TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

 風牌に訊け

吉田幸彦[原作] + 嶺岸信明[作画] 笠倉出版 1988〜1989

  • 全6巻



┃あらすじ
フーテン雀士・タミィこと田宮光秋は、飛翔興業総帥・黒崎に求められ、最高の牌譜作りのための最高の打ち手を探すことになった。彼に随行するのは黒崎の娘・若葉。彼女もまた麻雀の腕に覚えがあった。ふたりの行く先には、様々な雀士たちの過去・現在・未来が去来する。
あるとき渋谷のカフェバーに入ったタミィと若葉は、場の雰囲気に似合わない法律談義をしている原浩太郎という青年を見かける。彼は一ツ橋大学に在籍する法学生で、浅草の場末の雀荘「まぁちゃん」の凄腕マスター・達三の息子だという。タミィと若葉が「まぁちゃん」を覗くと、マスターの達三は眼帯をしていた。なんとそれは浩太郎に殴られたケガを隠すためで、浩太郎は父の職業を恥だと思っているのだという。達三はそんな浩太郎になすがままにされていたらしいのだが、これに怒ったタミィは浩太郎の首根っこをひっつかみ、麻雀で勝負することに……(「サシウマ父子」より)




美味しんぼ系麻雀漫画。
大企業の主の名を受け、究極の牌譜を求めて男女二人組が各地を旅する構図は『美味しんぼ』のよう。もちろんタミィと若葉の関係も『美味しんぼ』風でキュンキュンしている。古めの麻雀漫画には珍しく、全6巻と長篇。なお、タイトルの読みは『風牌(かぜ)に訊(き)け』。
 




毎回登場する多彩なゲストキャラが魅力。
刑期を終えて出所した老雀士、山奥の村で村人の健康を守る医者、負けん気の強い女流プロ、ロックスター、土地を買いに上京してきたバアさん、船旅をする家族など、タミィと若葉は様々な人と出会う。それぞれにはそれぞれの人生と麻雀があり、何らかの問題を抱かえている。ゲストキャラたちはタミィと若葉との出会いにより、その心境に変化が訪れる。
この手の話は説教くさくなりがちであり、ゲストキャラの境遇や心境を作りすぎになりかねないが、この作品はそのあたりが結構自然。ところどころに「なんじゃこりゃ」みたいなわけわからん話も挟まっており、それはそれでいい味を出している。いままでに登場したゲストキャラたちが一同に会し、究極の牌譜を作る大会に出場するという最終エピソードは圧巻。




しかし、あらゆる登場人物の中で誰よりも魅力的なのは、ヒロインの若葉。

麻雀漫画のヒロインというと、恐ろしく嘘くさく都合のいい役回りの女ばかり。著者のキモい妄想を見せつけられうんざりするので出てこなくてもいいくらいだが、若葉は違う。お嬢様だが気取ることはなく、しかし非常に礼儀正しく、思ったことははっきり言うちょっと我が強いところもあるけど自分の立ち場をわきまえた行動ができる。若葉の内面もしっかり描かれていて、読者は自然に彼女に惹かれていく。物語の最後、様々な登場人物が「若葉はすばらしい」と彼女を褒めそやす。これが全く嘘くさくなく、「そうだよね〜!!」と言える。若葉自身が相当打てるという設定なので、男性原理的になりがちな麻雀漫画の雰囲気を絵ヅラ的に中和しているのもよい。


また、タミィは「田村光秋」という名前の通り、田村光昭(タミーラ)がモデルらしい。
タミィは相当のイケメンキャラとして描かれている。。…………………。……相当 "盛って" ますな。原形をとどめないほどに。これくらい原形をとどめてないとむしろ読みやすい。タミーラも若いころはイケメンだったと聞くが、相当苦しい。当時の流行の顔だったのかもしれないが、今から見るともモッサイ兄ちゃんにしか見えない。阿佐田哲也の若い頃なんか今から見ても超イケメンなので説得力がない。なお、タミィの初登場シーンはなぜかバッチリな感じで全裸。女子キャラでバッチリ全裸になるキャラは全編通していないのに、なぜこいつだけ……。
ただしタミィは若葉に比べキャラ立ちが低く、一体どういう人物なのかが最後まで謎のまま。はじめはスカしたフーテンとして登場し、変なポエムを吟じたりイキッたりしているが、若葉がキャラ立ちしてくれにつれタミィはだんだん無個性になり、ナビゲーターに落ち着く。


なお、上記ふたりとも登場するたびに服装・髪型が変わるオシャレさん。当時の流行を取り入れた若葉のお嬢さん風ファッションは可愛いし、タミィの伊達男っぽい服装もおもしろい。単行本表紙は毎回タミィで、それも毎回ちゃんとオシャレな格好をしている。かなり凝っているので相当念入りにやっていると思われる。オヤジ向け漫画(しかも80年代)でここまで凝っているのは非常に珍しい。掲載誌は何だったんだろう?
    




何より驚くのが、ゲストで登場する女性キャラがメッチャ可愛いこと。
この作品ではゲストキャラにたくさんの女性が登場する。パセリ的そえものなキャラ造形でなく、それぞれの個性がきちんと描かれているのが好感度大。しかもこの女性キャラたちのビジュアルが、いまの嶺岸女性キャラからは想像もできないほどめちゃくちゃ可愛い。この20年ほどで嶺岸てんてーに何があったのかが非常に気になる。ただし男性キャラはヴィジュアル的にいまより一段下の印象があるので、今の嶺岸てんてーは男子キャラに全力注入しているという解釈でよろしいでしょうか……。
   




麻雀描写はソフトめながら気配りが行き届いているので、麻雀目当ての人も麻雀漫画初心者の人も楽しめる。一般人が雀荘で、競技プロがタイトル戦で、裏社会の人とヤバい場でと、バラエティに富んだ様々な麻雀シチュエーションもおもしろい。