TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

 幻に賭けろ

土井泰明+嶺岸信明 竹書房 (1994〜1996)
1994.10〜1996.8 近代麻雀系列誌に連載

以前書いた、西武線の果てのほうの古本屋に行ったときに全巻揃えで購入。これであのお店で買った麻雀漫画は完読です。今日もあのお店とあの店員さんは麻雀漫画(という名の大量の不良在庫…)を買いにくる客を待っているのでしょう。幻に賭けろ!



┃あらすじ
やんちゃなお年頃の高校生・三島麻紀男は親の金をくすねて街のヤクザな雀荘で100万円を賭けた勝負に挑む。イカサマがばれヤクザに凄まれるが、なんとかその場を逃げ切った麻紀男は東京へ。何気なく入った雀荘・アルバトロスにそのまま居着いた彼は、そこでもさっそくショバを仕切るヤクザと揉め事を起こし、店長にしてその組の代打ちである阿部とともにアルバトロスの所有権を賭けた勝負の卓につくこととなる。しかし、麻紀男の未熟さによってその勝負は池谷組側の勝ちとなってしまった。麻紀男は阿部の家に転がり込み、ヤクザの代打ちである阿部に麻雀のセオリーを教えられる。やがて麻紀男は競技麻雀の世界に飛び込み、池谷組の代打ちから競技プロに転身した今井、競技プロ・小沢、元代打ちにして競技麻雀の頂点に君臨する雀聖・藤峰との勝負の中で、自分の麻雀と自分の道を見つけてゆく。




いままでに読んだ麻雀漫画とはちょっと違う印象を受けました。この作品は競技麻雀をメインの舞台としています。



サブタイトルに「麻雀のセオリーって何だ?」とあるように、かなり麻雀のセオリーへの言及・説明場面が多く、読みながら麻紀男といっしょに様々な人からレクチャーを受けることとなります。ここに書かれている中には、今となっては古くさいとされるセオリーもあるのだろうけど、それでも、麻雀を学んでゆくことへの楽しさは変わりませんもんね。また、レクチャーしてくれる登場人物達の教え方も、定石はこうだと押し付けるわけでなく、こういう考え方があるよ、こういう手順があるよ、と教えた上で「自分で考えて打てよ」というスタンスなのがおもしろかったです。
メインキャラクターである麻紀男や今井、小沢が停滞する事なく、つねに学び続ける姿勢であるところもすばらしいと思います。みんなめちゃくちゃ前向きな性格で積極的、きちんと社会生活を営んだり、麻雀以外のことに打ち込むという私生活がちゃんと描いてあるのがすごいですね…。麻雀漫画を読んでいると、普段なにしてんだかわかんないキャラが多いと思うんですが、この漫画だと「今井クンはあんな顔して雀荘のメンバーを一生懸命やってるンですッ!!今井くんが頑張ってるおかげでメンバーのレベルも上がったしお客さんも喜んでくれるしで大助かりなの!!」とか「小沢クンはああ見えて体を動かすのが好きなんですよ!!」とか言う事ができますからね〜。勉強しながらエアマージャンしている麻紀男もカワイイですね〜。



それにつけても、やんちゃだけど素直な性格をしている麻紀男をはじめ、登場人物がなぜかみんないい人ですね。周囲の大人達は麻紀男に優しく、ときには厳しく麻雀を教えてくれますし、彼が自分を見失いそうになると叱咤してくれます。そのまま奈落に突き落としたりしないんですねー。
藤峰の麻雀への愛にも感動しました。藤峰は最初はただ圧倒的に強い人物として描かれていますが、なぜそんなにも強いのか、なぜ代打ちの身分を捨てて競技プロになったのかと言えば、崩壊の危機に瀕している麻雀を救いたいからなのです。それがかなりド直球に描かれているので驚きました。そして物語の中で、主人公らの活躍によって、(競技)麻雀がちゃんと盛り上がってゆくんですね。ええ話やわー。都合のいい夢物語なのかもしれないけど、感動しました。



というわけで、とても前向きな話の麻雀漫画でした。
片山まさゆきの描く競技麻雀や麻雀への愛とはまた違ったものを見せて頂きました。
タイトルである「幻に賭けろ」にまつわるエピソードも、なかなかよかったです。私も地に足をつけてがんばります。



あと、ビジュアル的にやたらイケメンのキャラがいないのもポイントだと思います(?)。嶺岸先生作画だと、なんかやたらイケメンがわらわらしているイメージがありましたから…。『天牌』を初めて読んだときは、麻雀打ちってこんなイケメンばっかなんすかという大いなる誤解をさせて頂いたもので。