TOKYO巡礼歌 唐獅子牡丹

文楽(人形浄瑠璃)と昭和の日本映画と麻雀漫画について書くブログ

 売人勝負嵐

梶川良[原作] + ほんまりう[作画] 日本文芸社 1986

  • 全1巻



┃あらすじ
昭和39年。金貸し屋・天国会を訪れた博徒「カミソリ健」は一千万円の融資を要求する。その担保はこの黄金の右腕! ……などということが通用するはずもなく、ボコられておっぽり出された健に声をかけたのは「ベル」という孤児の少年。ベルは辛酸を舐めて貯めた金一千万円をすべて健に賭け、博打で大勝負をするというのだ。寿司屋の二階で行われる高レート麻雀で信頼を深め合った健とベルは羽田へと向かう。その頃羽田上空では、「バクチキング」と呼ばれる男が私有ジェット機上で麻雀に興じていた。そう、健とベルは賭博の帝王・バクチキングに挑戦しようとしていたのだ。




舞台は終戦直後……かと思ったら、高度成長期の裏の暗い世界が舞台の麻雀漫画。
全体的には昔の麻雀漫画といった印象。リサーチしたところ、この作品は連載当時は「ドサ健ばくち地獄」というタイトルだったが、クレームがついて「こう」なったらしい。




ストーリーとしては正直「うーん……」な部類。打ち切りのため全1巻分で終わっているのだが、変な屁理屈がこねくられまくった挙げ句、話の筋が迷走してしまっているため話が盛り上がるどころか本格的にはじまる前に終わってしまっている。言っちゃ悪いとは思うが、本当に内容がないので、ストーリーについては言うことがなにもない……。


それでもほんまりうの緻密な作画はとてもよい。
終戦直後(※)の雰囲気がよく描写されていると思う。街の建物・内装、登場人物の服装から、便所にかかっているタオルやカラカラ回る便所煙突(正式名称不明)まで、細かなところまで丁寧に凝って描かれていて、見ていて楽しい。
※追記:終戦直後と思っていたら、昭和39年って書いてあった。高度成長期か。東京オリンピックまで5ヶ月と書かれており、『アカギ』と同時代を舞台にしている模様。全体的に『アカギ』よりはるかにやさぐれている……。


この頃からポケベルってあったんだね。驚き。ももの木。20世紀。




健とギャンブルの帝王・バクチキングとの勝負が一応のメインディッシュ。
バクチキングは戦時中、日本軍の司令官だった。敗戦直後、部下とともに戦勝国の捕虜となり、部下たちの食糧を賭けて戦勝国の将校と連日麻雀を打った。バクチキングはその負けるわけにはいかない戦いを勝ち抜き、部下全員を引き揚げ船に乗せたという。終戦直前・直後に部下の命を賭けた麻雀を打つ話は、来賀友志+本そういち『ウァナビーズ』にもあった。実は麻雀漫画ではメジャーな設定なのか。
なお、このような特殊な状況下の麻雀がその打ち手の人生をどう変えたかについては、『ウァナビーズ』のおじいちゃんは当時の対局での極度の緊張により失語症になってしまったという設定、バクチキングはその対局によって圧倒的な勝負強さを手に入れたという設定になっている。

ちなみに「バクチキング」という名前のキャラクターは同じ梶川+ほんまコンビの麻雀漫画『指ぐれ』にも登場するが、同一人物ではない。




最後が超打ち切りですごいことになっている。
UFO呼んじゃったのかと思ったよ、一瞬。わけわかんなさすぎて。そういう漫画あったじゃん、大友克洋の短編で。麻雀してたらUFOが来るやつ。ここまで突き抜けているとなんかもう……。むしろだらだら続けてしまい、つまらない展開のまま自然消滅するよりはマシだなと思った。




ところで、途中、以下のようなシーンがある。

麻雀放浪記』の李億春をはじめとして「すごい麻雀(を打つ男)を見てエレクチオン」というのは麻雀漫画でたまに見られる描写だが、これってどこまでマジなんだろうと長いこと思っていた。ところが、あるとき10年くらい前の「近代麻雀」を読んだら、来●さんのコラムに「先●学が "すごい麻雀を見て久々に*1エレクチオンしたお!" と電話をかけてきた」(大意)という記述があり、そういう人って本当にいるんだと感動した。以上、人名は検索避けのため伏せ字でお送りしました。

*1:この「久々に」は入る位置によって文の意味が大きく変わるが、たしかここだったはず。