TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

2012ベストムービー10本(旧作だけど)

2012年のベストムービー10本です。



┃ 事件記者(全10作)

  • 監督=山崎徳次郎
  • 脚色=西島大+山口純一郎+島田一男
  • 日活/1959〜1962
  • 『事件記者』『事件記者 真昼の恐怖』『事件記者 仮面の脅迫』『事件記者 姿なき狙撃者』『事件記者 影なき男』『事件記者 深夜の目撃者』『事件記者 時限爆弾』『事件記者 狙われた十代』『事件記者 拳銃貸します』『事件記者 影なき侵入者』の全10作
  • 出演=沢本忠雄、永井智雄、大森義夫、原保美、滝田裕介、園井啓介、高城淳一山田吾一

警視庁詰めの新聞記者=事件記者たちの取材合戦や仕事ぶりを描く職業もの。各作60分程度のテレビドラマサイズのボリュームなんですが、その短さを活かしての息もつかせぬ緊迫したサスペンスとキャラ立ち抜群な仕事仲間との楽しくも厳しいやりとりが展開され、本当、すばらしいのひとことに尽きました。そのクオリティを全10作保ち続けたことも含め、大変レベルの高い作品であると感じます。どれもすばらしい作品ですが、私のお気に入りはおでん屋台が密造拳銃レンタルの仲介所だったという9作目『事件記者 拳銃貸します』。新聞記者の仕事とは、という職業上の倫理もテーマになっていて、見応えのあるエピソードです。まったく名前が知られていない、しかも出演者も地味なSP*1でこんなにもレベルが高い作品があるとは、本当、名画座通い冥利に尽きました。10作連続上映していたときのラピュタ阿佐ヶ谷の熱気も忘れがたい。もともと常連さんが多い名画座ではありますが、事件記者を上映していたときは本当に常連さん大集合といった感じで、お互い口を聞くとか感想を話し合うとかすることはなくとも、確かに毎回みんなで盛り上がっていたという感覚があります。最終回の上映時は拍手したい勢いでした。あのお祭り感覚も含め、2012年の思い出として忘れがたい作品です。



┃ (秘)色情めす市場

(秘)色情めす市場 [DVD]
釜ヶ崎で生きる売春婦やそのヒモたちを描くロマンポルノ。有名作なのでタイトルだけは知っていましたが、実際に観て大きな衝撃を受けました。冒頭、規則正しく鳴り続ける梵鐘のような鐘の音をバックに、釜ヶ崎の街をヒタヒタと歩いてゆくヒロインの姿が写ります。モノクロであることも手伝って、この世の風景とは思われない。というか、思いたくない。見たくなかった世界が写りまくっているというか、この見たくない感はほんとちょっとすごい。悪趣味とか見世物感覚での覗き見とか鬼畜系とか、そういうのすべて振り切ってる感じ。ヒロインとその母は親子揃って売春婦。母娘で客を取り合い、罵り合う。ヒロインの弟には知的障害があり、彼女はその弟を深く思いやっている。堅気の世界にいられなくなり、釜ヶ崎へ逃げ込んでくる男と女。路上に座り込んだり、幽鬼のように往来を歩いてゆく人々(※本物の釜ヶ崎の人々)。途中、パートカラーで突然世界に色がつくシーンがあるんですが、そのシーンでスクリーンいっぱいに写る太陽の眩しさが強く印象に残っています。薄暗い世界から、明るい世界への突然の飛躍。実際に劇場もこのシーンではスクリーンの明るさで場内が明るくなっちゃうんですけど、そのときになんだか急に(いい意味で)現実へ帰ってきた気がしました。実際、スクリーンの中も、このシーンだけある意味「この世」。このシーンだけ、釜ヶ崎のドヤ街じゃないんですよね。そして大音響で流れる村田英雄の「王将」。すごい、の一言に尽きました。



┃ 骨までしゃぶる

遊郭へ売られた小娘が勇気と努力と知恵によって郭を抜け出し、新しい世界へ踏み出してゆくまでを描く明治浪漫物語。愛と勇気と希望をストレートに描く、加藤泰の世界が最も美しく析出した作品のひとつだと思います。花柳ものはその叙情やグダグダ感が自分に合わず、好きでないことが多いんですが、これはコンセプト自体が目から鱗でした。遊女が身請けでもなく脱走でもない方法で足抜けするという設定と、それに至るまでの描き込みや構成、テンポのよさがとっても良い。登場人物が(おおまかに言っちゃえば悪役も含めて)みんな好ましいっていうところも素敵です。モノクロの映画なんですが、ラストシーンでは春のやわらかな光が豊かな色彩でもって溢れ出てくるような、そんな作品でした。加藤泰特有のロマンチックな明治の風景もすばらしく、明治大正浪漫がお好きな方必見の作品だと思います。



┃ 馬喰一代

北海道の無学な馬喰と、秀才に育った彼の息子との親子愛を描く話。もういきなりラストシーンの話ですが、都会の学校へ行くため親元を離れることになった息子が乗った汽車を馬で追いかける父の姿に涙、涙。白い煙をごうごうと吐きながら疾走する蒸気機関車と、三國連太郎を乗せて力走する馬、たまりません。親が子を思い子が親を思うというストレートな話をストレートにやっている、そのまっすぐさが良いです。北海道の荒涼とした大地も物語の雰囲気を大いに盛り上げています。



┃ 総会屋錦城 勝負師とその娘

年老いた総会屋が旧友の懇願を受け再び立ち上がるさまと、奔放な娘との確執を描くドラマ。例え相手にどんなに尽くしたとしても、どんな実績を残したとしても、最後の最後で裏切られ全否定されてしまうこともありえる人生の残酷さ、でもそれもまた人生……その残酷さというのがあまりに身につまされて、劇場で観たときラストシーンで涙がこぼれました。原作は短編でアッサリしているのですが、映画化に際し相当アレンジが加えられており、それが大きなプラスになっています。個人的には映画が原作を超えた映画化の例だと思います。堂々たる傑作。



┃ ニッポン無責任時代

ニッポン無責任時代 [DVD]
ちゃらんぽらんサラリーマンが大出世してゆく姿を描くミュージカルサラリーマン喜劇。パカーンと全面に当たったライトと突拍子もなくはじまる歌、シーンとシーンの妄想の如き飛躍、原色の色彩に衝撃を受けました。笑って泣ける&明るく楽しいサラリーマン映画の世界というのはもう今では缶コーヒーのCMの世界にしか残っていませんが、本作を観れば高度成長期、日本の未来が希望に満ちていた時代の勢いとまばゆい輝きを目の当たりにすることができます。♪おれ〜はこの世で一番 無責任と言われた男♪というあの歌の真価(?)を知ったような気がします。



┃ 昭和おんな博徒

恋愛ものの任侠映画。父の仇と狙った男は人違いだった。女はその男の家に厄介になり、彼に思いを寄せるようになるも、渡世のいざこざから男は暗殺されてしまう。女はその復讐に旅立つが、いつしか復讐相手であったはずの男に惹かれるようになってしまう、しかし男には病妻がいて……という悲恋ものです。常に湯気、蒸気、雨、雪、雪解け水で湿り曇っている画面が強く印象に残っています。復讐譚でテイストもかなり凄惨なのですが、描かれる様々な愛はどれも濁りなく氷のように透き通っていて、それが私には救いのように思われました。本当は全然救いのない話ですが、愛の美しさという普通に言ってしまったらサブイボな言葉がこの映画では救済になりえている、それがすごいと思うのです。



┃ 黒い画集 ある遭難

黒い画集 ある遭難 [DVD]
起こりえないはずだった遭難事故の真相を探る山岳ミステリ。登山雑誌に掲載された手記や関係者の証言を積み重ねながら「起こりえないはずの遭難事故」がなぜ起こったのかを探ってゆくという構成もさることながら、人をチクチクと、しかしながら確実に陥れようとする「悪意」の描き方が大変すばらしかったです。そう思うのは、私が「悪意」「人生のそこここに空いている奈落」「不愉快な他人を罠に陥れてやりたいという昏い感情」に異常な関心を寄せているからかもしれません。でも、どんな人にもそういう暗黒面はあると思うんですよね。妄想の中で人を、という。それが一歩進むとどうなるのか。『刻命館』とか『影牢』がお好きだった方は是非ご覧ください。大変におぞましくも痛快な作品でありました。



┃ 狼の王子

若松港で荷役を営む親方に拾われ息子として育てられた戦災孤児の少年が、長じた後に父を殺した敵対組織の組長を射殺して収監され、出所後に若松を離れ東京で自分探しの長い旅をするという現代任侠アクション。私は、任侠映画というのはあるテンプレートがあって、それを様式美と捉え、その縛りの中でどれだけ艶やかな世界を現出するかという映画ジャンルだと思っております。本作はそれをかなり意図的に破調させ、テンプレートをいかに斬新な演出で描くかに注力していると感じました。例えば「親分の暗殺」という任侠映画では最頻出のシーン。会合の帰りに夜道で襲撃されるというのがよくあるパターンなのですが、本作では、若松港にある石炭運搬用の路面貨物列車を使った西部劇風(?)のアクションが盛り込まれています。そして最後の「取りすがる女を振り捨てて殴り込みに行く」というこれまたオーソドックスなシーン。本作で取りすがる浅丘ルリ子を振り払う高橋英樹が発する言葉にはかなり驚かされました。「小さな幸せを大切にして一緒に生きて行きましょう」という浅丘ルリ子の言葉、それはあたかもこの世で一番大切なことかに思われるのですが、それを一瞬で論破。そもそも論破するってこと自体もすごいんですが、なぜ高橋英樹がその言葉を発するに至ったのか。これまでの長い自分探しの結論が、そこには込められていると思います。舛田利雄監督のチャレンジ精神に感服つかまつりました。クラシックな雰囲気の残る若松の風景がふんだんに使われている点も◎です。



┃ 惜春鳥

5人の少年たちの友情とその崩壊を描く青春もの。想像の中にのみ存在する男子校の美しい友情の世界を実写化したような作品で、その透明感と輝きに射抜かれました。舞台となる会津若松の風景や白虎隊のモチーフも雰囲気にマッチしています。少年たちの友情はヒビが入っても美しく、砕けてなおきらめいている。自分は『県警対組織暴力』とか『懲役十八年』のような、一番大切だったはずのもの=友情が外的要因や心情の変化によってだんだん崩れてゆくというテーマの映画が好きなので、本作はかなり気に入りました。出演している俳優さんが絵に描いたような美青年系の顔立ちというところも、あまりに純粋で麗しい世界観の構築に一役買っております。




ほかには『王将(1962)』『白い巨塔』『いつかギラギラする日』『巨人と玩具』『複雑な彼』『青い野獣』『馬鹿まるだし』『牡丹燈籠(1968)』『殺人狂時代』『怪談 片目の男』『貴族の階段』『千代田城炎上』『集団奉行所破り』『兄貴の恋人』『博奕打ち いのち札』『闇を裂く一発』『山の讃歌 燃ゆる若者たち』『競輪上人行状記』『エデンの海(1963)』『たそがれの東京タワー』『百万人の大合唱』『白と黒』『江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者』が良かったです。

*1:シスター・ピクチャー。かつて映画興行が複数本立てであった時代、メインに対する添え物として制作された作品のこと。