキウキやってきたのは助右衛門、喜んで二人を引き受けたいと申し出る。しかし役人は二人を召し捕ったのは京都からの解状によるものだとして一喝する。そうして助右衛門がヘコヘコしているところへ早駕籠で梅龍が駆けつけてくる。梅龍はおさんと茂兵衛に不義はなく、お玉の余計な言葉をおさんが誤解したことから間違いが起こっただけであって、その濡れ衣はお玉の責任だと言う。梅龍が手にしていた首桶にはお玉の首が入っていた。驚くおさんと茂兵衛。しかし意外なことに役人は「早まった」と言う。二人の有罪は決まっておらず、これからお玉を含めて取り調べるところだった、そうすれば三人とも無罪になるかもしれないところ、その証人であるお玉が死んでは罪は決まってしまったというのだ。梅龍は地団駄を踏み、腹を切るなら道連れだと言って助右衛門を斬りつける。額を斬られた助右衛門は血だらけになって一目散に逃げていく。梅龍はなおもそれを追おうとするが、捕手たちに引き止められる。こうしておさんと茂兵衛は役人たちに引かれていくのだった。

この段……、出演されている方には申し訳ないんですけど、蛇足ですよね……。岡崎までで止めるか、やるなら最後までやって欲しい。

でも、出演者はよくて、万歳はかわいかったし、三輪さんのジジイ役が上品でよかった。梅龍は話自体の破綻もあるけど、太夫の語り方の違いの影響で段によりキャラがバラついている印象だった。この段が一番零落した武士っぽさ、無骨な浪人ぽさがあって良いかなあ。話の内容は一番ないなと思うけど。桂川の長吉も太夫と段ごとの造形のバラつきによって幕が開いたり閉まったりするごとに人格変わってましたが……。

 

 

 

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第二部は出演者のパフォーマンスにはたいへん満足した。とにかく玉志さんがいい役でよかった。茂兵衛はかなり人を選ぶキャラクターだと思うが、その雰囲気にピタッとはまっていた。

が、話自体は上演が途絶えていたのがよくわかる微妙さだった。この話、観客全員が「なんで??????」となると思う。パンフレットやら上演資料集やらに技芸員の解釈等がいろいろ載っているけど、言い方は悪いけど、そのような無理のある屁理屈を後付けしてやらなきゃいけないなんて、やってるほうも大変。太夫はある程度その場その場でまとめられればいいと思うが、通しての出演になる人形は理屈をこねまわしていると収集がつかなくなるのではないか。個人的には茂兵衛が人違いに気づかなかったのには目をつぶれても、駆け落ちしたのがよくわからない。そうしないとその場で殺されもおかしくないとは思うけど。でももう次の段がはじまる頃には幕間にオヤツを食ったからかいろいろどうでもよくなってきていて、もはや人形の演技自体にしか気がいかなくなっているのだった。

 
 
 
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ひどいことを言うが、近松にぜんぜん興味がないので、正直、今年から2月東京公演が近松特集じゃなくなって嬉しい。ヘンな近松推しは有名だからと言って近松演目で文楽をはじめて見た人に「なんだやっぱり文楽ってつまんないじゃん」と思われるリスクのほうが高いと感じる。何十年も前の近松ブームに頼らず、ほかの演目の企画にもっと力を入れて欲しい。近松演目って玄人向けだと思う。とにかく配役が良くないとどうしようもない。だからヘタレクズ役は全部玉男様に振って欲しい。以上、のびのびとした個人の感想でした。

 

 

 

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おまけ。カットされている「奥丹波隠れ家の段」以降の展開あらすじ。

  • 様々な人の命乞いもむなしく、冷えきった風の中、おさんと茂兵衛は粟田口の刑場へと引かれていく。(おさん茂兵衛暦歌)
  • 刑場。見物の人混みをかきわけてきた道順夫婦が娘と茂兵衛の身代わりになることを懇願するも、役人頭は聞き入れず、警固の者は夫婦を打ち払おうとする。そこへ黒谷の菩提寺の和尚・東岸が走り出て、出家を棒で叩けば極悪罪であると言って二人をかばい、僧衣をかける。役人頭はお上に反逆する気かと腹を立てるが、東岸は「助ける」というのは僧侶も武士もかわらない三世にわたる功徳であり、ここで二人を助ければ現世の功徳、もしまた罪に処せられるとすれば自らの弟子にして未来の功徳であると語ると、群衆はわっと沸きあがる。こうして二人は助けられ、道順夫婦の喜びは万年暦のように尽きることがなく、ことし未年の新暦の使いはじめをめでたく寿ぐのであった。(粟田口刑場の場)

「おさん茂兵衛暦歌」は二人が引かれていく様子を暦にまつわる言葉を織り込んで歌う道行(?)で、内容はほぼなし。「粟田口刑場の場」では東岸が二人にかけた僧衣と功徳を結びつけて役人頭を説得するのだが、その理屈がよくわからなかった。理解できないのは仏教の知識がないせいだろうか。頭が悪すぎてそれすらわからない。勉強しなかった因果の報いはおそろしい。私がいままでの自分の人生で一番後悔しているのは、勉強せずに生きてきたことだ。

 

 

↓ 本公演に関する和生さんのトークイベント要約

  

 

 

 

*1:『日本古典文学全集 近松門左衛門集2』小学館/1975 による

*2:原作ではここで隠れ家の家主・助作(助右衛門のいとこ)が登場。おさんと茂兵衛は傾城とその恋人である金持ちの息子の駆け落ちになりすましており、道順から受け取った金を馴染み客から借りた金と偽って助作に預けていた。助作は預かっていた金を戻すのでここにいるようにとおさんに言って出て行く。おさんは宮津まで逃れられれば、そこから母の知己である切戸の文殊の法印を頼って落ちのびられるだろうと考えるが、実は助作は二人の件を役所へ通報しており、捕手が隠れ家を取り巻く。以降、助作の存在は除外されるが、現行上演とほぼ同様。