TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

文楽 7・8月大阪公演『金太郎の大ぐも退治』『赤い陣羽織』国立文楽劇場

親子劇場のお客さん向けなのか、展示室には動物の小道具がたくさん置かれていた。うさぎ、すずめ、白ぎつねのほか、きつね色のきつねもあった。3匹のきつね色きつねの名前は「右コン」「左コン」「コン蔵」とのことだった。身も蓋もない名前で良い。鑑賞教室の会期中には忠臣蔵用のいのししが展示されていたが、いつか文楽に登場する動物を全展示してほしい。

 

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青鬼がドリフのコント状態なのが気になるイラストチラシ

 

 

 

チラシの絵は可愛いけど本物の人形は怖いことで名高い親子劇場、まずは『金太郎の大ぐも退治』。

おこさま向けおとぎ話仕立てですよ〜みたいなヌルいタイトルだが、正体は普通の浄瑠璃だった。『大江山酒呑童子』のうち「土蜘蛛退治」を整理してテンポアップしたものだそうです。「巌峨々たる荒血山、松柏茂りてかくかくたる峯に星霜古廟の庇……」と普通に難しい言葉を使っているにも関わらず字幕出ないし、子ども向けとは思えないトップギアぶりはさすが。モコモコと焚かれたスモークの中から現れる赤鬼(吉田玉彦)・青鬼(吉田玉路)の会話も「疾うから念掛けたアノ娘、腹存分に楽しんだその後で、大江山へ売り渡して大金儲け」とメチャ怖。ステージ中央には衣を頭から被った可憐な娘さんが……と言いたいところだが、娘さんとは思えない品のない座り方とチラ見えしている赤い前掛けのおかげで鬼ズがこの後ド悲惨な目に遭うことがわかる。

娘さんに化けたプリティボーイ・金太郎(人形役割=吉田玉佳)がマサカリで鬼のド頭をカチ割ったところへ現れるのは鬼童丸(吉田玉勢)。人形が華奢な印象でなんかショタっぽいけどわざとなのだろうか。いや名前的にはショタか。歌舞伎の移入なのだろうが、むかしの忍術映画のような衣装も可愛らしい。(『忍術児雷也』と『逆襲大蛇丸』、まじ最高なので皆さん是非観てください。すべてが最高オブ最高。監督加藤泰だし)

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鬼童丸は源頼光(吉田簑紫郎)に射掛けられ姿を消すが、金太郎が舞台奥に怪しく佇む社を真っ二つにすると、そこから巨大な土蜘蛛が現れる。のだが、そのめっちゃデカい土蜘蛛のモケモケとした足の動きが怖すぎて引いた。巨大な蜘蛛のハリボテ状の胴体に揺れ動く8本の足をつけてあるのだが(黒衣さんが蜘蛛の胴体を龍踊り的な感じで支えている)、不規則にプワンプワン動く8本の足の動きがキモすぎて、お子さま客のみなさん大絶賛されていた。蜘蛛のお尻についているフサフサの毛は可愛いけど、そこかしこの節々に生えている毛はオッサンぽくてキモい。あとプチぐもが上から大量に釣り下がってきたり地面に湧いたりするのもお子さま客大絶賛だったが、ワサワサした動きが怖すぎて引いた。とにかく金太郎早く退治してくれと願った(でも引っ張る)。

頼光が引き抜いた剣の光で一瞬たじろいた隙を狙い、金太郎が土蜘蛛を斬りつけると蜘蛛の姿は消えてかわりに傷ついた鬼童丸が姿を現す。鬼童丸は金太郎と大江山で再戦を近い、空を飛んで去って行く。蜘蛛に引きすぎてよく見ていなかったので頼光が特になにもしてなかったかのように思っていたが、一応ちゃんと働いてたのね……。蜘蛛がなんとかなった後でタイミングよく出てきて調子合わせただけかと思った。鬼童丸が「ひらりと虚空遥かに飛び上がれば」と去って行くくだりは宙乗り。客席花道の位置あたりに一部凸状に舞台が張り出しており、何かと思ったらそこから飛ぶという趣向だった。凸部分間近の席のお客さんは蜘蛛の糸(白い紙テープ)をおもいっきりかけられていて、お子さんが紙テープにはげしく掴みかかっておられた。お人形が宙に浮いているのは外連味というよりも、絵巻物や絵本の世界のように感じられて可愛らしい。人形はちっこいので結構高く飛んでいるように見える。鬼童丸は浮いている途中も銀のキラキラ紙吹雪を撒いておられた。

完全子ども向けかなーと思って行ったが、単なる可愛い人形劇的な話ではなく、土蜘蛛や鬼童丸の設定の面白さ、浄瑠璃の詞章の格好よさもあり、文楽らしい伝奇風の仕上がりで大人が観ても楽しめる芝居だった。玉佳さんの金太郎は童子ながらたんにコドモっぽいのではなく、鬼をぶちころすだけある剛力という雰囲気が出ていて興味深かった。

 

 

 

『赤い陣羽織』。あんまり上演されるものでもないと思うので、以下あらすじ。

むかしむかしある村に、姿は醜いが心は優しいおやじ(吉田文司)とその心根に惚れて一緒になった美しい女房(吉田勘彌)が、馬の孫太郎(桐竹勘介←馬役なのに配役表に名前掲載)とともに仲良く暮らしていた。しかし、殿様から拝領した赤い陣羽織を自慢にしているお代官(吉田簑二郎)が女房に横恋慕しており、しょっちゅうウザくつきまとってくるのが二人の悩みの種であった。代官はおやじと外見がそっくりで、あの赤い陣羽織さえ着ればおやじだって代官に見えるというのが二人のいつもの笑い話。今日も用もなく代官はおやじの家を訪ねてきて女房にお茶を出してもらうが、女房から今夜は客もなく二人きりだと聞きつけた代官はある悪巧みを思いつく。その夜、おやじの家へ庄屋(吉田簑一郎)がやって来て、取り調べがあるとおやじを無理矢理連れて行ってしまう。後に残された女房は代官の差し金に違いないと用心し、戸締りをして孫太郎とともに備えていたが……。

……庄屋の家からやっとのことで抜け出て来たおやじが家へたどり着くと、戸口は開け放たれ、上り口には代官の着物、そして囲炉裏にはあの赤い陣羽織がかけられている。そして奥の寝間からは代官の声が。おやじは菜切り包丁を掴み、代官を殺そうとするが、思い直して赤い陣羽織を着込み、代官に化けて屋敷へ乗り込んで代官の奥方を寝盗ろうと決意して、赤い陣羽織姿で家を後にした。

おやじが去ったあと、代官がのそのそと奥の寝間から現れる。実は代官は女房に鋤で殴られて昏倒し、奥の間へ寝かされていたのだった。そして、陣羽織が囲炉裏にかけられていたのは、ここへ来る途中に滑って転んで川へ落ちて濡れてしまったのを代官のお付きのこぶん(吉田勘市)が律儀に干したからなのであった。姿が見えない女房に、代官は村中へことの次第を言いふらされては大変、ましてや屋敷へ行かれて奥方へ吹き込まれては超大変と大慌て。ひとまずおやじの野良着を着て出かけようとしたところへ女房に連れられた庄屋と出くわし、代官は彼をおやじと勘違いした庄屋に締め上げられそうになる。こぶんの説明で誤解も解け、おやじが代官屋敷で何かしでかしているのではと一行は屋敷へ向かうことに。
代官は一行とともに屋敷へ戻るが、貧しい身なりの代官を見ても、赤い陣羽織を着たお代官様はもうご帰還なさっていると門番は取り合わない。そのうち奥方(豊松清十郎)が腰元を引き連れて現れ、おやじの姿の代官をそっけなくあしらう。奥方に呼ばれた代官姿のおやじに女房は泣きつくが、奥方の口添えもあって無事お互い誤解は解ける。自分勝手な行動をした代官とそのこぶん、庄屋はこの芝居を打った奥方にキツく叱られ、田舎の村のちいさな事件は無事一件落着するのであった。

 

…………………。子ども向けには渋すぎだろ……。異様にやる気のある色合いの💩以外子ども向け感ゼロ……。人形の所作はとても可愛く、🐴、💩など人形遣いさんたちが子ども客に喜んでもらおうと工夫なさっているのはよくわかったが、話が古いのと(好き嫌いは別として、教訓ものと艶笑ものの合体話はどうしても古臭く感じる)、途中で説明台詞が延々続くのが渋すぎる。パンフレットによると、原作者の意向で戯曲の原文が変えられず、そのまま義太夫に移入したそうだが、通常の文楽のテンポからすると説明パートの長さに厳しいものを感じる。まず代官の服が囲炉裏にかかっている理由と代官が奥の部屋で寝ている理由が別なのは複雑すぎやて。女房が孫太郎の水桶でぶん殴ったという設定にしたほうがよかないかね? あとはせめて人形出遣いにして欲しかった。勘彌さんの過去が気になる女房役は色っぽくて良かった。なぜ町で勤めをしていたことがある女房は「男は気立て」と言うのか? 勘彌さんがこの役やってると裏がありそうで面白くないですか。あとはとにかく💩がまじ💩←こういう形の💩なのが興味深かった。目もついていた。

なにはともあれ妻が代官に寝取られたと思って代官の妻を寝取りに行く話を子ども向けに上演するの、まじおおらかだと思う。パンフレットのあらすじにおもいっきり「お代官は(中略)晩に女房がひとりのところを襲う計画なのでした。」って書いてありますけど、「なのでした」じゃねえだろ。文楽は自由の国。

 

 

 

今回の夏休み公演はビックリマンコラボということで、指定日に第一部を観劇するとオリジナルビックリマンカード「松王丸」「静御前」「団七ゼウス」がもらえるというサービスがあった。団七ゼウスって何故そこを悪魔合体させるのか……。企画が発表されたのがチケット発売後だったため配布日に行くことができなかったのが残念だった。カード、欲しかったわ〜。