TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

 雀鬼地獄牌

郷力也 サン出版 1979年

  • 全1巻

┃あらすじ
規律正しいカトリック教系高校として知られる聖神学園。結城一人は模範的で優秀な生徒であり、茶道部の部長も務めている。しかし、彼には裏の顔があった。結城は茶室地下に秘密麻雀特訓施設「雀狂(ジャングル)教室」を作り、老人社会を支配する老人から権力を若者へと奪還せんがため、聖神学園のエリートたちとともに日夜麻雀修行に明け暮れていたのだ!! 老人のための社会では若者は常に奪われる側だ!! 奪え!! 己の力で老人たちから社会の覇権を奪うのだ!! この雀力がいつかその大きな武器となる!!!!(「セイガク雀狂(ジャングル)教室」より)




少女漫画風麻雀漫画。
かなり少女漫画風な麻雀漫画。舞台はカトリック系高校、イメージカットを用いた演出やコマ割り等が少女漫画っぽくてそこはかとなくカワユイ。JOY COMICSレーベルだが、表紙から想像できる煽情的展開は残念ながら含まれておりませんので、ご注意ください。まあ、そのへんはいま『ミナミの帝王』でギャルが出て来たからって大喜びする人はいないのと同じです。




印象を例えるなら『少女革命ウテナ』。
学園という装置の使い方が巧い。一般的な青年劇画では学園を舞台にしていてもその意味がないものも多いものの、この作品はちゃんと学園学園している。優秀な生徒が実は……(→麻雀で勝負だ!)とか、先生同士が付き合っている(→麻雀で勝負だ!)とか、茶道部に新任の顧問が来てドタバタ(→麻雀で勝負だ!)が起こるとか、学園もの少女漫画ちっくな展開をウルトラ劇画調(→麻雀で勝負だ!)で描いてある。後の話になると残念ながらこういった学園漫画ならではの面白さは消えてしまうが、学園は社会の一部であり、また、社会に出る前の猶予期間であることが意識されている。話も既存の青年向け麻雀漫画を真似て描いていないらしいぶん、ちょっと不思議な雰囲気のものが多い。


ただし漫画としてのシークエンスがやや崩壊気味で、郷力也にしか理解できない展開も含まれている。上記の展開で言うと、茶道部の新任顧問(茶道の家元)となぜ「茶道で勝負だ!」といかず「麻雀で勝負だ!」となるのかが全く脈絡なく展開される。いや、茶道で勝負されても困るんですけど。




すばらしいのは、女子がカワイイ点。

ちゃんとファッション雑誌などを見て描いているのだろう。髪型や服装にリアリティがある、少女漫画出身者*1ならではの造形。ショートボブやロングトレンチ+超ミニスカのコーディネートなど、いま見ても可愛い。女性にも好まれそうな性格設定が巧くできており、十分現代でも通用する(端的に言うと、小池一夫系ヒロイン)。男子も多少まゆ毛がごん太ではあるが、少女漫画と青年漫画の中間あたりのハンサムで魅力的。
現代においてこのノリで作品を発表すればかなりイケてる。郷力也、今や漢らしすぎることになっているが、この画風を保持できていたらきっと「アックス」とかに載るオシャレ漫画家として活躍しただろうに……。




作品と作品のあいまにコラム「雀狂(ジャンキチ)心得帳」というミニコラムが収録されている。マンガとは全く関係のない、たいしておもしろくもない内容。北野英明の単行本でもこういった「だからどうした」なコラムがついているものもあったので、昔はミニコラムをつけるのが流行ったのかな。なお、本編の麻雀は普通。特に闘牌に凝ってはいない。




おまけ
もくじに添えられている意味不明の少女まんが風麻雀イラスト。

*1:郷力也の少女漫画でのデビューは1966年、劇画での再デビューは1971年。