TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

 アンディ・ラウの麻雀大将

  • 原題=嚦咕嚦咕新年財/英題=FAT CHOI SPIRIT
  • 2002年/カラー/96分
  • 監督=ジョニー・トゥ
  • 製作総指揮=キャサリン・チャン/脚本=ワイ・カーファイ/音楽=レイモンド・ウォン
  • 出演=アンディ・ラウ、ルイス・クー、ラウ・チンワン、ジジ・リョン、チェリー・イン、ボニー・ウオン、王天林

アンディ・ラウの麻雀大将 [DVD]



 麻雀、そして娯楽映画の本場、香港製の麻雀娯楽映画である。
 まず一言言わせていただくと、麻雀ネタは万国共通!!!!

 「牌は友達」だの「何よりも牌を信じる」だの、それ日本の麻雀漫画で100回くらい見たよ!!というシーンが続出で仰天した。まず出だしからして『雀鬼』風の倉庫のような秘密雀荘で主人公・アンディ(アンディ・ラウ)とB-BOY風のデブが勝負しているという日本の麻雀漫画好きボーイズにもすんなり入っていけるシチュエーション。しかも、主人公、伏せ牌で打ち始めるんですよね。なんで伏せ牌かっていうと、運が強すぎて確実に有効牌しか引かないから、伏せたままでも打てるんですよ。お前は健三さんか? もちろんデブB-BOYはコテンパンにやられ、アンディを「麻雀大将……」と呼ぶのであります。ダセエ!! 天牌でもそんなダサい二つ名のヤツいないよ!!

 と感動しているうちに、実はこのアンディが雀ゴロだということが明かされていく。ガソリンスタンドで給油しているわずかの間にも雀荘に駆け込んで1ゲームだけ打つ。携帯に「メンツ足りないんだけど!」という電話がかかってきたら愛車のジープ(?)を走らせてダンベェのもとへ急行。とは言ってもここは香港、女性が麻雀を打つことの多いお国柄ゆえ、彼のお客さんには裕福そうな奥様が多い。実は冒頭のデブB-BOYも奥様方を麻雀でカモったため、アンディに退治されたのである。
 さて、そんなアンディにはIT企業勤務で大金持ちの弟(ルイス・クー)がいて、彼はアルツハイマーで曖昧になっている母親を養っている。弟は麻雀が打てなくて、麻雀も、麻雀狂いの兄貴のことも軽蔑している。それ日本の麻雀漫画で100回くらい見たよ!!とまたも叫んでしまう設定。
 というか、もう、全編通して「それ日本の麻雀漫画で100回くらい見たよ!!」と叫びっぱなしである。ほんと、麻雀ネタって万国共通なんですね。

 とまあ、そんなこんなでいろいろあって、弟(実はめろん畑並みの爆運初心者)との確執と和解あり、「麻雀大師」と呼ばれるギャングスタ・ラップ風の男(ラウ・チンワン)との因縁の戦いありと盛りだくさんで魅せてくれる。麻雀漫画好きには間違いなくオススメの映画。DVDのジャケットの危険牌臭はすごいのだが、中身はほんとレベル高いから。爆運麻雀モノでここまでキッチリ仕上げているとは、さすが本場はレベル高いわと思わされた。



 もちろんルールは現地ルールで行われるのだが、日本麻雀にも共通する大物手しか出てこないため、現地ルールわかんないよ、という人も大丈夫。「麻雀モノの話」のコードを読み取る力があれば、だいたい話は飲み込める。また、香港ルールだけでなく、台湾式(16枚麻雀)、アメリカ式(配牌が交換できる)、日本式(とは言っても四槓子を十八羅漢と言ったり、ちょっと香港ナイズドされている)、指定枚数のチップが全部なくなったら脱落の大会形式など、多彩なルールで打っており、見応えがある。日本ルール以外のローカルルール特色は登場人物が特色を口頭説明するので、知らなくても問題なし。香港ルールに関してあえて言えば、花牌が入っているのが最大の特徴で、花牌がカギになるシーンもある。これも抜きドラとすぐわかるようになっているので、問題なし。



 中国の麻雀牌は日本のそれより大きくゲタ牌と呼ばれる……ということだが、作中で登場する麻雀牌は確かにデッカイ。なので日本で言うところの「山を積んだとき井桁に置く」が井桁を通り越してなんか風車みたいになっちゃってるのが面白い。配牌中は取りやすいよう、自分の前の山を押し出してやるのが香港マナーなのか、配牌取ってるときに、ズズーっと押し出していた。でかいだけはあるね。ちなみにすべて手積みで行われていた。
 麻雀を打つ場所は先述の秘密アジト風倉庫、街角の雀荘、お金持ちの自宅、暇を持て余す奥様たちが集うマンション、主人公の大邸宅な自宅、麻雀大会の会場などさまざま。その場所に合わせて雀卓や椅子、照明、牌の背の色(白、紫、ピンクなどカラフル)が細かく変えられていて、それを見るのも面白い。
 日本の麻雀ものはどうしてもVシネになってしまうので、美術の貧乏くささがかなり辛いものが多いが、本作はお正月映画なのでB級作品でも金がかかっており、そのへんはゴージャスである。



 また、主人公に押し掛け女房してくる美女&弟をカモる(けど弟の真摯さに惚れてしまう)美女役の女優さんがアゴが外れるほどかわいく美しいので、そこも見応えあり。ちなみに押し掛け女房ガール、ジジ・リョンは麻雀で負けると達磨ハン並にブチキレて雀卓をドォーン!!するで注意が必要だ。そのブチキレをしなくなったら主人公が結婚してくれる約束ではあるが、これが治らない治らない。主人公の母と麻雀を打って、母が彼女の国士のアガリ牌を嫌がらせに大明槓したと見るや、ドォーン!!であった。というか、これ見よがしに大明槓する主人公の母も相当なタマである。



 麻雀映画として見ずとも、普通に面白い娯楽映画。2002年の旧正月映画とのことだが、日本にもこんなふうに笑って泣ける正月の娯楽映画があるといいね。




まめ知識

  • 日本の麻雀モノに比べ、打つのが超速い。雀鬼流かと思うくらい速い。カメラワークもおもしろく、「これをこう映すか!?」というアクロバチックな視線を堪能できる。
  • 香港では麻雀で身ぐるみ剥がされた場合、「麻雀で負けてお金がなくなったんで恵んでくださーい!」と言うとバス代くらいは恵んでもらえるらしい。しかし、単に「恵んでくださーい!」では一銭ももらえないらしい。
  • 家族でも現金精算が基本らしい(ママも麻雀狂いだから?)。「2/5は64で1/5は128、1/2は256」とママが唱えているが、これは何だろう? 現地の清算方式の暗記方法の定番フレーズなのだろうか。
  • 弟の爆運はめろん畑風だが(配牌で役満クラスがテンパイやイーシャンテンな初心者)、兄貴のほうは瞬チャン系(アガリ放棄しても何度でもアガリ牌や有効牌を引き戻してくる)でなんかむかつく。健三さんの如くあるとき運を全て失うのだが、すぐ復活するあたりも沖本先生臭はんぱない。しかも顔が沖本先生に似てるんだよこれが。イケメンだから許すけど。

┃ 参考