TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

麻雀漫画と昭和の日本映画と文楽(人形浄瑠璃)について書くブログ

 ウァナビーズ

来賀友志[原作] + 本そういち[作画] 竹書房

  • 竹書房「別冊近代麻雀」1994年5月号〜1996年8月号連載 全28話
  • 全2巻(単行本未完)

 

┃あらすじ
ひかり銀行赤坂支店に勤める若きバンカー・鷹ヒロトは、学生時代にはウィンドサーフィンの国際選手権で優勝した経歴の持ち主。しかし、父亡き今は妹と母を支えるために真面目に銀行員をしつつ、同僚と一緒に趣味の麻雀を楽しんでいる。直属の上司・黒木彩が支店長の座を狙っていることを知ったヒロトは、彼女の昇進のかかった接待麻雀でイカサマを使って客を勝たせるが、その夜、彼は不思議な老人から麻雀に誘われる。その老人は、あの接待麻雀での彼のイカサマを看破していのだ。口がきけないその老人は20万のサシウマをヒロトに挑んだ。心を読むような麻雀を打つその老人の正体は……!?




サスペンス麻雀漫画。
いかなる手を使っても昇進を狙う女上司、心が読める不思議な老人、ヒロトを影から見つめる謎の組織「ウァナビーズ」、銀行全体に蠢く陰謀と裏の手口、日本の政財界を裏から仕切るフィクサーなど、スパイスがふんだんに利いている。来賀作品の中では最も普通の漫画であり、世が世なら一般誌連載もありえたと思う。




主人公・ヒロトは特技のウインドサーフィンと同じように麻雀にも風を感じ、風に乗ることが出来るというのがおもしろかった。ウィンドサーフィンも麻雀も、風は自分の意志とは関係なく偶然吹いてくるものであって、問題は受け手にそれに乗れるセンスがあるかどうか。それを的確に表現している。普通の麻雀漫画だと「流れ」という言葉を使うところだが、作品自体が麻雀漫画を読み馴れていない若い子を意識したような易しめかつ派手めの描写なので、この描写もその一環か。
また、麻雀の勝負のつき方も従来の麻雀漫画とはちょっと変わっていておもしろい。ヒロトのポケベルに「ワタシトマージャンシマショオ!!」というメッセージを送ってきた老人 "N・ウァナビーズ" こと名古屋県蔵じいさん。彼は終戦時に香港におり、そこで日本人捕虜500人の命を賭けた麻雀を打ち、見事圧勝した。そのあまりに素晴らしい勝ちっぷりに中国側のボスは心を開き(来賀先生が大好きなシチュエーション)、500人の日本人捕虜は解放されたという。その極度の緊張で彼は失語症になり、その代わりにある能力を手に入れる。で、その能力が何かというのが名古屋じいさんとの対局での鍵になるのだが……、その展開は漫画としては不満に感じる人がいるかもしれない。しかし、ヒロトの行動は麻雀漫画の着地としてとても上手く、彼の麻雀に対する誠実さが現われている*1




イカサマありの闘牌が採用されているのは来賀作品では珍しい例。
イカサマのうまさと麻雀自体のうまさを混同していないのはさすがに上手い。『shoichi』と同様、イカサマはヒラの麻雀とは別の次元で勝負するものとして描かれている。しかし……これを言ったら終わりだとは思うが、普通に麻雀してたほうが面白かったような。来賀先生も本そういちもそうだが、麻雀そのもので勝負できる作家がわざわざイカサマものをやんなくても。A・マチ君との対決でも、もちろん駆け引きの妙味はわかるんだけど、やっぱりA・マチ君は麻雀打ちじゃなくてマジシャンにすぎない。ここでの面白さは『shoichi』の面白さと同類で、麻雀そのものの面白さとは違う。麻雀そのものの面白さを体現するヒロトがヒラで打ったほうが強い分、イカサマを使った時点でA・マチ君とヒロトの格付けは済んでいると感じてしまう。やっぱねえ、麻雀に不純物を持ち込むヤツは超一流じゃないんですよ。私としてはやっぱり超一流の麻雀打ちたちの戦いが見たかったな〜〜。まあ、連載時期として『てっぺん』が同時進行しているので、そういうのは『てっぺん』で、ってことかな。




1巻の段階ではストーリーに力点が置かれており、麻雀の場面がいまいちわからずとも雰囲気だけで読むことも出来る。2巻は麻雀の比率が急上昇するものの、まあ多少の心得があればついていける。しかし単行本未収録分になると、いままで撒いてきた伏線をすごい風圧で拭き飛ばして麻雀ばっかやっている。
以下、単行本未収録、STAGE.18以降のあらすじ。


笹山のヘリに乗せられたヒロトは、異国―おそらく香港―の秘密カジノに連れていかれる。その「九龍の間」では、古代ローマの闘技場の如き死闘が麻雀によって繰り広げられていた。ヒロトは笹山から自分の価値=2500万円と黄金の点棒を受け取り、ここで半荘1回を打つことになる。対戦するは中国人の王、馬、そして香港人の陳。おそらく千点100万円の超高レートに挑む彼らは、たぐいまれなる強運の持ち主だった。レートに気圧されてか劣勢になるヒロトだったが、自分の麻雀を打ちきってハネマンをアガり、自らの風をつかみ取る。それは「ウァナビーズ」というとんでもない猛者と戦い抜いた自信によるものだった。その自信をもとに、ヒロトは牌山に流れる卓上のリアリティと勝ちが眠る一枚の牌を感じることができたのだ。風を掴んだヒロトはさらに倍満をツモ和了がり、流れを手にする。降りも万全だった彼はそのまま突き抜けたトップで終了するが、清算後にラスだった王のイカサマが指摘される。実はそのイカサマをヒロトは黙認していたが、笹山に問いつめられ、ヒロトはサマの事実があったことを認め、その発言によって王は笹山に射殺されそうになる。ヒロトは今回の勝ち金で王を助けてくれるように懇願するが、この対局にはトップ5億2着2億5千万のウマがあったことを知らされ、ヒロトの制止もやむなく王は射殺された。


帰国したヒロトは混乱していた。黒木の死によってヒロトは副支店長の座に昇進するが、彼はそれを嬉しいとは感じていない。そんな彼を励ますため、梅子はN・ゴヤのじいさんとセットを打とうとヒロトを誘う。しかし、梅子がDファイルを調べていたことを笹山のスパイに聞かれてしまう。彼は笹山に常に監視されていたのだ。梅子の身の危険を感じたヒロトはウァナビーズと再度接触するために、危険を承知で梅子との約束のセットに向かう。ヒロトは一刻も早くゲームを終わらせるよう、いつになく攻撃的な打ち方をして梅子を三連続で飛ばした。それはかつてN・ゴヤが戦時下で生死を賭けて打った麻雀に似ていた。タカハシと梅子は彼の様子に驚きを隠せない。ヒロトのただならぬ様子を察したN・ゴヤヒロトはN・ゴヤだけにわかるよう、読心術で笹山との関係を伝えた。


ヒロトは笹山の命令で様々な高レートを渡り歩いていた。あるときは経済界の大御所連中、あるときは大金をばらまく芸能人……。今日の場は水面下で絶えず抗争する関西ヤクザ3団体の麻雀勝負の場だった。バラバラの配牌からでも8000オールをツモ和了がるヒロト。彼は負けられなかった。また、同時に彼はヤクザの代打ちでは及ばないほどの高みに到達していたのだった。そうしてウァナビーズのからのコンタクトがないまま、ただひたすら昼は銀行マン、夜は代打ちの日々を過ごすヒロトだったが、ある日仕事上のパーティーで転機が訪れる。妹・メグの懇願で彼は生物学の権威・ワッツ博士に会うが、そのワッツ博士こそが "教授" と呼ばれるウァナビーズのリーダーその人だったのだ。メグのスポンサーに笹山グループがついたと聞いて不安になっていたヒロトに、"教授" は笹山にメグには手を出させないと約束する。その代わりにヒロトにはもう少し笹山の下にいて欲しいと頼んだ。


ヒロトの次の仕事は、香港返還を前に香港からカナダに移住した香港人たちのための4000人クラスの麻雀大会への参加だった。この大会の運営委員長を努めていた平に、笹山がヒロトをねじ込むように言ったのだ。しかし聡明な勝負師であった平はヒロトが気に喰わず、これに乗り気でなかった。ヒロトはゴッドハンドと呼ばれる香港最強の打ち手と当たるも、見事に勝ちきり、笹山の期待通りに優勝を飾った。その夜、ヒロトは笹山からの急な呼び出しで帰国することになる。ウァナビーズの "教授" が笹山と接触し、笹山を旨いエサでおびき寄せることに成功したのだ。チャーター機で帰国するヒロト。一方その頃、平はゴッドハンドに連れられ、地元の雀荘へ行っていた。難しい配牌を見事ノータイムで打ちきる平を見たドサンピンがゴッドハンドに彼は何者かと問うた。平はいまから10年以上も前、日本の雀ゴロを総ナメにして香港に渡って来た稀代の麻雀打ちだった。彼は香港でも常勝を続けていたが、あまりの勝ちっぷりにドサンピンどもにボコられ、10本の指を全て折られてしまう。しかしそれでも彼は雀荘に舞い戻り、牌を口にくわえて麻雀を打ち続けた。ゴッドハンドはそこで平と出会ったという。翌朝、ヒロトが帰国したという報を受けて平も急いで帰国しようとするも、ウァナビーズの働きにより空港で拘束され、足留めを食らった。これで笹山と彼の最大のブレーン・平は接触が出来なくなり、ウァナビーズの笹山潰しの作戦は遂に実行されることとなる。


笹山は帰国したヒロトをマカオに連れてゆく。マカオのオペラハウスの舞台の中心に据えられた麻雀卓、それが最後の勝負の舞台だった。東風戦1回100億の参加費。ここにはマカオの利権が賭けられていた。中国側の代打ちひとりに3人の出資者が挑み、トップを取った者が将来のマカオの利権を手にすることが出来る。中国側が勝っても、出資者は参加費さえ払えれば何度でも挑戦を続行できるエンドレスゲーム。笹山はこれに大いなる野望とある必勝の裏取り引きをもって臨んだ。中国側に対する3人の挑戦者を、予め手を組んだ3人の出資者で固めたのだ。ひとりは自分、ひとりはヒロト。しかし、笹山には誤算があった。自分の思い通りになると思っていたもうひとりの挑戦者の正体は……なんとウァナビーズの "教授" だったのだ。


(ここで国会図書館の所蔵が1号抜け。ヒロトが笹山を裏切って中国側につくという展開だったらしい。)


ヒロト、笹山、教授、そして中国側の代打ち・陳で行われる勝負。笹山は持って生まれた豪運でヒロトを圧倒。ヒロトは焦ったリーチをかけてしまい窮地に陥る。このままでは笹山がアガるというとき、 "教授" がトビ寸覚悟でヒロトのリーチに差し込み、ラス親・ヒロトでなんとかオーラスを迎える。笹山はヒロトを猛追するも、風を手に入れたヒロトのトップでゲームは終了した。しかし、笹山はさらに続行を希望。最後の卓はヒロト、笹山、"教授" 、そして突然現れた平で行われることになる。平はイカサマを使って懸命に笹山をアシストするが、笹山は平を信用せず独走し、何度もチャンスを潰すことになる。平は、ヒロトは自分しか信用できない自分や笹山とは違うと感じていた。笹山は最後まで平を信用することなく、平の風を潰し、自らヒロト役満を打ち込んで勝負は幕を閉じた。それでもなお勝負を続行しようとする笹山。勝てなければ席を立てないという狂気に陥ったのだ。これでウァナビーズの「笹山潰し」の目的は達成された。黒木の失踪に端を発した今回の事件は、戦後長く続いた笹山の裏支配の終焉という形でその幕を閉じた。もしかしたらあの勝負そのものがウァナビーズが作り上げた虚構の世界であり、笹山という怪物を生死以外の方法で葬り去るための究極の舞台だったのかも知れない。


そしてまたヒロトに日常が戻ってきた。また楽しく梅子やタカハシとセットが打てるようになったヒロト。牌のささやきはいまも彼を勝利に導く。いつかヒロトもまた笹山と同じ地獄に堕ちる日が来るかもしれない。しかし同じ砂漠を歩く仲間がいれば、地の果てまでも歩き通せるだろう。


(完)

「別冊近代麻雀」1995年10月号〜1996年8月号


……というわけで、最後はサスペンスとか伏線とか謎をすべてカッ飛ばして麻雀してました!!
えーーーー!!
打ち切りだったのか、最後のほうがものすごくはしょっており、時系列が混乱していて内容の前後関係を掴みづらい。上記あらすじは私の想像で時系列を整理・補足している箇所が若干あることをご了承願いたい(特にカナダのエピソード)。

作中では、笹山の顧問弁護士・平は最高クラスの打ち手と評価されている。最終決戦の場に平が突然姿を表わしたときはこれでヒロトとの真剣勝負が見られる! と喜んだものの、残念ながら平は笹山のアシストに徹してしまい、最後まで彼の真の実力を垣間みることは出来なかった。これが一番残念だった。それはウァナビーズの "教授" も同じで、最後のマカオ決戦の打ち方を見ていると "教授" はブレーンという意味でのウァナビーズのリーダーであるだけなく、打ち手としてもウァナビーズ最高(つまり特殊な能力に依存しない、天賦の麻雀の才能)であるっぽいのに、ヒロトのサポートに尽力しているため "教授" 自身の麻雀を見ることはできない。
というか、最後のほうは打ち切りだったのか、はしょりすぎでウァナビーズの謎がまっ……たく解けないまま終わったのが一番すごい。ウァナビーズは何のために笹山を潰そうとしていたのか、A・マチ君やN・ゴヤ爺さんはなぜウァナビーズに加わったのか、 "教授" は何者なのかなど、いろいろ重要なところが全く説明されずに終わってしまっている。ヒロトが優勝したウィンドサーフィンの国際選手権(そこで笹山はヒロトを見初めている)は笹山財団に入り込んだウァナビーズのメンバーの働きによって催されたという設定になっている。そのメンバーがなぜウィンドサーフィンに目をつけたのか、なぜ笹山に粛清されたかを含め、ここにも何か鍵があったはずなのだが、それも何も説明されていない。あとは黒木が途中で死んだのがすごい。というか、いてもいなくても話の本筋と関係なくなったのがすごい。うーん、麻雀の風圧で全部吹き飛ばされちゃったんだろうね〜〜〜。


というわけで、おもしろいにはおもしろいけど、漫画に伏線の回収を強く求める人はキツネに化かされた気分になるかも。私は麻雀やっててくれた方が嬉しいので、これでいいけどね。また、主人公が突然秘密ギャンブル場に連れていかれて命を賭けた麻雀を打たされるというのは『ダブルフェイス』にもある展開だが、『ダブルフェイス』より遥かにその説得力があるのはさすが。こういう浮いた設定を浮かせないのはすばらしいことだ。

*1:来賀先生はこういうところをサラッと描けるのが上手いですね。天然で本気な来賀先生の麻雀愛のなせる技なんでしょうけど、そうじゃない人は、同じ行動を描くにしてももうちょっと違う言い訳をつけちゃうから。