TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

 麻雀劇画最前線 '83

「まんが専門誌 ぱふ」1983年10月号に、「麻雀劇画最前線 あまりうけそーにない企画PART1 今、一等おもしろいのはこれだ!!」という2P特集が掲載されていた。いまから27年前、麻雀漫画黄金時代初期だった当時、大量に刊行されていた麻雀劇画雑誌を「ぱふ」読者向けに解説しようという企画*1。当時のまんが好きハイティーンから麻雀劇画はどう見られていたのかの参考になる。




■「風の雀吾」はおもしろい!
「ぱふ」のイチ押しは、志村裕次+みやぞえ郁雄「風の雀吾 怒濤編」しょっぱなから劇画じゃない気がするが、「ぱふ」の編集者がこの作品の総集編(徳間書店「月刊漫画タウン」83年6月号増刊)を読んだことがこの特集につながったらしい。

この「風の雀吾」ストーリー、絵の構図などが少年ジャンプの車田正美そっくりなのです。読んだ方はおわかりかと思いますが。"ふうん〜、最近麻雀劇画もいろいろあるんだなァ" と思い、ほかの雑誌にもおもしろいのはないかということで、麻雀劇画誌6冊を選びどの作品が面白いか…ということについて、ちょっとだけ紹介してみることにします。

このなんか支離滅裂な文章が予感させるように、レビューは相当気を使って書かれているものの麻雀劇画に全く関心がないことが痛いほど伝わってくる文面だった*2。上から目線で書いているわけではなかろうが、やはりストーリーが暗い、線が荒い、麻雀を知らないとつまらないという偏見を前提に書いているらしい*3
今夜はここに掲載されている当時人気だった麻雀劇画誌6誌をぱふ評に私の寸評を加えてご紹介する。なお、私はリアルタイム読者ではなく、古書店で求めたり国会図書館で請求して読んだだけなので、あくまで現在の感覚から読んでいることを申し添えておく。データ欄の創刊・休刊年などは私が調査した限りなので、間違ってたらゴッメーン。また、各出版社が出していた麻雀漫画を詳しく知りたい方は、右サイドバーの[作品検索]以下、[出版社]の中から興味のある出版社名を選んでいただければ、その出版社が出していた作品を一覧できるので、ぜひ活用頂きたい。






┃ 近代麻雀オリジナル (竹書房

掲載作品:片山まさゆきスーパーヅガン」、かわぐちかいじ「プロ 第2部」、山松ゆうきち「西子」、植田まさしフリテンくん」、宮谷一彦剣名舞、山本まさはるetc.
ぱふ評:ぱふ読者が最も読み易い。全体的にあまり暗くない。今までにない新しいスタイルを目指している。かわぐちかいじ「プロ」と笠太郎「REVENGE」が線が細く整っていて見易い。
四方田評:比較的若向けか。しばらく後に「はっぽうやぶれ」が連載開始。
データ:1977年創刊、現在もリビングデッドながら継続。90年代前半以前の号は国会図書館に所蔵なし。





┃ 別冊近代麻雀 (竹書房

掲載作品:能條純一「わたしは雀」、狩撫麻礼+守村大「ラスタ牌」、志村裕次+佐多みさき「獏」、渡辺みちお土山しげる谷岡ヤスジetc.
ぱふ評:今までの麻雀劇画のタイプを守り続けている。派手でおもしろい作品があるわけではなく、さっぱりおもしろくないというわけでもない。「ミス・わたしは雀」コンテストなんて、麻雀劇画誌にしてはずいぶん大きな企画。
四方田評:馬鹿野郎!!!! どう考えても別近が一番おもしろいだろ!!!! オリよりはちょっと大人向けというか、掲載作家からすると、こちらのほうが男前? 来賀友志、土井泰昭登場前夜の凪の時代、いまからすればライトな内容。

データ:90年代前半以前の号は国会図書館に所蔵なし。漫画雑誌になったのは1979年、現在の「近代麻雀」に移行したのは1997年。





┃ 特選麻雀 (芳文社

掲載作品:村木昴+司敬雀鬼がゆく」、みやぞえ郁雄「雀狼無宿・キッド」、三田武詩+沢本英二郎「麻雀仕事人」、しまざき真二「ホラー麻雀 怪血ドラキラー」etc.
ぱふ評:だいたい平均的に読めておもしろい。目玉は「雀鬼がゆく」。
四方田評:イモ麻雀漫画が大豊作(失礼)。灘ッチが顧問をしていたらしく、灘ッチコラムや灘センセの麻雀教室、麻太郎武勇伝、競技麻雀のタイトル関連の漫画がよく掲載されている(読者ページに来た質問にまで灘ッチが答えているのには涙がちょちょ切れる)。国友やすゆき地引かずやなども書いていた。比較的多く単行本が出ている。なお、雑誌掲載時点では「雀鬼がゆく」の原作者クレジットが村木昴になっている。荒正義はほかの連載の原作もしていたので、それを考慮して名前を変えていたのか? それともほんとに別人?
データ:1981年創刊、1989年休刊。国会図書館にかなり揃っている。





┃ 傑作麻雀劇画 (実業之日本社

掲載作品:村野守美「雨宿りの雀」、郷力也「私立・雀狂東大」、北野英明雀鬼の城」etc.
ぱふ評:バラエティに富んでいて読みごたえがあるが、巻頭綴じ込みのヌードポスターは下品。完成された麻雀劇画誌ならグラビアは不要。郷力也「私立・雀狂東大」は少年誌に描いていてもおかしくないほど絵がうまく、ストーリーも若者向け。
四方田評:フリーダム。ヌードポスターは最高ですよ。「女のエアロビクス麻雀」とか、23歳と書いてあるけどその2倍は確実に生きているであろうオバ……ではなく女子が牌を持ってポーズをキメているとかの実に素敵なグラビアが毎号悪夢のようについている。掲載作品が比較的若向けでテイストが「麻雀ゴラク」に近く、実験的な作品も多い。また、いつからかは知らないが巻末に読者投稿の麻雀漫画や同人誌を掲載するコーナーがあり、オタクと親和性があったらしい気配を漂わせている。廃刊直前には青山広美(当時青山パセリ)も掲載されており、アグレッシブだった。

データ:1979年創刊、1988年休刊。休刊直前のものは国会図書館にそこそこ揃っている。





┃ オール麻雀壱番館書房

掲載作品:多賀一好「Dr. ムジナ」、石神保「雀の日記」、神保あつし「ハコテン社員」、スノウチサトル「まじゃんがァZ」、宮川総一郎「名人戦実況中継」etc.
ぱふ評:ギャグ色が強い。ハードな麻雀劇画はほとんどなく、ギャグや人間関係のおもしろさに重点を置いた作品が多い。
四方田評:やばい、読んだことがあるのに内容をサッパリ覚えていない……。ほとんど単行本にならなかったのでは……。
データ:1981年創刊、1987年休刊。国会図書館にある程度揃っている。「劇画オールギャンブル」改題。





┃ Aクラス麻雀 (双葉社

掲載作品:吉田幸彦+かわぐちかいじ雀鬼の肖像」、明崎和人+影丸譲也「リッチマン」、村祭まこと「アンコさん」、みやはら啓一「ジャンブリアン」、吉岡道夫+神田たけ志「訣別への道」etc.
ぱふ評:ギャンブル色が強く大人向け。「リッチマン」は麻雀をする以外はほかの青年誌作品との違いはなく読みやすい。
四方田評:トッツァン向け。一般誌慣れした作家によるライトで読み易い作品が多い気がする。単行本もそこそこ出ている。あと、表紙がびっくりするほどダサいのが特徴。
データ:1982年創刊、1990年休刊。国会図書館にどっさり揃っている。





■総評
80年代にはほかにも「近代麻雀ゴールド」(竹書房、1987〜2006年)「ガッツ麻雀」(徳間書店/月刊漫画タウン)、「麻雀時代」(笠倉出版社、19??〜1990年)、「麻雀ゴラク」(日本文芸社、1985〜1995)、「ビッグ麻雀」(司書房、1985〜1988年)その他一般誌の増刊などで有象無象の麻雀劇画雑誌が犇めいていたらしい。現在の近麻には面影もないが、競技麻雀関連の企画記事にページが裂かれている雑誌も多く、いずれの雑誌も凝っている。当時の麻雀自体のブームに乗ったものなんだろうね。
傑作麻雀劇画についている評の「グラビアなんてつけなくてもいいような気がする」は的確で、最も硬派な麻雀路線を行った近麻だけが現在まで生き残っていて、ほかはねこそぎ全滅した。かろうじて「麻雀ゴラク」が「ゴラク」本誌連載の「天牌」にその面影を残すのみ。
参考までに……「ぱふ」を読むような当時の "まんが読み" ヤングのなかで流行していたのは何なのかと読者ページを見てみたところ、吉田秋生(当時「吉祥天女」連載中)の名前がよく挙がっていて、特集の五十嵐浩一もインタビューで「別コミ」を愛読していると答えている。当たり前だが、麻雀劇画どころか劇画の話をしている人は誰もいなかった。私、このころにナウなヤングだったら、何読んでたんだろう……。ただ、「ぱふ」は読んでいなかったろうなということだけは自覚しています。





*1:ちなみに雑誌のチョイスは「月刊 近代麻雀」(活字の近麻のことか)の「ジャンネル6麻雀劇画 今月はココが見どころ!」を参考にしたとのこと。竹、競合他社の雑誌紹介をやっていたのか?

*2:なお、あまりにマイナーな作品や作家が多く校閲しようがなかったのか、びっくりするほど誤字が多かったので私が直しました。えっへん。

*3:ただし、レビュアーは仕事柄かある程度普段から麻雀劇画誌をチェックいるようだった。