TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

麻雀漫画と昭和の日本映画と文楽(人形浄瑠璃)について書くブログ

 雀狼たちのライセンス

古川凱章[原作] + 武本サブロー(さいとう・プロ)[作画] リイド社 1985〜1986

  • 全6巻(未完)

 

┃あらすじ
昭和40年代初頭、横浜。予備校生の竜門寺竜介は、友人に誘われて雀荘に入った。組んで打ち、勝ちも負けも折半だという約束だったにも関わらず、友人は途中離席したまま戻らなかった。文無しだった竜は困り果てたが、突然現われた老紳士が彼の負けを払ってくれる。実は老紳士は、竜のような若者を一流の雀士に育てる仕込み師だった。老紳士から軍資金10万円を受け取った竜は、言い付けどおり「カルビ」という男を探して野毛に降り立つ。横浜の野毛・伊勢佐木町界隈を舞台に、一流の雀狼(ジャンブラー)を目指す竜の闘いがはじまった。




超王道麻雀漫画。
なんでもない若者がひょんなことから麻雀の世界に足を踏み入れ、修羅となっていく物語。マンガとしてかなりおもしろい。古川凱章の原作がおもしろいのか、それとも 武本サブローの力なのかはわからないが、競技プロ原作の麻雀漫画では最高レベル。灘麻太郎*1や荒正義*2原作の麻雀漫画で煮え湯を飲まされていたので、この出来に驚いた。
なお、タイトルの読みは『雀狼(ジャンブラー)たちのライセンス』。




主人公・竜とさまざまな登場人物のカラミがおもしろい。
竜を見い出した「カマ爺」をはじめ、竜の"センパイ"となった「カルビ」、麻雀仲間にして不良警官の「オリラ」、カマ爺に因縁を持つ「牡丹のママ」、その手下(テカ)の「おみつ」「弁天小僧のヨシミ」、竜と岐阜・柳ヶ瀬へ駆け落ちする「ナナ」、岐阜で出会った雀ゴロ「黒部」など、魅力的なキャラクターがたくさん登場する。どれだけたくさんの登場人物が出てきても人物造形がペラペラな麻雀漫画も多いなか、この作品はちゃんとキャラが立っている。お色気補給要員として一瞬しか出て来ない行きずりの女たちもみなカワイく描かれているし、お色気はお色気で毎回工夫されている。また、登場人物のファッション(みなよく衣装替えする)や雀荘のインテリア描写が毎回かなり凝っていて、細部までこだわりをもって描かれている。とにかく武本サブローの劇画力がすごい。至極いい意味で、麻雀がわからない人でも楽しく読める作品。

キャラクターではとくに「牡丹のママ」がいい味を出している。ブー麻雀の店「牡丹」のママ(ぼたん)は過去にカマ爺と何らかの因縁があるらしく、カマ爺の弟子たちをかたっぱしから潰しているらしい。当然、竜もぼたんに付け狙われ、次々と刺客を送り込まれることになる。いわば戦隊モノの悪役女ボス風のキャラ造形。もちろんぼたん本人も麻雀が強い。麻雀漫画ではありそうでなかった設定。女子キャラの出し方が不自然極まりない麻雀漫画が多いなか、これはうまい。さいとう・たかを小池一夫系の一般劇画には多数登場する自立心の強いちょっと強気なギャルも、麻雀漫画で見ると新鮮。麻雀漫画にありがちな人格無し&男にべったりなタイプは登場しないので、女性読者でも不快感なく読めるし、ここに登場するギャルたちは女性にこそ好感を持たれるタイプだろう。ぼたんの手下「おみつ」「弁天小僧のヨシミ」もオシャレでカワイくてGOOD。




麻雀パートはかなり凝っている。
闘牌を凝るというわけではなく、当時の横浜界隈は本当にそんなことがあったのかもしれないな、という雰囲気描写がとてもうまい。
通常のリーチ麻雀のほか、関西麻雀と呼ばれるルール、ブー麻雀と呼ばれるルールの店が存在し*3、主人公はそれらの店を渡り歩く。主人公のセンパイ・八木下は、打ちこまなければ金が減らないリーチ麻雀と違い、黒棒1本でも沈んでいれば金を取られる関西式は本物の博打だと語る。ちなみに八木下が「カルビ」と呼ばれるのは、関西式麻雀で三コロ(三人沈み)にしたとき彼が「カルビーッ!」と叫ぶから。三コロのことを俗称で「カルビ」と言うのかと思ったが、そういうわけでもないのか? 八木下以外「カルビ」って発声する人はいないし。八木下は焼肉好きでカルビをを貪り喰っているシーンが多くあるが、こっちのほうがニックネームの由来なのかね。
また、リーチ一発は当時一般に広まっていなかったらしく、ローカルルールとして一発を売り物にした店が登場する。裏ドラもめくっているシーンがないので、当時はなかったor一般的ではなかったのか。また、赤牌も店によっては入っているという設定になっている。中華街に住む華僑と麻雀を打つエピソードもあるが、これは中国ルールではなく通常の日本式。残念。ただし、毎度毎度捨て牌が延々と描いてあるので、日本式のリーチ麻雀のシーンも実は結構凝っているのかもしれない。




ネットで調べる限り全6巻らしいが、内容は完結していない。表紙には「画き下ろし」とあるので本当にここで話が途絶えている様子。ただし1巻ごとにワンエピソード読み切りにはなっているので、まあここで途切れててもいいかな。古本屋で3巻のみ発見など、バラで買っても全然オッケー。




┃ 参考リンク
古川凱章の「麻雀新撰組に賭けた男たち」

  • 古川凱章が若き日の思い出を語るブログ。ここで語られる70年代の話がかなりおもしろい。たまにしか更新されないが、内容は麻雀ブログの中で最高レベル。本人が書いているかどうかは謎だが。ブログにしてはやたらと文章がしっかりしていて、昔の著作の転載か、企画倒れになった本のための原稿を貼ってるのかとも思うくらい。キンマはしょうもないコラムを載せてないで、こういうの載せろよな〜〜。

*1:カミソリ灘。主人公は灘ッチ自身のことが多く、わけもなく強い。無意味にギャルがゴキブリのように寄って来る。最終的には北海道で熊と麻雀で勝負する(うそ)。しかし『麻雀八犬伝』はメチャおもしろく、作品の出来不出来の上下が著しく大きい。

*2:やまびこ荒。話のパターンがみっつくらいしかない。主人公はたいてい「おれなんてしょうもない人間さ」と自己陶酔しているが、そのうち勝手に「ボクはここにいてもいいんだ」と自己肯定しはじめるというエヴァ先取りな二段活用がある。ギャル描写はへたというか、ひどすぎて泣ける。

*3:本来は同種のルールであり、横浜ではブーと言わず関西式と言うとされているが、のちに(店によって?)微妙にルールが違うことが示唆される。関西麻雀とブー麻雀の違いはあまり描かれておらず、ブー麻雀のほうが決着が速いこと、点数計算・精算方法が違うらしいことくらいしかわからない。なお、関西式のレートは黒棒1本500円と解説されている。