TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

 35巻からはじめる天牌

ゴラク感想でキャッキャ言うてばっかも何なので、これから天牌を読みはじめたい人へのガイダンスをしたいと思います。
現在、『天牌』は単行本が本編51巻、外伝17巻、列伝1巻、皆伝(ファンブック)1巻の合計70冊出ています。本編だけで51冊もあり、しかもすべて続きモノの話とあっては、1巻から手を出すのがキツイ、でも連載に追いつきたい……という方もいらっしゃると思います。当然1巻から読むのがベストなんですけど、『天牌』は基本的にどこからでも読めるので、今週からいきなりゴラクを読み始めるか、あるいはいますぐ本屋に行って3冊くらい適当に買って頂くのでも全然オッケーなのですが…………




途中から読む場合は、35巻から読み始めるのがベストです。

 

35〜38巻の4冊+『天牌列伝』1巻の合計5冊からまずはスタート。これでちょっと味見してみて、気に入ったら最新刊まで全部読んだあと1巻に戻ってみてください。




35巻から読み始めるメリットは以下の通りです。

  1. しょっぱなからトップギア
  2. エピソードとエピソードの切れ目にあたる。
  3. 冒頭に登場人物紹介になる顔見せ的エピソードが入っている。
  4. 対立構図がわかりやすい。


35巻からは渋谷決戦、36巻からは新宿決戦がはじまり、一気にテンションがMAXまで上昇します。この二つは現在に繋がる主要なエピソードで、ひとまずこれを押さえておけばいまのリアルタイム雑誌連載に追いつけます。
登場人物の数が多いのでついていけないかもと思う方でも大丈夫。『天牌』は複雑な伏線や前フリはほとんど存在しないため、巻頭についている登場人物紹介に軽く目を通す程度も結構内容を掴めます。35巻冒頭には、渋谷決戦を読むうえで途中参入の読者に最もわかりにくいであろう波城組メンバーのパワーバランスが描かれるエピソードが入っています。これを押さえておけば波城組サイドのメイン人物の性格もわかりますしね。黒流会サイドはわかりやすいので人物紹介を読むだけで大丈夫です。渋谷決戦では黒流会と波城組が衝突することになりますが、実際には別のテーマがあります。このあたりは1巻から読んでいる人と35巻から読む人では全然印象が違うんじゃないかなと思います。そのテーマゆえ、渋谷決戦は「麻雀とは何か」という本質に迫るエピソードになります。35巻から読む場合はその点に十分留意の上、読んで頂きたいと思います。


本編を読むと同時に『天牌列伝』を読んでメイン登場人物の人となりや来歴をあたっておくと、より本編を楽しめると思います。『列伝』はメイン脇役たちの過去話になっています。いずれも本編第1話より以前の過去を描く内容であり、かつ本編に差し障りのあるネタバレはないので、どこから読み始める人にも『列伝』を副読本とするのがお薦めです。




デメリットは、主人公が全然出てこないことですかね。表紙に描いてある人が主人公です。『天牌』世界は普通のこの手の漫画と異なり、登場人物の実力がピラミッド型の階級式にはなっておらず、全員が紙一重で拮抗しています。その紙一重を巡って戦いを繰り広げる脇役たちのバトルロワイヤルが非常に面白く、初心者の方にはそれが存分に楽しめる35巻からをおすすめしているのですが、そのぶん主人公が出てこなくなっちゃうんですよね。ちなみに彼に電話をしている女性は思わせぶりっぽいですが、ストーリーにほとんど関係ないパセリ的人物なので、気にする必要はありません。また、35巻から読み始めると、しょっぱなからトップギアなぶん、麻雀原理主義や男汁300%の世界観にビビるかもしれません。登場人物の目つきがおしなべて異様に悪いことに引っ掛かる人も多いと思いますが、全員ただの麻雀大好き人畜無害ジェントルマンなので安心(本当)。そもそも黒流会と波城組がなんで抗争してるかってえと、「どっちが麻雀強いか」を本当に麻雀で勝負して決めようとしているだけだから(本当)。奴らは893のように見えますが、その実、完全に麻雀同好会です(本当)。新宿戦のほうがなんで麻雀で勝負しているかは、正直言って始めから読んでいてもわからないので、考えなくてよろしい(本当)。




「麻雀漫画は福本や片山しか読んだことがない」という方には是非『天牌』を読んで頂きたいです。福本、片山ともに評価が高い作品はそのロジック性が評価されることが多いと思いますし、麻雀漫画でなくとも現在評価が高いギャンブル漫画はロジックの完成度を最大のウリにしているものが多いと思います。私も昔はロジックの完成度が高い麻雀漫画こそが優れた漫画だと思っていたんですが、『天牌』を読んで意見が変わりました。ここまで麻雀漫画が麻雀漫画であることの説得力を持つ麻雀漫画はほかにありません。自分でも何言ってんだかわかりませんが、とにかく、なぜ麻雀なのか。なぜ麻雀でなければならないのか。そのひとつの究極の答えが現時点で出ていると思います。
劇画風の漫画を読んだことがない方は話のノリや嶺岸先生の絵のクセに慣れるのに少し時間がかかるかもしれませんが、それを補ってあまりありまくりではみだすほどの収穫をお約束します。私がいま最も面白いと思う麻雀漫画は『天牌』です。これは心の底からそう言えます。