TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

 ビッグバン

来賀友志[原作] + 地引かずや[作画]

  • 竹書房「パチンコ&パチスロ スーパー777」1990年12月号〜1994年3月号
  • 全32話、単行本未刊

┃あらすじ
工藤潤は、通称ビッグバンと呼ばれる流しのパチプロ。「不破三郎」という釘師を求め、彼は不破が店長を勤めているというパチ屋に流れ着く。しかしそこにあったのは潤が求めていたものとは似ても似つかぬ釘だった。潤に魅了されたパチ屋の店員から現在の店長は二代目だと聞き、彼は引退した初代不破三郎の屋敷を訪れる。もう釘を打つことはないという不破だったが、潤に煽られ、遂に再びハンマー*1を握ることとなる。しかし、潤と不破の対決はただのパチプロvs釘師の対決ではなかったのだ……




パチプロ兄弟の確執を描くパチ漫画。
てんこ盛りすぎて、すごい……。
単行本が出なかったのが非常にもったいない作品。




超一流の釘師である父親にパチンコ英才教育を受けた兄弟、秀と潤。家庭を顧みない父の態度に嫌気が差した弟・潤は家を飛び出したものの結局パチプロとなり、パチンコ界の世直しを志す桃太郎侍的存在 "ビッグバン" として各地のパチ屋を転々としていた。しかし、潤はやっと再会した父をパチンコ勝負の末に葬ることになる。なにも父を殺すためにパチンコを続けてきたわけではないはずなのに……。一方、兄の秀は青森で愛妻と農業を営んでいたが、村を救うためのパチンコ勝負で逆恨みを買い、身重の妻を亡くすことになる。荒れた秀は再び銀玉稼業に身を投じた。各地を渡り歩くうちに兄の不穏な噂を聞いていた潤だったが、遂に兄と再会することになる。しかし、そこにいたのはあの優しかった兄ではなかった。そしてついに兄との宿命の対決が始まる……!!!
という感じで、あらゆる要素がてんこ盛りになったすごいパチ漫画。"ビッグバン" と呼ばれる潤が各地を放浪しパチンコ屋を手助けしながら、パチンコ業界を裏から牛耳ろうとする "協会" と対決してゆくのがメインのストーリーだが、その中に兄弟の確執と憧憬が差し挟まれ、このド演歌&時代劇感、『天牌外伝』の原形的な何かを感じる。いい意味でのプログラムピクチャー感を味わえる作品。




ビッグバンがパチ屋をプロデュースする話がおもしろい。
パチプロ同士でパチンコ対決するエピソードもあるのだが、潤が悪質な競合店に客を取られて寂れている店にアドバイスして客足を取り戻させたり、パチ屋の客入り競争に参加するエピソードがあり、それが変わり種でおもしろい。前述の通り私はパチンコをやったことがないので、個別の機種についての攻略テクニックの話だとちょっと読みづらい(やったことがあっても登場するのは昔の機種なので、今読むには辛いのがあるかもしれないが)。経営の話のほうが入りやすく、おもしろかった。それで、根本的な質問で大変恐縮なのだが、パチ屋の釘ってのは店長が調整するもんなの? 私、業者かメーカーに委託するのだとばかり思っていた。当時ならではの描写なのかもしれないが、大変勉強になりました*2

パチプロ同士のパチンコ勝負だと、目隠しをして打つ「暗闇打ち」や、周囲の運を吸い取る "ブラックホール" ババアとの宇宙級の対決など、イロモノが多い。また、後半から始まる「全日本パチンコ選手権大会」がすごい。パチンコを競技麻雀のように競技化し、真のパチンコ日本一を決めようとする大会なのだが、パチンコの競技プロってすごいな。釘を1本も打っていないパチンコ板に正しく釘を打たせたり、指定の釘に玉を当てさせたりなどの不思議な対決を行っていた。地引かずやの絵だからなんとなくマトモに見えるものの、一歩間違えばギャグのような気が。




残念ながらこの作品、最後10話くらいで何かあったらしく、最後がとってつけたようなオチで終わっている。回収できていない伏線が多々あり、かなり話の途中状態。勿体ない限り。




で、言わなくてもわかると思うが、やっぱり主人公は行く先々で周囲の男子を「ぽッ////」とさせまくっている。
パチ屋の店員男子が「あなたにシビれちゃって」とか言ってホテルの部屋まで尋ねてきちゃったりなどしちゃって、すごいとおもいました。ヤングな店員男子はもちろん店長のオッサンにもモテまくり。川を流れているところを拾われるなど、出会いのシチュエーションも常軌を逸している(ギャグではない)。さすがでございますというか、感服仕りました。
そして、潤と秀の工藤兄弟*3だけ露骨にイケメンなのが何よりすごい。地引かずやは何を考えてたんでしょうか。それとも何も考えてなかったんでしょうか。地引かずや特有の、"絵に描いたような美男子" っぷりがすごい。
↓これが秀兄ちゃん




TIPS

  • ちなみにお兄ちゃんは、言うまでもなく異父兄弟です。
  • で、そんなお兄ちゃんに嫁がいたのが一番の驚きでした。とは言っても出てきてすぐ死にましたけど。ひでぇ。
  • 潤さん、初登場時は相当の童顔だが、話が進むにつれてオトナっぽくなってくるのが実に良い。別に作中で年月が経過したわけではなく、連載中に地引かずやの絵が変化しただけなんだけど。で、そんな潤さんは30歳らしいです。全然見えません。
  • あとは群馬の桐生(?)に行く話が面白かったかな。恋人の父親に結婚を反対されるパチプロ志望の青年が登場するが、最後に潤は青年にパチンコメーカーへの就職を紹介する。桐生はパチンコメーカーが密集している場所(らしい)。ローカルネタでおもしろかった。

*1:あれ、何ていうんですか?

*2:それとも私、勘違いしてますかね。

*3:父親の「不破」という名前は勝負名(名跡)らしく、後継者が名前を継いで行くということらしい。潤と秀はふたりとも修行途中で父のもとを離れたため。どちらも「不破」を襲名していないらしい。ところで昔、工藤兄弟っていう兄弟のアイドルタレントがいましたよね。