TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

麻雀漫画と昭和の日本映画と文楽(人形浄瑠璃)について書くブログ

文楽 1月大阪初春公演『花競四季寿』『平家女護島』『摂州合邦辻』国立文楽劇場

初春公演、今年は初日に参上。気持ち良く晴れ渡る青空の下、開演前の鏡開きを見物して正月気分を満喫。しっぽしか見えなかったが、黒門市場から贈られた鯛のデカさに驚いた。

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はじめは景事で、『花競四季寿』。

「万才」、なぜ紋臣さんは最近延々景事で踊っておられるのでしょうか。才三か万歳かの配役違いはあるけど、ここ1年くらい異様に出てませんか、こういう似たようなヤツに。踊りがうまいのはわかる、しかしもっと良い場所に出て欲しい。ちゃんと踊れる人がほかにいないからこうなっているのか? でも、紋臣さんも玉勢さんもおふたりともとてもかわいらしくてよかったです。

「鷺娘」。白い綿帽子、白い着物に黒の傘をさした娘〈人形役割=吉田文昇〉がしずしずと上手奥から入ってくる。彼女は実は鷺の化身で、雪の舞い散る中、早変わりを見せつつ舞うという内容。席がかなり下手寄りだったため傘の影で行うピンクの着物への早変わりの瞬間が見えたのだが……、見ても仕掛けがよくわからなかった(アホ)。引き抜いている、ということだけはわかった。最後のほうは雪がかなり豪快に降っていた。このあと、昼休憩にロビーへ出ると、窓の外でほんとうに雪が舞っていたのが印象的だった。

 

 

 

『平家女護島』鬼界が島の段。

これは昨年2月東京公演でも観たので話が呑み込めているため、じっくり観ることができた。人形の配役は千鳥役の簑助さん以外全員変更で、演じ方の違いを見ることができてよかった。とりあえず康頼〈吉田清五郎〉はだいぶ死にかけというか、はかない感じになっていた。たしかにああいう貴人の細面イケメンが流刑にされたらそらそうなるわなと思った。

簑助さんの千鳥はあいかわらずメチャクチャ可愛かった。ぴょこぴょことした仕草や、相手役の人形を上目遣い風に見たり、からだをちぢこまらせてきゅっと寄り添う姿、浜辺に倒れ伏して身悶えする様子が大変に愛らしい。人間ではありえない可愛さ。あの流人三人は実は離島暮らしの無理が募って発狂していて、千鳥はその幻覚の中にだけ存在する妖精の可能性すらある。だってあんな変な島に海女泳いでくるのかねって感じじゃない? お前らの妄想では? というくらい可愛い。途中、千鳥が俊寛〈吉田玉男〉を庇い瀬尾太郎〈吉田玉志〉に応戦して一生懸命石を投げる場面があるが、その「えいっ(><)⭐️えいっ(><)⭐️」っていう一生懸命さがもうめっちゃ可愛いのよ……。1日目はあまり飛距離が出ていなかったが、2日目はぎりぎりで玉志さんに当たらない程度に飛ばしていたのが笑った。去年2月に観たときも思ったけど、赦免船に乗り込んで俊寛に一生懸命手を振るところも本当可愛いんだよね。あれは生身の人間にはありえない、お人形ならではの可愛さだと思うわ。本当、簑助さんの可愛さは世界中の人に見ていただきたい可愛さである。簑助さんのご健康とご長寿を心から祈る。

俊寛は玉男さん。芯の太い印象で、長い島暮らしの身ながら覇気が残っており、なんかこう、すごいつよそうだった。さすが平家全盛の世に謀反企てるだけのガッツがある坊さんやわと思った。居丈高さ満点の瀬尾太郎(なんか物理的に丹左衛門基康〈吉田玉輝〉より居丈が高い。あと、めっちゃ足を開いて座っていて、電車で隣の席にきてほしくない感じ)を殺しそう感あった。俊寛は瀬尾太郎の隙をついて脇差を引き抜いて刺したあと、最後、倒れた瀬尾太郎の上に乗って袖で押さえながら首を切り落とす場面があるが、そこで刀をギリギリと鋸引きにして首を切り落としているのが人形とはいえ生々しくて怖かった。和生さんはどうしてたかなあ。鋸引きにはせず、何回か刺してから(?)首を体重で押し切ってる感じだった気がするのだが。鋸引きにするのは先代玉男師匠のやりかたのようですね(どこに書いてあったか忘れた……)。そしてクライマックス、岸辺の岩に駆け上って赦免船を見送る場面、斜面のずり落ちの勢いがすごすぎてツタについている葉っぱが散りまくっていた。初日と2日目で下のほうについている葉っぱがなくなっていたので、最終日までに全部なくなってそうだと思った。力強く、大きな人間味を感じる俊寛だった。成経〈吉田文司〉、千鳥のオトーサン代わり感あった。

ところで、赦免船の大道具はちゃんと赦免船って感じの立派な船だった。舳先についているフサフサもちゃんと本物のタッセルだった。去年2月の東京公演は書割だったのに……。東京公演のほうがチケット高いのになんですかこの違い……。今後もぜひフサフサしていて欲しい。あ、でも、最後俊寛が駆け上がる岩にはフジツボついてなかったです。東京の値段はフジツボ代と思うことにします。

 

 

 

昼休憩を挟んで豊竹咲甫太夫改め六代目竹本織太夫襲名披露口上。竜のうねる巨大な屏風と天井から下がった綱太夫の写真を前に、咲太夫さんと新織太夫さんがふたりで並んでの挨拶。先に八代目竹本綱太夫五十回忌追善の挨拶があるのだが、「父(綱太夫)はわたしが24歳のときに亡くなりまして……、歌舞伎で???丈(忘れた)の追善興行を見ましてこれはすごいなと思っていましたが……、今回国立劇場さんにこのような立派な追善幕を設けていただき涙◎%=涙&$#*@涙△」とお父さんのことを語っていた咲さんが途中で泣きだして、でもそのまま一生懸命しゃべり続けて何言ってるかわからなくなってきて、お客さんが「咲太夫〜っ!」って応援してて、ほっこりした。襲名のお祝いは慎ましく真面目な感じであった。

 

 

襲名披露狂言は『摂州合邦辻』合邦住家の段。ここの床は縁故者出演で、太夫・三味線の組み合わせ等がいつもと違って新鮮。

いろいろ順番を飛ばして書いてしまうが、ここでびっくりしたのは織太夫さん(後=三交代の最後)の三味線で出演した燕三さんのすばらしさ!!! も〜、びっくりした。三味線にはっとして床のほうを見ることたびたび。登場人物の心の動きや怒涛の狂乱を三味線の音のみで表現する場面の多い演目だと思うが、まさに玉手御前や合邦道心の心の動きが手に取るようにわかるすばらしい三味線で、文楽座全体であたらしい織太夫の誕生を祝う気持ちがたいへんに伝わってきた。三味線の音ひとつひとつに感情を感じた。

もちろん織太夫さんも大変に力の入った熱演ですばらしかった。実は私、いままで咲甫さんのしなを作ったような女性の作り声に、そこまで作り声にする必要あるのか、特に身分の高い役で極端な作り声では品位が下がって感じるのが気になっていて、語りそのものを磨くことで勝負すべきではと思っていたのだが、今回はそれに頼らず語っておられて良かった。

咲さん(切=三交代のまんなか)も大変な熱演。びっくりした〜。ここの三味線はいつもの燕三さんから清治さんにチェンジしていて、清治さんもすごくよかった。咲さん大変だと思うけど、東京公演の最後まで頑張って欲しい。

 

人形も配役が豪華で、合邦道心=吉田和生、玉手御前=桐竹勘十郎、俊徳丸=吉田一輔、浅香姫=吉田簑二郎、合邦女房=桐竹勘壽、入平=吉田玉佳。

玉手御前の美しさ。合邦女房が20歳くらいと言っているのでそこそこに若い設定だと思うが、かしらは老女方で黒の落ち着いた着物姿、しかしたたずまいは勘十郎さんらしくクルクルとして若い娘風で可愛らしかった。玉手御前は本当は俊徳丸をどう思っていたかに解釈が別れる話だと思うが、勘十郎さんははじめからすべて嘘の恋という解釈なのかしら? 俊徳丸に擦り寄る場面などは芝居でやっているように感じられた。まあ先日の宵庚申の夫ラブオーラがすごすぎたのかもしれないが……。もはや人形の目つきが違ったもの(人形なのに)。曾根崎心中で玉男さん相手のときのお初もだけど、恋する女役の勘十郎さんのラブオーラはとにかくすごい。でも今回はそれとは違う。玉手御前の語る恋情はお園のクドキが恋に恋しているように見えるのと同様というか、しなを作る向きが相手ではない……、真実は心の向いている方向が違う、そういう感じ。クドキが自分自身に向いていて、芝居で擦り寄っているように見えた。それはともかくドドドドドと割り込んできた浅香姫に玉手御前が飛び蹴りをかますところは最高だった。千葉チャンを思わせるめっちゃキレイな飛び蹴りで、客席から歓声が上がっていた。

そんな玉手御前のめちゃくちゃな物言いにキレて脇差を取りに納戸へ駆け込む合邦のすばやさが和生さんとは思えない(?)すごさで、ちょっと面白かった。和生さんの、道理はわきまえているが娘可愛さで混乱している複雑な父親像、とてもよかった。落ち着いている風の前半から狂乱していく後半への、玉手御前と対照的な演技のメリハリが良い。まだ冷静なうち、頭巾をかぶった玉手御前が戸口へ来て母親を呼ぶところ、女房が開けようとするのととどめるときの、幽霊でも帰ってきてくれたのが嬉しいという女房に、狐狸の化けたのならまだいい、本物の娘が帰ってきたのなら入れてはいけないと言うのが悲しい。でも結局折れて入れちゃう。それが人間味あっていいよね。

物語の鍵を握る、玉手御前が持っているアワビの盃。人形の大きさに比してすんごいデカいアワビだなと思っていたら、最後に理由がわかった。俊徳丸の人形の仕掛けと関係あるのね。虎のゾロ目の血の奇跡で彼の病が本復するところに仕掛けが使われているのだが、結構うまくいっていた。自然すぎて、多分、仕掛け自体に気づいていないお客さんもいると思う。

 

『摂州合邦辻』は話に興味があって以前から見てみたい演目だったので、今回観ることができて、とてもよかった。私はこれすごく面白い話だと思うんだけど、変なストーリーと言われることが多い演目だと思う。個人的に説経節の『信徳丸』『愛護若』や謡曲『弱法師』、寺山修司の戯曲『身毒丸』で題材を知っていたので、「そういうアレンジなんだ〜」の範囲におさまるからかしらん。継母が義理の息子に懸想するという流れ自体では『身毒丸』のほうがかなり無茶があるので、そこと引き比べているのかも。個人的には、現代的な考えかもしれないけど、玉手御前は義理もあるけれども本当は俊徳丸を愛していて、それゆえにあんなメチャクチャな行動に出たと解釈したほうが面白くかつ自然だと感じる。ただこのあたりは出演者の語り方演じ方によって、聞こえ方見え方が変わって見えそうなところだとは思う。

 

 

 

行く前は、どんなもんかな〜と思っていた襲名披露だったが、大充実だった。 皆さん大変に力が入っていて、新織太夫の襲名を祝う気持ちがよく伝わってきて、こちらも楽しくなった。それに応えるご本人の意気込みや熱意もすばらしいものであった。『摂州合邦辻』は2月の東京公演にも行く予定なので、このあと1ヶ月で出演者の方々がどれくらい変化するのか、楽しみである。

 

 

 

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鏡割りの風景

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襲名祝いの飾り。文楽らしくのんびり時空なので、ご本人がお客さんとの記念写真撮影でウロウロされていたりします。東京歌舞伎座の襲名披露も行ったけど、やっぱり文楽はホンワカしていて、めっちゃ落ち着くわ……と思いました。

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