TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

文楽 中之島文楽『冥途の飛脚』道行相合かご/『ひらかな盛衰記』逆櫓の段 大阪市中央公会堂

中之島文楽大阪市中央公会堂で上演されるビギナー向けイベント公演。

溝口健二の映画『浪花悲歌』でヒロインが四ツ橋文楽座で文楽見物するシーン観てから一度近代建築のホールで文楽見てみたいと思っていたので、短時間の単発公演だけど関西出張してきた。

大阪市中央公会堂は大阪を代表する近代建築。外観だけは以前見たことがあったが、今回は「大集会室」での公演だったため中に入ることができた。オペラハウスのような壮麗な内装で、高い天井から下がるモダンなデザインのシャンデリアやステージを飾る豪奢な舞台額縁が美しい。二階のテラス席もロマンチック。京阪神の近代建築はやっぱエエですわ。

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第1部は初心者向けガイダンストークショー。私も初心者だが、そこまで「文楽といえば敷居が高い」的な仮想の一般論に寄せなくていいんじゃないと思った。少なくとも今回は金払うて来てる客相手だし、とくに大阪公演は敷居かなり低いと思うが……。むしろあれより下がることってありえるのか???

個人的な所感としては、文楽まったく知らん人に文楽について話して関心をもっとも抱いてもらえる話題は「文楽人形浄瑠璃の一種」ということと「文楽世襲ではない」の2点で、前者はみんながモヤっとよくわからない基礎知識なのでシンプルにへ〜っと思ってもらえて、後者は好感を持ってもらえる(敷居が下がる)印象がある。世襲ではない点は後述の玉翔さんからお話があったけど、そのあたり話して敷居下げるのはアリだと思う。

 

司会とゲストによる簡単な概要解説の後は玉翔さん(大元気)による人形解説。大変元気に解説しておられた。こういう人形体験で人形遣いさんがよく「はいっ、そこで足拍子っ!」と突如指導してくることがあるが、足拍子って言われてもどうしたらいいかわからん人が多いのではと思う。事前に上演してるわけでもないし、人形が足音を立てること自体を知らない人が多いんじゃないかな。私は実際に見るまでは人形が足音を立てるって知らなかった。だってなんだかんだ言ってあいつら宙に浮いてるし。

あとは人形解説にアシストで入っていた玉彦さんが突然話を振られ、何故文楽に入ったのか聞かれたときの答えがおもしろかった。ご本人ははじめから文楽をやりたかったわけではなく、きっかけはお母様が文楽好きだったことだそう。お母様は喜んでおられるそうです。よかったね〜。玉翔さんも入門のきっかけは親御さんの影響だったと思うが、そういう方意外と多いのかしらんと思った。それと、どうでもいいんですが途中玉翔さんが何故か袴のすそをたくし上げていて、袴の下ってそうなってるんだ〜と思った。

 

 

 

第2部は文楽公演。口上の人がいつもと違うなー、口調めっちゃ慣れきった感じでお声が結構歳いってない? どなた? と思っていたら、サプライズ出演だったらしい。

 

1本目は『冥途の飛脚』道行相合かご。

なんでいきなりこれ!? 意味わからんやろ!? 出演者問題があるのはわかるけどせめて新口村にすれば!? と思いつつ、かごから下りた忠兵衛〈吉田玉佳〉のすっとした儚げな立ち姿が美しくて良かった。

 

2本目『ひらかな盛衰記』逆櫓の段。

これ目的で来たものの、逆櫓と言ってもどこからどこまでやるのと思ったらものすごい勢いでカットされていて、船頭〈吉田玉勢・桐竹紋吉・吉田玉誉〉が松右衛門〈吉田玉男〉を逆櫓の稽古に誘いにくるところから沖に出て逆櫓を教え、松の前で立ち回りを演じるところまでの15分程度だった。

でも内容自体は大満足。睦さん&宗助さんの床が良かったし、何より玉男さんの樋口がとても男前だった。短時間でも樋口の人物像がキッチリわかり、髪をさばいてかしらを振る仕草、ぴっと凛々しくターンする姿勢などがキリリと決まっていた。樋口の出で舞台の雰囲気がぱっと変わったのが印象的(特急券分褒めます)。9月東京公演の玉男様は出演時間の9割じっ…………………………………………としておられたので、動く玉男さんを見られてよかった。できれば松には登って欲しかったです……。

あと、樋口のぽんぽんがふかふかしてそうで、つっつきたくなった。

逆櫓のセットは赤坂文楽のように哀しさ余って前衛100倍的な感じではなく、松右衛門宅、海、船、松、ぜんぶ立派なセットがちゃんとあった。松は福島にあるという逆櫓の松趾にある変な松をモデルにしすぎたのか枝ぶりが悲しげで、杉みたいだった。

 

 

 

そんなこんなで短時間の上演だったが、逆櫓には大満足。

上演は本公演同様字幕付きほか人形のライブスクリーン付き。アーチ状になっている舞台額の上半月部分に字幕とライブ映像を投影しているんだけど、個人的には逆櫓は人形を肉眼で見てるほうが良いかなと感じた。人形の動きに大きな迫力があり、ステージから遠い席でも十分見応えのある演技だったと思う。ライブスクリーンももう少しカメラさんが演技をうまく追ってくれると良いんだろうけど、人形が次になにするかわからないとなかなか難しいようで、寄り引きがおかしいところがあった。

解説パートに関しては、鑑賞教室もそうなんだけど、演目のあらすじそのものをもうちょっとしっかり説明したほうが実際の上演を楽しめるように思う。国立能楽堂が毎月行っている普及公演だと開演前に30分解説タイムがついていて、そこであらすじと原作・史実、装束や舞などの見どころ、よく聞いておくべき詞章を教えてくれる。どこに注視すればよいかを明示してくれるので、はじめて知る曲でもどこをどう見ておけばいいかわかるし、見終わったあと自分の中でまとめやすく、自分で復習するときの参考資料も探しやすい。個人的には、ああいううふうに今から始まる話自体への具体的なみどころ説明があるほうが見易いように感じる。

あとこのイベント、先に配役教えて欲しいな。私は「玉男様が樋口」ということだけ聞いてチケットを取ったんですけど(後に玉佳さんが忠兵衛という情報をゲット)、梅川が誰かわかんないまま会場来ました。梅川、簑二郎さんでしたわ。床も開演してはじめてわかった。これに限らず、地方等の単発公演だと配役が発表されないことがあるけど、人形ならせめて主要登場人物の配役はあらかじめ教えて欲しい。

 

 

大阪市中央公会堂

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終演後の人形グリーティング。トークゲストに「落武者ですか?」と言われてしまったお人形さん。と玉誉さん。

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  • 『冥途の飛脚(めいどのひきゃく)』道行相合かご
  • 『ひらかな盛衰記(ひらがなせいすいき)』逆櫓の段
  • 太夫:竹本三輪太夫豊竹始太夫、豊竹咲寿太夫/豊竹睦太夫
  • 三味線:鶴澤清友、鶴澤友之助、鶴澤燕二郎/竹澤宗助
  • 人形:吉田簑二郎、吉田玉佳、吉田玉彦、吉田玉路/吉田玉男、吉田玉勢、吉田玉誉/吉田玉峻、吉田玉延、吉田玉征、吉田和登
  • http://www.enjoy-bunraku.jp

 

 

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