TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

文楽 6月大阪・文楽鑑賞教室『二人三番叟』『夏祭浪花鑑』国立文楽劇場

東京の鑑賞教室が取れなかった悲しみで行ってしまった。鑑賞教室大阪公演。

東京の歌舞伎座の一等席が2万円近いことを考えると、観劇料が手頃な文楽を東京から大阪へ観に行っても安いもんである。交通費を払っても、大阪の方が東京より良い席を取りやすいことを思えば大阪での鑑賞はメリットが非常に大きい。新幹線で柿の葉寿司が食べられるし。劇場でも柿の葉寿司食べられるし。(2回食った)

これまでは配役を確認せずチケットを取っていたが、このときは配役を狙って取った。人形の配役が団七・吉田玉男、義平次・桐竹勘十郎、三婦・吉田和生の回。4月公演でのスヤりを反省して午後2時開演、これだと東京朝10時台の新幹線でも間に合うので余裕である。時間が中途半端なので新幹線も空いていて快適。

 

f:id:yomota258:20151030184534j:plain

鑑賞教室ということで、冒頭の『二人三番叟』のあと、本編の前に技芸員さんが「文楽とは何か」をレクチャーしてくれる。文楽のシステム説明と、太夫の語り方、三味線の演奏方法、人形の動かし方の解説。文楽および太夫の解説と演目解説を担当したお若い太夫さんがホワ~っとした大阪弁で癒された。舞台ではみなさんキリッ☆としているが、普段はホワ~っとしてはるんですな……って当たり前か。登場人物「三婦」の「さぶ」のイントネーションが標準語どころか浄瑠璃中のイントネーションとも違ったのが衝撃的だったが……(関西弁の「猿」と同じイントネーション)内々ではああいうイントネーションなのかな。

 

三味線の方からは登場人物による演奏法の違いの説明があるのだが、イケメン(二枚目)・キムタク、豪壮な人(武将など)・アントニオ猪木の例えが古くて笑った(失礼)。お師匠様方や観客の年齢層的にそうしてるんだろうが、お若い三味線弾きさんだったのでその方もきっと心の中では「古っ!!!」と思っていたことだろう。私はてっきり誰もが知っており誰もが認めるイケメン=松潤あたりを言うのかなと思っていた。それにつけてもイケメンは出てくるときの伴奏からして違うとは、古典芸能の世界は身も蓋もなくておそろしい。人形に生まれなくてよかった。

 

人形の解説はとてもわかりやすかった。人形の動かし方の手順、とくに「主遣いが“図”というサインで合図している」というのが本や動画などで見てもよくわからなかったが、やっと理解できた。口で説明されながら実演だとわかりやすい。

女形の人形の定番の演技で「手拭いや袖を噛み締める」があるが、そのとき口針に引っ掛けた手拭を観客に気取られずいかに自然に抜くかのテクニック実演が面白かった。布を人形の口に上向きに打ってある針に引っ掛けると、横や下に引いただけでは抜けない。どうするかというと、涙を拭う(目元をこする)演技をして人形が若干顔を伏せ、手を口元より上にあげたときに針から抜いているとのこと。舞台を見ている分には自然に流れていく演技も、自然な流れに見せるために細かい手順まで研究されていることを改めて認識した。

この演技解説の部分のみ、人形遣いさんが動きに合わせて腹話術的に人形の台詞を言うのだが(ひとりごと?)、女形の人形なら、ちょっと声色作って「(手拭を噛み締めて)キー!」「(手の甲を頬に当てて)オホホホホ♪」とか、普段観られないお姿のかわいさにキュンとした。女形の人形の足がどうなっているかの解説では実際に着物の裾をまくって見せてくれるのだが、そのときにちゃんと人形が自分で「ちょっと恥ずかしいけど……あらよっと☆」と着物の裾をまくる演技をするのも小技が利いている。あと、舞台裏の写真など見た時も思ったのだが、人形って持ち運ばれるとき(主遣いに渡されるとき)はお弟子様に姫抱っこされてるんですね。かわいい。

 

どの方からも、「お客さんにきょういっぺんは笑って帰ってもらおう!」という心意気を感じた。客席の反応も大変によくて、大阪のお客さんは本当にコロコロ笑うな〜と感じた。学校の授業の指定で観に来ているのか、学生さんの姿も多かった。

 

本編は有名な2段のみの抜粋。事前レクチャーであらすじや見所の解説があるので入り易かった。あらすじだけだと義平次がクソジジイとしか思えないが、義平次は結構チャーミングで、クソジジイだけどクルクル可愛くて憎めない。団七にわざとドンドンぶつかったり、うちわで股間をパタパタしたり。も〜、おじ〜ちゃんはしょ〜がないな〜^^と思っちゃう。金にがめつすぎたせいで普通に残忍な感じで殺されたけど……。これはもとからこういうもんなのか、それとも人形遣い(この回は勘十郎さん)個々の裁量なのか。もっと早く行くのを決めて、配役の違う午前の部も取ればよかった。完売だった午前の部だと和生さんが義平次。三婦役の和生さんがかなり良かったので、その意味でも見てみたい回だった

 

公演プログラムの販売がないので、入り口近くで配布されていた解説冊子をもらった。『夏祭浪花鑑』の上演パートのあらすじがほのぼのとした絵柄のまんがで描かれているのだが、内容が結構えげつないため(そもそもチラシでも本演目は一応「高校生以上におすすめ」になっている)ほのぼのタッチとの時空のねじれがすごくて、シュールなことになっていた。

何はともあれ、玉男様と勘十郎様の共演いとありがたしって感じでした。