TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

 喜劇 駅前満貫

喜劇 駅前満貫 [DVD]



 世にも珍しき雀荘映画である。
 森繁久彌主演の喜劇映画、「駅前」シリーズの第18作目。「駅前」シリーズというのは60年代東宝を代表する喜劇映画で、私は本作を含め2作しか観たことがないので知ったかぶりで言うが、毎回森繁がなんらかの商売をしている家の主で(たぶん)、今回ではそれが雀荘である。
 森繁は恵比寿駅からほど近い雀荘「満貫荘」の主人だが、店のことはほとんど妻の淡島にしてもらっているヒモのような生活。その森繁宅に、夫に愛想をつかして家出したという池内淳子が淡島を頼って転がり込んでくる。森繁は池内に興味シンシン。そこに伊豆のミカン農園主・伴淳三郎、発明家・フランキー堺らがからんでくる。



 伴淳が出資している企画会社にフランキー堺がいて、彼は「つけ胸毛」などのちょっとどうかしている発明ばかりしていたため、馘首されてしまう。プーになってもなおフランキーは奇怪な発明を続けているのだが、このフランキーが開発している「ポータブル電気マージャン」なるモノがすごい。
 「ポータブル電気マージャン」は作中では試作品段階までしかいかず、機能の説明もないので詳細は不明だが、要は「携帯用全自動卓」的なものらしい。携帯時は2つ折りになる折り畳み式の30cm角くらいのミニ麻雀板で、板面には本物の麻雀卓のように緑の布が張ってある。折り畳み式オセロセットの内側が麻雀板になっているイメージ。板を広げてその上に麻雀牌を置き、コードでつながれたスイッチを入れると牌がひとりでにカラカラと動きはじめる。牌の動きから見るに、「マグジャン」をモチーフにしている可能性が高い。マグジャンが登場したのは1967年頃らしいので、本作の封切時(1967年1月14日封切)では超最新だったはず。
 牌はセットについているものを使う。牌がふつうの牌でなく、何らかの仕掛がしてあるらしいことは淡島の「牌の手触りもなかなかいいわね」という発言から伺われる(ふつうの牌ならこんな発言はしないはずなので)。また、麻雀板とコードでつながった小さなリモコンのようなものが4個ついており、プレイヤー4人がそれぞれ1個ずつ持つ。これが何の機能なのかは、その効力を発揮する前に機械が壊れてしまったので不明。
 フランキーによると、日本のサラリーマンの数は850万人、そのうち麻雀を趣味としている人が1/4いるんだとか。当時は11PMなどによる麻雀昭和元禄の時代だったのだろう。



 ところで本作、タイトルに「満貫」と入っているわりにはあまり麻雀シーンがない。というか、雀荘より自宅(雀荘から離れた別個の建物)でほとんどの話が進むため、店はほとんど出てこない。雀荘より、伴淳のミカンの農園が映っている時間が長い気がするくらいに……。わずかながらある麻雀シーン、昔の映画は打つのが速い作品が多い中、打つのが遅くてのんびりしている。
 雀荘が出てくる映画ではロケで実際の雀荘内で撮影している作品も多いけど、本作の雀荘内部はおそらくセット。白い手積みの麻雀卓と小さな赤いイスが可愛い。たくさん卓がある広くて大きい店だが、いつも1〜2卓くらいしか立っていない模様。近所のラーメン屋の店主・山茶花究が女将(淡島千景)目当てに店をさぼってせっせと通っている。



 なお、ストーリーは別に何がどうということもない話というか、なんか、こういう東宝映画を何十本も観たような錯覚にとらわれるような、ザ・東宝喜劇な話だった……。

┃ 参考

  • オープニング、エンディングが麻雀牌アニメ。実写コマ撮りで麻雀牌がチョコマカ動く。監督クレジットのところだけ牌が役になっていて、清老頭。『女は幾万ありとても』という映画もオープニングが麻雀だった。この映画は冒頭で団地住民の登場人物たちがご近所麻雀に興じる場面がある。
  • 聖地巡礼、現在の恵比寿との比較 http://ogikubo-toho.com/seitimangan.html