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TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

麻雀漫画と昭和の日本映画と文楽(人形浄瑠璃)について書くブログ

ヤクザと憲法

東海テレビ制作のドキュメンタリー。元々はテレビで放送されたもののようだ。

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本作は全国に27ある指定暴力団のうち、大阪西成に本拠を置く東組の二次団体「二代目東組二代目清勇会」事務所への密着を中心に、サブのラインとして山口組の顧問弁護士・山之内幸夫氏を取材している。撮影時期は2014年秋~2015年初頭くらい。山口組の分裂前。積極的に突っ込んで取材していくというよりも、基本的には取材先の日常を撮りっぱなし。取材謝礼は支払わず、登場する人は基本モザイクなし、取材映像は事前に見せないという取材ルールになっているそうだ。

 


『ヤクザと憲法』劇場予告編

 公式サイト:http://www.893-kenpou.com


その事務所は、大阪府堺市の住宅街の中にある、ごく普通の建物。

3階建ての、豪華でも質素でもない、ほんとうに普通の住居風の建物。周囲の風景にもわりあい(?)溶け込んでいる。ヤクザっぽい大きな表札なども特についてはいない。入り口が不釣り合いにいかめしい鉄扉になっているのだけが違和感で、それ以外はよくある個人経営の小さい会社の事務所という感じ。

1階は車庫(駐車場)。車通勤の人はここに車を停めているようだ。右手に華奢な鉄階段があり、ここから上へ上がれる。

2階は普通の会社事務所風。入ってすぐは大きな木の置物が置かれた玄関。そのまま間続きの室内に入ると掃除の行き届いた執務スペースはとてもキレイに整えられていて、それは会長の方針、らしい。正面奥に電話とパソコンの置かれた事務机がひとつ。1日2回、本家へ電話連絡を入れなくてはいけないらしく、壁にはそのチェックシートが貼られている。通りに面した窓の上に3枚の写真額がかけられていて、組のエライ人の写真が入っている。それとソファとテーブルの応接セット、テレビ。飾り棚にはすっごくデッカイ亀の置物。別室として応接室(会長室?)がある。誰でも使えて、個人面談?などはここでやっているみたい。

3階の明るいミーティングスペースは畳敷きで2間続きになっている。住み込みの人の寝起きする住居としても使われていて、生活用品なども置かれている。ここはもう本当にごくごくフツーな室内で、親戚の家みたいな感じ。壁にすえられている「任」「侠」「道」の文字が彫られた3枚組の巨大な木彫りの額(見た見た、東映で何度も見たよこの額)がもんのすごく浮いている。奥の間に置かれた大きなアルミラックは雑貨棚と本棚を兼ねていて、そこには沢山本が入っている。みなさま期待通りのヤクザ本(刑務所に入っているときに差し入れで貰うらしい。みんな同じのを持ってきちゃうらしく、同じ本が何冊もある)、世界のねこ図鑑(刑務所の中の癒し、だそうです)、そして普通の文庫本などがいっぱい。身内のエライ人の書いた本もあるとのこと。

ほか、住み込みの人が自炊するキッチン、バスルームと洗面所がある。ここもとても几帳面に整頓されている。

事務所内には常に数人が溜まっている。組全体では20数人いるらしいが、事務所に顔を出す人(今回写っている人)は7人くらいで、事務所詰めのシフトのようなものがあるのか、日々そのうちの4人くらいが来ている感じ。組員は、見た瞬間「Oh, notKATAGI」とわかる人もいれば、ニコニコしていて町工場のおっちゃんにしか見えない人、浅草の馬券売り場にたまってるおいちゃんみたいなイイ顔の人、お寺さんの見習いですかねって人もいて、個性もてんでんばらばら。あえて「一般人」と違うところを挙げるとすれば、キャラが異常に濃い人ばっかりということくらい……? 事務所内はまったく服装コードがないらしく、ジャージなど、みんなかなり自由にやっている。

電話がかかってきたら「はい清勇会」と言って取る。朝礼のときは3階にみんな集まって、公民館での会議のように長机と座布団を出して着席。ここには普段事務所にいない人も何人かプラスして顔を出す。司会担当のひとが「絶縁状(破門状だったか?)回してる〇〇、出所してきて大阪にいるみたいだけど、大阪処払いなので、見かけた人は報告して下さい〜」とかの連絡事項を伝達する。兄貴分たちの出勤退勤時は下っ端が出迎え見送り。兄貴分たちはみなさん車通勤ぽい。下っ端は事務所内を念入りに掃除し、事務所前の道路も細かいゴミまで箒で掃き清めている。それと取材クルーのお世話(?)も。

事務所はバタバタすることもほとんどなく、全体的にポワ〜ンとした時間が無限に続いていく。

 

端的に言って、事務所内は部室みたいな雰囲気。

忙しくないとき(?)は、みんな、テレビを見たりして過ごしている。電話番の下っ端の子が妙にデッカイ声で電話を取ったせいでみんながフオッとなって、「相手より大きい声で言わなくていいんだよ〜」と言ったりしているくらい。何もやることのない時間はカメラは固定撮りっぱなしになっていて、かれらがひたすらぼ〜っとするさまが写されている。言われないと、ヤクザ事務所だとはわからない。

 

組にはいろいろな人がいるのだが、印象的だったのは、帽子を被ったおじさん(キービジュアル右上の人)。

組には下っ端・見習いにあたる「部屋住み」という立場の人が2人いて、そのうちの一人が21歳の男の子。細身で坊主頭にメガネのごくごくフツーの、専門学校生風な感じ。この子がまたかなりのボンクラで、ヤクザとかどうだとかいう以前にコミュニケーション能力がかなり低めな感じで、まず人の質問にちゃんと答えられない。ほかの人に接するときはややびびりながら言葉を選んで喋っている取材クルーからも早々に舐めきった口を利かれているようなボンクラぶり。大丈夫かよ。東映で言うと『現代やくざ 血桜三兄弟』の荒木一郎より心配になってくる。なのでキツイ兄貴分だとかれの態度に落ち度があったときなど有無を言わさず殴ったりしている。兄貴分、カメラが回っているからかそれとも一般の会社みたいに説教のときは人前ではやらないのか、かれを別室に連れていってボコるのだが、扉のむこうからすごい音がずっと聞こえるだけのこのシーン、まじ怖い。

それで、帽子のおじさんだが、この人はかなり口調がキツく、ボンクラくんに何度も色々言うので、はじめは他の人と同じくボンクラくんにキツくあたっているのかと思った。

しかし、お正月。テレビがどこかの寺か何かの中継を流しているので大晦日の深夜か元旦あけてすぐだと思うのだが、ボンクラくんと帽子のおじさんが、紅白カマボコとかのささやかな正月料理で1杯やっている。その間、帽子のおじさんはボンクラくんをいじって2人でキャイキャイやっているのだが、事務所内はふたり以外だれもいない。もしかして、帽子のおじさんはみんなが家へ帰ってしまう正月にボンクラくんがひとりになってしまうから、来てあげているのか? ボンクラくんはどうも家出してヤクザ事務所の扉を叩いたので、家族とは完全に絶縁状態していて、実家へは帰れないようなのだ。

ここまで観て気付いたのだが、このおじさん、それまでのシーンでボンクラくんに何度も話しかけていたのは、実は人の質問にちゃんと答えられないボンクラくんを心配してのことなのか? 何度も同じようなことを聞き直していたシーンは、かれがちゃんと自分で考えて自分の言葉で答えられるまで、何度も言い方を変えて聞き直し、かれが質問に答えられてから「こういうときは〇〇すればいいんだよ」と教えていたのか。それが「夕刊どこいった?」くらいの軽いことでも、かれがちゃんと答えられるまで、待つ。私なら3回目でブチ切れてたね。帽子のおじさん、ちゃんとしているのに、なぜヤクザになったのか。

帽子のおじさんはボンクラくんのことを「あの若さでヤクザなんか、ならなくてもいいのに」と漏らす。ボンクラくんは18歳のときに本家(東組)に突然来たらしく、そのときは「成人してから」と追い出されたらしいが、20歳の誕生日にまた本家を訪ねて、ここへ引き取られてきたらしい。本人はカメラの前でははっきり言わなかったが(というか整理つけて喋れない)、帽子のおじさんは「学校でいじめられてたみたい」と言った。兄貴衆に囲まれて始終緊張しているふうなボンクラくんであるが、このときだけはとても楽しそうにしていた。

帽子のおじさんは言葉少なで、会長とどういう関係なのか、何故ここにいるのかなどは一切説明がない。わかるのは、朝礼のときに結構上座に座っているのでそこそこ立場がある人だろうということ、チラシの文言からすると組内の立場は「舎弟」と推測されるくらい。

が、一度だけ自分のことを語る場面がある。取材中に参院選が重なってきたとき、取材クルーが別の組員の人と「選挙行くんですか?」「もちろん行くよー!!」という会話をする一幕があるのだが、クルーが同じ調子で帽子のおじさんに話題を振ると、帽子のおじさんは、選挙権がないから行かないと言う。クルーが何故なのか聞くと、「国籍に関係ある」と言い、「帰化してれば別だけどね」と話して、この話題は終わりになる。

 

そして、「会長」。

東映の観すぎで、指定暴力団の二次団体の会長っていうと相当いかつい爺ぃが出てきそうと思っていたのだが、この人については普通の人にしか見えない。キービジュアルセンターの人。というか、妙に男前なので、チラシだけ見た段階ではインタビュアーの俳優かなんかかと思っていた。いままで相当男にモテまくっただろうな。会長で1800円の元取れる(話が逸脱)。

服装や髪型が若くて(こう見えて61らしいです)、雰囲気がふわ〜っとしているのであまり緊張感はないのだが、何を喋っていても表情がまったく変わらなくて完全に真顔なことだけ、若干、というか、かなり、常人離れしている。会長は普段いぬのおさんぽですかって感じのアウトドアブランド風な格好でウロウロしているのであまりヤクザ感がないのだが、自分のところの総長の葬式のときだけは(当然ですが)黒いスーツを着ていて、それはさすがに完全にヤクザでした。通常比険しめの顔つきで子分を引き連れて歩いてて、まじで映画のスチルみたいになってた。あまりの東映度に感動。すげえ! 東映は本当だった!

会長はかつて山口組とのいざこざで一般人が巻き添えになって死んだ事件のかどで実刑となり、長く刑務所に入っていたそうだ。その事件の現場(新世界)へ取材クルーを案内するときも、真顔で事実を淡々と喋っている。ただその話の中で何かが若干ジャンプしている感じが怖い。たしか安藤昇横井英樹襲撃事件を語るインタビューもそうだった。理路整然と喋っていて同情を引くための言い訳や自分の感情も入れずに淡々としているのだが、何かがジャンプしているのだ。

会長が表情を変えるのは、新世界の定食屋?のどきついオバちゃんに激褒めされて照れ笑いするのと、だれかの出所の出迎えに行ったとき、その人に笑顔を見せるくらい。

ある日取材クルーは事務所へ顔を出した会長から応接室へ呼ばれる。会長は、A4のプラケースにいっぱい詰まった報告書を取材クルーに見せた。それは、例えば、ヤクザは銀行口座が作れない(身分を隠して作ると勝手に解約され銀行側から訴えられる)だとか、ヤクザの子どもが幼稚園への入園を断られる等の事例報告書だった。どうも会長はこういう事例を色々と集めている(集めさせた?)らしい。

「(こういうことが困るというのなら)ヤクザをやめればいいだけ、という話が出てくると思うのですが?」という取材クルーの質問に、会長は「それで、受け入れてくれるところ、ある?」というようなことを答える。会長は端的にしか喋らない。ただ、ここまで組内にカメラを入れさせていることもあわせて考えると、元々から何か思っていることがあるのだろう。

 

 

宣伝のアオリだと、警察や司法などの「権力」がかれらの人権を無視し、「権力」を濫用している、というような書き方だけど……、いや、それもわかるんだけど、実際のところは、警察や司法だけでなく一般の人たちもかれらの人権を無視している、差別している……、軽んじ見下していると思う。ただそれを直接指摘し、いわゆる「じぶんごと」として見てもらおうとすると、視聴者(観客)批判になるから、それはやらないのかな。クルーが取材相手によって口調を結構変えていること、絶対相手を選んで撮ってるだろっていうのもある意味そのひとつに思える。クルーの発言はほとんどカットされているので見た部分に対する私の恣意的な解釈だけど、取材相手に対する敬意を感じないというか。これには引っかかった。一般人の素直な反応と言えばそうなんだけど、例えばこれが新薬開発の研究者に密着したドキュメンタリーだったらあんな態度で接しないだろうとは思う。でもそのビビった感じもある意味リアルなんだよね。

とか偉そうなことを言っているが、それを観に行っている私も完全に関係ないとこから見下ろしてるだけの物見遊山。ヤクザは「犯罪」をおかしたときに一般の人よりも手軽な感じで厳罰になったり別件逮捕されたりするということを私は本で読んだことがあって知っていたため、ひっくくるネタになるシッポを見せてしまった(それが本物のシッポだったかどうかは本編中からはわからない)組員のひとりが逮捕されるという展開に衝撃を受けなかったから、ヤクザの人権のなさ(?)にあんまりビックリしなかっただけかもしれない……。

そういえば最後のほう、組事務所に「桜の代紋」こと警察のひとたちが捜査にやってくるんですけど、これもまじでどっちがヤクザだよって感じで、『県警対組織暴力』みたいに、のらりくらりとしているがクソ鋭そうな年配刑事と、速攻ぶち切れる中堅刑事がいて、東映は本当だった!!と思った。



全体見ていてなんとなく思うのは「このひとたち、まじでここ以外に居場所がないんだろうな〜」ということ。

社会は一度ドロップアウトした人に厳しいというのがはっきりわかる。取材クルーを自宅に連れて行ってくれた子分のひとりは、20代のころは堅気で妻子もあって、家族で幸せそうな顔で写っている写真をいまでも持っている。それでも、クルーからヤクザになることに躊躇はなかったですかと聞かれて、まったくなかったと答える。まったくないと言い切った理由は何なのか。一線を越える越えないはどこにあったのか。先述の21歳のボンクラくんにしてもそうだ。話していることからすると他の選択肢を考慮せず(選択肢が存在していること自体認識しておらず)東組本家に行ったらしい。普通、東組本家に踏み入る勇気があればなんでもできると思うのだが。ボンクラくんは相当しどろもどろなので何を言っているかわからないのだが、そこまで精神的に追い込まれた状況だったことは伝わってくる。みんなが普通に生きられる社会が普通の社会、みたいなことを一生懸命喋っていた。とはいえ、それでも言ってることがどこかでジャンプしている感じがリアルに怖い。



かれらはみんな、語る言葉がどこかジャンプしていて、そこが一般人とずれている感じがする。

本田靖春の著書『疵 花形敬とその時代』に、花形敬(若くして殺された有名ヤクザ)と同級生だった著者(読売新聞のエース記者だったノンフィクションライター)が、かれと自分と、同じような境遇だったはずなのに、一線踏み外す外さないはどこにあったのだろうかと書かれている部分があるのだが、その踏み外す外さないのラインは、そこなのだろうか。私は、私自身に対して、それこそいつ『仁義の墓場』側に転落してもおかしくない、その一線を越えかねないと思っている部分があって(カッコつけではなく、一歩間違えば即人間のクズに転落しそうという意味)、そのラインというのはとても興味深いものなのだ。



本作を観て思い出したのが、先述の本田靖春『疵 花形敬とその時代』に加え、鈴木智彦『潜入ルポ ヤクザの修羅場』、山本譲司累犯障害者』、そして法務省がやっている「社会を明るくする運動」。これらの内容が私の中でつながる感じだった。

あとは東映のヤクザ映画ってやっぱりある意味でリアルだったんだと思わされた。虎の置物とか仁義の額とかだけじゃなく、『女渡世人 おたの申します』の一般人の描き方とか、『仁義なき戦い』で出所してきた親分をねぎらうべく犬鍋作っちゃうくらいやばい感じに抜け作な子分どもの感じとかが。

 

 

 

日常シーンで組事務所の前を小学生が歩いていくカットを使うなど若干色付けはあるが、あまり説明や演出感のある盛り方はない。その意味では公式サイトやチラシにあるような下世話な惹句は逆にみずから作品を裏切っているような気がするが……。

法令関連の解説は適宜入るので、そもそもヤクザって何?暴対法って名前だけは知ってるんだけど、どうやって制定されたの?という人でも見易い。私もよくわからないことが多かったので、とても勉強になった。登場する人々の発言等に一切裏取りをしていないのも却って良い。かれらが本当のことを言っているかどうか、そして本当のことを言っているかどうかがはたして本質なのか、よく見て自分で考えてくれ、ということなんだろう。

最後に、タヌキにしか見えない山口組の顧問弁護士。以上の感想では触れていないが、この人のあやしすぎる言動は結構見どころ。本編中では少々の報道資料と本人の発言だけで進んでいきますが、この人かなりの有名人なんでネットで検索すると本編中で脱落している部分がわかります。私から見ると、この人が一番狂人だった。

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