TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

文楽 12月東京公演『ひらかな盛衰記』国立劇場小劇場

「ひらかな」と書いて「ひらがな」と読むトラップ、今年最後の本公演は中堅公演『ひらかな盛衰記』です。

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昨年の中堅公演は 5月『絵本太功記』だったが、そこで武智光秀役だった玉志さんに「えー!この人ほかの人となんか違うー!!」とビックリして一年半、今度は玉志さんが樋口役で出演ということで楽しみにしていた公演。とはいえ人形ダブルキャストの都合で前期・後期両方行ったので、まとめて書いていこうと思う。

 

 

義仲館の段。

木曽義仲とその御台・山吹御前、子息・駒若君、腰元・お筆との別れを描く段。

この段は前期・後期で2回見てほんとうによかったと思う。前期に見たときは「みんな一生懸命がんばってる!」という感じだったが、その一週間後、後期に見たときは人形も床もみなさん芝居がこなれて、劇的に向上していて驚いた。とくに良いと思ったのは武者姿の巴御前〈吉田一輔〉が長刀を振るいながら宇治の戦いを物語るところの長刀の扱いと、義仲〈吉田玉佳〉が白馬に乗って出陣するところの騎馬の姿勢。私のような素人目にも一週間の上演を経てこなれ、余計な力みがなくなって洗練されていて、すごく良かった。段の内容自体も良いんだけど、今回はそこに一番感動しました。

 

 

 

大津宿屋の段。

大津宿で、巡礼の旅の途上であった摂津福島の船頭・権四郎一家と、京をのがれた山吹御前と駒若君、そしてお筆とその父・鎌田隼人が隣り合わせ、権四郎一家の数奇な運命がはじまるという段。

とにかく権四郎〈吉田玉也〉の在所の武骨ジジイ感がすごかった。はんぱないジジイオーラを放っておられた。出てくるときののしのしとした動きとか、宿の部屋に入って手甲を口でくわえて雑に外すところとか、ものすんごく在所のジジイ感がみなぎっていた。立ち振るいまいも、からだが硬くなってきたけどまだまだ達者な体格のいい元気ジジイ感ある。ジジイジジイ連発してしまったが、とにかくすごいジジイオーラだった。さすが玉也さんと思った。

権四郎が隣で泣いている駒若君にやろうとする変な絵、なんだありゃと思ったらパンフレットに解説が載っており、大津絵という土産物用の民画だそうだ。権四郎は、駒若君には「座頭の坊主が褌を、犬が銜へて引く所」をあげて、孫の槌松には福禄寿(下法)の長い頭にはしごをかけて月代を剃る絵と鬼の念仏の絵を与える。舞台で使われているのはパンフレットに載っている素朴な濃色の彩色のものよりも優しく淡い色で描かれた可愛らしいものだった。この絵は一瞬しか客席側から見えないので、よく見ていないと何を渡したかわからない。一応内容に意味があり、伏線になっている絵なのだが、後列席だと見えないのでは……。

ここからのお筆は旅姿の黒い着物で色っぽい。個人的にお筆は後期の勘彌さん目当てだったんだけど、思っていた通り、上品で清廉かつ色気があってとても良かった。それと、姿勢なのか動きなのか、お人形が華奢な感じに見えるのが良いよね。別の機会に妹千鳥とのからみのある段も見てみたい。

あとは座敷の奥の襖を開けようとする槌松に権四郎が「その襖開けんものじゃ、怖いぞ怖いぞ」というところ、開けられない書割の襖をつかもうとする槌松役の子の姿は袖をしぼるぞあはれなる。この後悲惨な感じで死ぬ分、11月大阪の宵庚申で書割の茶釜をはたきがけしていた勘十郎様以上にかわいそうだった。

 

 

 

笹引の段。

急襲された宿屋をのがれ、駒若君を抱き山吹御前を連れて笹林へたどり着いたお筆。しかし、彼女が敵を追っているすきに駒若君は番場忠太に首を掻き切られ、山吹御前は悲嘆に暮れる。だが、戻ったお筆がよくよく確かめてみると、殺されたのは駒若君ではなく権四郎の孫・槌松だったという話。

ここも2回見てよかった段。番場忠太役の玉勢さん、演技がとても良くなっていて驚いた。劇的向上度では玉勢さんが一番かも。

最後、首のない槌松、山吹御前、鎌田隼人の死体が転がるさまは人形ながらおそろしい。本当に死体が転がっているような無残な風景である。人形は人形遣いに持たれていなければやはりただの人形なのだが、ひとり生き残ったお筆がそこにいるため、ただ置かれただけの人形のその虚無さがおそろしかった。

 

 

 

松右衛門内の段。

大津の事件からしばらく後、権四郎一家は取り違えて連れ帰った駒若君を我が子、我が孫のように育て、先方が槌松を連れて訪ねてくるのを心待ちにしていたが……という話。この段、話がすごく難しくないですか? 今回は大津宿屋〜笹引がついているからちゃんと見ていればわかるし、よく聴いていればとても面白い話だけど、隣の席のかたが大津宿屋〜笹引をスヤっておられて、松右衛門内の展開に「???」となっておられた。

そんな松右衛門内、はじめに出てくるツメ人形の近所の茶飲みマダムたちが「孫、なんか急にこぎれいになってない?」と突っ込みを入れてくるのには笑った。そしてマダムたちに出される茶菓子(?)。あれ、菅原伝授の寺入りで千代が持ってくる手土産と同じだと思う。

しかし、松右衛門〈前期=吉田玉志〉の出はあまりに凛々しすぎて、びっくりした。ちゃんとした用事からの帰宅なので肩衣をつけて出てくるんだけど、「こんな婿さん在所におらんやろ!!!どこで拾ってきたんじゃ!!!!!」って感じのすさまじい凛々しさだった。いや、町人は町人なんですけど、なんというか、服装が地獄のようにクソダサいイケメンが現れちゃった、みたいな……。いや私はこれを観に来たんですけど、やっぱりごめん、どう見ても一般人じゃなかったです。玉志さんは常に凛々しいけど(時に面白いほど凛々しい)、どうやって人形に凛々しさという抽象的な印象をもたせているかはじっと見ていたけどよくわからなかった。姿勢や動きのメリハリ? ポーズを決めてぴっと静止させ、止まってからポーズを直さないから? 袖をピッピと返して樋口次郎兼光の名乗りをする場面、このあとの逆櫓の出で髪をさばき豆絞りのハチマキで出てくる姿など、その凛々しさがとても活きておられた。

あとは突然ハチマキをしめてすごい勢いで包丁を研ぎ始める権四郎が怖い。包丁がおもちゃっぽくなくてギラギラしているのが文楽っぽいと思った。

 

 

 

逆櫓の段。

「逆櫓」の稽古をつけてもらいに訪ねてきた船頭たちを連れ、樋口は沖へ出て面々に「逆櫓」を伝授する。しかし船頭やその主・梶原景時は彼の正体を見抜いていたという話。上演前、ロビーで「“さかろ”って何?」「たぶんバックできるんじゃない?」と話していたお客さん方がおられたが、まさにその通り、松右衛門内で脳の容量をすべて使い切っている身としてはわかりやすい名前で助かる。

沖へ出て「逆櫓」の説明をする樋口の振りは人形とは思えない華麗さ勇壮さで驚いた。とくに「スハ負け戦と見る時は……」のところはもう本気でびっくりして「!?!?!?!?」となってしまった。このときは人形がかなり上手にいるので、中央あたりの席を取っていた私は人形を向かって左側面から見ていたのだが、のびきった腕やからだの動きが立体的でなめらか、かつキビキビとしたメリハリがあって人形とは思えず、驚いた。その場面でおひとりだけ拍手されているかたがおられて、わかる、このかたは義理ではなく本心から拍手しているんだなと思った。私はびっくりしすぎてできなかったが、これからは拍手したいと思った。

今回は樋口が松に登る物見〜畠山庄司重忠の登場まで全部上演していた。よって松がめっちゃデカかった。立派な逆櫓の松で、樋口が登っても大丈夫なデカさだった。畠山庄司重忠〈吉田玉輝〉も美しく輝くばかりで良かった。この人ってわかってて駒若君を見逃してるんですよね??? そしてまったく関係ないけど、ひょんなことから玉輝さんのお年を知り、え!?!?!?そのお年であんなどでかい人形持ってるの!?!?!?と驚いた。玉輝さん堂々とした悪役が多いので人形がどでかいこと多いですけど、この人形なんかとくに武装しててすんごい重そうな上にぴくりともせずじーっとしてるのに……。立役の人はやっぱり体力ありますね。と思った。

ここは床も大変よかった。睦さん&清志郎さんは最初に観たときもよかったけど、2回目観たときにはさらによくなっていて、先を切り開いていこうという大変な気迫を感じた。たんに激しいだけでなく、それに雑にのっからず、ひとつひとつきちんと丁寧にやっておられると感じた。そこが一番良い点だと思った。やはり大きな人形って床が大きくないと映えないと思うので、その点でも今回の逆櫓は人形が見栄えしてとても良かった。

ところで逆櫓の樋口のサバみたいな柄の衣装、よく見ると真珠のようなやわらかな色合いのサテン風のつやつやした生地でできており、サバ柄は刺繍で描かれていて、ところどころに銀の糸が混じっていて美しかった。さすが主役、いい服着てますね。

 

 

 

上記ではお筆=勘彌さん(後期日程)、樋口= 玉志さん(前期日程)について書いたが、お筆前期の簑二郎さん、樋口後期の幸助さんも大変がんばっておられた。ダブルキャストの両日程観ると、みなさんそれぞれに良いところがあるし、役の解釈や演じ方の違いも見られて面白い。樋口のほうは左遣いは全日程同じ方なのかな? お疲れ様でした。

いつもの本公演も良いけれど、中堅公演は応援している方が良い役で出ているのを見られて楽しい。本領発揮の方、ちょっと背伸びの方、緊張されている方、いろいろおられる。通常の本公演よりピュアに感じられる部分もあって、純粋に文楽って楽しいな〜と思える公演だと思う。

 

 

 

国立劇場のインスタtheやっぱりキャプションが鬼長。樋口・玉志さん篇です。

 

今日の写真は12月文楽公演『ひらかな盛衰記(ひらがなせいすいき)』だよ✨ 『ひらかな盛衰記』っていう外題(タイトル)は、「『源平盛衰記(げんぺいじょうすいき)』(『平家物語』の異本)を分かりやすくした」という意味なんだよ~♪ 『源平盛衰記』に描かれる木曽義仲(きそよしなか)の最期と樋口次郎兼光(ひぐちのじろうかねみつ)の降伏の裏側には実はこんなことがあったんだよ、という風に作られたお話なんだ。 孫を殺された悲しみと怒りを持つ舅・船頭権四郎(ごんしろう)に、礼儀を尽くして主君・木曽義仲の若君の命を助けて武士道を貫かせてほしいと願う樋口。 二人のやりとりが涙を誘うよ(´;ω;`)ブワッ… 今回の上演では義仲が出陣する「義仲館の段」がついていることで、さらに物語が分かりやすく楽しめるようになっているんだ~⭐️ #国立劇場 #くろごちゃん #ひらかな盛衰記 #平家物語 #木曽義仲 #逆櫓の松 #文楽 #文楽鑑賞教室 #文楽みたよ #伝統芸能 #bunraku #nationaltheatre #tokyo #japan #cooljapan

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