TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

麻雀漫画と昭和の日本映画と文楽(人形浄瑠璃)について書くブログ

文楽 1月大阪初春公演『寿式三番叟』『奥州安達原』『本朝廿四孝』国立文楽劇場

もはやまったく正月感のない今日この頃、やっと文楽劇場へ行った。

観劇日前後は大寒波の影響で名古屋~京都付近が大雪、新幹線が徐行運転となり大幅遅延。当日朝の新幹線で大阪へ行き、日帰りで観ようとしていたのであせったが、新幹線の時間を繰り上げたので、70分ほど到着が遅れたけど無事開演には間に合った。かなり早い時間の新幹線に乗ったので4時起きでしたが……。大雪が降っても運休せず新幹線を運行しつづけるJRの降積雪対策技術と、夜間除雪作業等にあたられた方のお陰で無事初春公演観られてよかったです。

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米原付近の雪景色。ふぶいてます。

 

 

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文楽劇場はまだお正月飾りを出していてくれた。

小正月なので本当ギリギリだったが、一応一階ロビーにはまだ鏡餅があった。それと文楽劇場のサイトのニュースに載っていた、黒門市場から届いたというにらみ鯛。って、これって本物の鯛(鮮魚)を貰って初日だけ飾っておくのかと思っていたら、作り物なんですね。

大劇場ロビーには紅白の玉のついた花餅が賑やかにワサワサと飾られていた。場内入ると舞台上方には干支が揮毫された凧と一対の巨大なにらみ鯛がライトアップ。ちょっとぼーっとした顔のピンクの鯛がかわいかった。

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第一部、最初は『寿式三番叟』。

9月に国立劇場で観たのと配役が違うが、そのためか三番叟の踊りの進行が違っていて面白かった。ギャグ顔のほうの三番叟のほうが途中でサボる回数やサボり方、イケメンのほうの三番叟がそれに気づいて「ちょっとちょっと~!」ってやるタイミングが違っていた。今回はわりとすぐイケメンの三番叟(配役・吉田玉佳)がギャグ顔(吉田一輔)のサボりに気づいて「も~っ💦」とやっていた。そのとき玉佳さんまで「も~っ💦」って感じだったのがおかわいい。ギャグ顔の三番叟は何度もサボっていた。

翁は和生さんでさすがの気品ぶり、美しかった。しかし翁が舞っている間、かなりマナーが悪い客がいて、本当和生さんには申し訳なかった……。ここがフィルムセンターなら乱闘始まってたね。

この『寿式三番叟』、太夫・三味線がステージ奥へ雛壇状に並ぶので、通常時より義太夫が小さく聞こえる。私は今回最前列だったが、それでも声・音が小さく思えた。後列のほうの方はどうだったんだろう。

また、一階の展示室では、文楽劇場で開場以来33年間に上演された『寿式三番叟』18回分の記録映像ダイジェストが流されていたが、それを見ても三番叟の踊りの進行は演者によって違っていて、個性が出ていて興味深かった。横にずれていって扇でパタパタひとやすみするのではなく、疲れすぎてバタンキューしちゃうパターン(簑助さん)とか。衣装も通例の黒地ではなく、エメラルドグリーンや紫の衣装を着ている映像もあった。

 

 

『奥州安達原』。

一段だけの上演だったが……、これ、一段のみ上演するにしては話が複雑すぎ、この段だけでも人間関係入り組みすぎでは。しかも人がやたらワサワサ出てくる。にもかかわらず、パンフレットの説明がかなりわかりづらい。説明しきるのは無理と判断したのか説明を大幅にはしょっているのと(壮大な話ですと書かれても……)、文章自体がわかりづらく、事前に読んでもどういう話なのかわからなかった。

 

ざっくり言うと、狂言全体としては、前九年の役で朝廷に滅ぼされた東北地方の豪族・安倍一族の末裔、安倍貞任・宗任兄弟が源義家に報復を企てるが、その目的のために彼らの周囲で悲劇が巻き起こるという話(多分……)。

今回上演の「環の宮明御殿の段」、前半は登場人物が一度にたくさん出てくる上にことばのやりとりが多く、何か詮議をしているのはわかるものの各人の思惑がわからず「???」状態になったが(字幕が見えない席はこういうときツライ)、袖萩(豊松清十郎)が出てきて以降は芸だけ見ていても雰囲気で話の流れを汲める展開だった。門の内側へ入れない落ちぶれた袖萩が母・浜夕(桐竹勘壽)に促され、自らの身の上を歌(祭文)で伝えるあたりが一番の見せ場でとてもよかったが、個人的には、死の間際の袖萩が貞任(吉田玉男)にすがりつくとき、貞任は最初はまっすぐ正面を見て知らぬような顔をしているけど、下を見ると袖萩が手を重ねているのがひっそりとよかった。娘のお君(吉田簑太郎)は相当しっかりしているが、何歳という設定なのだろうか(←追記:詞章に11歳とあった。しっかりしたお子じゃ)。

ここでよかったのは安倍貞任役の玉男さん。前半は桂中納言に化けているのでお公家さん姿の気品のある鷹揚で静かな芝居、後半は本性をあらわし派手な襷掛け衣装の荒々しい姿へ。とてもお似合いの役で、芝居のメリハリが鮮やかで私のような素人でも楽しめる。後半のバクハツ鬘は剛毛だったり固まったりしているのではなく、女子がバッグにつけているファーのポンポンのようにフワフワやわらかげに揺れていて、触りたい、頭ポンポンしたいと思った(休憩時間にロビーで同じことを言っている方がいて笑った)。おもしろいビジュアルといえば、最初は田舎者の姿で登場する弟・時任(吉田玉也)の本性の姿も。太いイエローの綱を鉢巻と襷にしているのがセイバーマリオネットJ(古い)的なセンスでおもしろい。

この段では鏃がキーアイテムになっていて、舞台のあちこちを行き来する。はじめは手裏剣。これ、ちっちゃい&本当に飛ばしているわけじゃない分、人形の演技でどこへ飛ばしているか、客が目で追えるようしっかり見せなくちゃいけなくて大変ですね。ちょととどこへ飛んだかわからないときがあった。次に宗任が白旗に血文字で歌を書く筆。最後には白梅の枝に取り付けられて傔杖の腹切刀になる。梅の枝を刀にするのは、三隅研次監督の映画『斬る』で、市川雷蔵が梅の枝を剣に見立てるくだりを思い出した。また、登場人物の対立構図のほか、源氏を象徴する白という色、対して平家を象徴する赤も重要な意味を持っており、それを解説に書いておいてくれよ〜と思った。劇中何度か取り出される白い旗を使った演出もそうなのだが、白梅が血に染まって紅梅になるところとか、注意していないとわかりづらい。

ところで、幕の直前、貞任と宗任と義家(吉田文昇)がみなド派手な衣装で、しかも貞任と時任はかなり大振りの人形で競り合うように同時に大きく動き、かつ大きな音を立てるため、どこを見ていいかわからず、割り切って玉男さんを見ました(人形を見ろ)。

以上、あまりにパンフレットの解説がわかりづらかったため、(初代)吉田玉男文楽藝話』を参考にして書きました。文楽劇場国立劇場の売店で売っている本で、新書サイズながら内容はかなり専門的、演目ごとに大変細かい解説が書かれていて参考になります。

 

任侠映画が好きと言っているわりに、そこに描かれている義理に縛られ心のままに生きられないという筋書きにいまいち反応できず、むしろ詰めの甘さや脚本上の穴が気になりだすことが多い私だが、文楽だと義理に縛られて親子でも思うように手を取り合えず、想いと行動が逆にならざるを得ないという話がすっと入ってきて、素直に泣けるのがとても不思議。親子ネタも映画ではほとんど感動したことないのに(『砂の器』くらい? これも想いと真逆の行動にならざるを得ないという展開だが)、この袖萩親子の話はとても心に響くものがあった。文楽は洗練と泥臭さと品と俗が入り混じる不思議な世界だ。

 

 

『本朝廿四孝』。

十種香の段。定式幕が開くと、幕の張られた瓦燈口を中央に、障子で中が見えない屋台が左右に割り振られていた。上手の部屋の障子の内側に仕掛けられた幕が巻き上げられると、透ける障子越しに勝頼の姿を描いた掛け軸に手を合わせる八重垣姫(桐竹勘十郎)の後ろ姿が見える。そして下手の部屋では位牌に向かう腰元・濡衣。今回、簑助さんはこの濡衣役で出演されていた。なんか異様に色気したたる腰元がおるなって感じ。これって普段どうなってんの? こういうもんなの? 八重垣姫が勝頼(吉田和生)との関係を疑ってくるのもわかる。この気品のある色気によって、八重垣姫の幼さと可憐さが際立っていてよかった。八重垣姫は一途なお姫様といえば聞こえがいいが、行動が思い込みすぎ&無茶苦茶&豪速球なところ、勘十郎さんに似合う気がする。

それにしても勝頼の衣装がかわいい。光沢のある淡いミントグリーンの裃に、ペールピンクとクリーム色がバイカラーになっている着物は可憐な小花柄。八重垣姫の赤い振袖以上に女の子が好きそうな色合い。

奥庭狐火の段。幕が開くと暗い庭にイエロー〜グリーンの綺麗な色の狐火がふたつプワンプワンしているのが幻想的。本物の火を使う演出。そして待ってました、勘十郎様。諏訪明神の御使のキツネの霊力により姫が魔性を帯びる、人形の派手な見せ場。勘十郎さんご自身がとてもいきいきされていたし、客席も大喜びで、頻繁に拍手の嵐が起こっていた。着付も十種香の薄群青から、キツネを演じるときは白地に火炎、魔性を帯びた火炎の衣装の姫に持ち替えてからは淡いグレーに早変わり。姫の演技も可憐で幼げな十種香とはまったく異なり、水面に映るキツネの姿に怯えながらも人外の霊性を帯びた妖艶なものになる。人形の手もちゃんとキツネの手。動きが激しく速いのに姿が崩れないのは見事。火炎の衣装になった八重垣姫は全員出遣いで、左が一輔さんだったのだが、足がロビーのグリーティングとかで時々見る、いつもがんばってる顔色が真っ青な子だった。いい役もらったんだねえ。

そしてみなさまお待ちかね、ぬいぐるみのキツネちゃんたち。灯籠から現れて兜に憑依するキツネちゃん(勘十郎さん)も尻尾の扱いがかわいくて良いが、最後に八重垣姫が纏う4匹のキツネちゃんもかわいい。ここはお若い人形遣いのみなさんが出遣いで出演。今回配役に名前の出ていない若い子はここで出遣いがあるのね。キツネちゃんたちは画一的な演技ではなく、良い意味で揃っていない、ちゃんといっぴきいっぴき違う個性がある演技。ジブリでこれをアニメ化してもこういうふうにちゃんといっぴきいっぴき違うキツネとして描かれるだろうという感じ。いずれも華やかで可愛く、楽しかった。

 

 

今回は昼ごはんを食堂で食べた。

前述の通り、劇場到着が遅くなってしまったため開演前に予約できなかったので、休憩時間になってから直接食堂へ行った。注文したのは天丼(1,500円)。頑張ってできるだけ早く作って出してくれるのだが、いかんせん休憩時間が30分しかないため15分程度で食べねばならない。にも関わらず、ご飯がすごい量盛られていたので「えー!食べきれない!」と思ったが、箸でつっついてみるとすごくフンワリというか、空気を含んで盛り付けられて、口当たりホロホロになっており、実際の量はそこまでではなかった。この空気を含んだ盛り方、喉につまらないよう、食べやすいようにという配慮? 食堂はちょっと高いけど、席やロビーに比べゆったり余裕のある席で食べられて良い。また、いまどきないくらい接客がテキトーなのも良い。予約したらもうすこしゆっくりできるはずなので、今度は予約にしたい。

 

 

  • 『寿式三番叟(ことぶきしきさんばそう)』
  • 『奥州安達原(おうしゅうあだちがはら)』環の宮明御殿の段
  • 『本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)』十種香の段/奥庭狐火の段
  • http://www.ntj.jac.go.jp/schedule/bunraku/2016/5757.html