TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

文楽 4月大阪公演『本朝廿四孝』『義経千本桜』国立文楽劇場

今回のメイン演目『本朝廿四孝』の勘助住家。どの解説書やチラシを見てもサイコパスが思いつきを書き連ねたような脈絡のないあらすじになっているのでどうなっているのかと思っていたが、あのあらすじ群は迷妄ではなくすべて事実だった。

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突然ですが私の知性では話が理解できないので、あらすじ文中の登場人物名を長尾家=紫武田家=緑で色分けして表示したいと思います。そういう理由につき、後ほど正体を現す登場人物も色分けしますので、ネタバレ絶対いや族の方は今の時点でブラウザを閉じてください。

桔梗原の段。

ここは甲斐(武田家)越後(長尾家)の国境にある桔梗原。武田家の奴たちが飼葉用の草をモリモリ刈り取っていると、やってきた長尾家の奴が国境からはみ出とるやんとわめき立てて喧嘩になる。両家は仲がクソ悪いのであった。そこへ武田家の執権・高坂弾正の妻・唐織〈吉田簑二郎〉、長尾家の執権・越名弾正の妻・入江〈吉田一輔〉が現れて当てこすり合戦になるも、唐織入江に言い負かされてすごすごと去っていく。
さて、ふたたび静寂となった桔梗原に、幼子を抱いたひとりの男が現れる。いまは亡き在野の軍師・山本勘助の次男・慈悲蔵吉田玉男〉であった。慈悲蔵は「母への孝行のため」と言って涙ながらに一子峰松〈吉田簑悠〉を捨てて立ち去ってゆく。
慈悲蔵が去るのと入れ替わりに、武田家執権・高坂弾正〈吉田玉輝・ナントカ弾正役が多い気が?〉&唐織が現れ、峰松にかけられた「甲州の住人・山本勘助」の下げ札を見て色めき立ち、屋敷へ連れ帰ろうとする。と、長尾家執権・越名弾正〈吉田文司〉&入江がやってきて、両者はヤレ足がこっちの領土に入っていた、ヤレ頭がこっちに向いていたと言い合いをはじめる。そこで唐織が先ほどの逆襲にどっちの乳に吸い付くか勝負にしようと言ってきたので年かさの入江はぶち切れる。しかし峰松はどっちの乳房にも吸い付かなかったので、唐織が抱いていると一応泣き止むというのと、下げ札に「甲州」とあるというので、武田家高坂弾正が引き取ることになって両者は別れいくのであった。

桔梗原、ど田舎に見えて結構人通りが多い。大道具で真ん中に左右に別れる道標が出ているというのと(左が甲斐で右が越後だったかな?)、両家の登場人物がそれぞれ左右から出てくるので、登場人物と所属地域が視覚的にもわかりやすいようになっていた。でも知性がタコかニワトリ程度しかないため、どっちがどっちか1秒でわからなくなった。

入江は一輔さんには珍しく娘のかしらではなく、八汐のかしら。出演ここだけだったけど、意外性があって面白かった。

慈悲蔵が峰松を抱いて現れる場面、峰松の抱っこ用の着物(名前がわからない、ケープのようにかけているやつ)がかわいかった。ビビッドな黄緑に色々なおもちゃの絵柄が刺繍?されているというもの。慈悲蔵の身なりや身分に似合わない上等な着物で、子供が可愛がられているのがよくわかった。すぐ捨てるけど。慈悲蔵は玉男さん。きりっとした雰囲気と、芯の強い優しさがあって、良かった。

 

 

 

狂言の途中ではございますが、ここで吉田幸助改め 五代目吉田玉助 襲名披露 口上。みなさんピンクの裃で、口上は玉男さん、和生さん、勘十郎さん。ほかの登壇は前列に簑助さんと、後列に玉がつくみなさん。玉男さんは先代玉助(追贈。吉田玉幸)の思い出話を口上に盛り込んでいた。スマイルで口上される玉男さんを見て、隣の席の人が「笑ってるとこ、はじめて見たわ……」と驚いておられた。私もその衝撃で和生さんが口上で何をお話しなさったかの記憶が飛んだ。真剣に淡々とお話しされておられる和生さんのお顔だけは覚えている。勘十郎さんは新玉助さんの話だった。勘十郎さんのお話しぶりがおもしろいから良いんだけど、パンフレットの内容とかなりかぶりがあり、勿体ないので誰か勘十郎さんにパンフ見せてあげて。と思った。

なんというか全体的に大変ほのぼのしていた。やっぱり文楽はほのぼのしてますね。末長くほのぼのしていてほしい。

 

 

 

景勝下駄の段

雪深い信濃の山奥では、山本勘助の後家・越路〈桐竹勘十郎〉が亡夫の名跡を守り暮らしている。きょうは慈悲蔵の妻・お種〈吉田和生〉が義兄・横蔵の子ども・次郎吉の世話をしながら村の衆の相手をしていた。茶をしばく村の衆は、一家の弟の慈悲蔵は母はもとより兄にまで孝行する立派な心がけだが、兄の横蔵は家族や近隣の者に非道を働く横着者と噂している。そこへ慈悲蔵が母へ食べさせる魚を採って帰宅。お種は峰松をどこへやったか尋ねるが、慈悲蔵は金持ちへ養子に出したと言って取り繕う。さて、そんな山本家の門前に、従者を引き連れた立派な身なりの侍が姿を見せる。彼こそは長尾家の嫡子・長尾景勝〈吉田玉也〉であった。越路は寒さを気遣う慈悲蔵を雪見の邪魔をする不孝者となじり、彼が母のために採ってきた魚も受け取らず、真の孝行者ならタケノコを採ってこいと無理難題をふっかける。慈悲蔵はこの寒中にと困惑するが、越路はなおも追い討ちをかけ、杖で打擲しようとしたところ、履いていた下駄が脱げて飛んでしまう。それを見ていた景勝は歩みいでて下駄を拾い、越路の足元へ捧げ置いた。その人品骨柄を見た越路が只者ではないと彼を招き入れると、景勝は軍師山本勘助の長兄・横蔵を迎えに参上したと来訪の意図を伝える。前々から横蔵の姿を知っていたという景勝に、越路は彼を家来に差し出すと返答して主従の固めの箱を受け取り、景勝は雪の中へ去っていくのだった。

今回、配役表では横蔵・慈悲蔵の母にあたる役は「勘助の母」と表記されているが、慣例では「越路」と呼ばれているようなので、便宜上「越路」と表記する。

ツメ人形に傘を捧げ持たれた景勝は一瞬の登場。玉也さん、良い役だが、一瞬すぎだった。もっと他の段も出ないと景勝の登場人物としての良さはよくわからないだろう。

 

 

 

勘助住家の段

うわさの長兄・横蔵吉田玉助〉が猟から帰宅する。越路に足を洗わせながら獲ってきた小鳥は母にやるではなく自分で食べると言ったり、こたつがぬるいと言ったり、お種にセクハラしたりと話通りの横道者である。そこへ門前から「武田信玄参上」との声がかかる。慈悲蔵が戸口に出ると、そこに立っていたのは峰松を抱いた高坂弾正の妻・唐織だった。お種は驚いて峰松を預かってくださった方かと尋ねるが、唐織甲斐の国が預かるからにはこの子は信玄公慈悲蔵を軍師として迎えに来たと告げる。慈悲蔵が自分はただの山賤であり、父の姓も譲られないうちに軍師の奉公はとてもと断ると、唐織はこの子は乳も飲まず泣いてばかりいて衰弱している、夫婦して甲斐の国で守り育てないかと迫る。しかし、奥の間に控えた母から「子どもを餌にする汚い手口の信玄に仕えては武士が立たない」と言われ、慈悲蔵唐織と峰松を突き放して門を閉めてしまう。「信玄公はここで返答を待つ」として峰松を戸口に残して去る唐織慈悲蔵は苦しみながらも母や兄への義理を立てるとして、タケノコ掘りの身支度をして出て行ってしまう。残されたお種は峰松の泣き出す声を聞いて門口の錠を開けようとするが、慈悲蔵が結びつけた縄が雪で湿ってほどくことができない。そうこうしているうちに次郎吉が泣きだし、お種は家の中へ戻るが、なおも泣く峰松の声に耐えかねて門口へ走り出し、戸を突き破って我が子を取り上げ、胸に抱く。ところがそれを密かに見ていた唐織が「信玄公を抱き上げたからには慈悲蔵甲斐の国に仕えるもの」と声を上げる。我に返ったお種が動揺していると、懐剣が飛んできて赤ん坊を貫き、峰松は死んでしまう。驚いたお種が振り返ると、狸寝入りしていたはずの横蔵が次郎吉を抱いて走り去っていくのが見えたので、横蔵の仕業と思ったお種は狂乱し、懐剣をくわえてその後を追うのだった。

日暮れ時、家の裏の竹やぶに、タケノコ掘りの鋤を持った慈悲蔵がやってくる。タケノコはないだろうと思いながらも一心に雪を掘っていると、不思議や白い鳩がジョン・ウーの映画ばりにワッサワッサと寄ってくる。兵器のある場所には鳥が群れをなすとの言い伝えから、ここに父の遺した六韜三略の巻物があるのではと思った慈悲蔵は勇んでその場を掘りはじめ、ついに何かを掘り当てるが、突然横蔵が現れて割り込んでくる。二人は掘り当てた箱を奪い合うも、そこに越路〈ここから吉田簑助〉の「両人待て」の声がかかる。越路は雪中よりタケノコ、もとい何かの箱を掘り出した慈悲蔵の孝行心を認め、彼を下がらせた。残った横蔵に、母は無紋の裃と白小袖そして腹切刀を差し出し、長尾景勝の身代わりとなって死ねと命じる。実は将軍暗殺事件の嫌疑をかけられた長尾武田両家はそれぞれの嫡子の首を差し出さねばならない約束があった。かつて長尾家の嫡子・景勝諏訪明神で自らに似た横蔵を見かけ彼の危機を救ったのは後々偽首にするためで(横蔵が博奕の種銭づくりに賽銭泥棒をして斬り捨てられそうになったところを景勝が助けた)、さきほど景勝が越路のもとを訪ねてきたのはその時機が到来し、この白装束を届けるためであった。迫る越路に横蔵は隙を見て逃げようとするが、またもどこからか懐剣が飛んできて彼の膝に突き刺さる。膝に矢を受けてしまってな状態で、もはやこれまでと腹切刀を手にした横蔵は自らの右目をえぐる。何事かと驚く母、横蔵は「景勝に似た顔にこう傷つけて相好変れば偽首として役に立たない、今日より父の名・山本勘助を受け継ぐ」と宣言し、「長尾謙信の家臣・直江山城之助、これへ出でよ」と告げる。そこへ現れたのは長裃に姿を改めた慈悲蔵と打掛姿のお種であった。慈悲蔵=直江山城之助は実はかねてより長尾家に仕えており、兄の命を主君の身代わりとして貰い受ける引き換えに我が子の命を差し出すこととし、母もそれを承知していたのだった。山城之助は自らの目をえぐって身代わりをしのいだ兄の心意気に感心し、ともに謙信に仕えて欲しいと告げる。だが勘助はそれを断り、自分が仕える主は松寿君であるという。すると、奥の一間に次郎吉=松寿君を抱いた唐織が姿を見せる。勘助はかねてより軍学に励んでいたところに信玄公と出会って主従の契約を結んだが、義晴公暗殺事件が起こり、そのとき館から源氏の白旗とともに懐妊中の側室賤の方を連れ出したこと、産後亡くなった賤の方に代わり義晴公の遺児・松寿君を我が子と偽って養育していたこと、そして横蔵の様子を怪しんだ越路が慈悲蔵に掘らせた裏の竹林にはまさに源氏の白旗を隠していたことを告げてその白旗を掲げる。越路は、不孝者かに見えた横蔵が将軍家の危急にまで思いを巡らせていたことを知り、かえって父の名を上げる『廿四孝』にも優る孝行者だとして、亡夫の残した軍法の巻物を勘助に授けようとする。しかし勘助は自分は父の氏を賜れば十分であり、母方の氏を継ぎ母への孝に篤い弟・山城之助にその巻物を与えてほしいと言う。勘助は、景勝の忠心は理解するがその親謙信を疑い、しかしながらかつて景勝に助かられた恩に右目は越後へ献上するとした。勘助景勝が越路に捧げた片足の下駄を履き、竹を斬るとそこに源氏の白旗を揚げる。それぞれ軍師となった勘助山城之助の兄弟は合戦場での再会を約束して、甲斐越後に別れゆくのだった。

なんだこの『明治侠客伝 三代目襲名』みたいなオチは!? 「かんすけくん、えらいっ!!!!!」と言いそうになったよ*1。さんざんゴチャゴチャ大騒ぎをしたが、めっちゃ八方丸くおさまっとるやん。と思った。文楽のほかの話でもよくある、時代の大きなうねりに人々が巻き込まれ、それぞれの立場で出来うるベストを行動した結果、パチパチとパズルがはまって思わず人が生きたり死んだりする話ということね。

 

《自分なりの勘助住家要点まとめ》

  • 側室賤の方懐妊祝いの席で将軍義晴が射殺され、混乱の中、賤の方が誘拐される事件が発生。首謀者と疑われた甲斐武田家・越後長尾家は、3年以内に犯人を探し出し、それが叶わなければ両家とも嫡子、景勝と勝頼の首を差し出すことを将軍の正室に誓っている。
  • かねてより直江山城之助として長尾家に軍師として仕えていた慈悲蔵は、将軍暗殺事件の現場に居合わせながら、賤の方を何者か(=横蔵)に誘拐された責任を取って切腹しようとする。彼と密通し妊娠していた賤の方の腰元八つ橋(=お種)がその場に躍り出て一緒に死ぬと言い出すが、前々から二人の関係を知っていた長尾謙信が不義の罪にかこつけて追放処置にしてくれたおかげで夫婦は無事故郷へ帰ることができた。景勝や賤の方も二人の関係は黙認していた。(以上初段)
  • というような前段があり、慈悲蔵は、長尾家への恩義と、景勝の身代わりとして死すべき兄のために息子・峰松の命を引き換えに差し出す覚悟をしている。その話を聞かされた母は、いずれ兄を殺すことになるため、横蔵がどんな横道をしても許して甘やかしている。越路が慈悲蔵に辛くあたるのは、孝行心に篤い慈悲蔵に父の秘伝を授けるべく、それだけの器量があるかを試していた。
  • 一方、横蔵は以前より別途独力で兵法を学んでおり、武田信玄と出会って将軍家の危急を知り、将軍暗殺事件の現場にも居合わせていて、懐胎した側室・賤の方を館から連れて逃げ、彼女亡き後に一粒種・松寿君をひそかに育てている。母弟はこれを知らない(慈悲蔵は本編中のどこかの時点で横蔵の正体には気づいた?)。横蔵が異様に横暴なのはこの正体をカムフラージュするためなのか、天然なのかは謎。
  • 竹林に埋まっていたのは横蔵が埋めた源氏の白旗。越路は横蔵の行動があまりに奇矯なので何事かあると疑い、慈悲蔵に怪しい場所を掘らせた。慈悲蔵が秘伝書が埋まっていると思い込んでさかんにホリホリしはじめたので、横蔵がすっ飛んで来て無理やり箱を奪い取った。この時点では横蔵は慈悲蔵の正体を知らず、この後膝に飛んできた懐剣(賤の方を誘拐したとき、横蔵が景勝に向かって投げたもの)で気づいたのか、もとから気づいていたのか?
  • 十種香・奥庭はこの後の話。八重垣姫が諏訪湖を渡っている裏で、景勝・勝頼・勘助・謙信が将軍暗殺犯である斎藤道三を捕らえる(四段目)。兄弟は川中島の合戦で各主人を伴って再会し、その合戦を仕掛けて高笑いしていた将軍暗殺事件の黒幕・北條氏時とその臣下・村上義清を捕まえる。長尾家と武田家の不和は、実は天下に謀反するこの二人をとらえるための両家示し合わせての(それぞれ慮っての?)壮大な計略であった。おしまい。(以上五段目)

 

この段は文楽らしく、細かいことは最後に勘助がすべて「物語」で説明するので、その話をよく聞いていないと話が理解できない。ここまで理解するのに、まず事前に人様から説明していただいて、近代デジタルコレクションで床本探して読んで、上演前にパンフレットを読んで、上演観て、終演後にパンフレットを読んで、床本読んで、過去映像観て、もう一回床本読んでパンフレット読んでしまった。設定がかなり細かく、あまりに技巧に走っている作品と言われていることがよくわかった。というか、この演目は通し上演前提なんじゃないでしょうか……。そうでないとこの後の十種香も意味がわからない……。

横蔵の横着ぶり。帰ってきたところに母が気を使ってお湯を用意して足を洗ってくれるが、若い娘の手ならいいけどかあちゃんの乾物のような手はイヤじゃ。母が用意しておいてくれたこたつがぬるいと、もうすぐ焼き場へ行くんだからその稽古に熱めのこたつに当たっとれ。足はお種に揉んで欲しい。って、どんだけ思ったこと口に出しとんねん。横蔵、図体がでかくてこたつからめっちゃはみ出てて笑った。確かにあれだけはみだすなら熱めにしておいて欲しいかも……。人形がでかすぎてこたつに入りきっておらず、狸寝入りするくだりは単にふとんかぶってる状態だった。こいつ小鳥10羽程度じゃ消費カロリー追いつかないだろ。一升炊きの炊飯器から直接しゃもじで飯食ってそうと思った。

お種役の和生さんは落ち着いた女房ぶり。彦山権現のお園は絶妙に不安を煽ってきたが(和生様ごめんなさい)、お種はなじんでいた。次郎吉と峰松両方に大泣きされて混乱するさまがかわいそうだった。

 

タケノコ掘りの場面は不思議なセット。手前に竹林を透し彫りしたようなフレーム状の竹の書き割りを立て、奥に竹林の書割。その間で人形が演技をしている。慈悲蔵が雪を掘るたび、大量の紙吹雪の雪がモフンモフンと舞い上がっていた。浄瑠璃本文では鳩(とり)は兵器のあるところに群れるとされているが、パンフレットの解説では鳩は孝行者の象徴であるとしている。なんで両者で解釈が違うのか。

簑助さんの越路はかわいかった。凛としたおばあちゃん。簑助さんて平素より人形の首がよく見えるような構え方をなさっているけど、おばあちゃんでもああいうふうに持たれるのね。すっと華奢な、上品な雰囲気に見える。

物語の部分は、正直言って、自分が見た時(二日目)は横蔵は山本勘助の名を継ぐに足る説得力を感じなかった。自分がちゃんと話を理解していなかったことや、幕開けしてすぐだったというのも理由だけど、個々の方の頑張りの方向というか演技が噛み合っておらず、人形にしても太夫にしても個々は良いけど結構難しい状態になっていたように思う。どういうビジョンに持っていこうとしているのかよくわからないというか……。さらには噛み合いはともかく丁寧にやって欲しいと思う部分も多かった。物語の長さぶん間が持っていない。色々もやもやすることがあるので、東京公演でもう一度じっくり観たいと思う。大阪の後半を見に行っている方からは良くなってきていると伺っているので、東京で観るのが楽しみ。

あとは横蔵がいきなり割り込んできたときに慈悲蔵が言う「兄者人、そりゃお前無理でござりましょ」はそのまんますぎて笑った。

それと、今回、昼の部も夜の部もツインテールの男多すぎじゃないですか? 玉男さんなど昼も夜も青い着物でツインテールの山賤なんですけど、どうなってるんでしょうか。横蔵とか慈悲蔵とか六助がやっているあの髪型、どういう結い方になってるのか? 『仮名手本忠臣蔵』の田舎に引っ込んでからの勘平もあの髪型なので、山仕事をする人(山賤)の髪型だろうか。

 

 

 

義経千本桜、道行初音旅。

今回は上手袖に太夫三味線が並ぶのではなく、舞台奥にひな壇を設置し、そこに太夫・三味線が並ぶという華やかな方式。なんかすごい人数が並んでしまっているが、燕三さんと宗助さんもここにいるの? 若干勿体ない感じ。人形は静御前=清十郎さん、狐忠信=勘十郎さんだった。清十郎さんの静は清廉でかわいらしく、勘十郎さんの忠信は屋島の合戦を身振り手振りで語るくだりの仕草が美しくかわいらしい。かわいいがいっぱいで、ありがたい。本朝廿四孝で全ての思考力を使い切ったので、かわいい、しか言葉が出ない。

清十郎さんの静のあの正妻に対して引き下りそう感は最高だった。そして、幸いかなり前の方の席が取れたので狐忠信をじっと見ていたが、勘十郎さんは演技に余裕があって、派手な着付での出遣いでもノイズにならない。ちょこちょことした動きが優美だった。そしてここぞとばかりに(?)お若い太夫さん三味線さんが勘十郎さんを目で追っておられた。やっぱり、普段観られないからだろうか。

この道行初音旅は勘十郎さんが狐忠信で出ること前提の演目だと思うけど、つまりそれだけの舞台を引っ張れる人ということだよね。勘十郎様、みんなのスーパーアイドル。ここだけの話ではないが、人形の演技に関して「技量が高い」というのと「スター性がある」というのと「丁寧にやっている」というのと「頑張っている」というのはやっぱり違うなと思った。重複して持っている人もいるけど。時々、その意味で誰も出ていなくて、やばい段があるよな、と思った。(そのまんますぎる感想)

 

↓ 展示室に置かれていた狐忠信と静御前の人形。忠信、お前、そんなデカかったんか……。

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文楽劇場インスタ映えスポット。なぜか戦国BASARAとコラボ。登場キャラがかぶっているわけではないらしく、ファンの方に喜んでいただけるか心配。

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*1:みなさん、加藤泰監督の『明治侠客伝 三代目襲名』(東映/1965)をご存じですか。私、この映画、任侠映画でいちばん好き。あらすじを簡単に紹介すると、明治末期、大阪で材木商を営む古くからのヤクザ一家・木屋辰の二代目(嵐寛寿郎)が祭りの喧騒に紛れて刺される。間も無く二代目は亡くなり、その初七日の席で未亡人は一家の代貸・菊池浅次郎(鶴田浩二)を跡目に指名するが、遊んでばかりいた二代目の実子・春夫(津川雅彦)は血縁の自分が三代目を継ぐべきだとして浅次郎を罵倒し、母に耳を貸さない。浅次郎は実母に刃向かう春夫を叱りつけ、自分は木屋辰を継ぐが、これから先の時代に何の役にも立たないヤクザ看板の木屋辰だけを自分が継ぎ、一家の目指すところの人のために役立つ仕事であり今後発展していくであろう材木商事業の木屋辰を春夫に継がせ、堅気にすると宣言する。という超名場面があるのですよ。そしてそれを聞いていたえらい人・丹波哲郎がすかさず唐突に「菊池くん、えらいっ。なるほど、あんたは木屋辰百年の計を考えとるっ」と言うので観客はみんなあっけに取られるのであった。加藤泰の鮮烈で力強い演出が冴え渡り、鶴田浩二には珍しく清潔感とくすみのない真心のある役のすばらしい映画。加藤泰の映画ってかぎりなく浄瑠璃っぽいよね。『沓掛時次郎 遊侠一匹』とか『人生劇場』とか『花と龍』とか、ほんと浄瑠璃みたいだと思う。

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