TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

麻雀漫画と昭和の日本映画と文楽(人形浄瑠璃)について書くブログ

2014年ベストムービー10(ほぼ旧作だけど)

昨年は仕事が忙しく、あまり映画を観られませんでした。そして鈴木則文監督、高倉健菅原文太の逝去がショックすぎて心が無になりました。映画がらみで一番印象に残っている話は、新文芸坐中島貞夫特集でゲストに来た松方弘樹が「『脱獄広島殺人囚』のボットン便所から脱獄するシーンで便所に充たされているウンコはカレー」と言っていたことです。今年はテレビそして録画する機械を買って、CATVに加入して劇場でやってくれない映画を色々録画したいです。(低レベルな願望)


┃ 地獄
地獄 [DVD]

地獄巡り映画である。いかにも低予算なけばけばしい作り。これ見よがしな残酷描写。毒々しい色彩。ああ、これは見たことがある、私はこの地獄を知っている。幼い頃、夏は「地蔵盆」というお祭りに連れて行ってもらっていた。それは、何か美味しいものを買ってもらっただとか、盆踊りをして楽しかったという記憶ではない。私の住んでいた地域では、「地蔵盆」のメインイベント(?)は暗い夜道のところどころにテントが立っており、その中に黄色いライトに照らされた菊人形やハリボテの人形が置かれていて、それを見て歩くという不思議な形式になっていた。その菊人形やハリボテの人形がまた田舎の土俗的なセンスに彩られたものだった。ギトギトした色彩の品のない巨大な菊。新聞紙を張り子にして泥絵の具(だとまだ良かったが、チューブから絞ったままのギトギト色の安絵の具)を塗りたくった人形。具体的にどんなものが展示されていたのか記憶はないが、暗い夜道にぽつぽつ灯った明かりの下で繰り広げられる極彩色の地獄絵図は、子ども心にこの世ならぬ風景だと感じていた。本作は、それを思い出す映画である。
だが、本作で最もすさまじいのは、「地獄」を描くあの世パートではなく、「現世」を描くこの世パートである。もはや、あの世にある地獄などぬるいと思えるほどの現世の「地獄」ぶり。そして特筆すべきは、養老院「天上園」の造形である。汽車の警笛、御詠歌、鈴の音が鳴り響くこの世ならぬ世界。線路、踏切、公民館の広間のような薄暗い座敷。貧乏な老人が肩を寄せ合い、ありあわせのもので作るささやかな娯楽、慰安行事。こちらは「地獄」パートのようなテンプレ的な表現ではなく、しかしながら既視感のある世界であるぶん、来るものがある。いや、これに既視感を感じるかどうかは人それぞれだと思うんですが、自分に限って言えば、幼少時代はこういう「世界観」のなかに生きていました。田舎って都会の人が思うほどホッコリしてないし、ナチュラルでもないですから的な……。
でも、「地獄」って、いいところですよね。この世では誰からも相手にされず、認められず、無視されて苦しんだ人も地獄に墮ちれば必ず閻魔大王や獄卒の鬼があなたの価値を認め、あなたをくまなく誠実に査定し、あなたに合った環境に配してくれて、24時間、かならず側に鬼がついて細やかにケアしてくれる。そして、「永遠」が約束されている。ある意味ではこの世より、ずっといいところでしょう。



祇園の暗殺者

幕末の京都、理想とする新しい時代を切り拓くため、暗殺に手を染める勤王派の志士・志戸原(近衛十四郎)。しかし時代の激流の中で、暗殺は信念ではなく虐殺になってゆく。彼は次第に“時代遅れ”となり、そして――。
もう、「観てくれ!!!!」としか言いようのない、素晴らしい作品。大きく変化してゆく時代のうねりの中で、信じるものに裏切られ、無下に引き裂かれてゆく個人の感情。自分以外の何かに「自分」を託している人間、大切に思う「過去」がある人間にとって、これほど響くモチーフはない。笠原和夫の真骨頂だろう。笠原和夫は監督の演出にかなりの不満がある旨インタビューで話しているが、笠原和夫の描きたかったことが濁っているわけではないと私は思う。ソフト化を切望す。



┃ 春秋一刀流

出入りの助太刀をする雇われ用心棒稼業の侍三人。「もらった金の分しか働かないよ〜」とばかりにノンビリやっており、日記をつけたり、お金を貯めて道場でも開こうと計画したり、ほっこり過ごしているが、次第に暗雲が立ちこめてくる。
1939年製作なのにまったく古さを感じない。昔の映画に対して「古さを感じさせない」というのは一種の紋切り型の褒め言葉で、そうは言っても実際には古くて、古い映画にしてはガンバッテルネ、くらいが通常の意味だけど、本作に関しては字義通り、本当に「古さを感じさせない」。主人公たちの自然体な雰囲気といい、主人公の書いている家計簿(?)がわりの日記のかたちを借りた語り口といい、大変に洗練されている。これが公開された戦前の日本というのは一体どういう世界だったのだろうと思う。



コータローまかりとおる!

『関東テキヤ一家』を初めて観たときも感じたが、鈴木則文は「テンプレ」が確固として存在するジャンルの「テンプレ」を客観視し、虚構の世界としてメタ化して表現するのがうまい。いまでこそそこらじゅうに氾濫している表現方法だが、当時では先進的だったのではないだろうか? 『関東テキヤ一家』の「任侠映画」感、この『コータローまかりとおる!』をはじめとするコミック原作学園モノの「学園モノ」感。その「〇〇感」を外側の世界から腑分けし、「作られた世界」として再構築して描いているように思われる。
それにしても、この「学園モノ」感がたまらない。絵に描いたような巨大学園都市、絵に描いたような生徒会、絵に描いたようなヘンチクリンな仲間たち、絵に描いたようなセンセイたち、絵に描いたような……。絵に描いたような学園ものの世界をそのままフィルムに焼き付けた、濁りない世界観。
鈴木則文の学園もので良いところは、いわゆる「スクールカースト」がないことだ。それはスケバンものでも同じ。ワルな子、優等生、普通の子、地味な子、バカな子、いろんな子がいるけれど、普通は交じり合うはずのないジャンルの子同士がなんの分け隔てもなく仲良くしている。仲良くといってもわざとらしく友情を持ち合っているというわけではなく、ひとりの人間とまたひとりの人間として、ごく普通に接し合っている。これって実はそうそう描けるものじゃないと思う。他人に対する「見下し」が一切ない。大学や私立学校等、在籍する子のジャンルがある程度均等でモラルの高い状況ならともかく、ここまでいろんなジャンルの子がごった煮に交じっていると、実際にはこういう状況にはなれないと思うんだよね。露悪的にいじめやスクールカーストを描かなかったのは本当に素晴らしいと思う。
ここはわたしたちの経てきた教育課程「学校」ではない。あくまで理想のスクールライフの世界、「学園」なのである。
(あと、地獄のように下らないギャグが本気ですごいです。本当に。)



┃ 暁の挑戦

ぶっちゃけ話はつまらない。日本最大の騒擾事件と言われる鶴見騒擾をモチーフにしているのに“不発”なこの出来、批判されてもしかたないし、「色々なところに配慮した結果そうなったんでしょうなあ……」というほかない、当たり障りのない内容である。
しかし、敵役であるヤクザの若頭を演じる渡哲也が本当に素晴らしい!! 主演は一応若林豪中村錦之助だが、正直、これは渡哲也のための映画だろう。
ここでの渡哲也は『東京流れ者』の「不死鳥の哲」を成長させ、「関東」シリーズの武闘派ヤクザ役をミックスさせたイメージで、「個人」を鋼鉄の意志で覆い隠し、親分と組への忠義に殉ずる男を演じている。病に臥せっている親分に代わり、組のつるぎとなり盾となり、ときには組を守るために親分よりも強気の行動に出たりもする。常に真顔である。彼に「情」はなく、すべては「義理」に支えられている。だが、渡哲也本人の持っている繊細で可憐な雰囲気が彼をただの冷徹な組織人には見せず、それが「純情さ」や「真摯さ」のなすものであるように見える。この役は、日活で渡哲也が演じてきたヤクザ役の集大成になっていると思う。それは決して東映のヤクザ映画のマネではなく、渡哲也ならではのオリジナルなそれだ。日活作品で描かれる「ヤクザ」とは何か? それが本作の渡哲也に出ていると言ってもいい。
童顔でカワイク見えてしまうせいか、日活を退社して以降のハードな役ではサングラスをかけていることの多い渡哲也であるが、サングラスをかけさせず、素顔のままでやらせているあたり、やはり舛田利雄はよくわかっている。最後の涼やかな台詞も渡哲也ならではで、良い。



┃ 新しき世界
新しき世界 [DVD]

  • 監督=パク・フンジョン
  • 脚本=パク・フンジョン
  • 彩プロ/2013/韓国

これだけ新作封切、韓国のヤクザ映画。
企業ヤクザの会長が急死したことで次期会長の座を巡って巻き起こる内部闘争、組織に密偵を送り込んでいる警察の思惑によりさらに争いは激化。その中で潜入捜査官・ジャソン(イ・ジョンジェ)は兄貴分である大幹部・チョンチョン(ファン・ジョンミン)への職務を越えた友情と、一介の警察官だった自分を見いだし現在の境遇に引き上げてくれた上司・カン課長(チェ・ミンシク)への義理に引き裂かれ、苦悩する。
知人で本作を観て「評判はいいけど個人的にはいまいち……」と言っている方が結構いたんだけど、そういう方の言うことはすごくよくわかる。話自体はものすごく普通で、はじまってすぐオチが読めるんだよね。東映のヤクザ映画みたいな独自の情念とか独自の感情描写はない。感情の動きもすごくテンプレっぽい。よどみや揺らぎが排除され、純粋培養されている感じ。本来ならそのよどみや揺らぎが映画の面白さ、味につながるはずなんだけど、商売で映画作ってますからって感じでそこをものすごく刈り込んでいる。でも私は「普通の話をものすごくキッチリ仕上げている」こと自体が凄いと思う。言ってみれば「普通」なこの話をよくもまあここまでクオリティ上げたなと。とにかく設定の作り込みや映像等のクオリティがきわめて高い。ぜんぜん雑なところ、適当なところがないのだ。なんかものすごく出来のいいBL漫画を読んだような印象……。いい意味で……。いや本当に……。
俳優のヴィジュアル面でのクオリティが端役であっても異常に高いのが個人的に面白かった。例えば大幹部が大勢の舎弟を引き連れているシーンとか、その舎弟がみんなメチャクチャスタイルよくて、クッソ笑えます。ハーレムかよって感じで。話の優等生っぽさは東宝ヤクザ映画(『桜の代紋』とか)みたいなんだけど、この点のノリは日活ヤクザ映画(渡哲也主演のヤツ)っぽいです。
ところで、チェ・ミンシクって若山富三郎に似てない? 韓国で『子連れ狼』作ることになったらチェ・ミンシクに拝一刀役をやって欲しい。



┃ 十兵衛暗殺剣

かなり外伝的なニュアンスの強いストーリーと設定で、疲弊した雰囲気の漂う時代劇。
まず主人公・十兵衛(近衛十四郎)が将軍家御指南役になってからの話という設定に驚く。そこから話始めるんだ!?と。十兵衛は何かに疲れたような雰囲気を漂わせている。一方、新蔭流正統を自称し十兵衛を狙う幕屋大休(大友柳太朗)のほうが主人公たる十兵衛よりも主人公っぽい、義の風情を湛えている。本作はこの二人の戦いを陰鬱に、退廃的に描いてゆく。ここまですべてがネガティブ方面に傾いた時代劇というのはすごい……。昔は時代劇って本当に幅が広かったんだなと思わされる。何も得るもののないラストも「これが出来た」ということ含め、素晴らしい。



┃ 血槍富士
血槍富士 [DVD]

江戸へのぼる若様とその付き人、片岡千恵蔵加東大介の二人を中心に、様々な人の人生が交錯する道中ろおどむうびい時代劇。
品のある雰囲気、チャーミングなユーモア、そして急転直下のクライマックス。やはり戦前から活躍している監督は教養とエレガンスの根幹が違うと感じた。いや、エレガンスがあること自体が特有であると言うべきか。こういう「雰囲気」って、どこで断絶して、消えてしまったんだろうね。戦前の映画への関心が高まるばかりだ。



┃ 博奕打ち
博奕打ち [DVD]

  • 監督=小沢茂弘
  • 脚本=小沢茂弘、村尾昭、高田宏
  • 東映/1967

明治初期の飛田遊郭を舞台に、流れの博徒鶴田浩二と飛田を仕切る博徒一家の代貸・若山富三郎の対決を描く任侠映画。
やっぱ映画は東映でしょ、と思わされる堂々たるプログラムピクチャーである。あらすじの瑣末なところは正直どうでもよくて、もらった金の分だけは必ず客を楽しませるで!!!というスタッフとキャストの心意気が本当にいいなあと思う。絢爛豪華とまでは言わないまでも、お金をかけるところにはキッチリかけてセットや衣装をつくり、演技の出来る役者をしっかり起用して観客を楽しませる。撮影所謹製のピログラムピクチャーというのは大きなエネルギーを持っていたのだなあと感じる。そう実感したのは、本作を観る直前、上映特集等の都合上ATGばかり観ていたのが大きいだろう。比べることじゃないけど、かけてる金とサービス精神が全然ちゃいますわな……と素で思ってしまった。ATGATGで良い作品はあるけれど、いまの自分の視点から観ると、むしろ撮影所映画のほうが新鮮にうつるのだ。



┃ 黒薔薇昇天
黒薔薇昇天 [DVD]

今はブルーフィルムを撮っているだけだけど、いつかオオシマナギサやイマムラショウヘイのようなアート系の映画を撮りたいと願っている映像作家・岸田森は通っていた歯医者で高貴な雰囲気を漂わせる婦人・谷ナオミを見初め、自分の映画に出てくれるようあの手この手で説得しようとするが……というロマンポルノ
個人的に神代辰巳には当たり外れがあると思うのだが、本作は大当りだった。ラフな映像と音楽がラフな?日常的ストーリーにマッチしていてとても良い。素描のような軽やかさ。食べ物で例えるならそば粉クッキー。小さな遊園地で谷ナオミを口説く岸田森を観覧車(メリーゴーランド?)の色ガラス越しに撮っているシーンが素晴らしかった。




ほかによかったのは以下の作品。

  • 『和製喧嘩友達』……オシャレすぎる。特にパンツをはいたニワトリ。
  • 『幽霊船』……セロファン影絵のアニメーションが超華麗。独特の声楽を使った音楽も良い。
  • 『毒戦 ドラッグ・ウォー』……新作中国映画。情緒を完全に排し、すべてを目に見えるかたちで表現しているのが本当すばらしく、カッコいい。
  • 『忍者狩り』……マジでスタイリッシュなアクション時代劇。オシャレでございというツラをした現代製時代劇をすべて殲滅するスタイリッシュさ。
  • 『妖艶毒婦伝 般若のお百』……神話的復讐譚。エピソードとエピソードのあいだの飛躍が欠点とならず、快感になっている。
  • 『博奕打ち 一匹竜』……『般若のお百』と同様、謎の神話的ダイナミックさを持つ作品。
  • 二・二六事件 脱出』……首相救出作戦を拝命した憲兵・健さんがウッカリ顔すぎて、なにかすごいヘマをぶちかますんじゃないかとハラハラさせられた。
  • 『ファンキーハットの快男児』……日活的ヤングでフレッシュで快活なオシャレさがあって良い。千葉チャンのスポーツマン感がMAXプラスに活かされている。
  • 『濡れた欲情 ひらけチューリップ』……パチンコ劇画を映画化したようなマンガチックな雰囲気のある不思議なロマンポルノ
  • 『伊賀野カバ丸』……鈴木則文の学園マンガ感性が少女マンガ方面に炸裂、往年の少女マンガ的学園感に感涙。
  • 『夜の片鱗』……話は陳腐だが映像が良い。極彩色のネオンをはじめとした色使いが美しい。他、ヤクザなのに「ヒメ」ってあだ名の平幹二朗が不思議。
  • 『わが闘争』……自慢入った女の自伝的な話を不気味な映像で描く不思議な作品。「自慢入った」っていうのが結構ポイントです。
  • 大日本帝国』……お涙頂戴にしなかったのがすごい。勿論悲惨な内容だが、さわやかな青春を忘れないトッシーに乾杯。
  • 『無宿人御子神の丈吉 牙は引き裂いた』……良い意味でマンガ感があり、劇画原作?と思ってしまう。渡世人クロスオーバーっぽい設定が面白い。
  • 『港祭りに来た男』……いまは亡きファンタジック時代劇。まるでオペラのようだ。神話的世界観が良い。
  • 『たそがれ酒場』……失われた美しい世界を感じる。遠く離れた「時間」がショートケーキのようにチョコンと小皿に乗って供されている、そんな気分になる映画。

初見ではないので書かなかったが、川崎市市民ミュージアム笠原和夫特集で『懲役十八年』をスクリーンで観られたのが嬉しかった。『暁の挑戦』含め、川崎市に納税しておられる川崎市民のみなさま、本当にありがとうございます。