TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

 ピンチ

赤座栗介[原作] + 石神保[作画] 日本文芸社 1986年

  • 「麻雀ゴラク」連載
  • 上・下巻(完結)

 

┃あらすじ
19歳の麻岡吾郎は、デート中の牛丼屋でインネンをつけられボコられていたところを見知らぬ男に救われた。吾郎はたまたま目にしたその男の打つ麻雀にシビれ、彼に弟子入りを申し込む。その男・葵秀次からは意外な返事が返って来た。孔雀荘という雀荘でピンチ(代走)専門のメンバーをやってみないかというのだ。後日、孔雀荘を尋ねた吾郎は、そこでマネージャーとして働く秀次と再会する。秀次、美津子ママ、梶田主任、ヤマさんらの従業員と共にメンバーとして働くことになった吾郎には数々の試練が……??




メンバーを主人公とした麻雀漫画。
メンバーとは麻雀荘の店員で、ルール説明・飲み物出しなどの接客、掃除などの雑用のほか、お客さんが用事で離席するときに代わりに打つ「代走」や、お客さんだけで卓が立たないときに中に入って自分のお金で打つ「本走」などをする人のこと。メンバーは麻雀漫画の脇役として欠かせない職業だが、メンバーを主人公にしている麻雀漫画は珍しい*1




さて、主人公がただの麻雀打ちではなくメンバーであるのなら、普通の麻雀漫画と何が違うのか?
打ち方が違うのだ。
吾郎は第2話にしてその手厳しい洗礼を受けることになる。電話で離席したお客さんの代走に入ると、配牌は以下の通り。 
 ドラ
をツモり、五順目でリーチして一発ツモ。
 ツモ ドラ 裏ドラ
電話から戻って来たお客さんは吾郎の会心の一撃に大喜びだが、ほかのお客さんは不機嫌そうな顔。吾郎はこのアガリをマネージャーである秀次にメッチャ怒られる。

秀次は以下のように言う。

  • 代走はアガることより打ち込まないことえを考えるべき。
  • 手なりは仕方ないが、多面待ちだろうとリーチは控えるべき。
  • 代走はそのままの状態を維持することが目的であって点棒を増やすのが目的ではない。

吾郎はこのあとも秀次からメンバーの心得に関して厳しい指導を受けることになる。これはお客さんのお金で打つことになる代走中の注意事項だが、自腹を切る本走に関してもこのようなメンバーの打牌制限は存在する。実際に現在でも「メンバーはモロヒッカケは禁止」など、メンバーには打牌制限がある店がある(という)。




で、そのような打牌制限の中メンバーはどう打つのか?
という話になるのかと思ったら違った。「孔雀荘」に次々現れるヘンな客を取りなしていくのが話のメイン。さすがにメンバーの仕事のキッツイ話とか、そういういたたまれなくなるものはありませんでした……。
バイトじゃなくて本職のメンバーさんのお仕事がどういうものなのかは気になる。私が行ったことのある雀荘(フリーじゃなくて、セットとか人にひっついて行ったりとかだが)のメンバーさんはみんな感じいい人ばかり。でも大変な仕事だろうな……。最寄り駅近くの雀荘の窓からたまにメンバーさんがひょこっと顔を出していることがあり、そのおにいさんの人生が気になる今日この頃……。



↓歌舞伎町で出会ったイイ顔のメンバー

城埜ヨシロウ『ウラセン』竹書房)より




しかし「孔雀荘」のメンバーの待遇、はじめは手取り15万って結構キツいような……。
ピンのワンツーでゲーム代は400円らしいが、吾郎の生活が心配になった。デートの食事は牛丼屋とか、悲惨すぎた前途に比べりゃ定職があるだけまだマシなのかもしれないが……。これにキレないチャコちゃんは18歳ながら人間ができていると思った。
あと、マネージャーとママ(オーナーの妻)がデキてて主任が若い娘と不倫してるという職場環境はさらにキツすぎ。私なら1週間もたない。主任、愛人のことを「お嬢さん育ち」とか言ってるが、本当にお嬢さんなら水商売はしてないと思う……。騙されてるよこのトッツァン……。
オーナーがギャンブルでこさえた借金が膨れ上がりすぎて失踪、借金を返すため店を売ることになるという最終話もすごかった。「孔雀荘」を引き払ったママと秀次は郊外に小さな店を開き、吾郎もそこのメンバーになる。さもサワヤカげに描いてあったが、それはいわゆる地獄では。いにしえの麻雀漫画にある王道ラスト、すべてを失ってもなお麻雀から離れられないってヤツかと思った。




しかし、昔の麻雀漫画にたまにあるこの手のとんまハートフルコメディって何なんですかね。そしてこのとんまな絵(失礼)……謎が多過ぎます。

*1:とは言っても実際はそれなりにあるもので、最近のものなら須田良規+井田ヒロト『東大を出たけれど』竹書房)、ギャル雀のメンバーを主人公にしているものなら浜田正則+おおつぼマキ『ギャル雀ロード』双葉社)がある。『ギャル雀ロード』のほうは主人公が脱サラして雀荘経営者になった青年で、なかなかおもしろいシチュエーション。