TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

 靖逆の犬

┃ あらすじ
北麓組若頭・羽生鋭二は、不出来な組長を献身的に支えている。しかし、舎弟の三郎を捨て駒に使われたことで彼は謀反を決意、組長をマグロ漁船に叩き込み、自らは部下二人とともに香港へ渡った。中国返還を5年後に控えた香港は情勢が不安定になり、そこにつけいるスキがあると睨んだためだ。羽生は旧知のバーのマスターの力を借り、手始めに香港の永住権を獲得しようとする。それには三人合わせて一千万H$が必要だった――




海外ビジネスもの。
注連木賢は来賀友志の別ペンネーム。




これは…………………すごいわ……。
クズ組長に耐えていた兄貴がついにぶちきれるという「仁義なき戦い」みたいな話になるのかと思ったら、組長をマグロ漁船にぶち込んだあと舞台が香港(当時は返還前)へ移って香港娘に義理人情を教え、現地人になりきるため広東語をネイティブ級に話せるよう勉強して街角でトランプ博打をやっているおっさんどもに手本引きとモンモンを披露し、いろいろあって*1なぜか香港マフィアと戦いはじめ、最終的には客家の強烈な団結で香港脱出という本気で意味がわからない話だった。つまらなくはないのだが、何が何だかわからんうちに終わってしまった……。来賀先生のいきあたりばったりなところが裏目に出ている。麻雀以外の漫画では気が散ってしまうのだろうか……。
ただ、三郎を動物園に連れて行くところ*2と香港娘に義理人情を教えるところと道ばたのおっちゃんにモンモンと花札披露するところは、ホンモノの何かを感じた。はじめて別ゴラに載ったときの「任侠沈没」から受けた何かと近い何かを。




おもしろかったのは、一千万H$を稼ぐためハッピーバレー(香港にある競馬場)に行くエピソード。

ハッピーバレーってすごいらしいね。この作品にも書かれているが、香港の競馬は日本よりずっとシステムが複雑で、特に「トリプルトリオ」*3っていうのが配当すごいらしいね。折角なら海外ものギャンブル漫画路線でやるのもよかったのに、残念ながら買った馬券は連勝単式で、普通だった。漫画なんだからもっと派手に行ってほしいところだが、よくよく考えてみれば複数のレースにまたがる馬券は漫画として扱いづらい。客側視点の競馬漫画ではそのへんどうなってるんだろうか……。来賀先生の未単行本化作品には競馬ものもあるそうだが、それがどんなことなってるかも気になる。
あと、やっぱ競馬でも「たられば」は禁句だそうです。

なお、ハッピーバレーはナイター競馬が有名で、夜景が綺麗なので競馬ファンでなくとも楽しめる。大きいレースが見たい人はシャティン競馬場のほうがおすすめ。と旅打ちのガイド本に書いてあった。以上、最近読んだ旅打ち本&公営ギャンブル本からのにわか知識でした。




来賀先生は麻雀を扱った際のオリジナリティが強烈すぎて、作風の源がどこから来ているのかサッパリわからない。しかし、麻雀を除外して考えれば、60年代以前の東映仁侠映画兄弟仁義、「仁義なき戦い」以降の東映バイオレンス路線、「男たちの挽歌」的香港ノワールが闇鍋になった感じか? この作品は麻雀漫画でない分、そういった成分が比較的顕著に出ている。麻雀漫画ではそれが麻雀でもって強烈に結び付けられていて、きっちり世界に浸透しているが、それ以外だとやや散漫でちょっとまんますぎるかな、という印象。麻雀漫画以外でもあれくらいのテンションと狂気とロマンチックがあればいいんだけど、なんでかそうはならないんだよねぇ……。『麻雀蜃気楼』くらい書ける人がなぜこうなっちゃうのかとも思うが、近作になるにつれ麻雀漫画以外でも内容がしっかりしてきているので、そのうちなんとかなるのかしら?




あと、別に言わなくてもわかると思うが、今回もヤッパリ舎弟が「兄貴……(ぽッv)」となっている。上で画像引用したページを見て頂ければわかるが、舎弟がカッコイイこと言った兄貴を逆お持ち帰りしようとしたり、ほかの部下も兄貴のために何かしたいとか言い出すが、もうほんと心底びっくりした台詞がある。ほんとすごい。死にかけの舎弟が主人公の腕に抱かれながら
「もっときつう抱いてや…… ワイは兄貴の胸の中でずっと生きていたいんや……」
とか言い出すんですよ。このページはあえて画像引用しないので、皆の衆は必死こいて古本屋でこの作品をサーチ・アンド・デストロイ、各自目視確認するように。ここまで来るともう土下座するよりないわ。むしろいくらでも地べたにデコをこすりつけるので、天牌でもこれやって!!!! きくみく兄弟で!!!!!!

*1:漫画の中でではない。来賀先生の頭の中で。

*2:『ザ・ライブ』で主人公が動物園でフンボルトペンギン見てるのと同じくらいのきちがい感が……

*3:指定された3レースの1〜3着を当てる。三連単の三重勝