TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

文楽 12月東京公演・文楽鑑賞教室『日高川入相花王』渡し場の段、『傾城恋飛脚』新口村の段 国立劇場小劇場

文楽最大のチケット争奪戦が繰り広げられる東京の鑑賞教室公演。土休日は一般発売までに売り切れる日程もあり、初心者はチケットを取ること自体ができない。会期を伸ばすか、日曜も鑑賞教室2回公演にするとかして欲しい。

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配役違いとなるBプロ前期、Aプロ後期を鑑賞したのでそれぞれの感想を。上演は『日高川入相花王』渡し場の段、解説・文楽の魅力(三業解説+あらすじ解説)、『傾城恋飛脚』新口村の段だった。

 

 

 

まずBプロ前期篇。

早速だけど新口村。忠兵衛〈吉田勘彌〉と梅川〈豊松清十郎〉、揃いの黒着付の二人が出てきたとき、あまりの透明感とキラキラな少女漫画ぶりにビックリした。まじお人形さんみたいと思った(お人形です)。まるで陽に当たった華奢な氷の結晶のようで、そのきらめきは一瞬であっという間に溶けてしまいそうに儚くて、とにかく、キラキラしていた。むかしの美男美女のたとえで「羽子板から抜け出てきたような……」という言い回しを聞くことがあるが、まじ、羽子板から抜け出てきたのかと思った。ここまでの曇りない透過感はやはり文楽ならでは、美しい。

それと孫右衛門役の玉男さん。雪の中をゆっくりと歩いて出てくるのだが、その上品でゆったりした足取り、そこからもう舞台の空気が違っていて、出てきた瞬間にびっくり。それまでに出てくる在所のおもしろメンバーとは異なる垢抜けた枯淡な雰囲気、なるほどそりゃ大百姓だよと思った。梅川忠兵衛の少女漫画風世界観と、上品だけどもうちょい線の強い印象の玉男さんがどう共存するんだ?と思っていたけど、上品で優しい大きな人柄を感じさせるおじいさんとして自然に同居していた。9月の金藤次に続き、グッドなジジイ役だった。最後、忠兵衛を抱く手つきにも「うんうん」っていう優しさがこもっていた。

奥の床は千歳さん&富助さん。11月に国立劇場でおこなわれた素浄瑠璃の会でも同じく新口村をおふたりの通しで拝聴し、それがとても素晴らしかったので期待していたんだけど、人形付けるとほんとより一層素晴らしかった。「涙の暇に巾着より金取り出だし……」で孫右衛門が梅川に小判の包みを渡すところなど、涙、涙。新口村は孫右衛門と梅川の話と解説でもあったけど、その通りだなと思わされるしみじみと良い浄瑠璃だった。

 

 

 

Aプロ後期篇。

こちらは日高川清姫役が紋臣さん、美少女役の本領発揮でよかった。はじめBプロの簑紫郎さんより着物の右肩をかなり落として出てきたのでビックリしたが、仕草は可憐、清楚風。対岸へたどり着いたところで清姫のガブのかしらの仕掛けを使われなかったのは役の解釈の違いによるものでしょうか。三味線船頭役のカンタローもよかった。

 

解説パートでは、友之助さんの出のメロディ解説の謎のモノマネがキムタク(二枚目)と猪木(武将)じゃなくなっていた。さわやかイケメンとおすもうさんという、抽象的なものになっていた。でもなぜか女性のたとえはAKB(娘)と鈴木京香(姫)になっていた。なぜ姫のたとえが鈴木京香なのかよくわからなかったが(ご本人の好みによるもののようです)、学校の授業で見にくるような中高生、鈴木京香を姫キャラと思っているのだろうか。私ですら鈴木京香って結構大人の女性イメージなのだが、でも、友之助さんには自由に生きて欲しいと思った。そして、人形解説の玉翔さん、自称が「あいあむざもーすとはんさむがーいいんぶんらくー!」から「大地に咲く一輪の花!!」になっておられた。うん、一輪のお花さんなのは知ってた。と思った。Aプロ後期は「社会人のための文楽鑑賞教室」と通常公演の2回観たのだが、「社会人のための〜」のほうが(なぜか)玉翔さんがフランクで、左遣いは小道具の出し入れもするという解説で「お人形がスマホを袂から取り出して電話をかける」演技をやってくれた。そして、『新口村』のあらすじ解説で交代する靖太夫さん the 常にド仏頂面キープを「カラオケの十八番はちあきなおみの『喝采』」と紹介し、靖さんを笑わせておられた。靖さんによると、新口村って奈良の人には有名で、何故かと言うと運転免許センターがあるので免許を持ってる人はみんな行くからだそうです。

 

新口村は梅川=吉田和生、忠兵衛=吉田玉志、孫右衛門=桐竹勘十郎の豪華メンツ。和生さん&玉志さんの梅川忠兵衛は大人っぽく色っぽい雰囲気で、これもとってもよかった。梅川が上り口に腰掛けた孫右衛門の着物のすそを絞ったり、下駄の鼻緒をすげてあげるところなど、人形のからだの位置が低くて、心からいたわって直してあげている感じ。じっと手元を見ながらちょこちょこと鼻緒を直してあげているさまなど、梅川のもともと持っている優しさがしみじみと感じられた。ってよく見たら別に本当に鼻緒をすげ直しているわけじゃないのは面白かったけど。お人形のおててではそりゃすげられませんよね……。ちなみにBプロ梅川の清十郎さんは持ち前の真面目さで、鼻緒直しを和生さんにも増して真剣にツンツンチョコチョコやっておられた。嫁にきてくれと思った。

勘十郎さんの孫右衛門もとても良くて、視線のつけかたで感情表現が大きく出ており、柱に腕を巻きつけながら妙に親切に介抱する梅川の様子をじいっと不思議に見つめているさまなど特によかった。「もう手を洗はしやつて下さりませ」でそっと梅川の手をどけてやる仕草も良い。勘十郎さんて普段からなんというか人形に相当思いつめた感があると思うけど、在所の善人おじいさんキャラとして、それが良い方向に出ていたと思う。

玉志さんの忠兵衛は初めは凛としていて、しかし孫右衛門が出てくると急に子供になってしまうのが可愛くてよかった。最後に孫右衛門のひざにすがりつく姿など本当幼い子供のようで、さっきまで張り詰めていた気の糸がぷつんと切れたみたいだった。あの凛々しさでは公金横領しそうもねえな〜と思ったけど、やっぱり横領するかも〜(?)。でも、村人が通り過ぎるシーンのリアクション大王ぶりは今年2月東京の俊寛の康頼以来のすごさだった。あのくだらない一言コメント連発最高だよね。村一番の茶飲みじゃ。とか。どうでもよすぎて。

そしてすっごくよかったのが奥の津駒太夫さん&宗助さん! 津駒さん本当よかった。先述した11月の東京素浄瑠璃会の日、広島の福山でも津駒さん太夫で新口村を単発公演で上演していて、800kmの即時移動はリニア新幹線が開通していない以上無理なのでそちらへ行くのは諦めたけど……同日じゃなかったら絶対行くべきだった!と思わされた。

最後、梅川と忠兵衛を姿が見えなくなるまで見送ったあとの孫右衛門。この所作が玉男さんと勘十郎さんで違っていてフーンと思った。玉男さんは傘を閉じて顔を隠し、少し屈んで二人が去ったのと逆方向へ向きゆっくり歩きだそうとして幕という所作。勘十郎さんは傘を閉じて顔を隠した後、そのままうずくまってうつむき、震えたまま幕という所作。記録映像(二代目桐竹勘十郎)で見たことがあるのは前者だったけど、勘十郎さんはわかりやすくするためその場にうずくまらせたのかな? ストーリーが相当理解できてないと、傘をすぼめて逆方向へ歩いていくことが何を示しているか、確かにわからないと思う。

 

 

大阪の鑑賞教室はバラエティ豊か&あふれるチャレンジ精神な配役で初心者もファンもワイワイ楽しめる構成だけど、東京は「初心者にはトップクラスの芸を!」という方針なのね。AプロもBプロも大変豪華だった。ふだん千歳さんと津駒さん、玉男さんと勘十郎さんがダブルキャストになることは絶対ないから、ファンとしても見比べが出来て大変オイシかった。ただ惜しむらくはやはりチケットの取りにくさ。私もできればBプロ前期もう一回観たかった。でもこれは文楽の東京公演の集客が安定している証拠だから、仕方ないですね。こういうのを学校の授業で観られる若者が羨ましいです。伝統芸能クラブ等なのか、小学生くらいの子や文楽の客には珍しいピチピチボーイズもいて、客層の幅広さに驚きでした。(最近森羅万象に驚いてしまう自分)

 

 

 

国立劇場のインスタtheキャプションが鬼長。ちょうど清姫が大蛇になるところを描いているよ⭐︎ ってかわいらしく言われても。2枚目に玉翔さん、3枚目に玉男様&清十郎さんの写真があります。国立劇場のインスタはウェブサイトやTwitter未掲載の舞台写真が見られるのが良いんですが、歌舞伎は役者紹介があるのに、文楽は技芸員紹介がないのが不思議。みなさま謎のおじさんたちと化しておられます。

 

文楽鑑賞教室を紹介するね✨ まずは『日高川入相花王(ひだかがわいりあいざくら)』「渡し場の段」! 清姫(きよひめ)が自分を裏切った僧・安珍(あんちん)を追いかけて、遂には蛇になって安珍を焼き殺したという道成寺(和歌山県)の伝説を踏まえた作品なんだよ~。 「渡し場の段」はちょうど清姫が大蛇になるところを描いているよ⭐️ 次は「解説 文楽の魅力」! 若手の技芸員さんが三業や作品について分かりやすく解説してくれるんだ~✨ そして、『傾城恋飛脚(けいせいこいびきゃく)』「新口村(にのくちむら)の段」! 公金を横領(なんと当時は死罪!)して恋人の梅川(うめがわ)と大坂から故郷の新口村(奈良県橿原市)まで逃げてきた飛脚屋の養子・忠兵衛(ちゅうべえ)。 実父に一目会いたいと思う忠兵衛だけど、父の孫右衛門は忠兵衛の養い親への義理から会えないと言って……。 孫右衛門の子を思う深い愛情にぼく泣いちゃった(´;ω;`)ウッ… 文楽鑑賞教室は初めての人にも楽しめるからおすすめだよ💖 #国立劇場 #くろごちゃん #日高川入相花王 #傾城恋飛脚 #安珍清姫 #道成寺 #和歌山 #奈良 #文楽 #文楽鑑賞教室 #文楽みたよ #伝統芸能 #bunraku #nationaltheatre #tokyo #japan #cooljapan

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おまけ

田中登監督の時代劇ロマンポルノ『㊙︎女郎責め地獄』は最下級の女郎と人形浄瑠璃(いわゆる文楽ではない)の人形遣いのねじれた関係を描く物語。劇中にはいくつかの浄瑠璃が使われていて、そのうちクライマックスには『日高川入相花王』の渡し場の段が結構長く流れる。ノンクレジットなので演奏者はわからないんだけど、これがものすごくうまいんだよね。むかしこの映画を観たときはものが全くわかっていなかったので、単なるBGMと思っていたけど、いま観るとこのうまさがわかる。ええーっと思った。ほかの場面で流れる曲は女流で、かつ義太夫じゃないと思うんだけど、ここだけは男性で、文楽の音源を流用してるんじゃないのかなあと思うんですが、もし演奏者をご存じの方がいらしたらご教示ください。もしかしたら清元や歌舞伎の竹本かもしれないけど(鳴り物が入っているので少なくとも舞台録音?)、いずれにしてもいまの文楽からは考えられないほどにうまいです。

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※成人映画

 

 

 

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