TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

 牝雀肌仕掛け

関根二郎 [原作] + 北山茂樹 [作画] 芳文社 1979

  • 全1巻

┃あらすじ
経営研究所に務める千鶴子は、企業間のモメゴトを麻雀で解決する凄腕経営コンサルタント代打ち。ひと呼んで「麻雀秘密仕掛人」なのデス!! 彼女が体を賭けて闘牌するので、ちょっと頼りないフィアンセはいつもドキドキしっぱなし。でも千鶴子と所長はそんなこと知ったっこっちゃない、デート中だろうが休暇中だろうが、依頼が来れば、いつでもどこでも駆け付けます!! さて、今日も暑気払いの最中に辛気くさく現われた依頼人、なんでも "円差麻雀" にヤラレタらしいけど……?




ギャル系麻雀漫画。
ギャルが体を賭けて麻雀を打つという女雀士ものにラブコメ悪魔合体した作品。「必殺」シリーズ*1の企業モノ版といった印象で、実際、旅芸者姿の千鶴子が三味線に仕込まれた刀を抜いて通りすがりの刺客を倒すというイメージカットもある。特殊任務を帯びた主人公も云々といった話も昔のテレビドラマっぽく、70年代後半の雰囲気を楽しめる一作。
話は小気味よくまとまっており、シリーズ通してイメージも固まっているので、リメイクすれば十分現代にも通用する内容。北山茂樹では絵柄に妙味がありすぎるが、萌え絵*2かメッチャおしゃれな絵*3あたりでぜひ。




千鶴子がとても可愛く描かれているところが◎。
「麻雀が強くて気も強いおきゃん、だけど彼氏にはベタ惚れデス♪」というベッタベタの造形だが、麻雀漫画で見ると新鮮。ちょっと天然なところがまたカワユイ。各話のタイトルは「花が濡れてる仕掛け牌」「やわ肌燃える仕掛け牌」などお色気系だが、お色気内容はシャワーシーンくらいと少年漫画程度。千鶴子が負けることはなく「体を賭けている」というのはまさに設定だけで、芳文社にしてはヌルすぎるくらい。
一方、表紙では千鶴子のフィアンセと思われる男が超目立っているが、彼は本編では車の運転程度しか活躍しない。しかも名前がなく、登場するごとにツラが変わる。ラブコメ演出のために出て来たようなキャラ。研究所所長のほうがキャラが立っていたりする。




さて、来賀友志+嶺岸信明『あぶれもん』竹書房,1985-89)で最も有名なシーンといえば、健三さんのフリテンリーチに興奮しなさった桜島が噴火するというすごいシーン。桜島吉田幸彦+北野英明『雀剣示現流』実業之日本社, 1983)でも主人公のすごいテンパイに驚いて(?)噴火するなど忙しい活火山だが、日本には桜島以外に活発な火山がもうひとつある。
それは浅間山。千鶴子とそのフィアンセは休暇で軽井沢に滞在中、所長から仕事が入ったという連絡を受ける。


軽井沢のとある別荘で行われたその仕事は、千鶴子以外の三人が組んでいるという最悪のシチュエーション。しかし千鶴子は噴煙を上げる浅間山を窓から見て、普段はゆらゆらと噴煙を上げつつ、ここぞというときに大噴火する浅間山打法(?)を思い付くのだった。


※背後の浅間山が噴火しているのはたぶんイメージカット。なぜ「たぶん」なのかというと、マンガ的技法に難があり、現実かイメージかわからないから。ガチで噴火してたらヤバすぎる。


麻雀のシーンはまだ闘牌と言うほどには確立されておらず、典型的な太古の麻雀漫画レベル。だが、見せ方には(巧拙は別にして)工夫の痕跡が見られ、ひらべったい見せ方にはならないようにされている。実際に決定的に麻雀の見せ方が変わるのは数年後の竹書房系麻雀劇画のブームによるものだろうが、このころから少しずつ麻雀の見せ方の工夫が始まっていて、見せ方の意識がない、あるいはこれに乗り遅れた作家は淘汰されることになったのだろう。




ところでこの作品、麻雀牌を描くのが面倒なのか、卓に散らばる麻雀牌を黒い楕円としか書いていない(筆でちょんと描いただけ)ところがある。なんかもうゴキブリにしか見えなくて泣ける。

*1:必殺仕掛人」は1972年。

*2:っつうんだべか?

*3:キンマでキャリアがある人だと張慶二郎とか? でもあの人の描くギャルは別の意味で難アリ……。