TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

 オヤジ雑誌 謎の巻末広告たちの正体

グラフィックデザインタイポグラフィの専門誌「アイデア」(誠文堂新光社)で連載されていた都築響一のコラム「デザイン豚よ木に登れ」が洋泉社から単行本化されました。

ピンク映画やタイの娯楽映画ポスター、デコトラなど、従来のデザイン評論からゴキブリ視されているものたちが収集されています。とはいっても「こういうのを取り上げられるポクリンってカッコいいっしょ? おしゃれっしょ? ね? ね? ね〜!?」な興味本位のおもしろ本ではなく、バックグラウンドの解説がついていたり、実際にその制作者にインタビューしてどういう意図で制作されているかが記されており、対象への誠意と真摯さが感じられるところがよいです。
で、その中に、オヤジ漫画ファンにも馴染み深いあの広告たちが取り上げられていました。





┃ タートルネックの男
オヤジ雑誌っていうか男性向け漫画雑誌によく載っている、タートルネックを目許まで上げ、気弱そうな目をした男子の写真が添えられた広告……。
こう申し上げるだけでもうおわかりでしょう。
上●クリニックの広告です。一度見た者はその超インパクトに圧倒され、あの写真と広告主の名を二度と忘れることはないというあの広告……、実は電通がやっているそうです。あのもっさい(失礼)広告がよもや電通の仕事とは、北岡先生でも想像できませんでした。しかもやたら見かけると思ったら、なんと月間600誌にあの広告が掲載されているそうで、広告掲載誌600誌というのは電通雑誌局においてトヨタ資生堂につぐ第3位の出稿数だとか(2002年当時)。

アートディレクターの鈴木康二氏によると、あのタートルネックのビジュアルは電通の初代担当者が発案したとのこと。直球のブツの写真を使わず、ぱっと見で万人にすぐ伝わるヴィジュアル。ヴィジュアルコミュニケーションデザインの王道をいく、非常にすばらしいデザイン表現です。どんなオシャレ広告も追随できない、これぞグラフィックデザイン、これがグラフィックデザイン
あのタートルネックはちょうどよいリアルさのたるみ具合になるよう特別に製作しているものらしいです(既製品のたるみは生々しくなりすぎてダメとのこと)。モデル*1選びの基準は消費者の共感を誘うようなちょっと弱々しい子で、94年に制作された初代の写真はホンマタカシが撮影。年によってはクールごとに写真がストーリーとしてつながっているものもあったそうで、実は結構凝っています。

個人的には「しめじがまつたけに」系の広告もかなり気になるんですが、さすがにあれは取り上げられていませんでした。





┃ 3.8ポイントの叙情詩
さて、「タートルネックの男」系と並んでオヤジ雑誌によく載っている広告として開運グッズ広告があります。いわゆる「これで点棒も女もワシ掴み」*2なブレスレッドや財布の広告。ここではそのなかでも大手と思われる「ト●マリンブレス」の会社を取材していました。
あの広告が雑誌に掲載されるようになったのは1999年(会社創業の年)からで、月間100誌に出稿しているとのこと(2000年当時)。あの広告はすべて社内で作成しているそうです。最小3.8ptの文字ビッチリになったのは、開運グッズ他社との差別化のため、できるだけたくさんの体験談を載せたいのでああならざるを得ないとか……。雑誌ごとに規定があるため、内容は雑誌によって違うそうです(例えば女性誌では開運した家族の前にブタが横たわっっている写真はブタが死んでるみたいだから×とか)。
謎としか言えない体験談については、作っている側でも驚くような開運体験をした人が本当に写真や体験談を送ってくるらしいです。札ビラ布団に金髪美女と横たわってる写真とか、海外の現地スタッフがガチでああいう写真を送ってくるそうで……その現地スタッフ、相当いいセンスしてますわ。
ちなみに「アイデア」掲載時はアイデア用にレイアウトを組んでもらい、くだんの広告を見開き掲載したみたいです。「アイデア」はタイポグラフィにかなり力を入れているデザイン雑誌であり、普段は一般の人はまず理解できないようなかなり専門的な内容を扱っています。誌面のデザインもストイックで美しく、私が思う限り国内最高レベル。それにあれを掲載するとは……、編集長、かなり剛毅なお方とお見受けいたします。学生時代、この編集長が学校の授業に来られたことがあり、すっごいやる気まんまんな人やな〜と思ってましたが、マジでやる気まんまんだったことを思い知りました。





というわけで、オヤジ雑誌の巻末の広告の謎は少し解けたのでありました。
『デザイン豚よ〜』はデザイン関連の内容を扱っていますが、同時発売の『現代美術場外乱闘』ではアート関連の内容が扱われています。こちらは主に「ART iT」に連載されていた同名コラムが単行本化されたもの。ラブホテル、秘宝館、喫茶ルノアールなどのインスタレーション?やアウトサイダーアートなど、美術評論の対象にされない美術に関するコラムが掲載。

こちらでおもしろかったのは、お水の方のポートレートについての記事。歌舞伎町のクラブ(踊らない方)のホステスやホストの店頭用ポートレートを撮影しているデジタルフォトスタジオ「Pix-Do!」の柏木崇氏(オーナー兼カメラマン)へのインタビューが掲載されています。柏木氏がなぜこういう仕事をはじめたかも興味深いですが、柏木氏独特の、お客さんが喜んでくれるような撮り方の話がおもしろかったです。
なんでも、男の子をかっこよく撮るには眼力(めぢから)が大切で、少し下から見上げるような目線になるアングルで撮るんだとか。
上目遣いといえば、嶺岸先生の描く男子はみんな異様に眼力のある上目遣い。私が『天牌』を初めて読んだときの感想は「なんでみんなこんなに目つき悪いの?」でした。今は馴れたのでむしろ魅力的だと思います。麻雀漫画でキャラが正面向きっぱなしってのもおかしいですし、いまの嶺岸先生の絵は上目遣い男子をいかにカッコよく描くかに特化してますね。
嶺岸先生の眼力については浮世絵の役者絵から影響を受けてるのかなと思ってたけど、どうなんでしょう。昔の作品を見ると別に上目遣いじゃないので最近(と言ってもここ10年くらい)の傾向だとは思いますが……。漫画家麻雀大会なんかのお写真を拝見する限り、嶺岸先生ご自身も結構ああいう感じのお顔ですよね。来賀先生も嶺岸先生もまじイケメンで驚きますわ。ほんと、500回記念プレゼントはこういうカメラマンに撮ってもらった来賀嶺岸先生のツーショットポートレート(羽織袴か燕尾服/サイン入り)がよかったですわ……。
というわけで、何の話かわからなくなって終了。

*1:初代タートルネックくんのオーディションには100人もの応募者が来たそうです。

*2:眉椿@牌族!オカルティ