TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

麻雀漫画と昭和の日本映画と文楽(人形浄瑠璃)について書くブログ

 煌々たる雀星

  • 井上孝重 竹書房 1990〜1991年
  • 協力:馬場裕一
  • 近代麻雀オリジナル 1989年10月〜1991年10月掲載
  • 全3巻
    • 第1巻「小島武夫伝」1989年10月〜1990年4月掲載
    • 第2巻「田村光昭伝」1990年6月〜1991年1月掲載
    • 第3巻「灘麻太郎伝」1991年3月〜1991年10月掲載

  


┃概要
麻雀界の生ける伝説、小島武夫、田村光昭、灘麻太郎。彼らが麻雀の世界に身を投じることになったきっかけ、麻雀への決意を中心に、現在の地位を得るまでの道のりを描く。




ドキュメント風麻雀漫画。
麻雀新撰組時代からの生き残り御三家の知られざる青年時代を描いている。従来の伝記モノ麻雀漫画に比べると脚色が少なく簡潔、リアリティを重視して描かれている。




小島武の青年時代の話はかわぐちかいじ『はっぽうやぶれ』などで何度もマンガ化されているし、文章で読む機会も多いので、復習といった感じ。
しかし『はっぽうやぶれ』よりマンガ的な装飾・演出が大幅にそぎ落とされており、麻雀以外の話はほとんどなし、人間関係も阿佐田哲也との関係性に絞って描かれているため、こざっぱりしている。負けが続いた時の話もあり、大人向けのマンガとしてはこれが一番お薦め。『はっぽうやぶれ』があまり気に入らなかった人も読んでみてほしい。
それにしても小島武夫、異様に元気あるな。なんでこんな元気いっぱいなのか……。こんな元気だからこそ現役をはっているのか。
なお、1巻「小島武夫伝」の巻末には「あとがきにかえて」として馬場裕一による最強位決勝(小島武夫×安藤満×片山まさゆき×井出洋介で小島が優勝した回)のミニレポートが掲載されている。




田村光昭は、面白いには面白いのだが、タミーラがどんな人物なのかいまいちよくわからない。
タミーラの人生は三者のなかでも最も色濃く時代性を反映している。そのためタミーラが青春を過ごした60年代末から70年代前半にかけての前提知識がまずハードルになる。左翼学生であるタミーラがフラフラしつつ麻雀していたというのも、学生運動崩れが云々という話はよくあるし、それならそれで時代の空気を描ききれていないと厳しいものがある。素材を揃えたはいいがどう描くかの焦点が定まらなかったのだろう。このマンガもタミーラも、何がやりたいのかよくわからなかった。内面で葛藤しつつ、葛藤していても意味がないという諦観があったというのはよくわかるのだが、いまひとつ昇華しきれていない……。最後に「もう…オモテの麻雀に背を向けて何年になる」と描かれているその通り、タミーラに現役感がないのが最も痛い。それならそれでなぜオモテに背を向けたのか? イカサマを生んだのは不完全なシステムのせいだと気付いたなら、何故イカサマを無くすための活動をしなかったのか? これではすべてが「〜と思ったが、結局〜〜しなかった」で終わってるように取れてしまう。別にそういうわけではないはずなのだが……。
タミーラを引き立てるのは諦め、逆におもいきって「すべてが中途半端だった男」として描くのはどうか。大人向けの麻雀マンガとしてアリだと思う。なお、私は須田良規+井田ヒロト東大を出たけれど』を評価していないので、別のアプローチを希望する。




灘麻太郎の若い頃はほとんど知らなかったので面白かった。
1本のマンガとして筋が通っており、きちんとまとまっているので、シリーズの中で最も読みやすい。渋めの麻雀漫画としても十分読みごたえがある。灘麻太郎自身が原作の自伝マンガはその多くが荒唐無稽で読めたものではないが(失礼)、それとは全く雰囲気が違う。北海道出身であることや、神戸で貿易会社に勤めつつプロ活動をしていた時代があったことは全然知らなかった(もちろんこのマンガに描かれていることがホントかどうかはわからないが)。自作自伝でよく語られる全刻放浪のエピソードをカットしているのはナイス判断。最後、香港で北海道時代の旧友と再会するエピソードはこの作品の締めくくりに相応しいピリッとしたエピソード。事実かどうかといったらかなり嘘くさいものの、マンガ全体の完成度が高いので違和感はない。むしろこれが伝記ではない完全なフィクション作品だったとしたら、より評価が高くなるだろう。古典的な麻雀漫画独特の哀愁が残っていて、味わいがある。




さて、現在キンマ本誌では80年代に活躍した若手プロがモデルの来賀友志+嶺岸信明「ゴロ」が連載されている。これは試みとして大変おもしろい。もちろん私はモデルとなった方々はほとんどわからないのだが、作者ふたりがおそらく登場人物と世代が近いこと、また、現在のキンマ読者に80年代に青春を送った人が多いと思われることから、いままでの伝記もの(long long ago系)とは違った作品になりそうで、今後が楽しみ。

あと、能條純一は土田浩翔の伝記マンガを描いてくれんかね? 片チンが描いたツッチーもいいんだけど、実際のツッチーて、もっと目力があるよね。能條的な意味で。実に能條的な意味で。